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我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年01月01日 17:25:01 No.87001
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| I P:61.116.96.199 |
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あけましておめでとうございます( そんなわけで、この僕がついにノークラ小説に手を伸ばしてしまいましたw( 大して面白くもない内容ですが、暇がある方はこの小説で暇つぶしをしてみてはいかがでございましょうかw(
一応この小説について説明しますと、1〜3話完結のコメディ短編集のような内容となっております。そのためある程度話が進んだらその都度ネタを思いつき次第更新という形をとるので頻度はかなりばらつきが出ると思いますw(
・・・と、今回もグダグダとまえがきを書いておりますが、そろそろあらすじに参りましょう(
あらすじ
それぞれある事情を抱えた少年たちは、ひょんな出来事から出会いをはたし、1つ屋根の下で共同生活を営むことに。彼らはそこで苦くも愉快なハチャメチャ生活を送っていく・・・!?
尚、登場人物については初登場回の最後に随時紹介していく形を取りたいと思いますw( 管理人様が小説を更新する際は、その話の下にそのまま載せていただいて結構です。
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年01月03日 15:57:48 No.87002 |
| I P:219.66.4.54 |
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第1日 家族記念日(前編)
山名晴喜(やまな はるき)は町中をどこへとなく歩いていた。特別何か目的があったわけではなかったが、理由があるとすればそういう気分になったからだ。それなりに人通りの多い通りで、多くの人が自分を追い越したり、抜かされたり、すれ違ったりしている。 すると、前から歩いてきた男が自分の肩がぶつかってしまった。 「あっ、すいません」 「・・・オイ、てめぇどこ見て歩いてんだ」 「え・・・(このパターンって・・・)」 かなり柄の悪そうな男だった。晴喜は思わず1歩後ずさりしてたじたじしてしまう。すると、その男はいきなり晴喜の胸ぐらを掴んで言った。 「ちょっとこっち来い」 静かだが迫力のある声だった。力も相当に強く、晴喜は答える間もなくズルズルと引きずられていた。 (え・・・ええええええ!?) 晴喜が連れられた場所は案の定人通りの少ない裏路地だった。最早嫌な予感しかしない。そして、その男は掴んでいた腕の力をより一層強くして一気に彼に顔を近づけ例によって迫力ある声を発した。 「金を出せ」 「・・・え?」 「金を出せっつってんだよ。それともここでボコられてぇのか」 相変わらず揺るがぬ迫力を持ったその声に晴喜は困惑していたが、ついに意を決したのか急に真顔になってその男を見つめた。その顔つきに少年の力も一瞬緩んだ。 (こいつ・・・) 「あ、あの・・・これくらいで足りますかね?」 晴喜はそう言って財布から5千円札を取り出した。男は拍子抜けしたような気分になってしまったが、その5千円札を乱暴にぶんどった。 「・・・分かりゃいいんだよ(こいつ、歯向かってくるのかと思ったら・・・普通の奴でも千円かそこらなのに・・・)」 そう言うと、その男は足早に裏路地を出ていった。
少年から金を奪い取った青波一(あおなみ はじめ)は別の裏路地へと入っていった。彼の家はその先にあるのだ。すると、背後から少女の声がしてきた。 「お兄ちゃん」 そこにいたのは青波果菜(あおなみ かな)だった。彼女は一の歳が1つ離れた妹である。 「カナか。今日はな、なかなかの収入だったぞ」 「ちょっと・・・まさかまた誰かから盗ってきたの!?」 「仕方ねぇだろ・・・生きてく為には」 青波家は現在、経済的に大きな危機に瀕していた。10年前、父親が偶然宝くじで大金を当てたまでは良かった。しかし、親はその金を頭金に中古車店を開いたが繁盛せず、挙句再び運にすがろうとギャンブルを続けるが勝利の女神が2度微笑んでくれる事はなかった。 やがて借金は増え続け、度々借金の取り立て屋に追われる日々がここ何年も続いているのである。しかし、今日そんな生活が激変する事になろうとはこの時の2人はまだ思っていなかった。 そして、2人は古ぼけた自宅に辿り着いた。が、その扉に張られた紙を見て2人は驚愕した。 「な・・・何だよ、これ・・・?」
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年01月03日 15:19:44 No.87003 |
| I P:219.66.4.54 |
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そこに書かれていたのは"差し押さえ"の文字だった。一は扉を乱暴に開けて中に入る。テーブル、タンスなど家の中にあった家具も全て"差し押さえ"と書かれた札が張り付けられていた。 「・・・どういう事だよこりゃ!」 こんなことは親からは何も聞かされていなかった。確かにいつこんな事態が起きてもおかしくはない状況ではあったが、それにしても急すぎる。 「あらぁ〜、ついにこうなっちまったかぁ〜・・・」 突如後ろから知らない男の声が聞こえてきた。借金の取り立て屋だ。 「あ、お前はここの家の子供か?どうやらお前の両親はもう逃げちまったみたいだぜ?」 「ハァ・・・!?何言ってんだよ・・・ワケわかんねぇよ!」 「だから、お前の親はこうなるのを分かって先に夜逃げしたって事さ。行方は俺達も探している所なんだが・・・」 聞いてない。そんな事は全く聞いていないし、そんな予兆も全くなかった。ただ、この時間帯にはいつも家のどこかにいるはずだった母親がここにいない事は確かな事実だった。 「どうして・・・」 状況をなかなか飲み込めずうつむき加減の果菜に追い打ちをかけるように男は口を開く。 「要するにだ。お前達もこの家みたいに売られちまったってわけだ」 「・・・どういう意味だよ?」 「お前達の身はウチの組織が預かることにしたのさ」 「・・・ハァ!?」 つまりは、親が溜め込んだ借金を働いて返せ、ということだろうか。いや、それだけで済めばまだいいのだが、何せ闇金融業者のやる事は予想がつかない。どちらにせよ、このまま彼の言う事に従うのはあまりに危険だ。 「そんなのお断りに決まってんだろ!それだったら宿なしの方がまだマシだ!」 一が強い口調でそう言うと、男の表情が急変した。冷静さを保っていながらも一以上に迫力のある表情だ。 「あ?何勘違いしてんだ。お前らがそうだろうと俺達はよくねぇんだよ。借金抱えてる分際でどっちか選べると思うな」 すると、男の背後から更に数人の男がやってきた。 「・・・何だよ、やんのかコノヤロー!!」 一は叫びながら男に思い切り殴りかかった。 「お兄ちゃんやめて・・・!」 果菜の言葉も耳に入らず、一は再び男を殴ろうとする。しかし、今度は男の右手でしっかりと拳を受け止められてしまった。 「ってぇな。最初に手を出したのはお前だからな・・・!」 男は一に殴り返し、さらに立て続けに腹に蹴りを入れてきた。 「ぐほっ・・・!!」 一は激痛で地面にうずくまってしまう。 「お兄ちゃん!」 果菜がそう叫んだ瞬間、後ろからかなり強い力で腕を掴まれる感覚がした。果菜はそのまま後ろへ引っ張られていく。 「・・・カナ!」 一は立ち上がり果菜を助けようとするが、先程の男から再び脇腹に拳が飛んできた。しかし、その痛みに何とか耐えると、男を思い切り殴り飛ばした。 「何ッ!?」 「この野郎、調子に乗るな!」 周りを囲んでいた男達が一を阻むが、一はその男達を次々と殴り飛ばしていく。この様子にさすがの取り立て屋達も焦り始めた。 「チッ、退くぞ。こいつだけでも連れてけ!」 「させっかあああ!!」 そう叫ぶ一だったが、背後から男が数人で彼に掴みかかった。その間にも果菜を連れた男達はどんどん遠ざかっていく。一が男達を振り払った頃には、彼らの姿はもうすっかり見えなくなってしまっていた。
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年01月03日 15:22:12 No.87004 |
| I P:219.66.4.54 |
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「うへぇ〜、もうちょっとあるかと思ってたのに・・・帰り徒歩だよクソ〜・・・」 晴喜は思わぬ出費を強いられ、タクシーに乗って帰るはずが歩いて家を目指す羽目になっていた。何の目的もなく町中へ繰り出すのはもうやめようと誓った瞬間だった。前の方で何やら叫び声のような音が聞こえてきた。 よく見てみると、スーツを着た男達が少女を連れて走っていた。明らかに周囲の雰囲気とは違った様子だ。 「何だ?何かあったのか・・・?」 訝しがりながら後を追おうとすると、横の路地裏から勢いよく青年が飛び出してきた。不意にその青年の顔を見ると、それは数十分前に晴喜が見た顔だった。 「・・・あ」 その青年は晴喜から5千円を奪った男だったのだ。しかし、彼の恰好は出会った数十分前とは若干違っており、かなりボロボロで汚れている。さらにその青年は、晴喜がカツアゲされた時よりもさらに恐ろしい表情で遠くを見つめていた。 その方向が先程晴喜が見かけた男達の方であったため、晴喜にはあの男達とこの青年には何らかの関係があるように思えた。 「ちょいとそこの君」 晴喜は思い切ってその青年に声をかけてみた。青年がこちらに鋭い視線を向けると、相変わらず迫力満点の低い声を出してきた。 「あ?さっき俺に金をよこした奴が何だよ」 「い、いや〜、ちょっとさっき君がお探しの人を見かけたかな〜なんて・・・思いまして・・・;」 「てめぇ俺をおちょくってんのかよ!?」 「ちょっ、怒らないで;ちゃんとあてがあるから!マジですって!」 「うるせぇ!だいたいいきなり話しかけてきてあてがあるとか信じられるか!」 「いやホントッ・・・!あのヤクザ見た事があるんだ。確かこの街の外れに事務所を構えてる闇金融会社だろ?!あの女の子はきっとあそこに連れてかれたんだ」 「何・・・!?」 どうやら晴喜には本当に闇金融業者の事を知っているようだったが、何故そんな事を彼が知っているのだろうか。一はまだ晴喜に不信感を抱いていたが、そうも言っていられる状況ではない。一は思い切って晴喜に言った。 「お前、その場所教えろ」
事務所に向かう途中、晴喜は更にその組織について詳しく説明してくれた。 「あそこは闇金と暴力団を兼ねた集団なんだ。他にも色々と黒いうわさが絶えない。身寄りのない子供を拉致ってそいつの臓器を売りさばいたりもしてるらしい」 それを聞いた瞬間、サーっと背筋が凍っていく感覚がした。まさに今、家庭を失った果菜が彼らに連れていかれているではないか。 「・・・・・・アレ、ひょっとして今のビンゴ?」 一の表情に出てしまっていたのか、晴喜がそんな事を言ってきた。 「・・・うるせぇよ!黙って案内しろ!」 それから数分後、ついに晴喜達はその組織の事務所の前まで辿り着いた。 「さぁ、ここだ・・・で、どうすんの」 「お前には関係ねぇだろ」 静かにそう言って一は事務所の入口へ近づく。すると、晴喜がそれを引きとめた。 「待った!俺も行くよ」 「ハァ?お前が?」 「ああ、俺こう見えても運動神経には自信あるんだ」 そう言って晴喜は軽くファイティングポーズをとってみせた。それを見た一は呆れながら言い返した。 「あのな、これは別にスポーツとかじゃねぇんだぞ?」 「知ってる。喧嘩だろ?」 「まぁいい。勝手にしろ」 一はため息交じりにそう言いながら振り返って事務所の方へと歩き出した。
後編へ続く
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年01月03日 15:54:05 No.87005 |
| I P:219.66.4.54 |
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登場人物紹介
山名家メンバー@ 山名晴喜(やまな はるき)/16 町はずれの小山の家に住む陽気な少年。一達と出会い、自らの家に住み込むように提案する。基本的にお調子者だが、意外と器用な一面もある。
山名家メンバーA 青波一(あおなみ はじめ)/16 町でカツアゲを繰り返す不良少年。短気で無愛想だが、一方で常に家計を案じておりしっかり者でもある。メンバー中では随一のツッコミ役。若干シスコン気味。
山名家メンバーB 青波果菜(あおなみ かな)/15 一の妹であり、家事全般をこなすしっかり者。メンバーの中では一番の常識人であり、他人を気遣う優しい心の持ち主。
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年01月10日 07:40:57 No.87006 |
| I P:211.121.31.97 |
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第2日 家族記念日(後編)
一は事務所の扉の前に立つと、それを思い切り蹴り飛ばした。中には2階の部屋へ続く狭い階段があったが、その前に見張りの男が1人立っていた。 「何だお前ら!」 男は言いきった直後に問答無用で一に顔面パンチを食らった。倒れる男を踏みつけつつ通過して階段を上っていく。その先には思っていたよりやや広めの部屋が広がっていた。デスクにソファー、本棚と見た目は普通の事務所らしい物が置かれている。 一や晴喜が見た男達はその部屋にいたらしく、彼らは一を見るや否や驚きの反応を見せた。 「あ!お前は・・・!」 「カナはどこだ!!」 激しい剣幕で叫ぶ一にたじろぐ男たちだったが、1人の男が冷静に口を開いた。 「なに、わざわざ向こうから捕まりに来てくれたんだ。手間が省けたじゃねぇか」 「・・・アイツ、ここのボスっぽいな」 晴喜が小声で一に言ったが、どうやら向こうにも聞こえていたらしく、その男が答えた。 「その通り。俺はここの頭をやってる五十嵐だ。上司の名前はしっかり憶えといた方がいいぜ?」 「誰が上司だ!お前らの手下になんかならねぇよ!」 「お前が大人しくしてくれれば妹の居場所を教えてやってもいいんだが」 「ふざけんなァ!!」 一は五十嵐に殴りかかろうとするが、先程の男達がそれを阻んだ。すると、その1人が突如横から鋭いパンチを食らった。晴喜が殴ったのだ。 「こいつらは任せろ!」 「お前・・・!」 その後も晴喜は軽快な動きで男達を倒していく。 (アイツ本当に闘えたのかよ・・・!) そう思いながらも一は五十嵐に向かってパンチを繰り出す。しかし五十嵐はそれを瞬時に避けてしまい、逆に一を殴り返そうとした。が、一もまたその攻撃をガードした。 すると、五十嵐は懐から拳銃を取り出して一につきつけた。 「あまり俺達をなめない方がいいぜ」 しかし、その直後に晴喜が五十嵐の手を思い切り蹴りあげ拳銃を弾き飛ばした。 「何ッ!?」 「今の言葉、そのまま返すぜ!」 一はそう言って五十嵐の顔面に拳を突き出し思い切り殴り飛ばした。すると晴喜が自信ありげな表情で一に話しかけてきた。 「分かったぞ。君の妹の居場所が・・・!」 「何!?」 「そこの本棚の裏に隠し部屋があるみたいだ。さっきから皆そこをチラチラ見てたからね」 (コイツ・・・!) まさに図星だった。倒れ込んでいた五十嵐は床に落ちていた拳銃を手にする。同じ瞬間、一は晴喜の言った本棚に手をかけていた。本棚は思っていたよりも少ない力で横に動き出した。 本棚が完全にスライドしきると、目の前には壁と同じ色をした扉が現れた。 「・・・ほらね」 晴喜はどうだと言わんばかりの表情で言ったが、直後に表情を急変させて叫んだ。 「危ないッ!!」 その声とほぼ同時に背後から銃声が聞こえてきた。晴喜は一を押し倒す形で五十嵐が撃った銃弾をどうにか避けた。 「・・・ってえな!何で倒すんだよ!」 「しょーがないじゃんか。文句言うならあっちに言えよ」 「てめぇら、調子乗ってんじゃねぇぞ!!」 五十嵐はかなり怒りの表情を浮かべていた。一に殴られたせいで鼻血が出ており、そのことが屈辱的である様子だった。五十嵐はもう一発銃弾を放つ。晴喜達はデスクの後ろに身を隠した。 「そこか!」 さっきまでの冷静さはどこへやら、五十嵐は怒りにまかせて拳銃を乱射し始めた。晴喜達はデスクやソファーの後ろへ次々と移動してそれを避けていった。
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年01月05日 13:48:50 No.87007 |
| I P:211.121.31.30 |
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「よし、俺が隙を作るからここは任せて行ってくれ」 不意に晴喜がそんな事を言ってきた。その表情は妙にたくましいものであり、カツアゲされていた時とは全くの別人のようだった。 「・・・分かった」 すると晴喜は1人別のデスクの裏へ走り込んで五十嵐のいる所へ近づいた。そして、自分が着ていたシャツを脱いで五十嵐を目隠しするように投げつけた。 「何ッ!?」 「今だッ!」 晴喜の掛け声と同時に一は隠し部屋の扉を開ける。その先は地下へ降りる階段になっていた。一はそこを急いで降りていき、そこにあった扉を力強く開けた。すると、そこには床に力なく座り込む果菜の姿があった。 「・・・カナ!」 「お兄ちゃん・・・!」 「大丈夫か・・・?今すぐここから出るぞ・・・!」 「うん」 一は果菜の手を取り彼女を立たせると、来た道を戻ろうと歩き出した。するとその時、扉の奥から荒々しい声が聞こえてきた。 「させるかよォ!!」 目の前に現れたのは五十嵐だった。傷が少し増えているようだったが、彼はどうやら晴喜を振り切ってきたらしい。 「チッ、あいつ・・・」 五十嵐は2人に拳銃を向けて叫んだ。 「終わったなァ!もう脅しはしねぇ。お前らにはここで死んでもらう!!」 そして五十嵐は拳銃の引き金を勢いよく引いた。2人は目をつむる。銃声が鳴った。しかし、その音は明らかに通常とは異なる音だった。そこから出てきたのはおもちゃの弾丸だったのだ。 「残念。それは俺のモデルガンだよ」 背後からの声に五十嵐は振り返る。そこにいたのは晴喜だ。彼は五十嵐と取っ組みあっている間にポケットにしまっていたモデルガンと本物の拳銃を取り替えていたのだった。 (つーか、何でそんなもんを今持ってるんだよ・・・) 一は敢えて心の中だけで突っ込むことにした。 「形勢逆転だね」 晴喜は静かにそう言って拳銃を五十嵐に向けた。 「くっ、これくらいで俺がやられるとでも・・・」 「嘘だよ。もう人殺しなんてごめんだからね」 (?!今何て・・・) 「さ、こんなとこもう出よう。後のことは警察の人に任せてさ」 そう言って晴喜は振り返り部屋を出ていこうとした。一達もそれについていく。 「・・・待てやコラァァアアアア!!」 五十嵐は叫びながらこちらへ向かって走ってくるが、晴喜達と入れ替わるように警官達がドタドタと階段を下りてきた。 「!!?」 「だから言ったじゃん。警察に任せるって」 晴喜は後ろを向いて微笑みながらそう言った。
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年01月05日 13:51:18 No.87008 |
| I P:211.121.31.30 |
