ノークラ DE オリジナル小説

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投稿できるのは、クラッシュ小説で小説を書いている方のみです。詳しくはこちら
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[109] 化物女 第一話 「言うまでも無く天才」  投稿者:テクノしん  投稿日:2012年01月22日 19:53:40  No.109001 [返信]
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I P:219.165.30.57
この国は、ある科学者の細胞改造の技術により
超長寿大国へと生まれ変わっていた。
最低でも1000歳まで生きられる様になった人間たちは
今、何を思うのか。


ここは天獄高等学校。
今日も校庭から爆音が聞こえる。
改造マフラーを使ったバイクとかそういうレベルではない爆音だ。
だが、それは爆音ではなく足音なのである。
その音の正体は陸上部所属「赤偉 瑠璃(125)」
    ――化物である。――
ちなみにここでのんびりと解説役をしているのは
「青中 脊髄(125)」。瑠璃の幼馴染って奴だ。
にしても瑠璃の走力には毎回驚かされる。
まったく本気で走っていないにも関わらず、
1 0 0 m を 3 秒 フ ラ ッ ト 
してしまうほどの走力を持っているのだから。
あと、これは余談だが瑠璃は小学3年の時一回だけ
全力で走った事がある。その時は俺も驚いたよ。
破裂音が半径500mに及ぶほど伝わり、
体操服はビリビリに破けて、
体中血まみれで、
全身を複雑骨折し、
学校は愚か、町中の建物が一瞬にして瓦礫に化すという
飛んでも無い状況に陥ったんだからな。
……やっぱ才能なのか。
「お前もそう思うのか。」
後ろから女の声が聞こえた
振り向くとそこには、学級会計一級の資格をもつ、
「黄島 三太夫(125)」が俺を見ていた。
こいつは人の心を読む事の出来る奴で、周りからは
読心者と呼ばれている。
「…。今年度の学院会長候補リストが決まった。」
「!」
俺は少し驚いた。学院会長がこんなにも早く決まっただなんて。
いつもは必ず何故か票が同一なため、早くても5か月はかかった。
しかし今年度は一日!たった一日しか経っていなかったから。
「一人目。赤偉 瑠璃(125)だ。」
「なんだとッ!????」
もう訳が分からない。驚愕。まさに驚愕である。
「二人目 紫線 該。(123)」
「三人目 緑乃谷 翼。(134)」
「四人目 黒木 光。(189)」
「五人目 青中 脊髄。(125)だ。」
「…ふーん…………えっ?」
「えっ?じゃねぇよ。お前が候補に入ってる。」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
もう瑠璃が候補になった頑張れー!なんかじゃ済まされない。
まさかの自分が学院委員長候補になるとは。
「とりあえず選別会は明日だ。わくわくしながら朝を待つ事だな。
「ガクブルしながら朝を待ての間違いだろ…」
結局今日は家に帰っても、飯を食って本読んで寝るだけだった。
次の日の朝。俺は普通に朝飯を食って学校へと向かっていった。
「本当に信じられな…」
一瞬。たった一瞬であった。脊髄はわずかな殺気を感じ取っていた。
「誰だ…ッ!?」
誰もいない。というより 人が消えた。
さっきまでいたはずの人達がいないのである。
「何だよこれ…」
困惑している脊髄の隙をついたかの様に、
凶弾が四方八方から襲い掛かってきた。
「ッ!!!!!!」
続く 



化物女 第二話 「何がどうしてでも天才」  投稿者:テクノしん  投稿日:2012年01月26日 19:15:27  No.109002
I P:219.165.30.57
ドドドドドドンッ!
金属の擦れる様な音がすると同時に、
脊髄は俊敏に動き、凶弾を足を使い、蹴り落としたのだ。
「…ッ!なんだよこれ…?」
「うん。 反射神経A。合格ですね。
ただ、貴男には足の力が足りませんね。少し、血が
出てますよ?」
「…痛ッ……!誰だ…!?お前…」
「私は学院会長審査員 庶務部 副会長 白咲シグレ(198)
です。じゃ、具体的に今の状況をご説明させて
もらいますね。」
「お…おい!その前にこの傷をどうに」
「黙レ。」
その一言に俺は謎の威圧感を感じた。
これ以上何も言えない。王の様な威厳を感じた。
「このたび、貴男様は学院会長候補に選ばれました。
そのため、貴男に伝えなくてはならない事があります。

その一 集合場所 今日の夜9時までに天獄学園聖徒会本部
までに来ること。

その二 登校道 この登校道は聖徒会長により修羅の道へと
改悪されている。この道を通る事により、天獄学園へと
辿り着く事が出来る。

その三 何か学園会長側に不正や不祥事があった場合、
聖徒会本部まで連絡する事。

その四 ギブアップする場合、「respawn me!」と叫ぶ事。
ただし、ペナルティとして、前後十年のタイムラグを発生させ、
10年前の朝〜10年後の朝の間に自分がまた再生される様になっている。

「そんな所か。」
「説明ご苦労さん。じゃ死んでくれ。」
脊髄お得意の不意打ちである。思い切り足を上げ、白咲の腹に
蹴りをクリーンヒットさせた。

が。
「…卑怯な真似をするだなんて卑怯ですね」
そこには、平然と立っている白咲が見えた。
「ああ卑怯だよ。だけど白咲さん、あんたの体のタフさも…
そうとう卑怯だ。」
白咲は脊髄に向かい、一秒36連射パンチを繰り出した。
まるで見えない様なパンチを脊髄はただ受け止めるしかなかった。
「私には付加能力があるんです。知ってました?」
「知らないね。」
脊髄は力を振り絞り、トン単位レベルの蹴りを白咲に命中させた。
「…私の付加能力は『王の言ノ葉(キング・トークス)』と
『おまけ付き連射拳銃(サブ・マシンガン)』。
なかなかどうして相性が良い物ですよ?」
「その前に、お前戦う意思はあんのか?」
「勿論無い。ただお前の意思に沿って戦ってやっ」
「あっそ。」
不意打ちそのA。 力をもっとも入れていない瞬間を狙い、
今度は蹴りではなく、膝を使い何度も何度も顔に膝蹴りを食らわした。
「ぐっ…!あぐぁっ…!がっ…!」
そして最後に俺はその顔を見ながら、
もう一度膝蹴り+ラリアットをプレゼントした。
「キミみたいな人は卑怯過ぎて反吐が出ちまうよ。」
そう言い残し脊髄は次の場所へと進んでいった。
現在 AM 7:50 
           続く。



[66] 幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年09月20日 01:06:04  No.66001 [返信]
[本文を見る]
I P:203.181.121.212
車の小説が書きたくて、どうしても書いてしまいました。
レッドゾーンさんの小説とカブってしまいましたが、お許しください。

あらすじ

高校3年の吉田 耕一。幼馴染の大川 櫻と久しぶりに会い、
しぶしぶドライブに連れて行く。そこに謎のZ31が現れる。



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年09月24日 23:00:40  No.66002
I P:203.181.121.212
登場人物紹介

吉田 耕一(ヨシダ コウイチ)18
とある事故により、左腕をなくした男。クラスでも人と全く話すことはしない。車の運転以外では歌が得意で、中学校では、彼がいるクラスは必ず合唱コンクールで優勝していた。関西育ちなので、キレると関西弁になる。
車種はマツダ RX−7 FC−3S

大川 櫻(オオカワ サクラ)18
耕一と同じ学校に通っている、幼馴染の女。合唱部で、歌が好き。
学校の中では、唯一耕一と話せる者である。耕一の走りを見てからは、すっかり走りにとりつかれている。
車種はマツダ RX−7 FD−3S

白田 京(シロタ ケイ)36
Z driversと言うチームのリーダーにして、首都高7人衆の一人。
「C1最速」と恐れられている。
車種は日産 フェアレディZ33

北平 修(キタヒラ シュウ)36
Z driversの副リーダー。数々の車を廃車にしていることから、「殺し屋Z」と恐れられている。
車種は日産 フェアレディZ32

大原 清(オオハラ キヨシ)38
wing driveRsのリーダー。電撃のように鋭いコーナリングから、「狂気の電撃」と呼ばれている。かつて、「首都高最強」の男を殺したらしい。
車種は日産 スカイラインGT−R BNR32

横山 弥彦(ヨコヤマ ヤヒコ)36
wing driveRsの副リーダー。冷静そうな走りを見せるが、チャンスがあれば、相手を事故らせるような荒々しい走りへと変貌する。
車種は日産 スカイラインGT−R BNR32

石田 治(イシダ オサム)37
メンバー全員が何かしら障害を抱えている、白刃というチームのリーダー。事故により、片目を失った男。そのため、プロのドライバーの実力を持ちながらも、プロになることが出来なかった。
車種はマツダ RX−7 FC−3S

原 桐子(ハラ キリコ)25
生まれつきの難聴を持った女性。白刃の副リーダー。優しい性格で、周囲から人気を集めている。
車種はトヨタ 80スープラ



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年09月20日 03:13:15  No.66003
I P:203.181.121.213
鈴木 正義(スズキ マサヨシ)30
ロータリーセブンのリーダー。ロータリーエンジンをこよなく愛する男。
車種はマツダ RX−7 FD−3S

城嶋 文弘(ジョウシマ フミヒロ)26
スバリスターズ、リーダー。ラリーに憧れ、峠で名を上げてきたチームだが、どういうわけか首都高に参戦。
車種はスバル GC8

町田 昇平(マチダ ショウヘイ)27
首都高エボリューション、リーダー。城嶋とは峠時代からのよきライバル。「横羽最強」と呼ばれている。
車種は三菱 ランサーエボリューションW

中原 一志(ナカハラ ヒトシ)20
「ふざけてねーよ」という、ふざけたチームのリーダー。妙にノリがよく、走りもラフな感じ。通称「おふざけ番長」
車種はトヨタ ハイエース

田路 悠木(タジ ユウキ)19
Non Powersと言うチームのリーダー。とにかく地味。持っている車種も地味。通称「地味」という、地味な名で地味にがんばっている。
車種はトヨタ AE86レビン

