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眠る貴方の横顔を、薄暗い蝋燭の明かり越しに眺め見る。 随分髪が伸びたね…。 「小夜?」 「起こしちゃった?」
この城に貴方が来て何年経ったのかしら? 貴方の背が私を越えてしまった時に、ふと、思ったの。 「また私のベッドに潜り込んで…ジョエルに叱られますよ?」 「いいの。」 「小夜…。」
見ていたい…。 貴方を。 ずっとずっと。 「ハジ。」 「どうしました?」 「キスしてもいい?」 「?」
小さな頃は、キスをするのも簡単だった。 この腕の中に、貴方は確かにいたのだもの。 でも。 「おやすみと、ありがとうと、大好きと。」 「小夜…。」 「額に、頬に、口唇に。」 「…。」
もう、届かない。 こうして横たわる貴方に触れる事しか、出来ない…。 「最近…ハジは逃げてばかり。」 「そんな事はありません。」 「嘘…。」 「小夜。」
不安なの。 哀しいの。
心許無い蝋燭の明かり。 貴方の蒼い瞳が戸惑いに揺れる。
逃ゲナイデ…。 私カラ…。
触れ合う口唇に火が灯る。
「ハジ…。」
貴方は私が初めて手に入れたぬくもり。 初めて知った愛しさと悲しみ。
「小夜…。」 「ハジ…独りにしないで…。」
約束出来ないのは私の方。 流れる時の果て、私はまた独り。 それでも…。
「ハジ…傍にいて…。」
願うのも、裏切るのも、私。 誓う言葉も無いままに。 この夜もまた。
髪が伸びたね…。
「ハジ…私は…。」
続く言葉を接吻けで遮る貴方に。 詫びる術など無いものを。
それでも。
今宵もまた。 二人に眠りの刻が来る。
重なる心と。 ひとつになる躰と。
「それでも…私は幸せだよ…。」
ハジ…。
深い眠りの底で、貴方の涙の意味を知る…。
それでも…私は貴女を愛してるのです…小夜。
ああ、眠りの底で。 また貴方に出逢えるかしら。 ずっとずっと貴方を見ていたい。
貴方の背が私を越えてしまった時に、ふと、思ったの。
私は貴方を…愛してる…。
たとえ…
この願いが叶わなくても…。
愛してる…
刻の果てまで…
ずっと…。
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