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3人は警察から事情聴取を受けた後、その場ですぐに解放してもらった。気がつけば、外ではもう太陽が沈みかけていた。 「あの、ありがとうございました。私やお兄ちゃんを助けてくれて」 果菜がそう言うと、一は何か腑に落ちない表情で晴喜から目をそらした。それに対して晴喜は笑顔で答える。 「いいってこと。それよりアンタ達はこれからどうすんの?家がなくなっちゃったんでしょ?」 事情聴取で2人の事情を知った晴喜はその事が気になって仕方なかった。 「フン、そんな事はお前に関係ねぇだろ。色々と首突っ込みすぎだぞお前」 「・・・あ、そうだ」 晴喜は名案を思い付いたと言いたげな表情をしていたが、一にはそれがとてもいい案を出すような顔には見えなかった。 「家に来たらいいじゃん!ちゃんとした暮らしのめどがたつまでさぁ」 思った通り、しょうもない案だった。 「何だよそれ!?」 「いいじゃんいいじゃん!奮発しておもてなしするから!」 「そこまで言われたら逆に怪しいんだよ!お前なんか企んでるんじゃねぇのか!?」 「そんなことないって!タクシー代さえおごってくれれば何でもしますって!」 (・・・そういや俺こいつにカツアゲしたんだっけ) 「まぁまぁ、あそこまで言ってもらえたんだから意地張らなくてもいいじゃない」 果菜がなだめるようにそう言うと、それに便乗して晴喜も力強く頷いた。考えてみると、確かに自分達がこれからどうやって暮らしていくのか全く見当がついていないのは事実だった。 「・・・チッ、仕方ねぇな・・・」 「よし決まりッ!・・・そういえば自己紹介がまだだったな。俺は山名晴喜って言うんだ。これからはよろしく!」 晴喜が元気よくそう言うと、2人は一瞬顔を見合わせてから果菜が先に口を開いた。 「私は青波果菜。こちらこそお世話になります」 「・・・俺は一だ。カナに何か変なことしたら許さねぇからな」 「ああ、約束するよ。さぁ、もう暗くなるし早速帰ろうか」 帰ろう。ついさっき家を失くした2人には、確かにその言葉が胸にすうっと染み込んでくるように感じられた。晴喜も何故か嬉しそうな表情をしていた。やがて3人は晴喜の家を目指して歩き出す。 その時、晴喜は不意に小さな声でつぶやいた。聞こえるか聞こえないかの境目を彷徨うような音量で気のせいかと思う程だったが、確かにその言葉は2人の耳にも入ってきた。 「俺達は、今日から家族だ」
続く
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年01月08日 08:26:24 No.87009 |
| I P:211.121.31.88 |
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第3日 始まりの日
辺りはもうすっかり暗くなっていた。街の外れから車で少し山の坂道を登ると、その途中に木造の一軒家が建っていた。山名晴喜の家である。 「さぁ、ここが俺の家だ」 「へぇ〜、広いお家ですね」 果菜の言った通り、確かに晴喜の家はこの辺りでは広い方だった。家は1階建てだがそれなりに大きく、その半分くらいの敷地は庭になっていた。庭には芝生が生えているが、あまり手入れがされていないのか若干伸びきっていた。 晴喜達はそんな芝生を踏んでいきながら玄関へ向かって行った。晴喜は扉の前に立つとすぐにドアノブに手をかけた。 「さ、入って入って〜」 晴喜に促されて一達も家の中へ入っていく。中は電気がついておらず、中の様子はほとんど分からなかったが、晴喜が電気をつけると一気にその全貌が見えてきた。玄関の先には家の中心を真っすぐに貫く廊下があり、その右側には和室のリビングがあった。 その部屋の中心には背の低いテーブルが置かれており、そこから程良い距離にテレビとそれを置く台があった。 「どうよ?なかなか落ち着く部屋だろ?」 「んなことより本当に何も企んでねぇんだろうな?」 「そんなことって・・・本当に何も考えてないよ。ただハジメ達を助けたい一心でだな・・・」 「つーかいきなり呼び捨てかよッ!」 「いいじゃん。俺達これから同じ屋根の下で暮らしていくんだからさ」 晴喜はそう言って満面の笑みを浮かべた。その笑顔からは確かに何かを企むような怪しいものは感じられなかった。 「さて、とりあえずは家の間取りを紹介しなくっちゃな。この奥にあるドアを開ければキッチンがある部屋だ」 そう言って晴喜はリビング奥のドアを開いた。ここからは流し台が見え、キッチンに入ると食器棚や冷蔵庫もある事が分かった。キッチンにしてはなかなか広い場所だと思われる。 こちらはそれなりに整頓されているようだ。 「そうだ。もう時間も時間だし何か作ろうか?腹減っただろ?」 「いや、別に・・・」 一の反応もかまわずに晴喜は部屋の広さの割にはやや小さい冷蔵庫を開けるが、その中を見て晴喜は驚きの表情を見せた。中はほとんど何も入っておらず少しの野菜などが入ってるくらいだった。 「・・・食材ほとんどねぇ〜〜〜〜〜!!」 ここにきて初めて晴喜は昨日の時点で食料をほとんど消費していた事を思い出した。そういえば、散歩ついでに町で食料を買いに行こうとしていた事もすっかり忘れていた。晴喜は深刻な表情で一達に話した。 「・・・緊急事態発生だ。これじゃ3人分どころか1人分も作れそうにない。皆、どうか知恵を捻りだしてくれ!」 「いや捻りだしてくれじゃねぇよ!お前ここ来る前おもてなしするとかなんとか言ってたじゃねぇか!?」 「いやぁ〜、なんか・・・ありませんでした;」 「ありませんでしたじゃねぇぇぇ!」
とりあえず3人は残っているわずかな材料をキッチンの台の上に並べてみることにした。中にあったのは半分に切られた人参や既に千切りにされたキャベツ、ネギに春菊といった野菜だけだった。 「この野菜と調味料だけで何とかやり過ごさなきゃならないわけか・・・」 一の一言に晴喜はハッとしたような顔をして言った。 「そうか・・・!冷蔵庫の中にある物だけが材料じゃない!調味料を置いてある所に何かもう一品あるかもしれないぞ!」 晴喜は調味料をしまってあるキッチンの引き出しを勢いよく開けた。しかし、中を見て晴喜はまたも驚愕した。その表情を見て2人も不安になる。
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年01月08日 08:29:30 No.87010 |
| I P:211.121.31.88 |
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「・・・どうした?」 「・・・小麦粉も切らしてました〜・・・;」 「もう一品どころか調理する物もねぇのかよッ!?」 念のため他の引き出しも探してみたが、特に調理できそうな食材は見つからなかった。いよいよ晴喜も困り果てた表情になった。 「う〜ん・・・正直野菜はてんぷらにしようかとも思ってたんだけど小麦粉がないとなるとそれも無理だな・・・」 「本当にどうしましょうね・・・;」 「つーかこの辺になんか売ってる店とかねぇのかよ?」 一が冷静にそう言うが、晴喜が相変わらず無駄に深刻な表情で反論する。 「いやダメだ。町に降りなきゃこの辺には店はない」 「じゃ町に降りて買ってこいよ」 「何ッ、お前よく考えてみろ。この暗い中山道を歩いて行ったら、怖いだろ」 「いや何言ってんだお前!?」 「お前この道の夜の怖さを知らないな?電灯の1つもなくてすっげぇ怖いんだぞあそこ」 晴喜の予想以上にくだらない言い分に一はだんだんと苛立ちを覚え始めていた。一は拳を作ってパキポキと音を鳴らしながらどすの利いた声で晴喜に迫った。 「そうか分かった・・・それなら俺の拳と山の夜道どっちの方が怖いんだ?」 「行って参りますッ!;」 あまりの一の気迫に晴喜は即答しながら背筋を伸ばして敬礼のポーズをとった。 「ふざけてんのか!早く行けッ!」 「はい〜ッ・・・;」 晴喜は逃げ出すように素早い動きで家を出ていった。 「ちょっと、かわいそうでしょ!私も一緒に行くわ」 様子を見ていた果菜がそう言って晴喜の後を追い、家の玄関に歩いていった。まさかの行動に一は動揺を見せる。 「おい・・・待てカナ!」 結局、一も果菜の後を追って家を出ていった。
「うぅ、真っ暗だ・・・」 晴喜は暗い夜道を懐中電灯のわずかな光で照らしながら坂道を下りていた。すると、後ろから果菜の声が聞こえてきた。 「晴喜さーん!」 「・・・カナちゃん?!」 晴喜は振り返って懐中電灯を向けると、その先にはやはり果菜が立っていた。必死に走って来たらしく少し息が上がっている。 「・・・私もついていきますよ。2人で行った方が怖くないでしょ?」 「カナちゃん・・・ありがとう!」 「待てーーーーーッ!!」 「!!?」 同じ方向から今度は一の叫び声が聞こえてきた。あっという間にここまで走ってきたかと思うと、晴喜を睨みつけた。 「お兄ちゃん・・・結局来たの?」 「うるせぇ!カナとこいつだけで行かせられるわけねぇだろ!」 こちらも必死な一の様子に晴喜は思わず笑い出してしまった。 「ハッハハハハ!・・・じゃあ3人で行こうか」 そう言うと晴喜は笑顔で再び歩き出した。不思議とさっきよりも周りが明るく見えるような気がする。
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年01月08日 08:31:50 No.87011 |
| I P:211.121.31.88 |
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結局、町で買い物をして家まで戻ってくるのに1時間以上もかかってしまった。家に入ると晴喜達はようやく遅めの夕食をとった。晴喜の作った料理は意外に美味く、3人はすぐにそれをたいらげてしまった。 「ふぃ〜、食った食った」 「ごちそうさま。晴喜さんって料理上手なんですね」 果菜が心底尊敬しているような眼差しで晴喜に言った。 「まぁね」 晴喜も満更でもない反応をした。すると、晴喜は何かを思い出したような顔をして口を開いた。 「あ、そうだ・・・町に行ったついでにこんなのを買ってきたんだ」 そう言って買い物袋の中から何かを取り出した。見たところ片手でつかめる程度の木材のようだ。 「何だよそれ」 「表札だよ表札」 晴喜が買ってきたのは木材に自分で名字を書き込むタイプの表札だった。 「何でそんなもんを・・・」 「いやぁ、今日からハジメ達もここに住むわけだから表札が要るかなと思って・・・ちなみに墨汁もちゃんと買ってきたぞ」 晴喜は言いながら買い物袋から更に墨汁も取り出してきた。 「なんかやけに手の込んだことするな・・・」 「へヘッ、俺が書いていいかな?『あおなみ』ってどういう字?」 「もうお前のそのテンションが気持ち悪ぃんだけど;」 一の言葉をよそに晴喜は果菜から青波の文字を教えてもらうと、さらさらとその字を筆で表札に書き込んでいった。その字はなかなかに達筆だったが、何故か波という字を間違えてしまった。 「あ、やべ・・・ミスった;」 「そんな字間違えるか普通!?」 「ええい、まだやり直せるッ!」 晴喜は必死にその字をどうにか修正しようと奮闘するが、その度に形がごちゃごちゃしていき最終的に適当にごまかした形になってしまった。 「ふぅ、まぁこんなもんか・・・」 「いやふざけんな!やるならちゃんとやれよ!」 「そんなこと言ったって表札はこれ1つしか買ってきてな・・・あ、そうだ!いい事思いついた!」 「何だよ・・・」 正直に言って一は晴喜の思いつきにはあまり期待が持てなかった。すると、晴喜は突然表札全体を墨で黒く塗りつぶし始めた。 「何してんだお前!?」 「ほら、表札って黒い奴もあるだろ?アレみたいにすればいいんだ。これを黒くして白い文字を書けばやり直せる!」 「ハァ?!アレは石で出来た奴だろ。つーか白い文字ってどうやって書くんだよ!?」 「う〜ん・・・確か俺の部屋に絵具があったはず」 「マジかお前・・・」 こうして、晴喜の失敗と発想によって一風変わった表札が完成した。 「お〜、終わってみればなかなかの出来じゃん」 「そうか・・・?」 「早速掛けてみようか」 そう言うと晴喜は表札をもって玄関の外に出た。2人も一応彼の後についていってみる。晴喜は玄関の扉の横にかかっている『山名』の表札の隣に『青波』の表札を付けた。こうして見てみると、確かに表札としての違和感はあまりなかった。 俺達は、今日から家族だ。数時間前の晴喜の言葉が2人の頭の中で再生された。この表札を見ていると、そのことが実感できるような気がしてきた。3人は表札を掛けた後もしばらくそれを見つめていた。
続く
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年01月10日 07:45:31 No.87012 |
| I P:211.121.31.97 |
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第4日 翌日
目が覚めた。起き上って周りを見てみると、そこには見慣れない光景が広がっており、ようやく一は晴喜の家で眠った事を思いだした。するとその直後、寝室のふすまが開いた。開いたのは晴喜だ。 「おはよー。昨夜はよく寝れた?」 「・・・っていうか、カナはどこだ?」 果菜は一と同じこの寝室で寝ていたはずだが、彼女どころか布団もそこにはなかった。 「・・・アレ、本当だ。いないな・・・とりあえず家の中を探してみよう」 こうして寝室を出た2人だったが、彼女はすぐに見つかった。果菜はキッチンで1人朝食を作っていたのだ。 「あ、2人ともおはよー」 「もしかして、朝ごはん作ってくれたの?」 「ええ、居候させてもらってるからこれくらいは・・・」 「おお!ありがとう」 晴喜がそう言うと、果菜は振り返って彼女が作った朝食を持ってきた。 「さ、出来たわよ。食べて食べて」 果菜が料理をリビングテーブルに並べると、2人は置かれた場所の前座った。3人が朝食を食べ始めると、しばらくして一が晴喜に話しかけた。 「つーかよォ、お前本当に俺達をここに居候させる気なのか?」 「え?今更何言ってんだよ。俺がいいって言ってるんだからいいんだよ」 「お前がよくてもなァ、お前の親とかはどうなんだよ?つーかお前の親は何処いってんだ?」 思いもよらぬ一言に晴喜は心底驚いたような表情をした。まさに、鳩が豆鉄砲をくらったといった表情だ。それを見て一や果菜は少し不安になる。どうにも『・・・そうだった!』などと言いだす気がしてならなかった。 「・・・ま、大丈夫だって」 さっきの驚きの表情は何だったのか、晴喜は軽い口調でそう言った。
朝食を食べ終えると、晴喜は立ちあがって軽く背伸びをした。ふと窓の外を見てみると、そこから心地よい陽の光がさしてきていた。 「う〜ん、今日は天気もいいし散歩でもしてみるか」 そうつぶやくと、早速玄関の扉を開けて外へ出た。すると、扉を開けたすぐ横に何故か人影が見えた。 「ん・・・?」 晴喜は首を横に向けてその正体を確かめようとした。それでもやはり、それは人だった。晴喜に近い年代の青年が壁に寄り掛かるようにして爆睡していたのだ。 「な〜んだやっぱり人か・・・って、ええええええ!?」 晴喜は大声を出しながらその青年を二度見した。その青年の身なりをよく見ると、頭はボサボサで服装も若干ボロボロだった。だいぶ春が近づいてきているとはいえ、こんな恰好でよくここまで眠れるものだ。 すると、晴喜の大声を聞きつけて一達も玄関からこちらに出てきた。 「なんだよ朝からうるせぇな〜」 「見てこの人!」 晴喜はそう言って謎の青年を指差す。それを見た一達はいぶかしげな表情を見せた。 「なんだそいつ・・・何でこんなとこで寝てんだよ?」 「俺も分かんない」 すると、今まで全く起きる気配のなかった青年が突然唸り声を出しながら目を開けた。 「う〜ん・・・」 「うぉっ、起きた・・・」 目を覚ました青年は、いぶかしげに彼を見つめる晴喜達をしばらく見つめて口を開いた。 「・・・親父?」 「・・・は?」 「お〜親父、何だこんな所にいたのか。つーかここは何処だ?」 「ちょっ、待って・・・俺は君の親父さんじゃ・・・」 「・・・なんだただの猫か」 「どういうこと!?」
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年01月10日 07:49:29 No.87013 |
| I P:211.121.31.97 |
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目を覚ましたことでさらに謎が深まる青年に戸惑う晴喜に、果菜もまた戸惑い気味に言った。 「この人もしかして寝ぼけてるんじゃ・・・;」 それを聞いて晴喜はその青年の肩をしっかりと掴んで前後に思い切り揺らし始めた。 「お〜い!しっかりするんだ〜!」 「・・・うるせぇッ!」 青年はそう言いながら振られた勢いで晴喜の頭に思い切り頭突きを繰り出した。 「ぐへっ!何でッ・・・?!」 「で、何でこんな所で寝てたんだよお前は?」 晴喜が地面に伏して痛みに耐えている間に一が青年に話しかけた。先程の晴喜のおかげなのかどうかは分からないが、青年もようやく完全に意識を取り戻したようだった。ただし、それでも何となく気だるそうな目をしていた。 「分からん。眠たかったから寝ただけだ」 あまりに堂々とそんなことを言ってきたので、一は思わず呆れてしまった。一方、果菜はさらに青年に訊いてみることにした。 「じゃあ、どうしてこの家に入ってきたんですか?」 「う〜ん・・・ここの芝生が寝るのに調度よさそうだと思ったんじゃね?」 青年のいい加減な言葉に一は呆れながら言い返した。 「お前酒でも飲んでたんじゃねーのか・・・?」 「バカ言え。酒なんてもん最近じゃそうそうありつけるもんじゃねーぞ・・・まぁ、昨日はたまたま酒瓶見つけたんだけどな」 「飲んだんじゃねーかよ!しかも拾った奴!?」 一がそう突っ込んだ直後、不意に後ろから晴喜の声が聞こえてきた。 「う〜ん成程、これがその酒か〜。結構辛口」 振り返ると、晴喜は近くの芝生の上に落ちていたのか酒瓶を持っていた。 「そこにあったのかよ!?つーか何お前も飲んでんだ!?」 「これ店の裏に捨てられてる奴の余り?」 「勿論」 青年は何故か誇らしげな表情でそう返してきた。なんでも町中の路地裏に捨てられていた物を1つの瓶に集めて飲んでいたらしい。 「えらくみみっちい飲み方してんな・・・ってか、いつまでここにいるつもりだ。もう家にでも帰れよ」 「家なんてあるわけねぇだろ」 「え・・・?」 晴喜達が小さくそう言った後、しばらくの間沈黙が流れた。
青年の名前は桂木來斗(かつらぎ らいと)。彼の話では、小さい頃からずっと路地裏や河原などを転々として生活してきたらしい。確かに彼のみすぼらしい身なりを見れば、そんな話もあながち嘘とは思えなかった。 「どこで寝るかはいつも決まってないからな。眠たくなった時に寝れそうなとこで寝る。んで昨夜はたまたまここの芝生が目に着いたってことだな、うん」 「そうだったんですか・・・」 果菜の言葉を最後に再び沈黙が流れた。しかし今度は一がすぐにそれを破った。 「お前は何で家が無くなったんだ?」 「無くなったっつーか、気がついたら知らん場所にいた」 「・・・は?」
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年01月10日 07:52:01 No.87014 |
| I P:211.121.31.97 |