春川 正(ハルカワ マサシ)28
首都高7人衆の一人。通称「情熱のC1ランナー」
車種はポルシェ911

野ノ平 銀(ノノヒラ ギン)35
首都高7人衆の一人。通称「銅(アカガネ)」
車種は日産 シルビア13

佐々原 銀(ササハラ ギン)35
首都高7人衆の一人。通称「銀(シロガネ)」
車種は日産 シルビア15

浅原 昌一(アサハラ ショウイチ)40
首都高7人衆の一人。通称「無敗の番長」
車種は三菱 ランサーエボリューションZ

山田 安彦(ヤマダ ヤスヒコ)23
首都高7人衆の一人。通称「ベイサイドランナー」
車種は日産 スカイラインGT−R BNR33 



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年09月22日 00:16:45  No.66004
I P:203.181.121.212
マツダ RX−7 FC−3S
通称FC。ロータリーエンジンというエンジンを積んだ、けっこう古い車。馬力はわずかに他の車より劣るが、コーナーで十分巻き返せる戦闘力を持つ。

マツダ RX−7 FD−3S
通称FD。FC−3Sから、更に進化したマシン。同じくロータリーエンジンを積み、馬力、コーナリング性能も上がった。

日産 S30Z
通称Z。相当昔の車。馬力もそれほど無く、C1向けの車。某漫画で主人公の登場車種となったが、ブームは起きなかった。

日産 フェアレディZ32
通称Z32。スタイルなどを含めた、完璧なスポーツカーとして誕生したが、走り屋達から「駄馬」と貶されている・・・

日産 フェアレディZ33
通称Z33。確かコーナーに強かった。wikiにもあまり書かれていないので、大層な事は言えません。

日産 スカイラインGT−R BNR32
通称R32。かの有名なGT−R。とにかく直線に強く、加速ではおそらく最強。

日産 スカイラインGT−R BNR33
通称R33。R32よりも直線での最高速が速い。ただし、その分コーナーでの性能を悪くしてしまったところがある。

日産 スカイラインGT−R BNR34
通称R34。この代で、コーナリング性能を大きく見直し、加速、最高速も損なわない性能にした。この小説の中でたぶん最強。

日産 シルビア13
通称S13。元々はデートカーとして生まれた車。その性能が買われて、今ではすっかり走り屋の車となった。

日産 シルビア15
通称S15。シルビア系の最終形態。6速のミッションなど、さまざまな部分で強化が施されている。

トヨタ 80スープラ
トヨタ車最高。と、作者は思っている。馬力は勿論、空気抵抗も少ないため、今直人気が高い。

トヨタ AE86
某漫画で名を上げた車。ご存知の方も多いと思う。馬力は最低。唯一の利点は軽量。コーナリングに優れている。と言うこと。初心者向けの車として有名。

トヨタ ハイエース
正直言って、速く走るための車ではない。宅急便とかなんかの会社が使ってる、ワンボックスタイプの車。ね・・・。

三菱 ランサーエボリューションW
通称エボW。馬力も十分あるが、なんと言ってもその旋回性。コーナリング重視の車。このタイプはあまり人気ではなかったようだ・・・。

三菱 ランサーエボリューションZ
通称エボZ。馬力を更にアップし、旋回性も磨き上げた。割と大人しそうな外観だが、ボディは以前より格段にがっしりとしている。

スバル インプレッサGC8
通称GC8。作者はメカ音痴なので、メカのことには触れなが、馬力はある。ただし、それに負けてかコーナリング性能がイマイチ。すいません。これしか言えませんでした。

ポルシェ911
かの有名な外車、ポルシェ。エンジンが後ろにあり、加速を担当するタイヤも後ろにあるので、コーナーの脱出速度に特に優れる。

作者のいい加減な説明のため、分からないことだらけだと思います。
wikiで調べた方が良いかもしれません。



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年11月29日 17:57:04  No.66005
I P:203.181.121.211
第0話 全ての始まり

18年前・・・
首都高横羽線・・・

一台の黒い車が火を噴いていた。
ドライバーは投げ出され、そのまま動かない・・・
一番近くに居た車の男がその光景を見て笑っている。

?「ははははははっ!!黒影FC!無様だなぁ!!くははははっ!!」

投げ出された男は左腕を失っていた。血はこれでもかと言うほど流れ、意識は朦朧としていた。

投げ出された男「あのGT−R・・・殺す・・・」

それが男の最期の言葉だった。



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年11月28日 00:09:51  No.66006
I P:203.181.121.213
第一話 スピードという麻薬

六月某日。午後7時。A高校。

俺は部活が終わり、荷物を持って出口へ向かった。

俺「明日は日曜か・・・。また首都高行くか。」

大概の奴は、マックやらモスバーガーやらに寄って帰るらしい。(最近知った。)
俺は特に寄る所も無く、一人中央線に乗って帰ろうとしていた。
俺が普段乗る扉の位置に、数人の女子が集っていた。その中に一人、俺の幼馴染にして唯一心を開ける者が居た。大川 櫻だ。

俺「よ。」
大川「よ。」

はい。会話終わり。他の女子がめんどくさいので、他の扉から乗る事にした。
夜の車窓は、ハッキリ言って殆ど何も見えないので、立ってるにしろ座っているにしろ眠っている。
新宿で乗り換えてまた眠り、気付いたら下車駅。たまに乗り過ごす。

大川「あ、また。」
俺「ん?お前か。なんか用か。」
大川「今日暇だからさ、ゲーセンとか行こうよ。」
俺「他の奴らはどうした。」
大川「用事だって。」
俺「別に良いけど、俺はひとりで勝手にやらせて貰うからな。」

俺達二人には親は居ない。俺は交通事故で、大川は強盗かなんかに殺されて・・・。
目的のゲーセンに着いた。俺は自動車のゲームやら電車のゲームやら旅客機のゲームやら、基本的には景色が前から後ろに流れるものしかやらない。
大川はその俺をいつも見ている。金が無いんだとさ。じゃあ誘うなよ・・・。

夜11時。今から行けば、首都高も一般車が少なくなっているだろう。
特にこれといって会話も無く、大川と別れた。
家に帰り、荷物を置いたら俺はガレージに向かった。

俺「さーてと。今日も行くか。FC。」



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年09月25日 00:00:06  No.66007
I P:203.181.121.212
エンジンを掛けたとき、携帯が鳴った。大川からメールだ。
鍵をなくして家に入れないんだとよ。ちゃんと管理しろよ。
仕方がないので、首都高に行く前にそいつの家に行った。家の目の前で座って待っていた。

大川「凄くウルサイ車だと思ったら、吉田君のだったの?」
俺「うん。」
大川「ちょっと乗せてってよ。暇だしさ。」
俺「ちぇっ・・・」

大川を乗せて、車は首都高へと向かった。いつも通りに木場から新環状線に乗る。

大川「高速道路?どっか遠くへ行くの?」
俺「違う。首都高をグルグル回ってるだけ。」
大川「楽しいの?」
俺「うん。」

隣に大川がいるので、あまり飛ばさず、法定速度以内で流している。
新環状線、C1、湾岸線に横羽線・・・。いろいろ回って、新環状線右回り、福住の辺りに来たとき、一台の車が後ろからライトを点滅させて、バトルを挑んできた。Z31だ。
俺は面倒くさいし、大川の目の前でそんなことはしたくないので、ブレーキを踏み、バトルをする気は無いと意思表示をした。

大川「何なの?あの車。」
俺「ん・・・、(なんて説明しよ・・・)」
大川「キャ!!ぶつけてきた!!」

Z31ドライバー「何だよ!そんなチューンでバトルする気はないだぁ?ナメてんのかよ!」

更にもう一度ぶつけてきた。普段ならここで関西弁になり、一気に突き放そうとするのだが、隣に一般人がいる。危険なマネは出来ない。
ヘタすればそいつも、全てを失ってしまう。

大川「あんな車イヤ。どうにかして逃げようよ・・・」
俺「う・・・うん。でもどうするの?」
大川「そのくらい考えてよ。男でしょ。」
俺「はぁぁ!?」
大川「とにかく逃げれればなんでも良いから。」

俺は一瞬戸惑った。飛ばせばこんな奴らすぐに振り切れるのだが、大川の前でそんなことしてもいいのか。いや、どうせすぐだろ。

俺「10秒間だけ飛ばすぞ。いいな。」
大川「うん。お願い。」

俺はアクセルを一気に床まで踏み込んだ。一気にバックミラーの彼方へと消えていくZ。

Z31ドライバー「げぇぇ!!嘘だろぉ!!いきなりバトル開始かよ!!」

3連続の左右の切り替えしをクリア。たったそれだけでZは視界から消えた。ジャスト10秒。アクセルを緩め、ここから一番近い、塩浜出口へと向かった。

大川「うわぁ〜。おもしろ〜い。はや〜い!!」
俺「えっ・・・?」
大川「もっと飛ばしてよ。」
俺「えっ・・・?」
大川「ダメ?」
俺(いや、普通に考えてダメだろ・・・法律違反だし。)

気がついたら塩浜出口を降り、その辺の路肩に止まっていた。
面白い・・・ってなんだ?いや、面白いときもあるけどあれはつまらんかっただろう。なんていったって相手が弱すぎた。

大川「あたしも車乗ろうかな・・・」

どうやらコイツは、そこらの麻薬よりも危険なものに取り付かれたようだ。こんな危険な行為を分かってくれる者が居たとは。しかも女。

大川「もっかい高速道路行こうよ。」
俺「お前、免許取れば。」
大川「そだね。」

その後、大川のリクエストに答えて、首都高を4時までぶっ続けで走った。めっちゃ疲れた・・・。



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年11月28日 00:15:15  No.66008
I P:203.181.121.213
第二話 命を張った戦い 1

日曜日。家でお気に入りのレースゲームをやっていたら、誰かが訪ねてきた。

大川「や。今日も高速道路行こうよ。」
俺「昼間はマズイだろ・・・。」

昼間は交通量も多い。思うように飛ばせないし、公衆の目に留まるような時間にそんなことをやるのは迷惑だろう。夜中も同じなのだが・・・。

俺「そうだな。今日は首都高には行けないが、俺の知り合いに会いに行こうか。」
大川「え〜。」
俺「明日学校だろ。まぁ、車関係の奴だから、そこそこ楽しいと思うぜ。」

俺は、愛車FCで都内にあるマンションを尋ねた。俺は駐車場にあるギャランと言う車を指した。

俺「あれが、これから会いに行く知り合いの車だ。ギャランって言うんだ。」
大川「へ〜。なんかそれっぽい。」

エレベーターで5階に上がり、脇坂と言う表札の前で止まった。脇坂耕吉(ワキサカ コウキチ)。知り合いの名だ。インターホンを押してしばらく待つと、眼鏡を掛けた同い年くらいの男が現れた。

脇坂「何だよ〜。来るなら来るって言えよ〜。」
俺「ああ、わりいな。コイツは大川。走りの世界に目覚めた女だ。」
大川「どうも〜。」
脇坂「ども、脇坂です。」

脇坂の家の中で何をしていたかと言うと、やっぱレースゲーム。大川にいろいろ教えながら、バトルを繰り返していった。
一段落したとき、思い切って脇坂に頼み事をして見た。

俺「なぁ、こいつに車買わないか。」
脇坂「え?でも免許持ってないんでしょ?」
俺「俺達は無免でやってたじゃん。」
大川「えっ、無免?」
脇坂「うーん、免許は近いうち取らせるとして、車種は何にする?」
俺「そうだな、GT−Rはどうだ?四駆だから安定性も良いし。」
脇坂「そんなの買える金あるか?」
俺「そりゃそうだ。じゃぁどうしようか。」
脇坂「ここは本人の好きな車種にするか?」
俺「そうしよう。じゃ、お好きな車種をどうぞ!」
大川「えっ・・・、私がぁ!?」

レースゲームの車種選択画面で、いろいろ見ながら大川は悩んだ。
ポルシェ 買えるもんならかって見やがれ
GT−R さっき買えないって言っただろ
AE86 首都高でトップに立てるわけが無い
フェラーリ ・・・・・・

結局、俺のFCの次の型のFD−3Sという車にした。馬力次第ではC1や湾岸線でもトップに立てる力を持った車だ。脇坂がその車を売っている店を知っているそうなので、おそらく一週間以内にはこちらの手にあるだろう。

そして一週間後・・・土曜日・・・

俺の家のガレージに一台車が追加された。黒いFCの隣に、白いFDが止まった。

俺「すげぇな。ホントに手に入っちゃったよ。」
脇坂「お前が言ったとおり、リミッターは解除しといた。で、無改造。ノーマルのまま。まぁ、初心者だからね。」

二人でいろいろ話していると、大川が来た。いよいよ、大川のファーストランが始まる。



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年09月27日 12:13:00  No.66009
I P:203.181.121.211
俺「木場から入って、C1へ行こう。内回りでな。」

C1内回りは初心者向けのコースといわれている。外回りは上級者向けだ。とりあえず、今日は内回りコースのレイアウトを覚えてもらうために、80キロで流してもらう事にした。

俺「俺は一人で走ってくる。しっかり覚えておけよ。」
大川「えっ、何か教えてくれるんじゃないの?」
脇坂「あいつはああいう奴なんだよ。」

俺はビデオカメラを取り付けてC1内回りへ向かった。学校の都合上、土曜日の夜しか走れない。たった一日だけではコースは覚えられないので、他の日でも覚えることが出来るように、録画しておくためだ。
C1内回りを録画し終わり、芝公園の辺りで降りた。近くに走り屋達が集う広場があった。何かじろじろ見られている。人があまり多いところは好きじゃないので、人通りの少ない静かな場所で止めた。

?「あれか?先週君を10秒ほどでぶっちぎったFCって言うのは。」
Z31ドライバー「間違いねぇ!あの黒いFCですよ!GTウイングも付いてるし。」

やがて、コンコンと窓をたたく音がした。悪そうな奴ではなさそうだ。俺は窓を開け、話を聞いてやった。

俺「何ですか?」
?「先週、君、Z31とバトルした覚えはあるかい?」
俺「覚えてないですね。」
Z31ドライバー「何だとぉ!!」
?「覚えてないならそれで良い。少しバトルをしてもらえないかな。」
俺「構わないですよ。あなたの名前は?」
田路「田路 悠木。Non Powersというチームのリーダーだ。とりあえず、うちのメンバーとバトルしてもらいたい。」
俺「良いですね。そっちは誰が走りますか?」
田路「今呼んでくるよ。」

暫くして、3台の車が来た。グロリア、クラウン、セルシオ・・・。首都高ではあまり光の当たることの無い、地味な車がそろっている。

田路「まずはこの3台とバトルしてもらう。C1内回り・芝公園出口に先に入った方が勝ちだ。それで良いかい?」
俺「構いませんよ。それで行きましょう。」

芝公園からC1内回り。アクセルを目いっぱい踏み込む。前から後ろに加速Gが掛かっていく。100キロ・・・120・・・140・・・

俺「面倒だ。さっさとケリをつけさせてもらう!!」



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年09月27日 23:35:51  No.66010
I P:203.181.121.213
浜崎橋の右コーナー。かなり長いストレートの直後に、下り勾配の付いたコーナーがあるので、かなり手前からブレーキを掛ける。
下り勾配に差し掛かり、一瞬車がジャンプする。

俺「ヒューーー!ここのジャンプはいつ来てもひやひやするぜ!」

思いっきりハンドルを切り、車はドリフトを始める。タイヤは滑り、路面に黒い軌跡を残していく。
次は汐留のS字コーナー。ここは3車線あるので、ある程度オーバースピードでも十分クリアできる。
最初の左。一番右の車線から、思いっきりブレーキを掛ける。ハンドルを切る。タイヤが滑る・・・。
次の右コーナーはさっきの左よりも僅かにきついコーナーだ。タイヤを滑らせ、車体が左に向いたまま、一気にハンドルを右へ切る。
逆ドリフトというテクニックだ。

俺「あっれ〜。あっという間にバックミラーから見えなくなっちゃったよ。おっせーなぁ、あいつら。」

その後は別に本気で走らなくても、およそ5分の走りで追い抜かれずに一周した。
芝公園出口の近くに田路が居た。俺はその近くで止まった。

俺「一周してきましたよ。俺の勝ちですね。」
田路「そうか。あいつらもまだまだだな。次はもう少し強い奴と戦ってもらう。」
俺「何人かかってきても同じですよ。」
田路「果たして本当にそうかな。」

お?今度は何が来るんだ?っと思っていると、AE86とS30が来た。この2台は某漫画で主人公の登場車種となった車だ。でも、いくら漫画のマネをしても、その主人公のようにはいかないのが現実・・・。

田路「この2台とのバトルだ。ルール・コースはさっきと同じだ。頼んだぞ、二人とも。」




Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年09月27日 23:36:49  No.66011
I P:203.181.121.213
始まった。芝公園からスタート。浜崎橋の右下りコーナーを3台がドリフトで駆け抜ける。汐留のS字も同じくドリフト。

俺「へえぇ。存外まともそうな奴らだな。この先はコーナーの多い銀座区間か。ちょっとやばそうだぞ。」

トンネルをくぐり、問題の銀座区間へと入った。ここはS字コーナーが多く、車線の間に橋げたみたいのがあったりして、首都高では一番難しいところだと思う。
最初のS字。右、左の順で、きついコーナーが続く。3台はドリフトで何とかクリア。しかし、コーナーでFCと他の2台との車間が少しだけ縮まった。コーナーでは負けている。

俺「ちょっとこれはやべぇんじゃねぇの!?」

ストレートでその差は簡単に挽回出来た。緩い左の後、最初の橋げたが現れる。この緩いコーナーでミスって、コントロールを失ってしまうと、橋げたに激突しかねない。
次はさっきのよりも緩いS字だが、最初の左は上り、次の右は下りという風になっている。そして、下りの左コーナーの出口には橋げた。
斜線の真ん中を通るような中途半端な走行ラインでは勿論激突。かといって、橋げたの左側を通ろうとすると、コーナー外側の大きな壁が迫り、ちょうどよいスピードでないと壁に激突してしまうことも有り得る。
右側は大幅な減速が必要だ。かなり減速すれば無事に通り抜けることが出来る。しかし、この後はC1でかなりの長さを誇るストレート。ここで相当な減速をすれば、そのストレートでの加速が伸びず、タイムロスにつながる。
俺はいつも外側を通るようにしている。マシンを適正速度に減速させて、どうにかクリア。直後のストレートで大幅な差をつけた。

AE86の男「くっ・・・。コーナーで差が詰められない。テールランプが小さくなっていくっ!!」
S30の男「追いつけねぇ!!」

江戸橋ジャンクションで、たった一車線の下り右コーナー。一車線だが、わずかに白い斜線の入ったスペースがある。そのスペースを利用し、派手にドリフト。
宝町ストレートで遅れをとっていた2台は、今にも視界から消えそうなFCを見て相当焦っていた。2台のうち、先頭を走っていたハチロクは、江戸橋の右コーナーでスピン!!