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「俺もその時の事はよく覚えてないが、朝起きたら森の中にいたんだ。さすがにあの時森の中で寝てた覚えなんてないんだけどな。そっからどうにかここの街に出て」 「その前はどんな暮らしをしてたか覚えてないんですか?」 果菜が來斗にそう訊いたが、彼は一切表情を変えずに言った。 「もうだいぶ前の事だからな・・・何も覚えてないな」 しかし、彼は哀しげな表情を浮かべたり自身に何があったのか気にしている様子は全くなかった。そんな事を考えているほどの余裕がなかったのかもしれない。すると晴喜が急に笑顔になって口を開いた。 「・・・それならさ、今日から家に住む?」 「ハァ!?」 晴喜のまさかの発言に一達は心底驚かされた。自分達も同じ事を言われたとはいえ、あまりにも唐突だったので不意を突かれた気分だ。 「ちょっと待てよ!お前それ本気か?!」 「勿論」 晴喜が笑顔で答えると、來斗は特に迷った様子もなくすぐに答えを出した。 「マジで?じゃよろしく頼むわ」 「そんでお前もあっさりと受け入れんなよ!」 「まぁいいじゃん。人数は多い方が楽しいって」 晴喜は能天気にそう言ったが、一はそれに全く納得できなかった。 「それじゃお前はこれから身寄りのねぇ奴をいちいちこの家に住ませんのかよ?」 「お兄ちゃん、私達も助けてもらった身なんだからそういうこと言わないの」 「何だよカナまで・・・」 こうなると、もう一が何を言おうと來斗はここに居候することになりそうだ。すると、來斗が一に微笑みながら話しかけてきた。 「ま、そういうことだ。仲良くしようぜ」 「お前は何で早くも溶け込んだ感じになってんだ!?」 「何言ってんだ。ライトも今日から家族の一員なんだぞ」 晴喜が2人の間に割り込みながらそう言うと、來斗に向かって手を伸ばした。 「ってことで、これからよろしくな」 「ああ」 來斗も手を伸ばして2人は握手をしようとした。しかしその瞬間、晴喜の身体に突如として激しい衝撃が走った。 「ぎゃあ〜〜〜ッ!?」 「・・・どうした!?」 あまりの痛みに晴喜はその場に膝から倒れ込んでしまった。その様子を見た一達は驚きを隠せない。そんな中來斗は、あ、と思いだしたような表情をしながら晴喜に言った。 「・・・そう言えば俺ってすっげえ静電気溜めやすい体質だったんだ」 「え・・・ってことは、今のって静電気なんですか?!」 晴喜をよく見てみると、彼の体がかすかに痙攣しているのが分かった。一体彼にどれだけの電圧がかかったのだろうか。その様子を見た限りでは静電気のレベルを明らかに越えていた。 「あの・・・そんな大事なこと忘れないでくれる・・・?死ぬかと思った・・・;」 晴喜は倒れたまま半泣きの表情で小さくそう言った。 (こんなんで本当に大丈夫なのか・・・?) これからの生活にますます不安を覚える一なのであった。
続く
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年01月10日 08:00:02 No.87015 |
| I P:211.121.31.97 |
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登場人物紹介
山名家メンバーC 桂木來斗(かつらぎ らいと)/17 昔から路上生活を続けてきたホームレスの青年。非常に能天気で楽観的。人の意表を突く言動をすることが多い。何故か静電気が異常に発生しやすい。
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年01月23日 09:18:50 No.87016 |
| I P:61.116.138.157 |
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第5日 面接の日
「じゃ、いってきまーす」 「いってらっしゃーい」 晴喜達が返事をすると果菜は扉を開けて玄関を出ていった。果菜は4人の中で唯一学校に通っているのだ。晴喜の家に来てから通学路が変わってしまったが、幸い歩いていける距離だったので登校に支障はないようだった。 「さて、じゃ俺も行こうかな。ハジメ達も来る?」 不意に晴喜がそんな事を言い出した。 「どこにだよ?」 「アルバイト。人数も増えた事だし生活費稼がなきゃだろ」 成程、晴喜は今までそうして1人で暮らしてきたのかもしれない。晴喜の家に居候してから数日間が建つが、彼の親が帰ってくる気配は全くなかった。 数人分の布団が家にあることから元々はこの家にいたようだが、彼の両親は今一体何をしているのだろうか。一はそんな事をぼんやりと考えたが、すぐに別の問題が浮かんできた。 「今時俺らみたいな奴を雇ってくれるとこなんかあんのか?」 数年間不景気が続いているこの時代に高校も卒業していない一達が仕事を得るのは、それがアルバイトでもなかなか厳しいものがあった。しかし、晴喜は笑顔でそれに答えた。 「大丈夫だって。気前のいい人だから」 こうして一達は晴喜に言われるがまま、そのバイト先へ向かうことにした。
晴喜達がやって来たのは、古めかしい小さな小屋のような建物だった。看板には筆で『日蔭(ひかげ)』と書かれてある。一見何の店かは分からないが、景気がよろしい店でない事だけは伝わってくる。 「・・・ホントに大丈夫なのかよ此処」 「大丈夫、ホラ、入った入った」 晴喜がそう言いながら店のドアを開けた。中に入ってみると、そこにはいくつかのテーブルとカウンター席があった。飾り気のない木造の床や壁が落ち着いた雰囲気を醸し出している。 「・・・喫茶店?」 「まぁほとんど酒屋みたいなもんだけど。昼間もやってるからそれでも間違いじゃないかな」 確かにカウンターの奥をよく見てみると、そこには様々な酒瓶が所狭しと置かれていた。すると、そのさらに奥の大きな扉が悲鳴のような音をたてながらゆっくりと開いた。 「何だ客か?・・・まだ店は開けてねぇぞ」 「・・・!!」 そこから出てきた人物を見て一は驚愕の表情を見せた。扉の奥からは非常に大きな男が現れたのだ。身長は優に2mは越しているであろう。体格も喫茶店の店主にしては異常によく、かなりたくましい顔つきをしていた。 どう見ても過去に何も無かった人物だとは思えない。 (でけぇッ・・・!!こいつホントに人間なのか・・・!?) 「・・・言っとくけどこの人はちゃんと人間だから。店長の長田さん」 見透かしたように晴喜がそう言ってきた。長田は晴喜達の目の前に立ち、見下ろしながら口を開いた。 「・・・晴喜か。で、そいつらは何だ?」 「いやぁ、この人達もアルバイトさせてもらえないかなぁ〜と」 すると、長田は改めて一と來斗を眺めてから答えた。 「・・・成程、そんじゃ開店まで時間あるし早速面接と行くか。来い」 長田はそう言うと、再びカウンター奥の扉の向こうへと戻っていった。すると、晴喜が笑いながら一に言ってきた。 「な、言ったろ?」
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年01月21日 19:22:29 No.87017 |
| I P:211.121.31.140 |
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晴喜、一、來斗の3人は並べんたパイプ椅子に座らされ、目の前には長田がだらしなく椅子に腰かけていた。 「は〜い、んではこれより面接を始める」 (・・・え?面接ってこんな感じ!?なんかすっげぇ空気ユルいんだけど・・・!) 「あの〜・・・店長、何で僕までここに座っているのでしょうか・・・?;」 確かに、既にアルバイトをしている晴喜も彼らと並んでいるのは不自然な感じがしていた。 「お前、合格してるからって気ィ抜くなよ?なんか気に入らないことしたら落とすからな」 「マジッすかァアア!?」 「ま、それはさておきまずは端から自己紹介しろ。ハイ、お前から」 そう言って來斗の方をあごで指した。それに対し、來斗は姿勢をよくして笑顔で答えた。 「好きな物はいかさきっすかね」 (いきなり好物言いだしたーーー!!) 「成程、つまみが好きでウチに来たのか」 (どこに納得してんだよ!?つーか名前を訊けぇええ!) 「・・・って、それ以前に名前を言えええええ!!」 長田はそう叫びながら來斗を凄まじいスピードで殴り飛ばしてしまった。來斗は勢いがとどまることなく部屋の壁まで吹き飛ばされ、ドン、という大きな音を出しながら壁に叩きつけられた。 晴喜達はすぐ横で起きた事件の経緯を理解できず、ただあんぐりと口を開けて床に倒れ込んだ來斗を見つめるだけだった。 (の・・・ノリツッコミだとぉぉぉおおお!?って、んなことよりこいつヤバいぞ・・・!!) 一はすぐに首を横に振って晴喜に囁いた。 「おいぃ!何だ今のは!?今アイツ思いっきり來斗殴ったぞ!気前のいい奴なんじゃなかったのかよ?!」 「あるぇ〜、これは・・・もしかして店長今日は機嫌が悪いのかも〜;」 「機嫌って・・・つーかあの馬鹿力やっぱり絶対人間じゃ・・・」 「ん?今馬鹿力って言った?」 (やべぇ聞こえてたーーー!) 一の失言を晴喜が何とかフォローしようと長田の方を向いて言った。 「やだな〜言ってないですよそんなこと〜;それよりほらッ、面接の続きやりましょう!」 「・・・それもそうだな」 長田はそう言いながら元の椅子に腰かけた。とりあえず何とかこの場を乗り切った晴喜達は、先ほどよりもさらに姿勢を正して面接を再開した。その際、晴喜は一に小声で忠告をした。 「いいか。こうなった以上絶対に店長の機嫌を損ねちゃダメだ。ちょっとしたことで鉄拳が飛んでくるぞ」
「じゃあ次、真ん中の奴、名前とウチを志望した理由を言え」 別の意味で極度の緊張感に包まれた部屋の中に長田が声が響き渡った。今度は一が自己紹介を始める。 「青波一。理由は生活費のために・・・」 一は当たり障りのない言葉を選んで長田の質問に答えていく。そして、ついに何事もなく一に対する質問が終わった。 「ハイ、じゃあ最後に晴喜に訊く」 「え・・・俺にも訊くんですか?というか何を訊く事が・・・」 「いいから答えろ」 「ハイ・・・;」
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年01月21日 19:24:56 No.87018 |
| I P:211.121.31.140 |
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「結局さっき殴った奴の名前を聞きそびれちまった。アイツの名前は?」 「(え〜〜〜〜〜;)え、えっと・・・あの人の名前は桂木來斗と言います」 「そうか。じゃあ今度はお前に訊こう。最近この店は客の出入りが極端に悪い。何が原因だと思う?」 (バイトの面接で何を訊いてんだよ。完全にお悩み相談じゃねぇか!) 「まぁ最近は不景気ですもんねぇ〜・・・それがすべてだと思います!長田さんは何も悪くないですよ!;」 「しかしな、そうだとしてもだ。それでも生きてく為には稼がなきゃならねぇんだよ。なのに売り上げは落ちていく一方・・・どうするよ?」 徐々に切実になっていく彼の発言に晴喜も困惑の表情を隠しきれなかった。そもそも学校を卒業して1年もたっていない晴喜にはにわかに答え難い質問だ。しばらくは晴喜も口ごもったまま何も答えられずにいた。 しかし早く何か答えを出さなければ、いつ長田の鉄拳が飛んでくるか分からない。晴喜は長田の気迫に圧迫されながらも必死に答えを考えた。 「・・・じゃあ、何かイベント的なものを開いてお客さんを集めるなんてのは・・・」 「・・・成程」 長田はそう言いながらゆっくりと椅子から立ちあがった。 「却下」 言いながら長田は晴喜を目にもとまらぬ速さで殴り飛ばしてしまった。 (ええええええええええ!!?) (晴喜ィィィイイイ!!) 晴喜は來斗と同じように部屋の壁に叩きつけられ、そのまま力なく床に倒れ込んでしまった。しかし、辛うじて意識は残っているようで、晴喜は小さなかすれ声で一を呼んだ。一は仕方なく晴喜が倒れている所まで近づく。 「・・・わ、悪い。しくじっちまった・・・こいつは・・・お前に託す・・・後は、頼んだ・・・ぞ・・・ガクッ」 晴喜はそう言って一にある物を持った手を伸ばしたまま顔を床に伏した。 「・・・何戦争映画みたいなことやってんだお前?」 「乗ってくれないのかよそこは・・・?!」 一に冷ややかな目で見られたので、たまらず晴喜もすぐに観念して顔を上げた。 「うるせぇガキか!で、どうすんだよこれを?」 「こんな事もあろうかと持ってきといた最終兵器さ。土産を持ってきたと言ってこれを店長に渡してくれ・・・ガクッ」 「もういいわそれは!」 しかし今度は一がそう言っても全く反応せずに本格的に狸寝入りを決め込んできた。 「・・・ったくしゃーねーな・・・」 一はそう言って晴喜の手の上にあるものを奪うように手にとって長田の方へ歩いていった。見ると、長田の機嫌は相変わらず悪いようだった。 「・・・何だよ?」 「あの、実はアンタに土産を持ってきてて、それを渡したいんだ・・・」 「それは・・・!」 一が持っていたのは、少し小さめの酒瓶だった。ラベルには"怒髪天衝"と書かれている。一は黙ってそれを長田に渡す。 「こんなものを持ってくるとは、お前らなかなか物好きだな。いいだろう、そこまでするんなら全員合格にしてやるよ」 「・・・マジッすか!?(じゃあ今までのは何だったんだよ?!)」 「ああ、マジだ。調度もうすぐ店を開ける時間だが、早速やってみるか?」 どうやら彼の機嫌は元に戻ったようだ。その様子を悟った晴喜は殴られた箇所を抑えながら一に寄りかかってきた。 「どう?最終兵器の効き目は」 「・・・つーかコレ、わいろじゃね?」 「それは言わんといて;」
続く
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年01月21日 19:44:02 No.87019 |
| I P:211.121.31.140 |
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登場人物紹介
周囲の人々@ 長田剛(おさだ ごう)/36 晴喜たちのアルバイト先である場末の酒屋『日蔭』を経営している男性。かなりの大男で力も超強力。気さくで気前の良い性格だが、見かけによらず繊細でちょっとしたことで暴走してしまう一面も。
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年01月30日 18:55:12 No.87020 |
| I P:211.121.31.249 |
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第6日 アルバイト初日
「そういうわけで、改めて言うが店長の長田剛(おさだ ごう)だ。これから店を開けるから晴喜と一緒に働いてくれ」 長田の一言によって面接の直後にいきなりアルバイトをすることになった一達。かなり急ではあるが、考えてみればこの店の雰囲気からして昼間はあまり客は来なさそうだ。 3人は従業服に着替えると、客がいない間に簡単な店内の掃除を始めた。ここで一はふと気になる事が浮かんできた。 「そういえばよ、ここ給料ってどれくらいなんだ?」 そんな質問に対して晴喜は微笑みながら意外な返事をした。 「さぁ?」 「さぁ!?何でお前が分かんねぇんだよ!?」 「だって給料はあの人の気分で決まるからねぇ」 「気分ッ!?」 「そう、だから店長の気分を害さないようにしっかり働かないとな」 「滅茶苦茶だな・・・」 「そこ、なんか言った?」 長田のその声には何故か殺気が込められているような気がしてならなかった。たまらず晴喜が言い訳をする。 「いやッ、店長の心の広さについて語り合ってましたッ・・・!;」 「そうか。ならいい」 「・・・危ねぇ〜;」 すると、不意に來斗が晴喜に呼び掛けてきた。 「お〜い、床にこんなもんがあったんだが、これって食えんのか?」 そう言って來斗が見せてきたのは見た事がない明らかに毒々しい色をしたキノコだった。 「何それキノコッ!?生えてたの?床に!?」 「つーか絶対食えないだろソレ!明らかに毒持ちの色してんじゃねーか!」 驚く2人に対して來斗はあくまで食べられるかどうかを確認しようとしていた。 「そうか?前に似たようなの食ったような気がすんだけどなぁ・・・」 「マジかお前そんな色したような奴よく食ったな!」 すると、長田がしかめ面をしながら3人に寄ってきた。 「おい!」 (まずいッ・・・!) 「そのキノコ育つの密かに楽しみにしてたんだぞ!何勝手に取ってんだよ!」 「そっちーーーーー!?っていうかこういうのは取ってくださいよ。不衛生な店だと思われるじゃないですか;」 晴喜の言葉に長田はハッとしたような表情を見せた。 「そうか、だから最近客来なかったのか」 「う〜ん、それは・・・どうでしょう;・・・とりあえず、このキノコはもう捨てよう」 そう言って晴喜は來斗の手からキノコを取ろうとした。するとその時、來斗の手から凄まじい衝撃が伝わってきた。静電気だ。 「んぎゃああああああああッ!!」 「あ、ダメだってあんま俺の手に触ったら」 「何だどうした!?」 突然の出来事に驚く長田に來斗が説明する。 「俺って異常に静電気溜めやすい体質なんすよ」 「わ・・・忘れてた・・・」 身体や口を震わせながらそう言う晴喜は床に倒れたまま立ちあがる事ができそうにない。見かねた長田は一と來斗に言った。 「しょうがないな。一旦晴喜を裏まで運ぶぞ」 「うっす」 そう言って2人が同時に晴喜の腕を掴んだ。 「ッいっっってぇぇぇえええええ!!」 すると今度は晴喜の身体を伝って一にも來斗の電流が流れ込んできた。たまらず一も手を振り回して必死に痛みをこらえる。晴喜に至っては2度目の電撃を喰らって気絶寸前だ。 そんな状況の中で、店の扉がベルを鳴らしながら勢いよく開いた。客が来店してきたのだ。 「・・・あ;」
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年01月30日 18:57:06 No.87021 |
| I P:211.121.31.249 |
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現在午前10時前。こんな時間帯に此処に客が入ってくる事は珍しい。しかしその客が店に入って目にした光景はさらに奇妙なものだった。気絶した店員が床に倒れており、それを他の店員が引きずろうとしていたのだ。 長田も客が不審がっているのを感じ取ったらしく小声で一達に指令を出した。 「まずい、こいつは俺が運んどくからとりあえずお前らが接客しろ」 そう言って長田は素早く晴喜をカウンターの奥へと引きずっていった。仕方なく2人は客の接客を始める。 「いらっしゃいませー」 「あの・・・入って大丈夫だったんですかね?」 客の男性は少々困惑した表情をしながらそう言ってきた。これに対し來斗は何事もなかったかのようなすまし顔で答えた。 「大丈夫ですよ。どうぞこちらの席へ」 男をカウンター席に座らせると、昼のメニュー表を渡して2人は長田の元へと戻っていった。中の様子を見てみると、そこには全く生気のない晴喜がパイプ椅子にぐったりと座りこんでいた。 「あら〜、燃え尽きちゃってるな〜こりゃ」 「お前が燃やした張本人だろうが」 全く悪気なく棒読みで言い放った來斗に一が突っ込んだ。 「こいつはもう駄目だ。後は俺達でやっていくしかねぇな。ま、本来この時間帯はあんまり客も来ないしこれで充分なんだがな」 長田も淡々とそう言った。すると、店のお方からさっきの客の声が聞こえてきた。 「あの、すいませ〜ん」 「俺が行く。お前らは晴喜の面倒でも見てろ」 そう言い残して長田は部屋を出ていった。力強く扉が閉められると、一は軽くため息をついた。 「・・・面倒って言われてもな」 一がそう言うと2人は晴喜の顔を見た。さっきから微塵も表情が変化していない。もしかしたらこのまま死んでしまうのではないかと思ってしまう程切ない表情だ。するとここで來斗が動いた。 「おーい、起きろ」 彼はそう言って晴喜の頬を軽く叩いた。 「うああああああああッ!!?」 案の定、來斗の手からまたしても電流が流れだし、この叫び声を最後に晴喜は完全に気絶してしまった。 「あ、またやっちまった」 「バカだろお前!事態悪化してんじゃねぇか!」 一方、晴喜の叫び声は当然店内にも響いており、そこにいた客はますます不安になってしまった。 「あ、あの・・・あそこで一体何をしてるんですか?;」 「アッハハ、すいません。新人がドジっちまったみたいだ。ちょっと叱ってきますわ」 長田はそう言いながら奥の扉を思い切り開けた。 「お前らこっちに聞こえてんだよォオオ!いい加減にしろ!」 そう言いながら長田は2人を思い切り殴り飛ばしてしまった。そのうえ、吹き飛ばされた2人にぶつかって晴喜もパイプ椅子から転げ落ちてしまった。 「ぐはッ・・・!!」 部屋の奥の壁にぶつかる激しい音がしてきたが、長田はその音を閉じ込めるように部屋の扉を素早く閉めた。しかし、当然その音も全て客に聞こえている。 「・・・大丈夫ですかね店員さんは;」 「大丈夫ですって」 長田がそう言ってからしばらくすると、客の男が頼んだ料理が出来上がり、長田はそれをカウンターに置いた。 「ハイ、カツサンド」 「ど、どうも・・・」 男は奇妙な緊張感の中素早くカツサンドをたいらげそそくさと店を出ていった。
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年01月30日 18:58:37 No.87022 |
| I P:211.121.31.249 |
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午前11時半。この時間帯になってくるとこの店にもそこそこの客が入ってくる。そろそろ1人くらいは手伝う店員が欲しい頃だ。そこで長田は頃合いを見計らって奥の部屋に入って晴喜達を呼びに行こうとした。 「お〜い、そろそろ出番・・・」 しかし、3人は不自然な体勢で床に倒れていて全く起きる気配がなかった。完全にやりすぎた。長田は今になってようやく深く反省した。 「こりゃ参ったなぁ・・・ま、しゃーないか」 長田はそう呟くと静かに扉を閉めた。結局この日は、長田は1人で昼の時間帯を切り盛りすることになった。
気がつくと、目の前には自分と同じく気絶して倒れている一と來斗がいた。起き上ろうとするが、体中に痛みが走る。しかたなく晴喜は横たわったまま自分の記憶をたどっていくことにした。 確か、自分が來斗から静電気を受けたのが事の発端だったはずだ。それから動けなくなった自分を運ぼうとした來斗から更なる追撃を喰らって・・・そこから記憶があやふやだ。 そういえば、あれからどれくらいの時間が経っているのだろう。ふとそんな疑問を持った晴喜は部屋にある古ぼけた時計に目をやった。時間は、午後3時。これを見た晴喜は驚きのあまり痛みを忘れて飛び上がった。 「さ、3時・・・!?まずいッ!こんなに寝てたのか!!(それにハジメ達まで気絶って・・・絶対何かあった!;)」 まだ若干手足が痺れるが、何とか立ちあがって部屋の扉を開けた。そこには1人カウンターでグラスを拭いている長田がいた。今は客は来ていないようだ。すると、長田が晴喜に気付いて声をかけた。 「お、やっと気がついたか晴喜」 「あ、あの・・・今日は大丈夫だったんですか?」 「ん、まぁな。つーか、この時間帯に3人もパートはいらねぇな。今度は昼と夜のシフト表作っとかねぇとな」 「・・・そうですか」 「にしても、なかなか面白い奴を見つけたもんだなお前」 「そうでしょ」 「今度からは気をつけとけよ?」 「はい・・・」 その時、晴喜の背後から扉の開く音がした。一と來斗も目を覚まして部屋を出てきたのだ。 「おお、お前らも起きたか。悪かったな殴ったりして」 (やっぱりアンタの仕業だったか・・・!) 晴喜が密かにそんな事を思っていると、今度は店の入り口の扉が開いた。客がやって来たのだ。 「あ、いらっしゃいませ」 こうして3人はアルバイトを再開し、外が暗くなるまで働いた。今日は久しぶりに客足が多い一日だった。
「・・・やっぱあのキノコが原因だったか」←長田 「えぇ〜・・・まさか;」←晴喜
続く
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年02月11日 19:20:35 No.87023 |
| I P:211.3.169.219 |
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第7日 INDEPENDENCE DAY(前編)
街で買い物をした帰り道でのことだった。晴喜は1人買い物袋を抱えながら町外れの道を歩いていると、前方に5人ほどで固まっている小学生達がいた。しかし、皆仲良く楽しげに歩いている様子ではなかった。 1人アスファルトの地面にうつ伏せで倒れ込んでいる少年がおり、それを取り囲むように他の少年たちが立っている。彼らから嫌な笑い声も聞こえてきた。少年が、虐められている。 晴喜にはすぐに分かった。気がつくと、彼の足は目の前の少年たちの方へと動いていた。徐々にそのスピードが上がっていく。次に彼の口が開き、喉の奥からとっさに頭に浮かんできた言葉が飛び出してきた。 「こらー!何やってるんだ!」 思っていたよりも大きな声だった。すると、少年たちが一斉にこちらを向いたかと思うと、鬼ごっこ中に鬼に出くわした時のような表情をしながら一目散にどこかへ走りだしていった。 「・・・ふぅ、まったく。キミ、大丈夫?」 そう言って倒れていた少年を見つめた。見たところ小学校高学年くらいの小学生のようだった。少年は両手でゆっくりと身体を起こした。地面に倒れた時のものなのか右の頬には擦り傷があった。 服もランドセルもボロボロだ。大丈夫?と聞いたのを申し訳なく思ってしまう程痛ましい姿だった。 「・・・・・・」 少年は哀しげな表情を浮かべたまま何もしゃべらない。それどころか晴喜の方を見向きもしなかった。 「・・・立てる?」 晴喜は少年に向かって手を伸ばす。少年はそれをしばらく見ると、黙って手を握ってきた。晴喜は微笑みながらぐいっと手を引っ張る。すると、少年の体は一気に浮き上がった。 少し勢いが強すぎたのか彼は地面に着地すると、少し足元がよろけてしまったが、すぐに体勢を立て直した。 「頑張れよ。少年」 晴喜はそう言って軽く彼の肩をたたいた。相変わらず少年は無表情のままだ。すると少年はそのままゆっくりと歩き出した。晴喜はそんな彼の後ろ姿をしばらく見つめていた。
晴喜と別れた小河優(おがわ ゆう)は、しばらく住宅街の中を歩いていくと自宅の前まで辿り着いた。家の玄関を開けて、中に入る。親はまだ仕事から帰ってきていないようだ。 数年前に両親が離婚してからというもの、母親は夜遅くまで働いて生活を営んでいるのだ。優はリビングにある家具の引き出しを開けた。そこから絆創膏を取り出し、頬の傷の上に貼る。 ゆっくりと倒れ込むようにリビングのソファーに腰掛けた。家の中は驚くほど静かだった。聞こえてくるのはカチカチと1秒ごとに進んでいく時計の針の音だけだ。優はこのまま何もせずにただ時間が過ぎてゆくのを待つだけだった。 ふと時計を見ると、いつの間にか午後6時になっていた。優はようやく起き上ってキッチンの方へと歩いていった。そこには母が作り置きしていった夕食がラップに包まれた状態で置かれていた。 優はそれをリビングのテーブルまで持ってきて、静寂の中で夕食をとった。それが終わったら風呂に入り、歯磨きをしたら明日の準備をし、布団を敷いて眠りにつく。そんな毎日の繰り返しだ。 優は非常に手際よく布団を自分の部屋に敷き始める。最後に自分の部屋の電気を消して、彼は一日を終えていく。
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年02月11日 19:25:23 No.87024 |
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次の日、優は学校を目指していつものように家を出た。しばらく通学路を歩いていると、突如後ろから強い力で肩をたたかれた。慌てて後ろを振り返ると、そこには同じクラスの柳橋将太(やなはし しょうた)がいた。 「よっ、優、今日は一緒に遊ぼうぜ〜。ちょっとした遊びを思い付いたんだ」 柳橋は笑いながら言った。これが大人には小学生らしい無邪気な笑顔のように見えるのだろうが、優にはそうは見えなかった。むしろ、悪意を含んだ笑顔に見える。 「・・・ま、とにかく今日の大休憩に倉庫の前な」 倉庫とは、校舎から最も離れた校庭の隅にある小さなコンクリートの小屋の事だ。その辺りは割と多くの木々が生えており、雑木林のような場所になっている。そのため、最も教師たちの目の届かない場所になっていた。 柳橋はその言葉を残すと、1人前へと走っていった。その先に彼の属するグループの集団を見つけたのだろう。優は通学路で再び彼と出くわさないために、奥に見える小学生の集団と一定の距離を保って調子を合せながら歩いた。
「優、時間だぞ。来いよ」 2時間目の授業の終了、すなわち大休憩の始まりを告げるチャイムが鳴ると、柳橋が優の席までやってきてそう言った。他の男子生徒も何人かついてきていた。どうやら逃げる道はないようだ。 仕方なく優も席を立って、柳橋の後についていくことにした。そして、校舎を出て雑木林に入り、古い倉庫の前までやってきた。 「さ、それじゃあルールを説明するか」 柳橋が優を見てにやけながらそう言った。よく見ると、他の男子も柳橋と同じような表情をしている。すると柳橋は小走りで倉庫の裏まで行き、少しすると掃除用のバケツを持って戻ってきた。 「昨日のうちに置いておいたんだ。昨夜はかなり寒かったから、こいつは相当に冷えてるはずだ。こいつにどれだけ顔をつけていられるか競争しようぜ」 確かに、昨日は真冬の気温に逆戻りしたような寒さだった。このことは先週末の時点で天気予報で予測されていたから、恐らく柳橋はそれを聞いてこのことを思いついたのだろう。 すると、中を見た他の男子が笑いながら声を上げた。 「冷えてるっていうかコレ、うっすら氷張ってんじゃん」 これに対して柳橋は、ますます口元を緩ませてから答えた。 「じゃあ、これを頭突きで割って顔を入れるってことで」 「何だそれ」 柳橋達はゲラゲラと笑い声をあげ、倉庫の扉を開けた。鍵は掛かっていないらしい。 「来いよ、優」
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年02月11日 19:27:10 No.87025 |
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柳橋が不気味な笑みを浮かべながら誘ってくる。しばらくためらっていると、強引に腕を引っ張って倉庫の中に引きずり込まれた。室内には窓は一切なく扉を半分閉めただけでもほとんど周りが見えないほど暗くなってしまった。 強烈なカビの臭いが鼻をつく。うへぇ、くせえな、という声が四方から聞こえてきた。その声に交じって柳橋がバケツを床に置く音もした。 「さぁ優、まずはお前からだ」 柳橋が冷たい口調でそう言ってきた。まさに優が予想していた通りの言葉だった。優を掴んでいる柳橋の手からは、その冷たさが直に伝わってくるような感覚がした。柳橋の腕に引っ張られ優は暗闇の中で体勢を崩す。 「おい、ライトをつけろ」 用意周到なことに柳橋は他の男子に手持ちのライトを用意させていた。その光が優の顔と床に置かれたバケツを照らす。慌てて優は懸命に身体を動かすが、柳橋達はあっという間に優の身体を抑えつけてしまった。 そして柳橋は優の頭を鷲掴みし、それをバケツのすぐ上まで持ってきた。柳橋達はかすれた笑い声を出しながら、これから行われるショーに心底期待を膨らませているといった様子だった。 「よし、いくぞ!」 「いけいけ!」 次の瞬間、優は右の頬を勢いよくバケツの氷にぶつけ、瞬く間に顔中が冷たい水に覆われた。しばらく何が起きたか理解できなかった。冷たさや痛みは感じているのに、目の前には何も見えない。 もしかしたら、自分は水などではなく絶望そのものに叩きつけられたのかもしれない、と思ってしまう。ようやく自分の置かれた状況を把握した優は必死に顔を上げようとするが、柳橋の手がそれを許さない。 柳橋達は自分をライトの光で照らして見ているのだろうが、その光はこちらにはまったく入ってこない。今更ながら右の頬に鋭い痛みを感じた。氷水が絆創膏を押しのけて傷口に入り込んできているようにも感じる。 耳鳴りが始まる。呼吸も苦しくなってきた。優が水から這い上がろうともがく度に、割れた氷が刃のように顔面を突き刺してくる。耳鳴りが左右から直接脳を貫いていく。優のまわりにある全てのものが、痛みに変わっていた。 (あぁ・・・もう、ダメだな。こりゃ・・・) もがきながらも漠然とそんな言葉が浮かんできた。一向にこの暗闇から抜け出せるような気がしてこない。優は抵抗する力を徐々に弱めていってしまった。息はもう限界近くにまで達し、気を抜けば簡単に意識を失ってしまいそうな気がした。 優があきらめかけたその時、突如状況が一変した。らしい。目と耳は水の中にあったので外の状況はよく分からなかったが、優の頭を押さえていた柳橋の手が突然離れていったのは分かった。 恐る恐る優は顔を上げてみた。すると、今までの困難が嘘のようにいとも簡単に氷水から上がることが出来た。ゆっくりと目を開けて周りを見てみるが、相変わらず暗い景色で何が起こったのかは分からない。 ただ、彼らが持っていたはずのライトの光がなくなっているのは確かだ。茫然と暗闇の中で座り込んでいると、突如背後から声が聞こえてきた。 「キミ、大丈夫?」 なじみがあるわけではなかったが、聞いた事のある声だった。山名晴喜だ。
中編へ続く
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年02月11日 19:44:02 No.87026 |
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登場人物紹介
山名家メンバーD 小河優(おがわ ゆう)/11 内気で口数の少ない少年。普段自分の意見を押し通す事はないが、意外と大人びた思考をしている。手先も非常に器用。
周囲の人々A 柳橋将太(やなはし しょうた)/11 優を虐めている張本人であり、日々人を虐める方法を考えている残酷な性格。しかしながら、狡猾さもあって処世術には長けている。
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年02月18日 18:36:56 No.87027 |
| I P:61.116.170.203 |
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第8日 INDEPENDENCE DAY(中編)
バイト先の『日蔭』に向かう道でのことだった。晴喜達3人は山の坂道を降り、住宅街を抜けた大通りを歩いていた。そこには近所の学校を目指して歩く小学生の姿が多々見受けられた。 晴喜はふとそんな穏やかな光景を眺めていると、目の前に見覚えのある少年が歩いている事に気がついた。昨日、同級生たちに虐められていた少年だ。 「あ」 晴喜はそんな間の抜けた声を小さく漏らした。少年に声でもかけようかと思ったその時、何の前触れもなく晴喜の横を少年が駆け抜けていった。その少年はまっすぐ目の前の少年に駆け寄り、勢いよく彼の肩を叩いた。 (・・・こりゃ俺の出る幕じゃないな) 安心したような気持ちで少年を見ていたが、その後少年の方から聞こえてきた言葉には何か引っかかるものがあった。 「大休憩に倉庫の前な」 何故わざわざそんなところで遊ぶのだろう。そこが彼らがいつも遊んでいる場所であると言ってしまえばそれまでだが、その時に見えた少年の横顔は笑っていた、というよりも口元が歪んでいたように晴喜には思えた。 根拠などどこにもなかったが、晴喜はその笑顔に一抹の不安を覚えたのだった。そんな表情を見ていたのか不意に來斗が話しかけてきた。 「・・・どうかしたかハルキ?」 「・・・急用を思い出した。俺今日バイト後で行くわ」 「ハァ!?ふざけんなよサボりてぇだけだろ!」 一がそう言ってきたが、晴喜は神妙な顔つきで答える。 「いや、マジで急用ができたんだ」 「このタイミングでできる急用って一体何なんだよ・・・」 一の呆れた声は晴喜の耳をわずかな時間で通り抜けていった。
一を何とか言いくるめると、晴喜は小学生達について行って『平盆(へいぼん)第一小学校』に辿り着いた。ちなみに平盆というのは晴喜達が住むこの町の地名である。そんな町のやや郊外にあるこの学校だが、住宅街が近いためか規模は比較的大きかった。 晴喜は校門から校庭を見渡してみた。校門から見て左側に校舎があり、校庭を挟んでそれと向かい合うように雑木林が敷地内にあった。こちらから見て手前側の校庭にはいくつかの遊具が設置してあるが、奥の方には雑木林の隙間に小さな建物らしきものを見つけた。 こちらから敷地内で最も離れた場所にあったので、それが彼の言っていた倉庫であるかどうかは断定できないが、可能性は高い。残念ながら晴喜はもうこの校門を堂々と入っていける立場ではないので、外から回り込んであの建物の様子を見ることにした。 学校の雑木林と細めの道路は高いフェンスによって仕切られていた。しかしそのフェンスは有刺鉄線というわけではないので、何とかここから登って入ることが出来そうだ。しかしこれでは不審者も侵入し放題だな、と少し呆れる。 まずは外から先程の建物が見える場所を探す。すると、雑木林の木々の隙間から、全体ではないがその建物の大部分が見えた。コンクリートで出来た小屋のような設計で、かなり古いらしく壁には亀裂やツル系の植物が蔓延っている。 今はもう使われていないのかもしれない。成程、確かに倉庫と呼ばれるにふさわしい建物だ。しばらくその建物を観察していると、いつの間にかかなりの時間が経っていたようで、校庭から子供たちの笑い声が聞こえてきた。
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年02月18日 18:39:13 No.87028 |
| I P:61.116.170.203 |
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どうやら授業が終わり休憩の時間に入ったらしい。何人かの小学生はこの雑木林に入ってきた。その中には、昨日の少年の姿もあった。すると、その中の1人が倉庫の裏まで走ってきた。今朝に怪しい笑みを見せた少年だ。 その少年はそこの地面に置いてあったバケツを持つとまた小走りで戻っていった。彼らは一体何をしようとしているのだろうか。バケツを持った少年が何か話しているようだが、内容は聞きとれなかった。 しばらくすると、少年達は倉庫の扉を開けて中へ入っていった。昨日の少年はそこに入ろうとはしなかったが、他の男子に腕を力ずくで引っ張られ中に入っていった。その様子を見て晴喜はますます不安になる。 たまらず晴喜は目の前のフェンスに手をかけ、それを登り始めた。ただのフェンスだと思って甘く見ていたが、いざ登ってみると網目が小さく足をかけづらくて意外と登りにくい。 なんだ、ちょっとはやるじゃないか、などと見直している場合ではないように思えた。不安と焦りで足を滑らせてしまう。やっとの思いでフェンスを登り切ると、地面に勢いよく飛び下り、着地するやいなや一直線に倉庫まで走っていった。 扉を見ると、半分だけ開いたままでありそこから中の様子を覗いた。彼らは半分だけ閉まった扉の裏の隅の方でライトをつけていた。その光の先には、何とバケツの水の中に顔を入れこまれ、抑えつけられている少年の姿があった。 「・・・!!」 晴喜は急いで倉庫の中に入った。 「お前達、何してるんだ!」 予想外の人物の登場に少年達は心底驚愕した様子だった。 「くそっ、逃げろ!」 1人の少年が悔しそうな表情を浮かべてそう言った。すると、少年達は瞬く間に晴喜と扉の隙間をすり抜けて逃げていった。晴喜はバケツに顔を突っ込んでいた少年に顔を向ける。 少年はゆっくりバケツから顔を出した。苦しそうに呼吸する姿は何とも哀れだ。晴喜は彼に小さく声をかけた。 「キミ、大丈夫?」 少年はこちらに気付き、びしょ濡れになった顔をこちらに向けた。とりあえず、晴喜は自分の穿いていたジーンズのポケットを探る。 「うーんと・・・とりあえずこれ使って」 そう言ってポケットからハンカチを出した。少年はしばらく晴喜を見つめ戸惑っていたようだが、最終的にはそのハンカチを手に取った。彼が顔を拭いている間、晴喜はしゃがみ込んでさらに彼に質問する。 「キミ、確か昨日も俺と会ったよね?」 少し遅れて、少年は頷いた。晴喜は更に訊ねる。 「・・・名前は?」 「・・・優」 小さかったが、確かに彼の声を聞きとれた。もしかしたら名字も言っていたのかもしれない。とりあえず、彼の名前がユウであることは分かった。 「そうか、ユウ。あんな奴らに負けるんじゃないぞ」 晴喜は笑顔で優の肩を軽く叩きながら言った。するとその直後、外から先程逃げていった少年達の声が聞こえてきた。教師を連れてこちらにやって来たのだ。そして、その少年は予想外の言葉を口にする。 「この人です!この人が優を虐めていたんです!」 (え・・・・・・え、ええええええええええ!?)