AE86の男「のわぁっ!!しまったぁぁぁ!!」
S30の男「はっ!!馬鹿ぁぁぁ!!!」

AE86、S30 スピンアウト――



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年10月13日 17:38:49  No.66012
I P:203.181.121.211
俺は再び芝公園の広場へ戻った。

俺「正直言って全く相手になりませんね。次は誰が?」
田路「本気で言っているのか?タイヤのグリップがやばいんじゃぁ
・・・」
俺「そんなものは言い訳にはならない。とにかく、あんたのチームを今夜潰す。」

その一言で、Non Powersのメンバー達は後ずさりした。田路は、吉田の車から、吉田本人から何かオーラのようなものを感じた。

田路(何だ?車の限界を知らないような相手ではないし、虚勢を張っているわけでも、単なる脅しを言っている様な感じでもない。)

こいつには揺らぐことの無い自信がある―――

とんでもない奴を相手にしてしまった。だが、このまま帰してくれる訳でもなさそうだ。完全にこのチームを潰すつもりだろう。

田路「良いだろう。山本、吉川、平田。来るんだ。彼らはうちのチームの二番手、三番手、四番手だ。」
俺「彼らを倒せば、次はあんたってわけですか?」
田路「ああ。」

車種は呼ばれた順に、MR−2、アルテッツァ、ロードスターだ。どの車種も、馬力こそあまり無いが、コーナリングに優れている。
再び芝公園から4台がバトルを始める。

田路はAE86レビンに乗って、どこかへ駆けていった。

メンバー「田路さん、どこ行くんですか?」
田路「神田橋か、霞ヶ関の辺りからC1内回りへ行く。待ち伏せて連続バトルに持ち込む!!」



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年10月14日 17:07:16  No.66013
I P:203.181.121.213
激しいスキール音で4台は最初の大きなコーナー、浜崎橋へ突入。Non Powersの3人は携帯電話をメーター類の近くに置き、お互いに連絡を取り合っている。チーム戦だからこそ出来る、簡単かつ高度な戦法だ。

山本(MR−2)「相手のFCはタイヤのグリップがやばい筈だ。後方からバンパープッシュを仕掛けて、スピンアウトさせるぞ!」
吉川(アルテッツァ)「了解!」
平田(ロードスター)「分かった。」

バンパープッシュとは、コーナーで相手を抜き去るための技だ。コーナーに入って、相手の車を後方横から軽くぶつける。上手くいけば、相手はバランスを失い失速。こちらは開けた道を全開で進むだけだ。
フルブレーキングでジャンピングポイントを通過、左へ大きくドリフト。すかさず山本のMR−2が左後方から迫る!!

俺「大体やる事は分かってるんだよ!!」

アクセルを思いっきり踏み込み、迫るMR−2をかわす。次は汐留のS字コーナー。左から始まり、次はさっきよりもキツい右。
最小限のブレーキでコーナーへ突っ込む!コーナークリアと同時に、サイドブレーキで車体を一気に右へ回転させる!!

山本「何だそりゃァ!!強引過ぎる!!頭おかしいんじゃねえの!?」

フルスロットルで加速、この先は首都高最難関、銀座エリアだ。

平田「嘘だろぉ!!何なんだ、あの加速!!」

吉田のFCはおよそ500馬力。GTウイング(レーシングカーの後ろについてるアレ)というパーツを装着。一見普通のFCに見える。だが、普通の者はやらないような秘密が隠されているとか。

吉田「読者の方には教えてやる!!コイツの車重、1トン切ってるんだぜ!!」

車重およそ950キログラム。元の車重が1200キログラム強。車体の材質をカーボンという材質に変えたために、これほどの軽量化が可能になったのだ。
軽量化によるメリットは、加速、最高速の性能が飛躍的に上がること。反対に、デメリットは、ハンドル・アクセル・ブレーキの操作が一瞬でも狂うと、どこに吹っ飛ぶか分からなくなる、非常に扱いにくい車へと変貌する。
圧倒的な加速力で、3台を一気に引き離す。難しい銀座区間のS字コーナーを何とかクリア。宝町ストレートに入る!

吉川「くっそぉ・・・。ぜってぇ抜かすっ!!」

吉川はこのストレートでスクランブルブーストを掛けた。上り坂の部分でFCを抜かした。
スクランブルブースト。この装置を起動させると、マフラー(排気ガスが出るあそこ)から白煙が出て、加速力が一時的に上昇する。ただし、その分エンジンに相当な負担がかかるため、下手をするとエンジンブロー。つまり、エンジンが壊れてしまう。

俺「オイオイ。下手にそういうの使うなよ。車の悲鳴が聞こえるぞ。まぁ、このくらいのストレートなら、ぶっ壊れたりしないだろうけど。」

順位が入れ替わる。アルテッツァ、FC、MR−2、ロードスター。
江戸橋JCTの右下りコーナー。アルテッツァがドリフトを始める。FCも続けてドリフトに入る。

俺「今だ!!」
山本「吉川っ!!後ろっ!!!」
吉川「!!!」

FCの右フロントがアルテッツァの左後ろにヒット!!バンパープッシュだ!!
アルテッツァはバランスを失いスピン。後ろの2台は何とかよけた。だが、アルテッツァはその後車線をふさぐような形で停止。再び走り出したときには、3台ははるか彼方へ。

吉川「ちきしょぉ・・・」

吉川 アルテッツァ スピンアウト―――



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年11月27日 23:47:07  No.66014
I P:203.181.121.213
山本「吉川、大丈夫か?」
吉川「今、自走して出口に向かっています。大きなダメージはなさそうです。」
山本「そうか。それは良かった。警察には見つかるなよ。」
吉川「はい。」

残りは2台。呉服橋、神田橋とFC先頭の状態が続く。

山本「代官山のトンネルの右上りコーナーでバンパープッシュを仕掛ける。万が一失敗したら、後はお前が頼むぞ。」
平田「は、はい。」

竹橋JCT、北の丸、そして代官山・・・!!

山本「頼むぜMR−2!!いっけぇーー!!」

事故を覚悟でFCに立ち向かっていく!FC・突然ブレーキを踏み、MR−2とトンネルの壁の間に入り込む!?

俺「アホんだらぁ!!そんなスピードで突っ込んだら死ぬでぇ!!わざわざ助けてやらなアカンやろぉ!!」

ガッシャァァァン!!!

山本「え・・・?助けられた・・・?」
平田「よっしゃぁぁぁ!!抜けるっ!!」
山本「止めろ!平田!」
平田「え?」
山本「アクセル抜いて、80キロに戻せ。副リーダー命令だ。」
平田「は、はい・・・」

3台は再び芝公園の広場へ戻った。メンバー達が、傷んだMR−2を見て驚きの声を上げた。どうしたんですかと詰め寄る者もいた。

山本「このバトルは無効だ。日を改めてやり直そう。それで良いですよね。リーダ・・・、リーダー?どこ?」
メンバー「待ち伏せして連続バトルに持ち込むと言って、どっかに行きましたよ。」
山本「そうか。ま、いっか。どうせ地味なリーダーだし。それよりもあんた。ありがとな。って、あのFCの奴もいない!?」
メンバー「『修理代をもらっていく』って言って、山本さんの鞄から財布を取って逃げました。」
山本「うっそぉぉぉぉ!!!」

その頃・・・信号で止まっているFCの中で、俺は山本とか言う奴の財布を見ていた。

俺「ひゅーーー!!万札ばっか!!速い奴の財布はぜんぜん違うなぁ!!!」

同時刻・・・C1内回り
AE86が、誰かを探すように迷走していた。Non Powersリーダーの田路の車だ。

田路「アレ?みんな・・・どこ?」



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年11月28日 19:35:37  No.66015
I P:203.181.121.212
第3話 命を張った戦い 2

土曜日。午後7時。俺は学校の近くにこっそり止めてきたFCを動かした。下道を普通に走る分には問題ないようだ。だが、首都高で一暴れは出来そうに無い。明日は日曜なので、脇坂の教えてくれた板金屋に行くことにした。
1車線の小さな道をひっそりと走っていると、交差点から女が飛び出してきた。

大川「やっほー。」
俺「お前か。早く乗れ。見つかるぞ。」
大川「今日も首都高?」
俺「違う。今日は修理。」
大川「なーんだ。ま、いいや。連れてってよ。」
俺「別にいいけど・・・。」

脇坂の書いたメモを頼りに、脇坂お薦めの板金屋へ向かう。場所は江東区の砂町というところだ。割と近い。

俺「えーっと、ここかな。『ハルカワ ボディーワークス』。間違いなさそうだな。」

俺は、近くの従業員に声を掛けた。すぐに見てもらえるそうだ。しばらくして、再び従業員が来た。

従業員「だいぶ傷んでますね。修理に長くて一週間って所でしょう。」
俺「いえ、明日の夜までには直してください。それが出来る人がいるでしょう。」
従業員「あ、もしかして、脇坂って人の知り合いか何かですか?」
俺「そうですよ。」
従業員「分かりました。今すぐ呼んできます。」

しばらくして出てきたのは、この店のボス。春川 正。首都高7人衆の一人。搭乗車種はポルシェ911の964と呼ばれるタイプ。

春川「一体何した。こんなになって、車がかわいそうとか思わないのか。」
俺「先週、俺とバトルしていたMR−2が、こっちにバンパープッシュを仕掛けようとしました。おそらく事故覚悟の突込みだったんでしょうが、事故らんばかりの勢いで、壁にぶつかりそうになったので、間に入って助けました。」
春川「間違いないな。脇坂の言っていたFCだ。その噂は聞いていたんだが、あんたが本当にそのFC乗りかとちょっと試してみたんだ。済まなかったな。注文通り、明日の夜、多分12時ごろになると思うが、その頃に取りに来てくれ。」

俺はFCを預け、大川のFDの面倒を見ることにした。徒歩で家まで帰ったので、非常に疲れた・・・。

俺「先週はどんな感じだったの?」
大川「ちょっとスピード出してみたかな。面白かったよ。」
俺「じゃぁ、首都高のバトルでもやってみますか。」
大川「バトルって何?」
俺「ん?知らないのか。それもそうか。バトルっていうのは、車同士でレースすることだよ。早速来たぜ!ハイエースの宣戦布告だ!!」

後ろからハイエースがライトを点滅させてきた。このとき、相手とバトルがしたくなければ、ブレーキを踏んでその意思を示す。これが首都高のマナーだ。
大川初のバトル。赤坂ストレートから、C1内回り!
ハイエースの加速が速い。ノーマルのFDと、大川の腕では敵わないだろう。赤坂ストレート後の左のゆるいコーナー。相手よりも速いスピードでコーナーに突っ込む!だが・・・

ガッシャン!!