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年02月18日 18:40:33 No.87029 |
| I P:61.116.170.203 |
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晴喜には甘く見ていた物が2つあった。フェンスの登りにくさと小学生の狡猾さだ。ただでさえフェンスを越えて学校内に入るという不法侵入まがいの事をしてしまっているのだ。怪しまれるのは間違いなくあの少年達よりも晴喜の方だ。 晴喜は教師に連れられて職員室に入っていった。他の教師達も何人か晴喜のもとに集まってくる。その全員がこちらに冷ややかな目を向けていた。 (・・・これは非常にまずいことになったぞ・・・;) 「それで、まずお訊きしますがここへ何の用でいらっしゃったのですか?」 女性教師がそう訊いてきた。敬語こそ使っているものの、その口調はどこか刺々しいものを感じた。晴喜は懸命に弁解を試みる。 「いや、誤解なんですよ!実は僕、ユウの従兄なんです」 勿論、嘘だ。だが、この場を乗り切るには多少の嘘は必要不可欠だ。 「それで、この近くの道を通っていたら、ユウが彼らと倉庫に入っていくのを見て何をしているのか気になって・・・」 この部分はあながち嘘ではない。できれば嘘をつくのは必要最低限にとどめたかったのだ。すると、女教師は更に質問をしてきた。 「あなたは学生ですか?それから名前は?」 晴喜は一瞬戸惑った。優の従兄を名乗ったからには彼と名字を合わせた方がよかったのだが、晴喜には彼の名字が分からない。仕方なく晴喜は自分の名前を正直に言うことにした。 「・・・山名晴喜です。学校には行ってません」 晴喜が中卒である事が明らかになり、教師達の視線はますます冷たくなった。焦る晴喜は更に弁解を続けた。 「とにかく、ユウが無理やり倉庫の中に引っ張られていた感じだったのでちょっとおかしいと思ったんですよ」 「・・・どういう意味ですか?」 「ユウを虐めていたのは僕じゃないんです」 それは同時にあの少年達が優を虐めていたという事も意味していた。教師達はいぶかしげな表情を浮かべながら顔を見合わせる。確かに、教師側としては信じたくない事だ。 「・・・とにかく後はあの子に訊きましょう。あなたはしばらくここで待っていてください」 女教師はそう言うと、職員室を出ていった。晴喜は職員室の中で途方に暮れる。 (・・・参ったなぁ〜;)
優は小さな第2会議室に並べられた椅子に1人、座らされていた。未だに乾かない優の頭を冷たい空気が包み込んでいる。すると、会議室の扉が開き、そこから優のクラスの担任である新井が入ってきた。 「優くん、大丈夫だった?」 新井が心底心配そうにそう話しかけてきた。彼女は優と長テーブルを挟んで向かい合うように椅子に座った。 「あの時の状況を詳しく教えてほしいんだけど・・・どうして優くんは倉庫の中に入っていったの?」 一瞬言葉に詰まったが、何とか声を出すことが出来た。 「・・・柳橋君達にあそこで遊ぼうと言われて」 「それはどんな遊び?」 そう訊かれると優は更に言葉を詰まらせた。それが確信をついた質問である事は新井も薄々感づいているらしく、かなり神妙な表情をしていた。口を開いてもしばらく声が出てこなかった。 この様子を見た新井は別の質問をすることにした。 「・・・じゃあ、あの男の人の事は分かる?あの人は優くんの従兄だって言い張ってるんだけど・・・」 多分、嘘だ。恐らく追い込まれた彼が苦し紛れについた嘘だろう。優は何と答えるかしばらく考えた末にゆっくりと口を開いた。 「・・・はい。そうです」
後編へ続く
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年02月20日 10:56:41 No.87030 |
| I P:211.3.169.60 |
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第9日 INDEPENDENCE DAY(後編)
晴喜が職員室に取り残されてから10分程が経っていた。すると、扉から優を連れた新井が戻って来た。 「おぉ〜ユウ・・・!」 晴喜はようやくホッとした表情を見せた。すると、新井が晴喜に向かって頭を下げた。 「先程は失礼いたしました。あなたが従兄だという事はこの子から確認が取れました」 「・・・!ユウ・・・」 これには晴喜も驚いた。正直、優が自分のついた安い嘘に乗ってくれるとは思ってもみなかった。新井は更に晴喜に説明を続けた。 「優くんはあの男子達から倉庫で遊ぶように誘われたそうなんです。そして、バケツに汲んでおいた水に優くんの顔を押し付けたそうです」 「一歩間違っていたら、本当に大変なことになってたかもしれないですね」 「はい。彼らには二度とそういうことのないように注意しておきます」 「そうそう、ユウ」 不意に晴喜がそう言って優に顔を向けた。 「もし次に同じような事があったら、立ち向かうんだぞ」 そう言ってから晴喜は優に紙切れのようなものを渡した。するとその直後、突然晴喜の携帯に電話がかかってきた。晴喜は携帯を取り出してみると、相手は一からだった。 「・・・あ、しまった;」 そういえば、アルバイトに向かう途中だったのをすっかり忘れていた。電話に出てみると、案の定怒りを露わにした一の声が聞こえてきた。 「おい、てめぇ・・・いつまでバイトさぼってんだよ!ぜってー俺達が受けた分だけボコすからな!覚悟し・・・」 「・・・」 連絡が途絶えた。彼の台詞から察するに、思った以上に店長がご立腹のようだ。 「・・・ごめん、バイトすっぽかしてたの忘れてた;もう行かなきゃ・・・じゃ、また会おう」 晴喜がそう言うと、優はゆっくりと頷いた。晴喜はそれを見た後、すぐに振り返って慌ただしく学校を後にした。
学校の時間が終わり、優は1人でいつもの帰り道を歩いていた。徐々に沈んでいく夕日が妙に眩しく感じられた。すると、突如優の目の前に人影が現れた。柳橋だ。 「・・・!」 「ちょっと、話があんだけど」 そう言った柳橋の表情はかなり険しいものだった。 「お前がそんな奴とは思わなかったよ。おかげでこっちは先生にこっぴどく叱られた」 どうやら優が事実を話したことに腹を立てているらしい。何とも身勝手な立腹だな、と優は思った。 「こうなった以上俺はお前には手を出せない。けどまぁ、せいぜい身の回りには気をつけた方がいいかもな」 「・・・?!」 柳橋はそんな不吉な言葉を残して優を通り過ぎていった。優は思わず振り返って柳橋を見つめた。一瞬だが、柳橋がにやけていたのが分かった。あの言葉は一体どういう意味なのだろう。 少なくとも、いい事が起こるという事はなさそうだ。
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年02月20日 10:57:59 No.87031 |
| I P:211.3.169.60 |
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家に帰ると、優はいつものようにリビングのソファーで茫然と時間を過ごしていた。静寂の中で優はずっと柳橋の残した言葉の事を考えていた。彼は一体何をするつもりなのか、しばらく考えたが優には到底想像できなかった。 すると、突如部屋の電話が沈黙を突き破ってきた。部屋中に響き渡る電話のベル音は、彼の平和さえも破ろうとしているかのように聞こえた。優は急いでその音を取り払おうと、電話の置いてある所まで歩いていく。 そして電話を手に取り耳まで持ってくると、そこから聞こえてきたのは知らない男の声だった。 「もしもし、小河優さんですか?」 「・・・はい」 優が小さく返事をすると、その男は子供の優にもよそよそしい口調で話してきた。 「突然で申し訳ないのですが、あなたに伝えなければならない事があります」 男の言葉は優をさらに不安にさせた。本当に突然の事なので、その内容の予想が全くつかない。そして、男が次に言った言葉はあまりにも衝撃的な内容だった。 「実は、先程あなたのお母さんが交通事故に遭い意識不明の重体になってしまったんです」 「ぇ・・・」 その言葉は優の頭を真っ白に塗りつぶしてしまった。男は冷静に詳しい状況を説明しているが、その声は優の耳には全く入っていない。説明が終わり、男に呼びかけられるまで優の意識は何処とも知れない場所へ消え去ってしまっていた。 「・・・さん、もしもし?大丈夫ですか?」 「・・・あ、ハイ」 「・・・では、改めて状況を説明しますので平盆総合病院まで来てください」 成程、どうやら電話をかけてきたのはそこの医師らしい。
優の家から平盆総合病院まではさほど離れていなかったので、10分程歩いたところでそこに辿り着いた。優の母は病室のベッドの上で力なく横たわっていた。そういえば、最近はお母さんが眠っている姿を見ていないな、などと呑気な事を考えてしまった。 優が起きる頃には母は既に彼の夕食を作り置きしていて、それから30分もしないうちに仕事へ出かけてしまうのだ。 「お母さんは、横断歩道を渡ろうとした時に乗用車にはねられたんだ。かなりのスピードでぶつかって、右の腕と足を粉砕骨折。つまり・・・治るまで約3ヶ月かかるんだ」 なだめるような口調でそばにいた医師がそう言ってきた。思った以上に状況は思わしくないらしい。 「・・・お母さん」 「・・・大丈夫、命に別状はないし意識もすぐに取り戻すよ」 取ってつけたようにそんなことも言ってきた。しかし、全治3ヶ月となるとこれから優はどうやって生活していけばよいのだろう。これまでも決して生活に余裕があるわけではなかった。そこへさらに3ヶ月分の収入源が途絶えてしまうのは死活問題だった。 そんなもう一つの不安が次第に優の頭を支配し始める。優はしばらく病室で茫然と立ち尽くしていた。もうすぐ普段彼が眠りに就く時間が迫ってきていることに、優はまだ気が付いていない。
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年02月20日 10:59:08 No.87032 |
| I P:211.3.169.60 |
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それからしばらく時間が経った後、母が意識を取り戻した。長い間閉じていた瞼をとても重そうにゆっくりと開いていった。 「・・・お母さん!」 「ユウ・・・ごめんね。今日は仕事が早く終わったから、ユウと一緒に居ようと思ったんだけど・・・こんなことになっちゃって」 母がそんな事を言ってきた。優は口を開いたが、何と返していいか分からず声を出すことに失敗する。 「これから・・・どうしようか?」 母は敢えて今から遊びの計画を考えるような軽い口調で言った。優は依然として答える言葉を見つけられていない。母もいい案が思い浮かばないのかそれから黙りこんでしまった。 しかし、しばらくして優が口を開いた。今度はそこからしっかりと声が放たれた。 「大丈夫。自分で何とかするよ・・・だから心配しないで」 「・・・本当に大丈夫?」 「うん」 「ユウは・・・本当にしっかり者ね」 母は微笑みながらそう言った。優はその時ポケットの中にあった紙切れを軽く握りしめた。今日の学校で晴喜からもらった紙切れだ。
翌日、優は休日を利用して晴喜から渡された紙に書き記された場所に向かって歩いていた。手書きの割にはかなり細かい地図が描かれていたため、その場所に辿り着くのにはさほど苦労しなかった。 彼が辿り着いたのは、それなりの広さがある一軒家だった。晴喜の家だ。優はしばらくその家を眺めたまま立ち止っていたが、ついに彼の家の庭へと足を踏み入れた。玄関の前まで来て、また立ち止まる。 ふと表札が目に入った。しっかりとした『山名』という文字が刻まれたものと、炭のようなものに白い文字で『青波』という文字が刻まれたもの、更にはその下に紙切れに鉛筆書きで『桂木』と書かれただけの表札までもが張られていた。 そして、勇気を振り絞ってついに玄関のインターホンを押した。しばらくして目の前に現れたのは、優が夢にも思っていないような人物だった。一だ。 「あぁん?誰だお前」 柄の悪そうな男に睨まれた優は驚きのあまり身体をビクつかせてしまった。緊張と恐怖心で声が出せない。 「・・・何なんだよ。何か言えよ」 優には一の言葉は威圧的な尋問のように感じられた。懸命に声を出そうとするがなかなか声が出せずうろたえていると、突然奥から少女の声が聞こえてきた。 「ちょっと、小さい子になんて態度してんの?!怯えてるでしょ!」 「何だよ・・・俺が何したってんだ」 「ごめんね。誰か会いたい人がいるの?」 果菜の一言に助けられ、優は小さく頷いた。すると、騒ぎを聞きつけた晴喜が玄関までやってきた。 「何何〜、お客さんかい?・・・あ、キミは!」 「晴喜さんこの子知ってるの?」 「ああ、会う約束をしてたんだけど、もう来てくれたんだね」 晴喜がそう言うと、優は深刻そうな表情をして小さく言った。 「ちょっと、話があって・・・」 「そうか。じゃ、ゆっくりしてってよ」 優は晴喜にリビングまで連れられてテーブルのそばに座り込んだ。そして彼は昨日起こった出来事を話し始める。柳橋が不吉な言葉を残したこと。母が交通事故に遭い、全治3ヶ月の重傷を負ったこと。そして、それによって優の暮らしが困難になってしまったこと。すべて話した。 勿論、その時優は晴喜が「じゃあウチに住めばいいじゃん」と当り前のように言いだすとは夢にも思っていない。
続く
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年03月05日 16:27:24 No.87033 |
| I P:211.121.31.152 |
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第10日 日曜大工の日
日曜の朝、起き上った自分の隣に人が寝ていることに違和感を覚える。優は何が何だか分からないまま山名家で1日を過ごしてしまった。昨日一昨日と時間が激流のようにあっという間に流れていった気がする。 昨日のことまでが夢だったのか、それとも今のこの光景が夢なのか、とにかくどちらにも現実味が感じられなかった。優が身体を起こしたまま茫然としていると、隣で寝ていた來斗が唸りながらもぞもぞと動き出した。 驚いた優は來斗を避け、來斗はそのまま晴喜の方へ転がっていった。そして、來斗の手が晴喜の頬に触れる。 「・・・んぎゃああああああッ!!?」 晴喜が悲痛な叫び声を上げながら飛び上がった。さらに部屋を仕切っていたふすまが乱暴に開かれた。そこからは寝転がったままの一が非常に不機嫌な様子で現れた。 「んだようるせぇなぁ。寝れねぇだろうが!」 「違うんだよ。俺は被害者なんだ。ライトが・・・」 「だからうっせぇ!」 一はそれまでとっていた体勢が嘘のように素早い動きで晴喜の頭を小突いた。 「あいたッ!殴ったな・・・ライトの電撃喰らった直後の俺をよくも殴ったなぁ〜・・・!」 「いちいちうっせぇんだよお前は!」 すると、不意に奥から果菜がやって来て揉め合う2人の仲裁に入った。 「ハイハイそこまで。朝ごはん作ったからもう起きて」 こうして山名家の朝は慌ただしく始まった。どれもこれも優には現実味のない光景ばかりだ。
「あのさ、人数も増えた事だし1回改めて部屋割を考えようぜ」 果菜の作った朝食を食べながら晴喜が言った。すると、この発言の根拠とも言える來斗が呑気な口調で言った。 「でも部屋割つってもこの家広い割に部屋は少ないんだよな」 「うわ〜結構グサッとくる・・・俺結構この家気に入ってんだからな」 來斗の発言はふてぶてしくも見えるが、確かに事実ではあった。晴喜の家では寝室は1つしかなく、ふすまで仕切っても2部屋が限界だ。すると、気だるそうに一が口を開いた。 「要するに來斗の寝床を隔離すりゃいいんだろ?押し入れでいいんじゃねぇのか?」 「俺はドラえもんかよ」 「ライトはそこでいいとしてもユウやカナちゃんの居場所も必要だと思うんだよ」 「あぁ、そうか」 真顔でそんな事を言う晴喜達に來斗もさすがに顔を渋めた。 「お〜い、俺はこん中で最年長だぞ」 「ほとんど変わんねぇだろうが」 「ま、とにかくこの家にも新しい部屋が必要ってわけだ。そこで、今日はこの日曜を利用して家を増設するぞ!」 晴喜の声は威勢よく響き渡ったが、他の4人の反応はすぐには返ってこなかった。 「・・・は?」 辛うじてそんな言葉が出てきたくらいだ。
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年03月05日 16:29:17 No.87034 |
| I P:211.121.31.152 |
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朝食を食べ終えると、晴喜は庭の隅にある物置小屋をあさり始めた。先程の晴喜の発言からも不審なものを感じ取った一が訊いた。 「おい、今度は何するつもりなんだよ」 「ほら、ログハウスってあるだろ?アレを家と繋がるように作れば新しい部屋の完成ってわけだ」 「んなこと言ったって材料はあんのか?木材とかはどうすんだよ」 確かに今の山名家の家計は決して木材を買う余裕があるわけではなかった。一の指摘に対し晴喜は何故かしたり顔で答えた。 「勿論、現地調達さ!」 「それって・・・;」 「この辺の木を切んのか!?」 青波兄妹がそう言うと晴喜は笑顔でうなずく。 「その通り」 「勝手にそんなことしていいんですかね・・・;」 不安そうな果菜をよそに晴喜はあくまで楽観的に意外な事を言い放った。 「大丈夫大丈夫。この奥の森はだいたいウチの土地だから」 「えぇ!?」 思わぬところで新事実が発覚した。一達がその事に驚いている頃には、晴喜は既に物置からチェーンソーを発掘し森の中へ入ろうとしていた。
「よーし、じゃあいくぞ〜!」 晴喜はそう言うとチェーンソーを作動させて手際良く木の幹に刃を当てた。すると、その木はミシミシと仰々しい音をたてて勢いよく倒れていった。この辺りに生えている木は意外としっかりとした大きなものが多かったので、晴喜は森へ入ってすぐに木を切ることにしたのだ。 「よし、これを運ぶぞ」 晴喜、一、來斗の3人で倒した木を運ぼうとするが、その木の重さは3人の予想を遥かに超えていた。まったく持ち上がる気配がない。 「・・・オイ、重すぎだコレ!どうすんだよ」 「う〜ん・・・こうなったらあの人の力を借りよう」 晴喜の言うあの人が誰なのかは一と來斗にはすぐに分かった。同時に不安もよぎる。その間にも晴喜は携帯でその人物に連絡を取ろうとしている。 「おい、待てッ・・・!考え直・・・」 一の抑制も空しく晴喜は携帯を離して一達に話しかけた。 「来てくれるみたいだよ店長」 「余計なことすんじゃねぇええ!だいたい日曜に店空けてやる気あんのかあの人!?」 「よし、あの人が来れば運べない心配はなくなる。それまでどんどん切っちゃおうぜ!」 「・・・別の心配が出てくるけどな」 一は決して嫌味を言っているわけではない。
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年03月05日 16:30:48 No.87035 |
| I P:211.121.31.152 |
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「・・・で、これを俺に運べと?」 長田が森のあちこちに置かれた倒木を眺めながら言った。その数なんと50本以上。しかし長田はそれを見ても嫌な顔はしなかった。 「はい、皆のためにもここはひとつ・・・」 「よし、いいだろう」 長田はそう言いながら1本の木を軽々と持ち上げ、自分の肩の上まで持ってきた。それを見た5人は思わず驚嘆の声を上げる。 「これを家の前に置けばいいんだな?」 そう言って長田が何気なく振り返ると、彼が持っていた木の幹がちょうど晴喜の顔面に衝突した。 「ぶふぉっ・・・!」 「あ、わりぃ」 「ちょっ、店長・・・方向転換する時は気を付けてください・・・;」 「分かった」 長田はそう言って比較的慎重に丸太を運んでいった。そして、晴喜の鼻血が止まった頃には長田は全ての丸太を家の前まで運び終えていた。 「・・・で、これをどうすんだ?」 來斗が晴喜に訊いた。 「まずは皮を削ってから丸太に欠き込みっていうくぼみを作るんだ。そのくぼみを下の丸太にはめて交差させるように積み上げてけばだいたい形はできてくる」 「・・・成程。どうするんだ?」 「・・・うん、まぁ実際に見た方が分かりやすいね;」 そう言って晴喜は丸太の皮を剥いだ後、チェーンソーを器用に動かして丸太の端側の方に丸いくぼみを作った。反対の端側にも同じくぼみを作る。 「っと、こんな感じかな。このくぼみの方を下にして他の丸太の上に乗せれば・・・」 成程、くぼみが下の丸太の形とぴったりはまって固定されるというわけだ。 「・・・こんな感じ?」 唐突にそう言ってきたのは優だった。見ると、優は晴喜がやっていた通りに丸太に見事なくぼみを刻み込んでいた。 「おお!そうそうそんな感じ・・・ってチェーンソーは俺が持ってんだけどどうやってそんな風にしたんだ・・・?」 「こんなのが落ちてて・・・」 そう言って優が見せたのは平たく尖った小石だった。 「い、石で!?すごっ!」 これにはさすがの晴喜も驚きを隠せない。石を使ってチェーンソー並にきれいなくぼみを、しかもこの短時間で作ってしまうのは晴喜以上の器用さと言えた。 「原始人かお前は・・・;」 一もかなり驚いているようだ。皆に注目されて感心され、優はとても照れくさかったらしく顔を赤らめていた。
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年03月05日 16:31:50 No.87036 |
| I P:211.121.31.152 |
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優の思わぬ活躍もあって作業は驚くほど早く進み、昼食時に入る頃には丸太を土台の上に積み重ねていく過程にまで到達していた。 「いや〜すごかったな〜ユウ!めちゃくちゃ器用だな」 晴喜が笑いながらそう言ってリビングの床に座り込んだ。テーブルには果菜が作った昼食がいっぱいに置かれている。 「そうだな。お前らよかこいつをアルバイトとして雇いたいくらいだ」 長田が冗談とも本気ともつかないことを言ってきた。 「店長、ユウはまだ小学生ですよ」 本当にどちらか分からなかったので晴喜は一応そう言っておいた。言いながら晴喜はテーブルの上の料理に手を伸ばす。そうすると、皆がそれを見計らっていたかのように次々と料理を食べ始めた。 30分程で昼食を食べ終えると、晴喜達は作業を再開した。巨大な丸太を積み重ねる作業で活躍したのは、やはり長田だった。彼は次々と丸太を組み立てていく。 「お〜、だいぶそれっぽくなってきたな」 來斗が感心した様子で間延びした声を出しながら言った。 「お前はほとんど何もしてねぇじゃねぇかよ」 一が呆れながらそう言ってきた。現に今も來斗は丸太の上に腰かけて未完の小屋を眺めている。 「つーかそれ次使うぞ。さっさとどけよこのサボり魔」 「ひでぇ言いようだな・・・うぉっ?」 來斗が驚いたのは彼が座っていた丸太が勢いよく上に持ち上がったからだ。持ち上げたのは、勿論長田だ。 「アレ、何だこの丸太。変なキノコが生えてんぞ?」 長田が真顔で言ったので、晴喜が突っ込んだ。 「いや・・・それキノコじゃなくてライトです店長・・・;」 「・・・フン!!」 長田は突然その丸太を勢いよく振りまして上に乗っていた來斗を投げ飛ばした。 「・・・んがっ?!」 すると、不運にも來斗が飛んだ先には一が立っており、一も巻き添えをくらってしまった。 「何で俺まで・・・」 「店長こっちにも当たってます・・・!直接攻撃がッ・・・!;」 見ると、そこには頭を押さえてうずくまる晴喜の姿があった。長田が振り回した丸太が晴喜の頭を直撃したらしい。脳震盪を起こさなかったのは奇跡的だ。 「・・・あ、わりぃ;」
午後3時頃、ひと波乱はあったものの何とか小屋の形を作ることには成功した。晴喜達はしばらくそれを眺めて立ち尽くしていた。 「よ〜し、あとは窓とか入口とかを考えて作ってけば部屋の完成だな」 そう言った晴喜は、前に自分で書いた表札を眺めた時のような表情をしていた。 「そんでこの部屋は誰の部屋になるんだ?」 來斗が誰にともなくそう訊いてきたので、晴喜がそれに答えた。 「まぁ、カナちゃんかユウのどっちかかな。俺はもともと部屋あるしライトは押し入れだし」 「押し入れ案採用すんのかよ!?」 「あたしはいいですよ。ユウ君に譲ってあげてください」 果菜は遠慮がちにそう言った。 「・・・そうか。今回ユウはかなり頑張ったもんな。じゃあこの部屋はユウの部屋にしよう!」 「え、いいの?」 「ああ。部屋の間取りとかもどうするかはユウに任せるよ」 晴喜にそう言われた瞬間、優には何故か自分の部屋の光景がぼんやりと浮かんできた。やってみたい事が次々と浮かんでくる。 「・・・うん、やってみる」 そう言った優は、自分が自然と笑顔になっていることにしばらくしてから気がついた。
続く
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年03月16日 19:07:04 No.87037 |
| I P:211.3.169.227 |
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第11日 卒業式の日
夕食が終わって皆がくつろぎ始めた頃、果菜が何気なく漏らした一言が始まりだった。 「あたしも明日で卒業か〜・・・」 そう、この地域ではほとんどの中学校が卒業式を明日に控えていたのだ。 「あ〜そっか。明日なんだ卒業式」 晴喜がしみじみとした様子でそう言ってきた。去年の自分の卒業式の日でも思い出しているのだろう。果菜にはなんとなくそんな表情に見えた。 「卒業式か〜、せっかくだし見届けてやりたいなぁ」 晴喜の一言にやはり一は眉間にしわを寄せながら言った。 「またお前は余計なことしようとすんなよ。俺一人で充分だろ」 「・・・ってかお兄ちゃん来んの?!」 「悪いかよ・・・」 「いや、だって・・・問題とか起こさない?」 「起こさねぇよ」 その時、晴喜がこの会話に割って入ることのできる言葉を発見したというような表情で口を挟んできた。 「大丈夫だって。その辺は俺がちゃんと見張ってるから」 「余計に危ねぇよ!つーか結局お前も行きてぇだけじゃねぇか!」 こうしていつものように2人は口論を始めてしまった。こうなっては一が晴喜にげんこつを見舞うのは時間の問題だ。果菜はその様子を見て明日の卒業式が一気に不安になってしまった。 (あぁ・・・心配;)
翌日、ついに卒業の日を迎えることとなった果菜。勿論彼女もこの学校を卒業する切なさをクラスメイトと共有していたのだが、頭の隅ではやはり昨日の事が気にかかっていた。 一や晴喜は本当に卒業式に来るのだろうか。そして本当に彼らが他の保護者達に溶け込むことができるのか。そもそも彼らの普段着な恰好だけでもだいぶ浮いてしまうんじゃないか、とも考えた。 しかし、いくら自分が悩んだところで状況が変わるわけでもない。果菜は一抹の不安を頭の隅に追いやり、卒業式に臨むことにした。体育館の入り口前でしばらく待機していると、中から吹奏楽部の演奏が聞こえてきた。 重量感のある優雅な音楽と大きな拍手の音を合図に卒業生が次々と体育館の中へ入っていく。果菜もそれに合わせて歩き出す。いよいよ卒業式が始まるのだ。
「お、来たぞ」 晴喜が一に耳元で囁いた。2人は続々と出てくる卒業生たちの中に果菜の姿を見つけようと必死に目を凝らす。すると、晴喜が先ほどよりも少し興奮した様子でつぶやいた。 「あっ、いたッ!」 「何ィッ?!」 一は未だ果菜の姿を見つけられず苛立ち始めていた。正確には自分よりも晴喜の方が先に彼女を見つけた事が悔しかった。一の中にじんわりと敗北感が湧き上がってきた。 「クソッ、どこだ・・・!?」 「ほら、あそこだよあそこ」 そう言って指を指示してくる晴喜に一はますます置いてけぼりをくらったような気分だった。晴喜にヒントをもらうことが屈辱的な事のように感じられた。苛立ちを抑えながらも一は晴喜の指した方を文字通り血眼で捜索する。 一方、体育館の中心を歩く果菜も2人の姿を確認しようと瞳を右に左に動かしていた。そして、見つけてしまった。もしかしたら、あんなに必死に眼を動かさなくても自然とそこへ視線がいっていたかもしれない。 なぜなら2人は保護者席の中で唯一中学校の時の制服を着ていたからだ。 (何で制服ううううう・・・!?)
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年03月16日 19:09:46 No.87038 |
| I P:211.3.169.227 |
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彼らの持っている正装らしい正装といえば学校の制服くらいしかなかったのだろうが、それはあくまで学生の正装であって保護者たちに交じって馴染むものでは決してなかった。 卒業式で保護者席に学生服を着た少年が座っている姿は不自然極まりない。果菜はすぐに目を逸らそうとしたが、何故かその前に一と目が合ってしまった。果菜は慌てて前を向く。 (まずい・・・目が合っちゃった・・・;) 「おっ、いた!しかも目ェ合ったぞ今」 「え、マジで?」 目が合った、という晴喜がまだ為しえていないことをしたことで、一は彼を追い抜いたような気分になった。
しばらくすると卒業生たち全員が席に座り、いつの間にか吹奏楽部の演奏と拍手も止んでいた。教頭らしき人物が開会の言葉を淡々と述べ、その後体育館にいる全員が細々とした声で国歌を斉唱した。 そして、お次はいよいよ卒業証書授与だ。進行役の教師がそれを告げると、晴喜はおもむろにビデオカメラを取り出した。少し古めのタイプなのか、何か操作をする度にいちいち機械じみた音が漏れてくる。 「お前、そんなもん持ってたのか」 気付いた一が小さく言った。それを聞いた晴喜はかなり得意げな表情だ。 「まぁね」 最初の生徒の名前が呼ばれる。その生徒は威勢よく返事をして、あらゆる方向へ向けて礼をしながらステージの上に登壇した。そういえば、果菜はどれくらいの順番で呼ばれるのだろう。 「なぁ、カナちゃんって何組?」 「確か2組だったはずだな」 その頃、1組の生徒は流れるように淡々と名前が呼ばれていき、もうほとんどの生徒の名前が読み上げられていた。果菜は2組の出席番号1番だったので、もうすぐ自分が呼ばれる番だ。 そして、1組の生徒が全員呼ばれ、2組の担任の教師がマイクの前にやって来る。 「2組、青波果菜」 体育会系の教師独特のはきはきとした声が体育館に響き渡った。果菜はそれにつられるようにはっきりと返事をした。 「お、来たッ・・・!」 言いながら晴喜がビデオカメラを構える。そのレンズはしっかりと果菜の姿を捉え、小さなスクリーンにもその映像が映し出された。 「ちゃんと撮ってんだろうな?」 一が念を押してくる。 「大丈夫だって」 晴喜がそう答えた頃、果菜はステージの上に登壇して校長の前に立ったところだった。しかしその時、晴喜はある重大なミスに気がついた。 「ん・・・?」 カメラのスクリーンが突如として黒く塗りつぶされ、その画面から『電池を交換してください』というメッセージが浮かび上がってきた。 (しまったぁぁぁあああ!電池取り替えんの忘れてたぁぁぁあああああ!!) 「どうした?」 晴喜の様子に気付いた一がそう訊いてきた。 「い、いや、何でもない・・・;」 ほんの10秒ほど前のやり取りが晴喜の頭の中で再生される。 [ちゃんと撮ってんだろうな?] [大丈夫だって・・・] この事が一に知れたらまずい事になるのは確実だ。しかし、一は晴喜の嘘をあっさりと看破してしまった。 「いや、お前嘘つくのヘタクソだな。絶対何かあっただろ?」 「いえ、ホントに何もないです。勘弁してください;」 「いいからとりあえずそれ見せろ」 そう言って一は強引に晴喜の持っていたビデオカメラをぶんどった。そして、一も画面上のメッセージを目撃する。
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年03月16日 19:11:15 No.87039 |
| I P:211.3.169.227 |
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一方、卒業証書を受け取り自分の席に戻ろうとしていた果菜は、一が晴喜を殴ったまさにその瞬間を目撃していた。 (うわ〜・・・やっぱり何かトラブってる・・・;あの2人ホントに大丈夫なの・・・?) 果菜は出来る限り2人が視界から外れないように瞳を動かしながら歩いていた。最早2人のことを監視していないと不安で仕方がない。しかし、自分の席を目の前にするとさすがに視界を外さざるを得ない。 果菜は後ろの保護者席に座る2人を不安に思いながらゆっくりと席に座り前を見据えるのであった。
卒業証書授与の後は、果菜の予想に反して特に大きな問題は起こらなかった。が、卒業式が終わった後もビデオカメラの件は立ち消えにはならなかったらしい。体育館を出た一が晴喜に険しい表情で言いだした。 「ったく、あんな自信満々な表情しといて撮れませんでしたーとは調子に乗ったことしてくれたじゃねぇか」 「もういいじゃんかそれは・・・思い出は自分の目に焼き付けるもんだよ」 ビデオカメラを持ってきた張本人とは思えない発言に一の苛立ちは急上昇した。 「お前がカメラ撮りだしたんだろーがッ!!」 溜めこんでいた苛立ちを余すことなく拳に乗せて晴喜の頭に振り下ろす。鈍器で殴られたのではないかと錯覚してしまうような鈍い音が鳴った。たまらず晴喜は地面に倒れ込んだ。 「いってぇ・・・すいませんでしたッ・・・!;」 「うるせぇよ!謝り方がもう腹立つわ!」 一がとどめの一撃をかまそうとしたその時、ふいに彼の視界に見覚えのある人影が見えた。 「・・・ん?」 一はとっさにそのほうを見た。そこに見えたのは、一の母だった。彼女は人ごみの間を器用に縫って学校を出ていく。 (お袋・・・!?) 「ん、どうした?」 晴喜が訊いてくるのにも応えずに一は母の後を追って人ごみをかき分ける。しかし、なかなか母のようにうまく前には進めない。やっとの思いで校門を出た頃には、既に母の姿は見当たらなかった。一はそのまま立ちつくしてしまう。 (お袋・・・何で・・・) どうして、行ってしまうのだろう。
続く
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年03月29日 16:18:53 No.87040 |
| I P:211.121.31.83 |
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第12日 家族会議の日
「今日は皆に考えてもらいたい事がある」 いつになく神妙な顔で一が言いだした。夕食が終わった後での事だ。4人は一斉に一の方を向く。 「これを見てみろ」 そう言って一が見せたのは山名家の(正確には晴喜の)貯金通帳だった。そこには現在銀行に貯金されている残高が書かれているのだが、その数字は23万と数千円ほどだった。 「うわ〜、だいぶ少なくなってきたな」 晴喜が他人事のように抑揚なく言った。一はそれを嘆くように言い返す。 「人数も増えてここ最近出費が増えてんだよ。ロクに給料ももらってねーのにどっから金を出してんのかと思えばこの様だ」 「っていうか家族とはいえ人の通帳を勝手に覗くのはいかがなものだろうか・・・」 気がついたように晴喜が言ったが、一は悪びれる様子もなければ反論するわけでもなかった。 「でも、確かにこのままいったらまずいかも・・・」 果菜が貯金の減り具合を見てそんな言葉を漏らした。 「それに、これからは果菜の高校の学費だって払わないといけない」 「あ」 実は青波兄妹が晴喜と出会う前、果菜は平盆町内の高校を受験しており、先日見事合格したが分かったばかりだった。当然、入学費や学費なども晴喜達が負担することになる。 「でも、今月からは3人分の給料がもらえるはずだ。店長の機嫌を損ねなければ今よりはマシになるはず・・・」 晴喜が誰を励ますでもないが、そんな口調で言った。 「まぁその日がカギを握ってる事は確かだが・・・こっちでも節約するに越したことはねぇ」 「成程。ということは・・・」 一の発言に同調した晴喜は何かを言いたげな表情になった。 「今日は俺達で節約の意見を出し合うぞ」 一がそう言うと、晴喜がにやけ面になりながら、ついに言いたかった台詞が言える、といった様子で口を開いた。 「第1回家族会議だ」
「え〜、というわけで、何か意見のある人は挙手でお願いします」 会議を開いた途端妙に張りきりだした晴喜は、自ら進行役を買って出た。そして、まず最初に手を上げたのは來斗だった。 「それなら、その辺の草をむしってこようか?野菜を買わなくて済むぜ?」 「却下」 全員が即答した。 「次はもっとまともなの頼む」 一がそう続けた。すると、果菜が控えめに手を上げながら何かを思い出したかのように口を開いた。 「そういえば・・・」 「お、何カナちゃん?」 晴喜が期待を膨らませながらそう言った。先を促したのか果菜の発言を妨げたのかは判然としない。 「冷蔵庫の中にカーテンみたいなのをつけとくと電気代が節約できるって聞いたことあるわ」 「おお、成程!冷気が逃げるのを防ぐわけか」 晴喜をはじめとして4人の反応は上々だった。 「よし、じゃそれは採用だ。カーテンは後で適当に作るとして、他に何か意見あるか?」 「あー待てよ。俺が進行役だって」 一が仕切りだした事に何故か納得がいかない様子の晴喜が口を挟んできた。一はいつものように不愉快そうな表情をして晴喜を威嚇する。 「んなことはどうだっていいんだよ!それより何か案を出せよッ!」 そしていつものように晴喜目がけて一の拳が飛ぶ。 「いでっ・・・!何も殴らんでも・・・;」 「うるせぇっ!変なとこばっかこだわんじゃねぇよ!」 「お兄ちゃんもうやめなよ。ユウ君も見てるんだから」 果菜の言葉で一はどうにか怒りを鎮める。今ではもう随分と見慣れた光景だ。結局、晴喜が仕切り直して進行を始めた。
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年03月29日 16:21:16 No.87041 |
| I P:211.121.31.83 |
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「じゃあ改めて他に意見ある人〜」 すると、優が少しだけ手を上げようと動きを見せたのを晴喜は見逃さなかった。晴喜はすぐさま優を指名してやった。 「お、ユウ。何かあるのか?」 優は小さく頷いてから口を開いた。 「冷蔵庫で思い出したんだけど、アレの上に物を置いてると電気代がかかるんだって」 「え、マジで?」 山名家ではキッチンでもテレビが見れるように冷蔵庫の上に小型のテレビを置いていたのだ。 「うん、なんか熱がうまく逃げなくなるとかテレビで言ってた。特にテレビとかを置くのはダメなんだって」 「それ、ウチ最悪じゃねぇかよ」 晴喜を責めるかのような口調で來斗が言った。そのことを読みとったのか晴喜は自然と謝罪した。 「ご、ごめん;」 「あ、そういやテレビって・・・」 ここで一がテレビの節電法を思い出したようで、突然口を出してきた。優の意見で勢いづいたのか、その後は5人で様々な意見を一通り出していった。
「・・・さて、これでだいたいの意見は出たかな」 晴喜が満足げな表情でそんな事を言った。するとそこへ一が口を挟んできた。 「まぁ、節約術の話はこれでいいとしてだ。今度は逆から考えてみようか」 「逆から考える・・・?」 來斗が間の抜けた表情で一の言葉を復唱した。他の3人もいまいちその真意を読みとれていないようだったので、一はその言葉の意味を説明する。 「要するに、俺達がしてることで無駄な事はねぇのかってことだよ」 「あ〜成程、事業仕分けってわけか!」 晴喜が納得した様子でそう言った。 「まぁ、そういうことだ」
「あなたには本当に毛布が必要なんでしょうか?」 晴喜がマイクを持って來斗に言った。すると台所からは、優がそれぞれの名前が書かれた紙とお茶のペットボトルを本人の横に置いていった。 「・・・何でこうなる」 呆れる一をよそに來斗がもう一つのマイクを持って晴喜の問いに答えた。 「必要に決まってんだろ。つーかただでさえ押し入れで寝てんのに俺の扱いひどすぎるだろ。新しい毛布くらい支給してくれたっていいはずだ」 「あなたは以前毛布どころか布団も何も無いところでも平気で寝ていたはずです。そんなあなたに今更新品の毛布は必要ないんじゃないでしょうか」 晴喜の強い口調に声を荒げたのは、來斗ではなく一だった。 「うるせぇよお前らァッ!ホンットうるせぇッ!こんな近い距離でマイク使う必要ねぇだろうがッ!!」 しかし、この一の声を2つのマイクが拾ってしまったことで、結果的には一の声が最も部屋中に響く結果になった。 「・・・お兄ちゃんの声もマイクに入ってきてるんですけど;」 果菜が苦い表情でそう突っ込んだ。それを聞いた一は若干恥じらいの表情を滲ませながら声を抑えて晴喜達に言った。 「・・・とにかくそのマイク電源切れ」 そう言われて晴喜はしぶしぶマイクの電源を切った。 「なんだよ〜、せっかく盛り上げようとしたのに・・・」 「そういう変な発想自体が無駄なんだよ!」 一が激しく突っ込む中、來斗が小声で言葉を漏らした。 「んで、俺の毛布は買ってくんねぇの・・・?」 「それは見送りだ」 さっきまで揉めていたのが嘘のように晴喜と一が息を合わせてそう返した。 「・・・マジかお前ら」
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年03月29日 16:22:51 No.87042 |
| I P:211.121.31.83 |
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「で、あと何か金を使ってる奴はいねぇのか?」 一が訊くと、優は心底おびえた表情で必死に声を絞り出した。 「あ、あの・・・」 「ん、何だ優」 「じ、実は・・・僕の部屋を作る時に色々ハルキに頼んじゃったんだ・・・」 そう証言する優はまるで自分の罪を懺悔しながら被告席に立つ被告人のようだった。 「そうなのか晴喜?」 「ああ、優もなかなか凝った仕事してるんだぜ?」 「つーか一体何を買ったんだよ?」 「う〜ん、まぁ基本的には金具とかダイオードとか、そんなん」 「ダイオード?」 一は自身にとって聞き慣れない言葉に訝った。 「まぁアレだ。電気関連の部品。とにかくユウの部屋はすごいぞ。自動ドアとか作っちゃったからな」 「自動ドアぁ?!」 その言葉を聞いた一達は驚きを隠すことができなかった。知らない間に家に自動ドアができているなどにわかには信じ難い事だ。 「いやぁ〜ユウの器用さにはホントびっくりだぜ」 感心したように晴喜は言ったが、一達は純粋に驚いているだけだった。 「つーか一体どんな部屋にしようとしてんだよ・・・」 確かに優の自由にしていいとは言っていたが。電気機器にまで手を伸ばすとは予想もしていなかった。 「それで、やっぱりちょっとやり過ぎたかなって・・・」 力なくそう言う優は心底反省しているようだった。 「なぁに、気にすんなって」 晴喜は笑いながらそう言った。 「しゃーねぇなぁ・・・その辺はちゃんと予算を決めとこうぜ」 一の言葉に晴喜は何故か嬉しそうな表情を見せた。 「おお、予算か。いよいよ事業仕分けらしくなってきたな」 「とりあえず、優はあとは何をしてぇんだ?」 「う〜んと・・・あとは回線を整理するカバーみたいのを作れるものがあればいいよ」 「お前の部屋は今一体どうなってんだよ・・・まぁいい、じゃあとりあえず今月の予算は千円くらいでいいな?」 一がそう言うと、優はこくりと頷いた。しかし晴喜は半ばからかうように口を挟んできた。 「うわっ、ハジメケチだな〜」 「うっせぇ!もともと節約しろっつってんだろーがよ!」 「まぁまぁ、今日はこれくらいでいいんじゃないの?だいぶやること出てきたし・・・」 果菜が一をなだめると、晴喜は一気に発言力を高める。 「そうそう、まずはさっき出た意見を実行するのが先だ」 「・・・ったく、調子に乗りやがって」 呆れて身体の力を抜く一をよそに、晴喜は勢いよく立ちあがった。 「よし、んじゃ今度は作業タイムといくか」 こうして、晴喜の合図により山名家節約作戦は実行に移されたのであった。
「なぁ、俺の毛布買ってくんねぇの・・・?」←來斗 「・・・しつけぇなお前は!」←一
続く
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年04月07日 20:05:43 No.87043 |
| I P:61.116.138.88 |
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第13日 BAD DAY
木魚のリズムに合わせて、僧侶のお経が聞こえてくる。その僧侶の目の前には、何と晴喜の写真が飾られていた。一達もこの葬式に参列しており、皆一様に哀しげな表情を浮かべている。 チーン、という鈴の音を合図にするかのように、僧侶のお経に重ねて女性のアナウンスが聞こえてきた。 「故山名晴喜様。心よりご冥福をお祈りいたしま・・・」 「なぁぁぁぁぁああああああああああ!!」 その瞬間晴喜の目の前に広がった世界は、いつも通りの彼の寝室だった。ただ、目の前には來斗が正座で座っていて、仏壇から持ってきたのか彼の手元には鈴が置かれ、そこからチーン、という独特の金属音が響いていた。 成程、さっきの不吉極まりない夢はそれが原因らしい。 「よぉ、やっと起きたか」 來斗は何の嫌味もない表情でそう言ってきた。未だに鈴の高音がうっすらと伸びるように響いている。 「いやっ、ってか・・・何やってんの!?どっから持ってきたんだよそれ!?」 「お前が珍しく起きんの遅ぇからさ、目覚ましにいいかと思ってよ」 「どんな目の覚まし方!?っつーか逆に永久に眠らすつもりじゃなかった・・・?!」 「んなことねぇさ。実際これで起きたじゃねぇか。それよりもうすぐバイトの時間だぞ」 「うわっ、マジか!」 來斗の起こし方は一旦頭の隅に置き、晴喜は布団から勢いよく飛び出した。
リビングに入ると、そこには一がテーブル脇に座ってテレビを眺めていた。見ると、そこにはニュース番組の星座占いコーナーが流れている。 「残念!最下位はおひつじ座の方です。何をやってもうまくいかない一日。今日は外出は控えた方がいいかも」 それを聞いた晴喜はげんなりした気分になった。彼がまさにおひつじ座だったからだ。 「・・・え〜、俺おひつじ座なんだけど;嫌なタイミングで来ちゃったな」 「たかが占いだろ?んなもん気にしてどうする」 初めて一の言葉に救われたような気がする。確かに、朝のニュース番組での占いを気にかけても仕方がない。だが、後に晴喜に様々な不幸が待ち構えている事を彼はまだ知らなかった。
「じゃ、いってくるわ」 朝食を素早く食べて身支度を整えると、晴喜は早速バイトに向かうため家を出た。急げば間に合うが、決して余裕とは言えない時間だ。來斗が起こしてくれなかったら本当に遅刻していたかもしれない。 町へ降りると、目の前には近所のごみ置き場が目に入った。カラスを阻むための網がごみ袋の上にかけられていたのだが、その役目は全く果たせておらず、網目の隙間からつつかれて結局ごみ袋の中身が辺りに散乱していた。 晴喜はそんな道路を若干忌々しく思いながらも、勢いよく駆け抜けようと走っていた。すると、晴喜は突然何かを踏みつけたのを感じた。恐らくはごみ袋の中から飛び出した、バナナの皮だ。 (何〜〜〜〜〜ッ?!) なかなかのスピードで走っていた晴喜はバナナの皮で思い切り体勢を崩し、頭部をコンクリートの地面にしたたかに打ちつけてしまった。しかも、打ち所が悪かったのか晴喜の意識はその瞬間になくなってしまった。 当然のことながら、その時転んでいる晴喜に1人の男が近寄ってきていることには気付かなかった。しかし、その男が晴喜のポケットから財布を抜き取った瞬間には何とか意識を取り戻した。 ゆっくり顔を上げてみると、晴喜の財布の中身を確認している男と目が合った。 「あ」 「・・・・・・」