曲がりきれずに、FDは外側の壁に横から当たってしまった。タイヤがノーマルなので、路面への食いつきは最悪。結果、またもやさっきの板金屋に行くことになった。




Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年10月15日 16:54:19  No.66016
I P:203.181.121.213
春川「またあんたか。何だ、夜遅くに。」
俺「彼女がFDの右側ぶつけてしまって・・・。またお世話になります。」
大川「どーも〜。」

春川はFDの右側を見て、作業に取り掛かった。傷はひどくないらしい。

俺「彼女は、僕の学校の知り合いで、最近走り屋の世界に興味を持った、初心者なんです。」
春川「そうか。まぁ、初心者ならこれくらいは当たり前だろう。そうだ、直すついでに、ボディの剛性も上げとくか?」
大川「はしりや・・・?ごうせい・・・?」
俺「走り屋って言葉も知らないのか。そういえば説明してなかったな。」
大川「暴走族みたいな・・・違うよね。」
春川「そんな奴らと一緒にしないでくれ。暴走族はカッコつけただけのバイクや車に乗ってるだけの連中。走り屋は、市販されている車をレーシングカー並みに改造して、公道やサーキットを走る者達のこと。」
俺「剛性って言うのは、言うならば車体の硬さだな。溶接やら何やらして、車体を硬くする。」
春川「ただ硬いだけでもダメなんだ。馬力を受け止める強さと、馬力を路面に伝えるネジレって奴が必要なんだ。分かるか?」
大川「硬すぎても、やわらかすぎてもダメってこと?」
春川「そうだ。で、この車、あんたのFCと一緒に引き取りに来てくれるか。分けると面倒だしな。」
俺「分かりました。」

今日はもうすることがなさそうなので、俺達は家に変えることにした。突然後ろからクラクションが鳴った。MR−2だ。

山本「おまえぇぇぇ!!財布を返せーーー!!」
俺「やべぇ!!逃げるぞ!!」
山本「逃がさぁーーーん!!!」

ものの30秒とせずに捕まってしまった。

吉田 耕一   逮捕――――

山本「何だ!上のやつは!ここまでカッコつける必要ねぇだろ。で、財布!」
俺「ごめん、全部使っちゃった。」
山本「この野郎ぉぉぉーーーー!!」

都内某PA(パーキングエリア)

GT−Rだらけの駐車場に、中年のおっさん二人を真ん中に、若者が何人か集まっている。

大原「はい。これより、Wing DriveRsの作戦会議を始めたいと思います。司会進行はリーダーである俺、大原 清が務めまーす。
で、今週はどんなバトルがあったの?」
メンバー「やはり、首都高エボリューションとスバリスターズのバトル。勝敗はつかぬまま終わったそうです。」
大原「ここんとこ、毎週一回はやってるな。そのチーム。」
メンバー「今日は、Z Driversと神田橋シルバース。Z Driversが勝利を収めました。」
大原「おー。あいつまたチーム潰したのか。凝りねーなぁ。」
メンバー「最後に、先週気になるバトルがありました・・・」



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年10月15日 20:59:35  No.66017
I P:203.181.121.211
大原「なに?それ?」
メンバー「黒いFCがNon Powersというチームを壊滅寸前まで追い込んだとのことです。」
大原「へ〜。それ、一人で?」
メンバー「一人のようです。信じがたいですよね。」

作戦会議が終わり、走りに行く前にトイレで用を足している大原。どうもいつもより深刻な顔をしている。

大原(黒いFC・・・。たった一人でチームに挑む。か。)




Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年10月15日 21:00:42  No.66018
I P:203.181.121.211
次の日

俺は朝一番に春川の店に行った。FDの方はもう直っているらしい。FCはボディは直っている。後は中身のダメージを受けた部分を交換するだけのようだ。

春川「あんたか。まだFCは直ってないぜ。FDの方、引き取りに来たのか?」
俺「今から追加で注文なんですけど、良いですか?」
春川「簡単なのなら構わない。何だ?」
俺「FD、俺のFCと同じくらいの剛性にしてください。それから、ロールケージを入れて、駆動系のパーツは出来る限り最高級のものにしてください。」
春川「駆動系は専門じゃねえから出来ないが、ロールケージと剛性は何とかなりそうだ。それで構わないか?」
俺「構いません。それでお願いします。」




Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年10月15日 21:01:30  No.66019
I P:203.181.121.211
その夜

俺と大川は直った車で首都高を走ろうとしていた。車に乗り込もうとしたとき、大川が車の内装が変わったのに気付いた。

大川「この変なパイプみたいなの何?」
俺「ああ、それ。ロールケージって言ってさ、ドライバーを衝撃から守るための物なんだ。」
大川「へー。」
俺「じゃぁ、俺は芝公園に行く。お前は、C1内回りを走りこめよ。」

そして、俺は芝公園に行った。あの広場では、待ってましたといわんばかりにあのチームのメンバーが顔を揃えていた。そして、一人の男が歩み寄ってきた。山本だ。

メンバー《ガーッ・・・田路さん。来ました。あいつです。》
田路《ザッ・・・分かった。作戦開始だ。》

山本「来たか。言わなくても分かるな。」
俺「財布ですか?」
山本「いや、まぁ、そっちもだけど、メインはバトルだろ。」
俺「分かりました。じゃぁ、今度は外回りでどうですか。」
山本「よし。そっちで行こう。」

今回はFCとMR−2だけでバトルするようだ。C1外回りは、内回りに慣れた者が、更なるレベルアップをするための上級者向けコースと言われている。
FC先行でスタート。最初は一ノ橋JCTの右の中速コーナー。少し速度を落としてクリア。麻布のトンネルをクリア。そして赤坂ストレート!!

俺「このストレートで離す!C1では500馬力の車が一番早いんだ!たぶん!!」

最後のは気にしないで行きましょう。赤坂ストレートクリア。差が一気に広がる。霞ヶ関トンネル手前の右コーナー。間に少しストレートを挟み、左コーナー。連続ドリフトで更に引き離す!

山本《ガーッ・・・ただいま霞のトンネル。国会前の左コーナー手前です。》

国会前のコーナーは下り勾配つきの左コーナーだ。スピードに乗りすぎると、ジャンプしてしまい、壁に激突してしまう。丁寧に減速してドリフトで華麗にクリア。

俺「かなり軽量化してるからな。あんだけ減速しても少し飛んでしまったな。」

山本《国会前コーナー通過!コーナーワークでも負けてんのか!?俺!田路さん!こいつ、この前よりも速くなってますよ!大丈夫ですか!》
田路《大丈夫だ。とにかく、宝町ストレートまで食いついていけ。その辺りで僕と合流するはずだ。》

千鳥ヶ淵の右上りコーナー。2台はドリフトでどうにかクリア。代官山、竹橋JCT、一ツ橋・・・。何が何でもくらいついていこうとするMR−2。そして勝負は江戸橋JCTまでもつれ込む!!

山本「このコーナーをクリアすれば、後は田路さんがどうにかしてくれる。」

江戸橋のコーナー。2台のテールランプが赤い子を描いていく。そして宝町ストレート!

田路「きた――――」

白と黒のツートンボディ。AE86。獲物を待っていたかのようにゆっくりと走っていた。



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年10月18日 02:57:46  No.66020
I P:203.181.121.211
俺「ここで援軍か。良いぜ。来い!!」

先頭のハチロクはこちらの進路をふさぐように走っている。後ろのMR−2はゆっくりとチャンスをうかがい、抜きに出る作戦か。
一つ目の橋げたを通過。同時にS字コーナー。一見すると、ゆるいS字だが、直前の宝町ストレートでスピードがかなり乗っている。そのため、200キロ近いスピードから、一気に100キロほどまで減速する。
3台は同じようなラインでそのコーナーを通過。ゆるい右の直後にまた橋げた。

俺「ここのストレートで抜けるか!?頼むぜFCィ!!」

黒いFCは、この僅かなストレートで一気に先頭のハチロクと並んだ。その瞬間、銀座区間最後のS字が襲い掛かる!!

田路「このストレートでそれだけ(アクセルを)踏むかぁ!!?曲がり切れなくなっても知らないぞ!!」

FCはかなり速めにドリフトに入る。フロントがハチロクの目の前を通過!!外側のガードレールとの隙間は5センチと無い!まさに神業のようなコントロール!!
突然のFCの走りにビビって、田路は一瞬アクセルを抜いた。その一瞬で、距離は5メートルほど離されてしまった。

田路「あいつ、狂ってるぜ・・・」

俺「お前は俺が狂っているというだろう。読者の方も、そんな危ない行動はサーキットでやれよと言う人もいるだろう。だけど、俺にはそこしかない。サーキットみたいに芝生も無い、この場所しかないんだ。」


生きている以上、命張ってんねんから――――


トンネル内のかなり緩いS字、そして汐留S字までのストレート。一気に距離が離れていく。2台のライトは遠くにかすんでいく。バトルは終わりに近づく・・・。



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年10月18日 02:59:21  No.66021
I P:203.181.121.211
いや、終わらなかった。もう一台、このFCと決着を付けていない者がいた。

平田「敵わないのは分かってんだ。でも、やり残したままは気色悪いだろ。」

俺はバトルを続けた。それでやつの気が済むならそれで良い。ここからのバトルはあのロードスターのドライバーのためのバトルだ。
浜崎橋JCT右下りコーナーッ!!
2台ほぼ同時にドリフト、だが、そのスピードが違う。内側に陣取ることに成功したFCは最小限の角度のドリフトで、鮮やかにパッシング(追い抜く)。

平田(やっぱ敵わねえ。コーナーたった一つでこれだ。抜かれるとかじゃなくて、何か別のもの・・・)




Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年10月18日 03:00:00  No.66022
I P:203.181.121.211
平田の後ろからもう一台来る!!ハチロクレビン!!その細いランプは、獣か、それとも・・・

田路「平田、お前の敵う相手じゃない。《山本、お前もだ。後は僕が、何とかしてみせる!!》」

ラストスパートッ!!芝公園の出口まで距離は無い。スクランブルブーストを掛けて追いつかんとするハチロク!!

田路(お前の走りで気付かされたよ。僕は、自分が戦士みたいに思っていた。命張って戦っていると、思っていた。
でも違った!僕は戦士なんかじゃない。いつも後一歩のところで引いてしまう。銀座区間のS字でやっと気付いた。あまりにも臆病すぎた・・・。)

右車線のトラックをパスし、次のコーナーに向けて右車線へ。そのとき、マフラーから左側から白煙を吐き出しながら、ハチロクが左側に並んだ!!
芝公園出口手前の左から始まる緩いS字コーナー。2台の鮮やかなパラレル(平行)ドリフト!!

田路「いっけぇぇぇぇ!!!!!」
俺「させっかァァァァ!!!!!」

その次の、左に芝公園出口のある右コーナー。フェイントモーションでクリアしていく2台!フルスロットルで加速する暇も無く、次の右コーナーが迫る!
十分速度を落としている2台。ハチロクはグリップでコーナーに進入!対するFCは後ろのタイヤを僅かに滑らせた!

ガッシャッ!

FCの左後ろがハチロクの右後ろにヒット!ハチロクはバランスを少し失った!外側の壁が迫る!!!アクセルを抜いて態勢を立て直す!!
その横で、FCは加速力を生かして一気に引き離す!

田路「引き離される・・・。追いつけないッ!!」


田路 悠木 AE86  失速――――


山本《リーダー!後は俺が・・・!》
田路《無駄だ。お前じゃ敵わない。》
山本《でも、このままでは・・・》
田路《これ以上続けても勝ち目は無い。僕達の負けだ。》

敵の力量を知り、勝ち目は無いと判断した田路。Non Powersの3人は下道に下り、元の広場へ戻った。

メンバー「田路さん!結果は!?」
田路「済まない。ダメだった・・・。」

その言葉で、広場は人の声はしなくなった。しばらくすると、ロータリーエンジンの音が聞こえた。吉田のFCだ。

田路「僕の負けだよ。君、速いんだな。」

田路は右手を差し出した。俺も右手を出し、握手をした。そのとき、田路が俺の左腕を見た。そして、目を丸くしながら話し出した。

田路「君、左腕は・・・!?」
俺「これですか。昔事故で、どっかにぶっ飛んでいってしまったんです。驚きましたか?」
田路「右腕だけだと、シフトが使えない。もしかして、オートマ?」
俺「そうですよ。ハンドルは、船の舵を切るように、穴の部分に手首を入れて回します。」

メンバー全員が、まるで恐ろしいものを見るような目になったのに気付いた。それは身体障害者をみて、自分と違うところをまじまじと見つめる、一般的な目ではない。
目の前にいるものは、ハンデを背負い、それをものともせずに事を成し遂げる者。そのことに気付き、恐れ、おののいているのだろう。

俺「じゃ、いつかまた会いましょう。」

吉田は最後にそれだけ言って、広場を出た。風に揺れる葉の音が、彼を賞賛する拍手のように聞こえた。



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年11月28日 19:38:20  No.66023
I P:203.181.121.212
第4話 失う悲しみ 1

家のガレージ――

黒いFCと白いFDの間に俺は突っ立っていた。今回は、生活保護の金や、道端で拾った金を使ってFDをチューン(改造)した。エンジンの馬力を280馬力から400馬力に変えた。エンジンのパワーを上げると、駆動系(ブレーキなど)にかかる負担が多くなる。なので、駆動系をを最高級の品に変えた。
ただし、一つだけ何もいじっていない部分がある。大川に大切なことを知ってもらうために、そこには一切手をつけていない。

大川「よ。」
俺「よし。そんじゃぁ、お前のFDに乗せてもらおうかな。」
大川「デートって感じ?」
俺「はぁ?お前がどこまで上手くなったか見るんだよ。」

いつも通り、木場からC1方面へ。今日はあるチームに協力してもらって、こいつに大切なことを知ってもらう。
後方から、3台のハイエースが来た。ライトを点滅させ、バトルのサインを出す。

ハイエースの男「コイツだ。準備はいいな。皆。」
ハイエースの男《おーけー!》
ハイエースの男《了解》
ハイエースの男《こちら第二部隊。準備完了。》
ハイエースの男《こちら第三部隊。いつでもいけます。》
ハイエースの男「きちんと教育入れさせてもらうぜ。」
ハイエースの男「女って言ってたな。どんな走りをするんだ?」
ハイエースの男「相手はブレーキを掛けない。バトル開始だ!」

4台はいっせいに加速。俺はこの3台のスペックを知っている。400馬力のFDがストレートで負けるような相手ではない。まずは、どれだけ怖がらずにアクセルを踏めるかを試させてもらう。
俺はほんの数秒で異変に気付いた。加速競争で負ける相手ではない・・・ハズなのに、ほぼ同等の加速。何故だ?
俺は大川の足元を見た。アクセルを半分ほどしか踏んでいない。加速性能をワザと引き出さず、相手にこちらの力を誤認させるためだろうか。
いや、違う!大川は、部活の都合上走りに出れるのは土曜の夜だけ。週一回の走り込みで、合計5、6日ほどしか走っていないだろう。
ワザとアクセルを目いっぱい踏まないなんて芸当が出来るほど、経験を積んでいないのは明らかだ。じゃあ何故・・・?
大川はシートから体を前にずらした。まるでヤンキーみたいな座り方だ。加速力が一気に上がる。
まさか・・・!?
俺はもう一度大川の足を見た。やはりそうだ。


足が短すぎて、アクセルに足が届いていない――――ッ


これはもう馬力だとかではない。こいつの体の問題だ。

俺(あっちゃぁーッ、この状況は車を扱った作品の中でも初めてなんじゃないのか?あまりにも致命的過ぎる!)




Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年10月29日 22:36:14  No.66024
I P:203.181.121.212
江戸橋JCT C1方面左コーナー。
このコーナーは最初が上りで、後半が下りという特性を持つ。しかもかなりの急コーナー。
上りは、勾配によって車速が落ち、いくらか曲がりやすくなる。だが、下りは車速が上がり、上りに比べて曲がりにくくなる。
このコーナーの中間地点に入った途端に、急に操作性が変わる。どうクリアするのか。
相手より遅いタイミングでブレーキ!同時に一気にハンドルを切り、左へ旋回!タイヤが滑る!ドリフトだ!
下りに入り、十分に減速したFDはドリフトを止め、次の直線に向かって加速していく。
外側の壁すれすれでストレートへ入った。
宝町ストレート。
ここはしばらく下りが続く直線なので、ハイエース3台は、FDの加速に大きく遅れをとる。

ハイエースの男「速い。馬力競争じゃぁこっちが不利だ。」
ハイエースの男「だが、この先の銀座区間は唯一、馬力が殆ど関係なくなるエリア。」
ハイエースの男「つまりコーナー勝負がメイン。」
ハイエースの男「でも良く考えたら、俺らもコーナーでは不利じゃね。」
ハイエースの男「じゃぁ勝てねーじゃん!」
ハイエースの男「どーすんの?どーすんのヨ、俺!?」
ハイエースの男「ライフカードかよ!?そんなCMあったなぁ・・・。」
ハイエースの男「『続ける』『降りる』『どちらでもない』の3枚からどうぞ。」
ハイエースの男「『どちらでもない』で」
ハイエースの男「いや、じゃぁ何?」

こんなグダグダな会話をしているうちに、大川のFDは一気に銀座区間を通過。あっけね〜。



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年10月30日 22:51:03  No.66025
I P:203.181.121.213
汐留S字
今度は別のハイエース3台と遭遇。予想通りバトルを挑んできた。
大川はブレーキを踏まず、そのままバトルを受けようとする。
4台同時に加速。一番前は大川のFDなので、この先の浜崎橋JCTで、横羽線を進むか、このままC1外回りでいくかを選ぶことが出来る。
大川が選んだのはC1外回り。右下りコーナーを通って、芝公園方面へ。

大川「そういえばさ、ここに付いているメーターは何?」

大川は新しく取り付けた油温計や、水温計を指した。

俺「ああ、それはあんまり気にしなくて良いよ。」

油温計、水温計といったメーター。簡単に言ってしまえばエンジンの負担を示しているといった方が良いか。
こいつらが赤い部分まで来てしまうと、オーバーヒートとなり、エンジンの出力が一気に低下。最悪の場合、マフラーから変な煙が出て、エンジンブローしてしまう。

俺(かなりメーターが上がってるな。ブローは近い・・・!)

芝公園の緩い2連続S字をクリア。一ツ橋JCTの右コーナーが迫る!
思ったよりも遅くブレーキを踏み、減速に入る。そして思いっきり右にハンドルを切り、コーナー出口でフルスロットルで加速。
3台のハイエースに立ち上がりで差をつける!

ハイエースの男「すげっ・・・!」
ハイエースの男「立ち上がりでアクセルを踏むタイミングが速い!」
ハイエースの男「クソッ!初心者なんじゃねぇのか!?」

トンネル内のS字を通過し、谷町JCT、そして赤坂ストレート!!

ハイエースの男「我慢ならねぇ。ここで一気にブチ抜く!!」

FDのすぐ後ろを走っていたハイエースが、スクランブルブーストを掛け、一気に加速。FDを抜いた!!

俺「焦る必要はない。次のコーナーで勝負は付く。」

俺の予想は的中した。このストレートの後は霞ヶ関トンネル入り口の右下りコーナー。一見あまりきつくなさそうだが、勾配がかなりあるため、減速は思ったよりも速めにしておく必要がある。
かなりのスピードでコーナーに突っ込んだハイエース。曲がりきれずに外側の壁に激突。フロントのタイヤを中心にスピン!!

俺「アクセルを抜くな!そのまま突っ切れ!!」

その言葉に、大川は思いっきりアクセルを踏み込んだ。タイミングよく、FDはハイエースを回避。後ろの2台はビビって減速。
傍から見ればリンチみたいなバトルに2連続で勝利!