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年04月07日 20:10:01 No.87044 |
| I P:61.116.138.88 |
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状況を察したのは男の方が先だった。男はしゃがみ込んだ体勢から一気に後ろへ振り替えると同時に駆けだした。2秒ほど遅れて晴喜が声を張り上げる。 「・・・お、おい!何やってんだよ!!」 晴喜も急いで立ち上がり、財布を持った男を追いかける。足の速さには自信があったが、男の素早さもなかなかのものだった。男は白いコンクリート製のビルの中に逃げ込んだ。 (ハッ、焦って建物の中に逃げ込んだが最後だ。逃げ場はないぜ!) そう思ってビルの扉を開けると、そこには強面の男達がサングラス越しにこちらを睨んでいた。晴喜が入りこんだのは暴力団事務所だったのだ。 (・・・え、ぇぇぇえええええ!!?;) 「ウチに何か用か?」 どっしりと黒い革のチェアに座りこむこの集団のボスらしき男が低い声でそう言ってきた。すると、先程の財布を奪った男がボスの男に話しかけた。 「こいつが俺の金を奪おうと襲ってきたんですぜアニキ」 「何だと?」 「(い、いやいやいやいやいやいやいや・・・嫌ぁぁぁあああ!!)いや違っ・・・それは俺の金・・・;」 「何か文句あんのか?」 貫禄充分のボスの睨みは一以上の威圧感だ。 「・・・い、いえ、滅相もございません・・・大変失礼いたしました〜;」 「待てや」 速やかに退室しようとしたところをその一言でものの見事に止められた。 「ウチの舎弟に手ェ出して、何もないと思うか?」 「そ、そこをなんとか〜;」 「ならんな」 「・・・やっぱり;」 「やれ」 ボスがそう言った瞬間、周りにいた舎弟達が一気に晴喜に近寄ってきた。晴喜は慌ててドアを開け舎弟達から逃げ出した。一気に形勢逆転された晴喜はさっきよりも必死に走る。 「ひぇぇぇぇぇええええええええええ!!;」
3分後、晴喜は町中の一角で膝に手をついて息を切らしていた。 「ハァ・・・ハァ・・・何とか・・・逃げ切った・・・!」 暴力団の男達の執念は予想以上のものだった。何度振り切ったように見えても油断しているとすぐに再び姿を現したのだ。もしかしたら、今もまだ晴喜を探し町中を彷徨っているかもしれない。 それに、問題はもう一つある。このままではもうバイトには時間通りに間に合わない。晴喜は下手に急ぐより遅刻する事を正直に長田に連絡した方が得策だと考えた。おもむろにポケットから携帯電話を取り出す。 そして長田に電話をかけようとした時、何やら背後の建物から仰々しい悲鳴が聞こえてきた。何事かと思い振り返った先にあったのは、銀行だった。銀行での悲鳴と言えば、銀行強盗だ。 すると、銀行の扉からマスクに帽子といったいかにも犯人らしき人物が勢いよくこちらに走ってきた。不慣れな手つきで紙幣が入った袋を抱え、かなり焦っている様子だった。その素振りから察するに、あまり計画的な強盗ではなかったはずだ。 よほど冷静さを失っているのか、犯人はそこに晴喜が立っていることにすら気付かずに正面から晴喜と衝突してしまった。 「いでっ・・・!!」 2人は地面に倒れこみ、そのはずみで犯人の帽子や袋が晴喜の足元へと落ちた。それを見た犯人は、ハッとした表情を見せたかと思うと、何故か自分の頬につけていた何かを晴喜の頬に張り付けて一目散に逃げていった。 「あっ、ちょっと待て・・・」
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年04月07日 20:11:40 No.87045 |
| I P:61.116.138.88 |
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晴喜の言葉はパトカーのけたたましいサイレン音でかき消された。まるで晴喜を取り囲むかのようにパトカーが次々と銀行前に止まっていく。休む間もなくパトカーのドアが開き、警官が勢いよく飛び出してくる。 結論から言うと、どうやら「まるで」ではなく本当に晴喜を取り囲んでいたらしい。警官は何の躊躇もなく晴喜の身体を力強く抑えつけた。 「えっ、ちょっ・・・えっ・・・?!;」 困惑する晴喜をよそに警官は手錠を慣れた手つきで晴喜の腕に素早く掛ける。どこかのテレビ番組で見たことがある光景だ。 「午前7時53分現在、窃盗罪により現行犯逮捕」 (ハァァァァアアアアアア?!) 「ほら、来い」 警官の力はなかなかのもので、ぐいと引っ張ると晴喜はそのままパトカーの中へ吸い込まれるように入れられてしまった。抵抗も弁解もできないまま、パトカーは恐ろしいほど手際よく走りだす。 (え、えぇぇぇええええええ・・・?!)
晴喜は警官に連れられて警察署の取調室に入っていった。中はスタンド電気が置かれた机とパイプ椅子しかなく、かなり殺風景だ。小さな窓が壁に1つあったが、そこから陽の光はあまり入ってきていなかった。 (・・・・・・やばい!これはやばい!もう遅刻とかそういうレベルじゃなくなってる・・・!;) ふいに朝見た星座占いのことを思い出した。こんなことなら占い通りにじっとしていればよかった、と心の底から後悔した。少なくとも、家から出なければ警察に逮捕されるということはなかったはずだ。 しかし、後悔というのはした時には既に遅いものである。警官はパイプ椅子に座って晴喜に命令するように言った。 「そこに座って。話を聞かせてもらおう」 晴喜は警官と向かい合った椅子に腰かけながら、気付かれないように軽く深呼吸をした。これは晴喜に与えられた誤解を解く最初で最後のチャンスだ。間違っても失敗するわけにはいかない。 晴喜は口を大きく開いて訴えかけるように警官に話し始めた。 「俺は銀行強盗なんてやってません。たまたま出てきた犯人に金を押しつけられたんです・・・!」 「銀行員の話では、その犯人は顔にビニールテープを張り付けていたそうだが・・・たまたまお前も付けてたのか?」 「・・・え?」 そう言われて晴喜は、自分の頬にそのビニールテープが張り付けられていた事に気がついた。犯人とぶつかったあの時に付けられたのだ。 「そんなの、剥がして俺に付ければ簡単じゃないですか・・・!」 「確かにな。まぁ、真犯人がいたとしても、そいつが捕まるまでは釈放するわけにはいかないな。念のためだ」 「そんな・・・」 「じゃあ、その真犯人の恰好を覚えているか?真犯人が捕まればお前はめでたく釈放だ」 成程、希望の光が見えてきた。真犯人の身なりならしっかり覚えている。ここぞとばかりに晴喜は口を開く。
続く
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年04月22日 18:05:17 No.87046 |
| I P:211.121.31.137 |
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第14日 犯人捜索の日
犯人の服装は深緑のダウンジャケットに紺色のジーパンを着ていたはずだ。さらに晴喜は犯人とぶつかった時に帽子が取れた状態の犯人の顔を見いている。混乱していた銀行員よりは遥かに有力な情報である事は間違いない。 これなら、うまくいけば今日中に真犯人が捕まるだろうと晴喜は高をくくっていた。ところが、この日は何をやってもうまくいかない日である事をすっかり忘れていた。結局、真犯人が捕まらないまま一日が終わってしまったのだ。 そんなわけで、事件から一夜明けた今になっても晴喜は取調室で警官と向かい合っていた。 「も〜、何やってんですか。ちゃんと捜索してくださいよ」 「してるさ。だが情報がイマイチ決め手に欠けるんだよな。ぶっちゃけ銀行員の方はビニールテープに気をとられていてあてにならない」 銀行員は取り調べの際、自信満々に「犯人は頬に黒いビニールテープを付けていた」と言ったらしい。そんなものは出た時に剥がしてしまえば分からないのだが、目立つ物を見るとそればかり覚えているそうだ。 犯人はこのために頬にビニールテープを付けていたのかもしれない。こうなると晴喜の情報が頼みの綱になるのだが、一日経ってしまえば服装が変わっていてもおかしくない。事態は思っていたよりも深刻だ。 すると、取調室に一人の警官が入ってきて、晴喜の取り調べをしていた警官に話しかけた。 「失礼します。山名晴喜に面会の希望がきています」 「そうか。じゃあ行くぞ」 そう言って警官の男は晴喜を面会室へと連れ出す。
面会室へ着くと、警官は抑揚のない声で説明を始めた。 「あの扉を開ければ面会者がいる。面会の時間は30分間。それ以上の面会は規則で禁じられている」 何かを読み上げるかのような感情のこもっていない口調から、こういう時のマニュアルでもあるのかもしれない。 「さぁ、行ってこい」 そう言われると、晴喜は目の前の扉を開けた。面会室は三畳ほどの小部屋で、仕切りである透明なアクリル板の向こうにいたのは、なんと一だった。 「ハジメッ!?」 「・・・お前、全然帰ってこないと思ったらこんなとこで何やってんだよ」 「昨日はめちゃくちゃツイてなかったんだよ。まさか銀行強盗に巻き込まれるとは思わなかった・・・」 晴喜はそう言ってから椅子に座り、昨日の出来事を簡単に説明した。 「・・・それで、真犯人が捕まらないと俺の疑いが晴れないんだよ」 晴喜の話を聞いた一は驚き呆れた表情をしながら言った。 「マジかよお前。ふざけんなよ」 「いや俺はふざけてないんだけど・・・;」 すると晴喜はあることを思い出した。そういえば、他の皆はこのことに気付いていないんだろうか。 「・・・あ、そういえば、皆は?」 「あいつらは外にいる。1人しか面会できないらしいからな。俺が代表で来たんだよ」 「そうなのか」 「で、これからどうするつもりなんだよ?」 「どうするもこうするも警察に真犯人を捕まえてもらうしか・・・」 実際、暫定的とはいえ捕まっている身の晴喜に出来る事はあまりなかった。が、一に言われて少し考えてみると、ひとつ自分にできる事が浮かんできた。 「・・・あ、そうだ、犯人の似顔絵でも描かせてもらおうかな。俺は絵心にも自信があんだよ。まぁ、出来るだけ情報を伝えるさ」 「・・・とにかく、犯人が捕まりゃいいんだな?」
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年04月22日 18:06:39 No.87047 |
| I P:211.121.31.137 |
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それから約10分後、面会は終了した。警官からは30分間と聞いていたが、実際には15分程度だったと思う。面会を終えた一は施設から出て外で待っていた果菜達のもとに向かった。 「あ、お兄ちゃん、どうだった・・・?」 果菜が不安そうな表情でそう言ってきた。 「とりあえず、晴喜は事件に巻き込まれただけみたいだ。その辺は心配すんな」 「そう・・・」 それを聞いて果菜も少しは安心したようだ。一はさらに続ける。 「で、晴喜をあそこから出すのに手っ取り早い方法がある」 「お、何だ?」 來斗が訊くと一は意を決したような表情で口を開いた。 「真犯人を捕まえる」 「・・・えぇっ?!」 一にしてはかなりの思い切った発言に3人は意表を突かれた。 「お兄ちゃん・・・それ、本気で言ってるの?」 「大丈夫だ。ちゃんとあてはある」
それは晴喜と面会をしている時のことだった。一の真犯人を捕らえる発言には晴喜も驚いたが、その時に晴喜は一にある事を伝えていた。 「これは警察に言おうかと思ってたけど、ハジメがその気ならハジメにも言っておくよ。真犯人を探すんなら、この町の競馬場にでも行ってみたらいいかもな」 「競馬場?」 晴喜達の住む平盆町の郊外には、競馬場が1つ存在している。場内にはちょっとした売店がいくつか並んでいるそれなりに大きな競馬場だ。 「ああ、犯人は恐らく、競馬で金を使い込み過ぎて強盗する羽目になったんだろうなぁ・・・」 「何でそんなこと言えんだよ・・・?」 「犯人がしてた帽子。アレ、この町の競馬場で限定発売されてた奴だよ。サラブレットだか何だか知らないけど、馬のシルエットが入ってる奴だ。それ見た時センス的にどうなんだろうな〜とか思ったから間違いないと思う」 晴喜の言葉を聞いてその帽子のデザインを想像してみようとしたが、一は失敗する。それにしても、何故晴喜がその帽子を知っているのだろうか。地味に気になる。 「とにかくあの帽子は相当な競馬ファンでないとなかなか買わない代物だ。かなりの頻度で競馬場に来てそうな気がする」 気がする、と言った割には晴喜の表情には自信が満ち溢れている。彼の体中にある自信という自信が顔に集まってきているようにも思えた。 「で、その競馬場に犯人がいたとしてどうやって判断すりゃいいんだよ?」 「う〜んと・・・お巡りさん、ちょっとそれ貸してくれないかな?」 晴喜は隣で2人の会話をメモしていた警官にそう言いだした。言われた警官はあからさまに顔を渋めた。 「いや、そんなことをしていいなんて言ってな・・・」 「いーじゃんいーじゃん。堅いこと言わずに」 晴喜はそう言って無理やり警官のペンを手に取り、メモ帳に素早く絵を描き始めた。ペンを取り返そうとする警官を避けながら器用にメモ帳に絵を描いていく。アクリル板越しに見えるその様子はまるでコントのワンシーンのようだ。 そして、1分もしないうちに晴喜は犯人の似顔絵を描き終えてしまった。彼はそれを一に向かって見せる。アクリル板に紙を貼り付けようとしているようにも見える。 「こんな感じだ」 見てみると、とてもあの短時間で荒々しく描いていたとは思えない絵が一の目に飛び込んできた。髪型や輪郭は勿論、ひとつひとつの顔のパーツも細かく描かれており、右の頬にはほくろらしきものがあることまで再現されていた。 (こいつ絵ぇうまッ・・・!;)
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年04月22日 18:10:03 No.87048 |
| I P:211.121.31.137 |
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そんなわけで、一達は町の競馬場に足を運んだ。この日は平日であるはずだが、競馬場には多くの人で賑わっていた。世の中には、時間を持て余した人間が意外と多くいるということだ。 「うわ・・・結構人多いな。こんなんで犯人なんか見つかんのかよ?」 來斗が緊張感のない声で言った。すると一は無視とも返事ともつかない言葉でこの場を仕切り始めた。 「とにかく、まずは二手に分かれて探すか。俺と來斗は右回りを探すからカナと優は反対側を探ってくれ。それっぽい奴を見つけたら俺に連絡しろ」 「分かった」 3人が頷くと一達は早速犯人の捜索を始めた。一はまず、東側の観客席を見渡す。ちょうどこの時から競馬のレースが開始されたので、観客席にはかなり多くの客が集まっていた。 5分程度客席を探しまわってみたが、やはりそう簡単に犯人が見つかるわけではなかった。それどころか、一緒に探していたはずの來斗までも見失ってしまった。 「くそ・・・何でアイツまで探す羽目になんだよ・・・」 すると、客席の中に一の目に留まるものがあった。なんと來斗が客に交じって競馬を観戦していたのだ。一は背後から來斗の頭を小突く。 「何してんだお前は!ちゃんと探せ!」 「それよりも朗報だ。今のレースで2万円の儲けが出たぞ」 「つーか何勝手に馬券買ってんだよ!?いい加減にしろッ!」 するとその時、一の携帯電話が鳴り響いた。果菜からの電話だ。 「カナか。見つかったのか?」 「うん、お兄ちゃんが言ってた特徴は一通り合ってるよ。とりあえず急いでこっちに来て」 「あぁ、分かった」 一はそう言って電話を切ると、來斗を連れて果菜達のもとへ向かった。そこにいたのは、まさに晴喜が描いた似顔絵通りの顔をした男だった。先程のレースの予想が外れたのか、どこかやりきれない表情をしている。 「どう?お兄ちゃん」 「間違いねぇな。アイツだ・・・!」 一はそう言うとその男に歩み寄り、思い切って話しかけた。 「おい・・・!」 一の声に振り返った男は、彼を見て驚きの表情を見せた。が、一はそのことを気にも留めず一方的に詰め寄った。 「お前、昨日銀行襲った奴だろ?」 それを聞いた男は、浮かない顔をさらに真っ青にして叫び声を上げそうな気配まで見せた。そうかと思うと、男は急に席を飛び出して無心で一から逃げ出してしまった。
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年04月22日 18:11:27 No.87049 |
| I P:211.121.31.137 |
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「バカだなアイツ・・・しらを切った方がまだ逃げられたろうに」 一はそう呟きながら男を追う。男との距離は面白いようにあっという間に縮まり、ついには男の腕をがっしり掴んでしまった。 「うわっ・・・!」 男は捕まってもなお逃げようと力を緩めない。 「ったく面倒くせぇな・・・來斗」 「はいよ」 來斗はそう答えると、男の手先を素早く触った。次の瞬間、男の身体に激しい静電気が走りまわる。最早立派な電撃と呼べる衝撃に男は力なく倒れ込み、痙攣を起こしてしまった。 「・・・これはちょっとやりすぎなんじゃないの?;」 「いんだよ。さぁ、さっさと警察に突き出すぞ」
「お〜〜〜〜!会いたかったよみんな〜〜〜っ!」 結局、一達が捕まえた男が真犯人であると確定したのは昼を過ぎた頃で、晴喜が釈放されたのはそのさらに数十分後だった。 「ったく、面倒くせぇ事に巻き込まれてんじゃねぇよ」 一が素っ気なくそう言ったが、晴喜は気にしない。 「本当に良かった。一時はどうなるかと思いましたよ」 果菜は心底晴喜の復帰を喜んでいるようだった。優も口には出さないがほっとした表情を見せた。 「もう待ちくたびれたよ。さっさと帰ろうぜ」 不意に來斗がそんなことを言い出した。こちらは素っ気ないというよりはだだをこねる子供のようだった。 「そうだな。帰ろう」 事実、最も家に帰りたいと思っていたのは晴喜に違いなかった。5人は自宅に向かって歩き始める。1日家を空けただけで、もう随分家に帰るのが久しぶりのような気がする。5人揃っての帰り道は、楽しくて仕方がなかった。
続く
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年08月13日 14:43:02 No.87050 |
| I P:211.121.31.162 |
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第15日 給料日(前編)