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年11月08日 05:21:50  No.66026
I P:203.181.121.213
再び法廷速度に戻ったFD。すると予定通り、ハイエース3台がバトルを仕掛けてきた。

大川「も〜っ、何なのあの変な車ぁ!!」

これで合計9台。これに勝てば、あとはリーダーただ一人となる。正直言うと、そうなって欲しくない。そろそろくるか・・・

俺(エンジンにかなりの負担がかかっている。ブローは近い・・・)


千鳥が淵コーナー バトルスタート―――ッ


FDの情けないエンジン音が、一気に甲高い音に変わる。後ろにつく3台は、チーム『ふざけてねーよ』の2,3,4番手だ。そりゃ速い。
代官山トンネル入口 比較的緩めの下り左コーナー。
大川はブレーキを踏まずにコーナーへ向かう。曲がりきれるか!?
コーナーでオーバースピードで進入した場合、入口は外側・コーナーの中盤で内側・出口で外側、という風に通った方が一番速いらしい。
この法則は俗に、「アウト・イン・アウト」と呼ばれている。
そのセオリー通りに、アウト・イン・アウトでクリア。そしてハイエース軍団もほぼ同じように通っていった。

俺「上手くなったな。」
大川「まぁね。」

竹橋JCTの手前の緩いコーナー。手前が上り坂なので、スピードが乗っているとどうしてもジャンプしてしまう。
ジャンプするポイントの手前で思いっきり旋回を始める。そして、ふわりと接地感が消える。

ガンッ・ギヤァァァァ・・・!!

見事に接地。見事などリフトを決め、ハイエース軍団に差をつける!
一ツ橋出口 S字コーナー、神田橋、呉服橋、江戸橋JCTコーナー・・・そして宝町ストレート――――ッ!!
思いっきりアクセルを踏み込み、この先のキツい銀座区間までFDに鞭を打つ!
だが・・・!?


ズウンッ!バラバラバラ・・・・

大川「えっ・・・、どーしたの・・・?」
俺「エンジンブロー。エンジンが壊れた。とりあえず、京橋の辺りで降りて、レッカー車呼ぼう。」

京橋で降りレッカー車を待つ間、大川は何度もエンジンを掛けようとした。だが、勿論エンジンは動かない。
まるで、死人に何度も声を掛けているようだ。

俺「死人は何も答えてくれない。お前も分かるだろ。」

そう言っても、エンジンを動かそうとする大川。目には涙のようなものが浮かんでいた。

大川「このエンジン、直せないの・・・?」
俺「直せる。が、直すつもりは無い。」
大川「何で・・・?」
俺「一度でもブローしたエンジンは、ブロー癖という変な癖がついてしまう。いくら直しても、ブロー癖ってやつは直らない。」
大川「でも・・・、」
俺「奇麗事や、センチな感情ではどうにも出来ないものがある。分からないか?」

その言葉を最後に、大川は黙ってしまった。もうエンジンを掛けることもしない。
改造車、チューニングカーの世界は、失って失って、何かに気付くものだと俺は思っている。
エンジンぶっ壊して、壁にぶつけて、ヘタすれば再起不能になったときに気付くのかもしれない。


機械は生きている

生きているから

死なせてはいけない――――


失ってから

やっと気付き

そして悲しむ――――



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年11月28日 19:43:16  No.66027
I P:203.181.121.212
第5話 失う悲しみ 2

しばらくして、レッカー車が来た。運転していたのは・・・春川だ。

春川「あんたらか。ちょっと手伝ってくれ。運ぶから。」

言われるままに、FDを荷台に乗せた。レッカー車は2人乗りなので、春川と俺が乗った。大川はタクシーで帰ってもらった。
レッカー車の車内で、春川は俺に聞いた。

春川「何故冷却系の装置を付けなかった?」
俺「失う悲しみを知ってもらうためです。」
春川「なるほどな。この世界はそういう物だからな。」

春川の板金屋に到着。だが、春川はエンジンは専門ではない。他の誰かに手伝ってもらうとのことだ。ということで、春川がその相手に電話している間、俺はレジやら金庫やらをいじっていた。

春川「・・・・・・あ、鈴木自動車ですか?春川ボディワークスの春川です。鈴木 正義さん、いらっしゃいますか?」

なんやかんやで、エンジンは鈴木自動車というところの鈴木正義という男が、新しいエンジンを持ってきてくれるんだとか。
春川のポルシェで送ってもらい、俺は家に帰っていった。

辰巳PA――

2台のBNR32、それと、Z32,33が止まっていた。Rはwing driveRsのリーダー、副リーダーだ。Zは、Zdriversのものだ。

大原「久しぶりだな、白田、それから北平。」
北平「そちらこそ、お元気そうで・・・。」
横山「ここに俺らを呼んだのは、何かわけがあるんですよね。」
大原「ああ。お前らも最近聞いているだろ、黒いFC。」

他の3人は、それがどうしたのというような顔だ。

大原「忘れたのか、18年前のアレを!」



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年11月11日 00:10:51  No.66028
I P:203.181.121.213
一週間後

新しいエンジンを積んだ白いFDがガレージに運ばれてきた。

春川「持ってきてやったぜ。あんたの注文通りにな。馬力は400、タイヤのグレードを上げて、ボンネット、リアスポイラーを変えた。軽量化はホントに良かったのか?」
俺「彼女はまだその域に達していないと思います。有難うございました。」
春川「あ、金は要らねえぜ。俺の店はあまるほど持っているからな。じゃ。」

そう言って春川は去っていった。
俺はちゃんと注文通りに作られているかもう一度見た。うん。ちゃんと作られている。
だが、一つだけ注文し忘れているところがあった。アクセルやブレーキ。大川は、身体的な理由でペダルが踏み切れていない。

俺「あっちゃぁ〜、仕方ない。即席で作るか。」

俺は倉庫にあったベニヤ板やガムテープなどを引っ張り出して、ペダルにテキトーに貼り付けた。これで身長130センチ弱のあいつでも踏めるはず。
今日はハイエース軍団、「ふざけてねーよ」の4〜2番手とリーダーの中原とバトルしてもらう。
いつも通り、大川が来た。

大川「あ、車直ったんだね。今日はあたしの車でいい?」
俺「ああ。構わないよ。この前の奴等とリベンジマッチか?」
大川「うん。」

大川の目に迷いは無い。時速が300キロを超えることがあるその場所では、一瞬の迷いが敗北と死の原因となる。
歌でもそう。真っ直ぐで飾りの無い声が最終的には一番だ。

大川「もう絶対壊したりしない。」
俺「金がかかるからナ!」
大川「ちょっと、今カッコいい事言ったのに空気壊さないでよ。」
俺「わりぃ、あ、エンジン壊したくなかったら、このメーターに注意しろよ。」

この前は気にしなくても良いと言った、油温計や水温計だ。エンジンの負担を示しているようなものだ。
これを見て、どれだけエンジンに負担を掛けられるか、勝負どころに出れるかどうかなどを判断する。

俺「このメーターのどれかが赤い部分に到達したら、勝負は中止。ハザードを出して法廷速度に戻せ。ある程度回復するまで待てよ。」
大川「うん。」

木場入口より新環状線内回り入り――――



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年11月11日 18:03:34  No.66029
I P:203.181.121.211
俺(短い間だが、今回で最後だ。俺の隣にコイツがいるのはこれが最後だ。残りは実践でしか手に入らない。戦って、撃墜(オト)して、ぶち殺して出しか手に入らない。
すべてはお前のため。だが、ここで関係を断ち切ることは俺のためでもあるんだ。それが分かるのはいつになるやら・・・)

白いハイエース3台。後方から追いついてきた。やはりライトを点滅させる。

湾岸線下り有明にてリベンジマッチ開始――――ッ

俺「踏め!!」

400馬力の加速が襲い掛かる。本物。紛れも無く本物の加速だ。有明JCTで11号線へ。レインボーブリッジへと進路を向けるように右コーナー。
200キロオーバーでコーナーに立ち向かう。ブレーキを踏み、後輪を滑らせながら旋回、アクセルで速度をコントロールしコーナーを立ち上がる!
バックミラーのハイエースは一気に後方へ。緩いながらも非常に距離の長いコーナー。直線的にクリアし、加速を無駄にしない。

ハイエースの男「んなアホな・・・!?」
ハイエースの男「置いていかれるッ!?」

レインボーブリッジ、速度は200キロ近くへ突入。侵入者のブレーキを試すように、右コーナーが大きな口を開いている。
再び彼女の渾身のドリフトッ!華麗に立ち上がり、続くストレートへアクセル全開!一般車を押しのけるように避け、芝浦JCTのS字へ。

1号線経由C1内回り――――ッ

ハイエースの男「追いつけないッ!!」
ハイエースの男「ここまでか・・・。」
ハイエースの男「まだだ。俺はまだやれるッ!!!」


「ふざけてねーよ」2,3番手 失速――――


4番手の男はいまだに全力疾走。仲間達が携帯でギブアップを呼びかけるも、一向に耳を傾けない。

ハイエースの男「俺はまだやれるんだ。本当に負けるまで、俺は負けを認めねぇ!!!」

大川は後方のハイエースが見えなくなり、エンジンの負担を抑えるためにスピードを落とした。だが、4番手のハイエースが接近して気が変わったか、もう一度アクセルを踏んだ。

俺「まだやれるとでも思っているのか?その愚か者に分からせてやれ。」
大川「・・・?」


まだやれる まだやれる

そんな薄っぺらな言葉で

勇気はちっともわいてこない


汐留S字コーナー。3車線の内ど真ん中に4tトラック。一般車にコースを邪魔されて上手くドリフトが出来ない。
コーナー入口で軽くドリフトさせ、中盤からは速度を殺して一般車を追い抜くまで待つ。
汐留JCTトンネル、そして銀座区間――――ッ



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年11月13日 23:31:25  No.66030
I P:203.181.121.211
緩めの左コーナーをクリアし、まずは一つ目の橋げた。そして二つ目ッ!

大川「ッ!!」
4番手「とりゃぁ!!」

共に橋げたの左側を通りクリア。立ち上がって速度は80キロ弱。アクセル全開で宝町ストレートへ突入ッ!
加速力で後れを取るハイエース。ここぞとばかりにスクランブルブーストで追いつこうとする!追いすがるッ!
並ぶ・・・このときハイエースはFDの右側に付く。

4番手「直線ではこちらが不利。この先の江戸橋JCT、コーナーの多いC1内回りと、直線の多い新環状線外回りに分かれる。俺の取る道はC1内回りッ!進行方向左側の道ッッ!!!」

4番手の男はFDに新環状線へ行かせない為に強引に左側に寄せていく。FDは、ハイエースに邪魔されて有利な新環状線へ向えないッ!
上り坂に突入!一番左の車線と真ん中の車線の分かれ目の線を、ちょうどまたぐような位置にいるFD。
右側のハイエースが寄せてくるッ!襲い掛かる――――ッ!!