ついにこの日がやってきた。山名家の命運を分ける日と言っても過言ではない。すなわち彼らの唯一の収入であるバイト先の給料日である。今日は一達の共同生活が始まってから初めての給料日とあって、バイトをしている3人はやけに神妙な表情をしていた。 「おい、分かってるか?」 一が晴喜や來斗を睨むように見つめながら言いだした。晴喜もいつになくシリアスな表情をしながら返事をした。 「ああ、勿論さ。今日こそが本当の勝負どころだ」 晴喜の話では、彼らの勤める『日蔭』では店長の一存によって報酬の値が如何様にも変化するというから驚きだ。今回初めて給料をもらうことになる一は、そんなことが本当にあり得るのだろうか、と未だに疑っていた。 「まずは、出勤がてら打ち合わせだ。俺が給料をかさ増しできる極意を叩きこんでやる」 玄関で晴喜が靴をはきながらそんなことを言ってきた。來斗が興味津々といった様子で聞き返す。 「ほぅ、何だ?」 「まずは扉を開けてからの爽やかな挨拶!これでロケットスタートを決めるんだ。できるだけ笑顔でな。それ以降も爽やかな笑顔は絶やしちゃダメだ。これは基本な」 それを聞いた來斗は感心したような表情でつぶやく。 「成程、ロケットスタートねぇ・・・」 「一番どうでもいいワードにひっかかってるぞこいつ;」 「そして仕事中一切のミスは許されない。仮にミスしたとしても焦らず誠意をもって全力で謝れ。とにかく仕事には全神経を集中させるんだ。でも笑顔は忘れんなよ。特にハジメ」 「うるせぇよッ!余計なお世話だ!」 「まぁ今のは給料を上げるってよりむしろ給料を下げられないための基本中の基本だ。こっからが技術的な部分が要求されてくるところだ」 晴喜はそう言うと、素早く片膝を地面について右手をメガホン代わりに口元に当てながら大声で叫んだ。 「いよっ、さすが店長ッ!日本一〜〜〜!」 突然の行動に呆気にとられる一達をよそに、晴喜は真顔に戻って彼らに振り向いた。 「今のを店長がメニューを出した時にするんだ」 「・・・・・・」 「ちょっ、本気かお前・・・!」 一は予想以下の晴喜の作戦に呆れ果てると同時に、今のを自分がやる破目になるということに妙な恐怖を感じていた。 「あったりまえだろ。事実俺はこれで何度も窮地を乗り越えてきたんだ」 「んなことで本当に給料なんて上がんのかよ?わざとらしすぎるだろ」 「大丈夫だ。この俺が言うんだから間違いない。さぁ、早速声だし練習いくぞ!」
そうしていつもより少しだけ時間をかけて、3人はバイト先である店まで辿り着いた。 「さぁ、こっからは一切気を抜くなよ?じゃ、いくぞ・・・」 そう言って晴喜は店の扉を丁寧に開ける。 「おっはよーございまーっす!」 晴喜が高らかに声を上げる。そして、その声に反応してカウンターの奥から店長である長田がやってきた。その表情は決して穏やかではない。 「おい、店長なんか機嫌悪そうだぞ・・・大丈夫か?」 そう一が晴喜に耳打ちをしてきた。 「落ち着け、挨拶だ。まずは挨拶で店長の機嫌を取り戻すんだッ!」 「おいお前ら・・・今日は開店の準備をする前に一つ聞いてほしい事がある・・・」 長田が威圧的な声でそう言ってきた。あまりの迫力ある表情に、晴喜達は自分達が何か失態を犯したのではないかと急激に不安に襲われた。辛うじて晴喜が口を開く。 「あの・・・何かあったんでしょうか・・・?」
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年08月13日 14:45:43 No.87051 |
| I P:211.121.31.162 |
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「・・・来い」 呪文のような長田の言葉に操られるかのように、晴喜達は長田のもとに近づく。長田はカウンターの方へと歩いていき、その床を見下ろして口を開いた。 「見ろ」 長田の言葉にぐいと引っ張られるかのように3人が床を覗くと、そこには割れたガラス瓶が散らばっており、その間を埋めるように液体が床に染みた跡が残っていた。どうみてもカウンターに置いてあった酒瓶が落ちて割れたようにしか見えない。 「・・・あの、これは」 「見りゃわかんだろ。ただしこいつはただの酒じゃねぇ。俺が店じまいの後に飲もうと思っていた一級品だ」 長田の言葉を聞いた瞬間、晴喜は悟った。 (・・・さ、最悪だぁぁぁあああ!!最悪のスタートを切ってしまったぁぁぁあああ!!) 「俺が店を閉めた時にはちゃんと棚に置いてあったんだ。そして奥の部屋で片付けをして戻ったらこの様だ」 長田はつまり、昨日の閉店時間にいたこの中の誰かの仕業である、ということを言わんとしている。それを瞬時に読みとった晴喜は小声で2人に問う。 「・・・オイ、誰だよこれやったの・・・俺昨日は昼番だったぞ・・・!」 そう、昨日の割り当てでは昼間では晴喜、夕方以降は一と來斗が仕事に当たっていた。 「俺はしらねぇぞ・・・落としたのはこいつだからな」 一はそう言って來斗を見つめた。 「ってもろに知ってんじゃねぇかよっ!一体どういうことだ!?」 晴喜の問いに來斗は動じる様子も見せずに答えた。 「いやぁ、俺だってさすがにあんなもんには手は出せねぇよ?ただ別のを頂こうとした時に肘がぶつかってだな・・・」 「つーか酒飲もうとしてたのかよ!?それがバレるだけでもヤバいというのに・・・;」 「ほぅ、どうりで酒の減りが早いと思ったらそうか・・・全てはお前の仕業だったか」 一連のやり取りは長田にも聞こえていたらしい。3人の背後から心臓を突き刺すかのような鋭い声が響いてきた。 (まずいっ・・・!もうこれどうやって収拾つければいいんだよ?!) さすがの晴喜でもこの状況から彼の機嫌を取り持つのは至難の業だ。晴喜は必死に頭を回転させようとするが、ますます混乱していくばかりである。 「と、とりあえずもうすぐ開店時間ですから・・・この事は一旦忘れて準備しましょうよ・・・!」 苦し紛れに晴喜がそう言った。すると長田は少し黙ってから静かに口を開いた。 「・・・チッ、しゃーねぇ。それもそうだな」 こうして3人は極度に緊迫した状況下で準備を進めた。
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年08月13日 14:47:37 No.87052 |
| I P:211.121.31.162 |
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準備も終わり、いよいよ開店の時間だ。晴喜の機転によってどうにか状況は沈静化したが、それは長田の暴走を先延ばしにしたにすぎず、根本的な解決とは言えなかった。このままでは給料を上げるどころか、予想もつかない制裁を喰らってしまいかねない。 晴喜は意を決して長田に話を切りだした。 「あの、店長。客もいないんでちょっと買い出しにでも行ってきましょうか?」 「・・・あぁ、そうだな。調度材料が少なくなってきているのがあることだし・・・行ってこい」 長田は晴喜達に買いにいく物を伝えると、必要なお金を渡してきた。晴喜がそれを受け取ると、3人は逃げ出すように素早く店を飛び出した。 「・・・ふぅ、とりあえずあの場からは脱したか」 來斗が呑気にそう言うと、2人は深いため息ついた。その後で、晴喜が気を引きしめながら口を開く。 「別にその場しのぎであの店を出てきたわけじゃないさ。あのままじゃ酒を自腹で買わされる上に給料までもらえない可能性がある。ならばこっちから先手を打つ」 「先手を打つ、ねぇ・・・で、どうするつもりなんだよ?」 一は相変わらず晴喜の言葉に半信半疑といった様子だ。 「俺達の金をありったけ出し合って、アレ以上の酒を買うんだ。そうすれば店長の機嫌を直せるかもしれない」 「本気で言ってんのかよ・・・?もしそれで機嫌が直らなかったら・・・」 「分かってる。でも、ここで何もしなければ俺達の生活費が手に入らない。それなら自腹を切ってでも給料を底上げしなきゃだめなんだ・・・」 一はしばらく考えてから口を開いた。 「・・・ったく、しゃーねぇな。これで失敗したらただじゃ済まさねぇからな」 「俺もその作戦乗ったぜ」 來斗も一に続いてそう言ったが、それに対して一が噛みつくように言い返した。 「つーか、お前が全ての元凶だろうが!お前の有り金だけでもいいくらいだ」 「まぁ落ち着けよ。どうせそれだけじゃ足りやしないんだから。それより、早いとこ酒屋に行こうぜ。それから店長に頼まれたもんもちゃんと買わないと」 晴喜がそう言うと、2人は頷いて歩みを速めた。
晴喜達が辿り着いたのは、日蔭に負けず劣らずの場末感漂う酒屋だった。 「・・・ここで買うのか?お前の知ってる店はこういうとこばっかだな」 一が皮肉交じりに晴喜にそう言った。 「ここには店長の好きな酒がたくさん売ってるんだよ。さぁ、とりあえず今の俺達の所持金合わせようぜ」 晴喜がそう言うと、3人は各々の財布を出して所持金を確認する。その結果、全員分を合わせて7,285円あることが判明した。 「・・・うわ、結構ギリギリかも」 晴喜が少々不安げにそう漏らすと、2人は晴喜を励ますように言った。 「けどこれで何とかするしかねぇだろ」 「そこはお前の交渉術に期待してるぜ」 「・・・むぅ、しゃーない。このハルキ様の高等交渉術をよく見とけッ!」 晴喜はそう言うと、怪しげな雰囲気を放つ酒屋の中へと勇ましく入っていくのであった。
「高等交渉術・・・何か早口言葉みたいだな。ハジメ言えるか?」←來斗 「高等交渉術、高等交渉術、高等交渉術(ドヤッ)」←一
後編へ続く
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年08月16日 21:24:01 No.87053 |
| I P:219.66.4.54 |
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第16日 給料日(後編)
一達がしばらく酒屋の晴喜の帰りを待っていると、晴喜がこれ以上なく誇らしげな表情で酒瓶を持ちながら店を出てきた。 「おお、そのドヤ顔、かなりの値引きに成功したと見えるな」 來斗がそう言いながら晴喜に近づいた。 「フフフ、おうよ!この怒髪天衝、お値段7,800円のところをなんと4,000円まで値切ってやったぜ!」 「マジかよ、ほとんど半額じゃねぇか・・・!一体どうやってそんなに値切ったんだ?」 一の言葉を聞くと、晴喜はよくぞ聞いてくれましたとばかりに緩みきった表情を更に緩ませた。 「おお、聞きたいか?聞きたいかハジメよ」 「・・・いや、やっぱやめとくわ。さっさと行くぞ」 「いや、あの・・・聞いてくださいお願いします;」 「・・・何だよ?」 「まず、もう最初にこっちから無理な金額を言っちゃうのさ。んでまぁそれは当然無理って言われるんだけど、そこから少しずつ値段を上げていって少しでも考えるそぶりを見せたらゴリ押しって感じだな」 「へぇ・・・」 思った以上にまともなことを言ってきたので、2人は思わずそんな声が出た。 「なんだ割とまともだな。俺はてっきり床に寝転がってジタバタしてんのかとばっかり・・・」 來斗がそう言うと、晴喜はあっさり笑いながら答えた。 「あぁ、それもやったね。そして泣きながら俺達の哀しい物語を語ってようやくこの値段で説得したのさ・・・!」 (あ・・・やっぱ想像以上だったコイツ;) その後も、買い物の道中では酒屋内での晴喜の武勇伝を長々と聞かされた。
さて、長田に頼まれた食材と、"怒髪天衝"なる酒瓶を携えて再び日蔭の前に戻ってきた3人は、そこでいったん立ち止まり、深呼吸をしてから晴喜が静かに言い出した。 「よし、いくぞ・・・!」 そして、扉を勢いよく開けると同時に晴喜は高らかなトーンで声を出した。 「店長ー!店で偶然良いものが手に入りましたよーッ!」 「何だよいきなり」 「これを見てください・・・!」 晴喜はそう言っていぶかしげな表情の長田に向かって怒髪天衝の酒を掲げるようにして見せた。すると、それを見た瞬間長田は目の色を変えて声を出した。 「・・・おおっ!それは・・・俺が最も愛する超貴重酒・・・!こんなもんを一月で2つも見つけてくるとは、でかしたなぁお前!」 つい先程までの堅い表情はどこへやら、長田は瞬く間に機嫌を直し、それどころか晴喜の肩に手を掛けて高らかに笑う程にまでなった。 「おぶっ・・・ちょっ、店長力強す・・・;いや、それより、これを見つけたのは僕ではないんですよ・・・!」 「・・・どういうことだ?」 「これを見つけ出したのはライトですッ・・・!」 晴喜は來斗に向けて微笑みながらそう言った。 (ハ、ハルキーーーーーー!!) 來斗は、この時初めて心の底から晴喜に感謝していた。 「そうか、ライトが見つけたのか・・・!やるじゃねぇかオイ」 「ハハッ、ありがたき幸せにございますぅ〜」 (何故そこで普通に応えないの・・・?!) 晴喜は内心そんなことを思ったが、すっかり上機嫌になった長田は気にしていなかった。
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年08月16日 21:27:36 No.87054 |
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まだ昼前のせいか、これまで1人も客は来ていたかったが、それでも長田の機嫌は非常によい。これまで数々の修羅場をくぐり抜けてきた晴喜から見ても上々の手ごたえだ。 「予想以上に機嫌がよくなったな。これなら給料は何とか頂けそうだ」 休憩室で一がそう言うと、晴喜が明るい表情で答えた。 「あぁ、だがここで満足しちゃあいけない。ここから更に手柄を立てて店長の機嫌をフルマックスにするんだ。くれぐれもぬかるんじゃないぞ?」 その時、扉の奥から店の入り口が開くことを知らせるベルが清らかに響いてきた。恐らく客がやってきたのだろう。 「おっ、ちょうど客が来たみたいだ。いっちょ稼ぎに行こうぜ」 そう言った晴喜は、素早く休憩室の扉を開けていらっしゃいませー、と高らかに挨拶をした。客はこの時間帯には珍しい大学生くらいの青年が4人だった。青年達は勇敢にも長田の目の前のカウンター席に腰かけた。 4人の客はしばらく雑談らしき話し合いをしながらメニューを選び、長田に注文を頼んでいった。 「店長、俺も作りましょうか?」 「あぁ、頼む」 晴喜は長年この店のアルバイトをしているので、メニューの料理もだいたい作ることが出来る。なかには、晴喜が考案したメニューもあるくらいだ。晴喜は長田の背後で手分けして注文されたメニューを作り出す。 傍から見ていれば、どちらかといえばむしろ晴喜の方が手際がいいように見えた。しばらくすると案の定、晴喜の作っていた料理が先に完成した。晴喜はそれを頼んだ客の前に丁寧に置いた。 少し遅れて長田が残りのメニューを客の前に堂々と置いた。その時、晴喜はすかさず声を上げた。例の作戦である。 「いよっ、さすが店長ッ!日本一〜〜〜!」 突然の出来事に4人の男はしばらく呆気にとられ、数秒後に1人からクスッと笑いが漏れ出してからは4人とも大きな声を上げて笑い出した。この店ではそれほど珍しい光景ではない。 「やめろよハルキ、照れるじゃねぇか〜」 そう言いながらも長田の表情はかなり和らいでいる。効果は抜群だ。4人の男達は笑うのをやめ、ようやく出されたメニューを食べ始める。しばらくそんな様子を眺めていると、入り口から扉が開く事を知らせるベルの音が再び響いた。 新たな客の来店だ。一瞬時計に目をやると、いつの間にか昼時の時間帯になっていた。 (もうこんな時間なのか・・・こっからが勝負所だな) 改めて客を確認してみると、今度は2人組の若いサラリーマン風の男だった。片方の男の立ち振る舞いから、どうやら先輩後輩といった関係らしい。2人は4人の大学生組の奥側のテーブル席に腰かけた。 すかさず晴喜はいらっしゃいませ、と高らかに声を上げ、2人が座ったテーブルに水の入ったグラスを置いた。 「ご注文が決まりましたら、声をおかけください」 そう言い残して店内の定位置に戻ると、案外早く注文が決まったらしく、すぐにすいません、と声をかけてきた。2人が注文したものの中には、晴喜が考案したメニューが含まれており、少しだけ心が弾む。 カウンターに戻って長田とともにそのメニューを作り始めると、どうやら一と來斗がようやく休憩室から出てきたようだった。
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Re:我が家が一番
投稿者:回転撃
投稿日:2011年08月16日 21:29:23 No.87055 |
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「よぅ、そろそろ俺らの出番か」 「つーか、お前マジであれやったのか;」 晴喜の威勢のいい声は当然一達にも聞こえており、一にはそれが驚愕の事態に思われたらしい。一方、來斗の言葉に対しては、長田が答えた。 「あぁ、そうだな。お前達にはレジとオーダー係でもやってもらおうか」 そう言いながら長田がちらりと目をやった方向を見ると、大学生の4人組の客はもうそろそろ全員が料理を食べ終わりそうな様子だった。そして彼らがおもむろに立ち上がると、すかさず來斗がレジに向かった。 「3,380円になりま〜す」 來斗がそう言うと、4人組の男は何やら財布を出し合い相談をし始めた。恐らく輪割り勘しようとしているのだろう。その間、晴喜はメニューを作りながら一に耳打ちで囁いた。 「おい、ハジメもちゃんとアレ、やるんだぞ」 「マジかよ・・・;」 「あの店長の顔を見ろ。給料を上げるためには、これは有効な手段なんだ」 「・・・くっ、仕方ねぇな」 とうとう一が腹をくくると同時に、來斗が会計を済ませてくると、ついにその時がやってきた。長田がメニューを完成させたのだ。3人は一斉に声を出す。 「いよっ、さすが店長ッ!日本一〜〜〜!」 やはり、その声を聞いた2人組の客は目を丸くして素早くこちら側を見つめてきた。その後、微笑を浮かべながら2人で会話を始めた。一方の長田の表情もこれまた緩み始める。 「バッカやろう〜、んなこと言ってねぇでさっさとこいつを運んで来い」 「は〜い」 來斗はそう返事をして長田の作ったメニューを客席の方へ持っていった。と、同時に晴喜の作っていた料理も完成する。 「あ、ライト、ついでにこれも持ってってくれ〜」 長田の料理をたった今渡し終えた來斗に晴喜はそう言った。 「マジか。もうちょっと早く作って欲しかったわ・・・」 「そう言うな。頼んだぞ」 結局來斗は2つの料理を1つずつ往復して運ぶことになったが、今のところ新しい客は入っていないのですぐに暇になった。ここで、晴喜が一達に小さな声で言葉を発した。 「・・・よし、いいペースだ。このままこれを保っていけば、給料は取り戻せる。頑張っていこうぜ」 晴喜の言葉を合図にしていたかのように、入り口の扉が開き新たな客が入ってきた。3人はすかさずいらっしゃいませ、と声を上げる。
さて、数時間にわたるアルバイトもようやく終わりを迎え、とうとう給料を渡される瞬間がやってきた。この店では給料の制度が非常に曖昧なため、店長から直接店員に給料が渡されるのである。 「ふぅ、お前らお疲れさん。そういや今日は給料日だったなぁ」 「よっしゃ、この時を待っていぜ」 一のそんな言葉に長田は笑って答える。 「はっはっは、正直じゃねぇか」 「それで・・・本日の給料はいくらでございましょうか・・・?」 晴喜が神妙な顔つきでそう訊いた。すると、長田は顔を斜め上に向けながら考え込むような表情をした。 「う〜ん・・・どうするかな・・・」 (ホントに今考えてんのかよ・・・!?) 一がそう思う中、案外早く金額が決まったのか長田は給料袋をカウンターから取り出しそこにお金を入れる作業をし始めた。そして、それらを3人にそれぞれ渡した。 「ほらよ」 果たしてそこにはいくらの給料が入っているのか。バイトを終え、店を出た3人はそこですぐさま給料袋を開け中身を確認した。そして、3人は中を見てからお互いにハイタッチをして喜んだ。
続く
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