4番手「喰らえぇぇッ!!」

俺「臆すな!そのまま、そのまま真っ直ぐ、アクセル全開ッ!引いちゃダメだ!」

坂を上りきり、開けた視界の先に分岐点!

4番手「動けよFDッ!!動きやがれッ!!」

迫る、分岐の間のコンクリートの壁ッ!!

俺「まだ引き付けろッ!!」
4番手「このまま行けば、俺もお前も分岐の間の壁に衝突だ!それでも動かねえってかァ!!」

目の前に、迫るッ!!

4番手「これ以上は無理だァッ!!」

ハイエースが引いた!!ワンテンポ遅れてFDがC1へッ!!


ふざけてねーよ4番手 ハイエース 戦線離脱――――ッ



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年11月17日 00:10:36  No.66031
I P:203.181.121.212
法廷速度に戻し、残り最終戦へ向けてエンジンの負担を軽減する大川。C1内回りを、獣が最後の標的を探す!

4番手「中原さん!あのFDはC1内回りです!」
中原「OKOK。張り切っていくぜ!」

辰巳PAより、黄色い派手なハイエースが出発。「ふざけてねーよ」リーダー、中原一志。そのちゃらちゃらした外見とは裏腹に、実力は・・・そこそこ。今の大川が勝てない相手ではない。

C1を一周して江戸橋JCT――――ッ

中原「おっ、白いFD。アレか?」

俺「来たな。大川、あのハイエース、あいつがハイエース軍団のリーダーだ。」

C1内回り江戸橋JCTより
最終決戦――――ッ

先頭ハイエース、後追いFDでバトル開始。呉服橋、日本橋、神田橋、代官山と、中速コーナーが続く区間、2台は膠着したまま。差は開くことも縮まることもしない。

中原「おっ、思ったよりはまともなやつだな。C1俺についてくる。」

最初のタイトコーナー、千鳥が淵コーナー。大川、獲物に牙を向けるかのごとく、インから一気に抜こうとする。
だが、ハイエースはその大柄な車体を上手く利用し、FDの進路を塞ぐ!
トンネルに入り、しばらくストレートが続く。直線での伸びは互角。ならば、必然的にコーナー勝負で決着は付く!
三宅坂、霞ヶ関トンネルと中速コーナーで追い抜こうとするが、やはり進路をブロック(塞ぐ)される。
霞ヶ関トンネルを出て、その先の赤坂ストレートッ!
ハイエースのマフラーから鋭い白煙が吐かれる。スクランブルブーストだ。

大川「何?あの加速!?」
俺「スクランブルブーストだ。一時的に加速力の上がる装置。格闘ゲームの必殺技みたいなもんだ。」

離れてゆくハイエース、焦る大川。谷町JCTコーナーが近づく。一見緩いコーナーだが、直前の赤坂ストレートで200キロ近くまで速度が上がるので、クリアするには減速が必要。それは前回、このコーナーで思いっきりぶつけたために重々承知しているはず。
しっかり減速をし、かなり良いタイミングでアクセルを踏む。だが、ハイエースは射程距離からはるかに離れてしまった。
そして次の同じくらいの曲率の左コーナー。同じようにブレーキを踏んだとき、異変は起こった!



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年11月17日 23:47:27  No.66032
I P:203.181.121.213
大川「えっ!?」

車体が外側に滑っていく・・・壁が迫る――――ッ!
咄嗟にブレーキを踏み、車速を落とし、ギリギリもところでクリア。一体何が起こったのか、大川には理解できなかった。だが、吉田は理解していた。

俺(タイヤが「熱ダレ」を起こしている。やばくなってきたかな。)

タイヤの熱ダレ。タイヤに負担を掛けるような走行(ドリフトなど)を続けることによっておきる現象のことだ。
タイヤのグリップ力が下がり、路面に食いつかなくなり、結果、コーナー時に車体が外側に滑るようになる。
この状態で車体を滑らせないようにするためには、速度を落とすしかない。
直線は互角、コーナーはスピードを出せずに失速、敗北。ストレートでもコーナーでも勝てない!絶体絶命――――ッ!!

俺「時間が無い。この一周でケリをつけろ!」
大川「えっ!?」

タイヤの熱ダレは、タイヤに負担を掛ければ掛けるほど進行していく。最終的には、タイヤは滑りっぱなし。空回りし、前へと進まない。

俺「そういうことだ。一周して、汐留JCTまでに勝負をつけろ」
大川「分かった。やってみる。」

芝公園2連続S字コーナーをクリア。鬼門の浜崎橋JCT〜汐留S字〜銀座区間、江戸橋JCTへ、満月の最終局面ッ!!!



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年11月28日 19:45:05  No.66033
I P:203.181.121.212
第6話 失う悲しみ 3

午前2時30分。煌びやかなビルが並んでいる中に、誰にも理解されることの無い光が二つ・・・。

大川「吉田君、この車・・・」
俺「動きが変わったな。」

タイヤが熱ダレを起こし、路面に食いつかなくなる。浜崎橋のコーナーをかなり低い速度で通過し、差は更に広がる。

中原「あのFD,ペースが落ちてるぜ。どーしたんだ?」

汐留S字コーナー。一番右の車線から、一気に左へ車体を回転させようとする・・・そして次は右にッ!
一瞬タイヤが空回りしたが、そのせいで速度が落ちたのでタイヤが路面を掴み、右へ旋回した。
またしても低速でのコーナリング。ハイエースは遙か彼方へ・・・。

中原「バックミラーに映らなくなっちまった。口ほどでもねえや・・・。」

一足先に銀座区間に入ったハイエース。続いてFD。
死ぬほどキツイS字コーナーをワンテンポ遅れてFDがクリア。

中原「ミラーにあいつのライトが見えた。差が縮まったかな。」

確かに差は縮まっている。大川の走り方が変わったからだ。アクセルを踏む時間が圧倒的に増えた。
とにかく加速、加速、加速・・・ッ!今の大川にはそれしか頭に無い。
よく言えば積極的だが、悪く言えば荒々しい。一言で言うならそういうドライビングだ。

中原「速いッ!やべぇヨ、ブチ切れやがった!」

一つ目の橋げたを、左はハイエース、右はFDでほぼ同時に通過。続く2つ目。大川のFDは外側に流れながらも橋げたの左側を通過。ハイエースは、FDとの接触を避けるために一瞬アクセルを抜いてしまった。
FDが前ッ!宝町ストレートで床が抜けるほどアクセルを踏み続ける大川、後方のハイエース、射程距離から外すまいと必死の追撃!

中原「くぅぉお!!やりやがったなァ!」

江戸橋JCT右コーナー。ギリギリまで加速を続け、コーナーを目いっぱい引きつけて、そこから思いっきりドリフト。
少しだけ壁にこすり付けてしまいながらも、初心者にしては見事なドリフトでコーナーをクリア!アクセルを踏み立ち上がる。
が、車体は前へ行こうとしない!ドリフトの状態から加速体制に移れないッ!横に滑るばかりッ!
隙を見てハイエースが追い抜く!大川はアクセルを一瞬抜いて姿勢を立て直し、タイヤを食いつかせ加速体制に入る。

中原「よっしゃァァ!」

俺「エンジンも熱ダレを起こしてきた。さっさとケリ付けないとマジでちぎられるぞ!」
大川「そんなこと言ったって・・・。」
俺「仕方ない。教えるか。この車に付けた、本当のリーサルウェポンッ!」



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年11月25日 20:57:00  No.66034
I P:203.181.121.212
大川「えっ!?」
俺「ハンドルのここ。このスイッチを押すと、このFDは400馬力から600馬力のマシンになる。ただし、600馬力で居られる時間はごく僅か。良くて5秒ッ!チャンスは一回きりッ!」

五秒間だけ。圧倒的に不利な状況を打開できるのはその5秒間だけ!
エンジンは熱ダレを起こし、400馬力あったパワーは実質的には350馬力といったところ。
呉服橋、神田橋、一ツ橋、前方のハイエースは離れていくばかり。大川の心に絶望という濁流が襲い掛かり始める!
だが、その濁流は一瞬にして消え去った。千鳥が淵のタイトコーナーで、ハイエースとの距離をかなり縮められたからだ。

中原「重たい車重がきやがったか・・・こっちもタイヤがタレてきた。決着は近いなッ!」

トンネルに入り、ストレートで差が開く。だが、その先にある3連続左コーナーでやはり追いつく。
そして次はそこそこのストレートを挟んだ3連続右コーナー。

大川(確か、この先に赤坂ストレートって言う長い直線があったような・・・)

中原「この3つのコーナーを抜けて、赤坂ストレートッ!そこでケリをつけるぜ!」

右コーナー2つ目!大川はイン側から抜こうとする!速度が下がり過ぎないように、速めにアクセルを踏み込み、コーナーを立ち上がる!
最後の右コーナー。右というよりかは右から始まる緩いS字コーナーといった方が良いだろう。その先のストレートが赤坂ストレート――――ッ!
そこに至るまでの直線で、ハイエースが再び前に出る!S字に突入!
ハイエースはブレーキを一瞬踏んで車体を曲げる『チョンブレ』を使って、右をクリア!対するFDは!?

中原「ブレーキを踏まない!?140,50は出てるぜ!死にたくねぇなら減速しろよ!」

大川「ブレーキは踏まないッ!次の左をアクセル全開で抜けて、5秒間だけの600馬力にすべてを賭けるッ!」

左コーナーで並び、長さ500メートルの赤坂ストレートへ突入!
FDのマフラーから白煙が出て、加速力が大幅に増加する!
速度は200キロに差し掛かろうとする!
残り250メートル、FDが前に踊り出る!車体の鼻先だけ前に!
200メートル、FDはハイエースを追い抜く!
150メートル、白煙は途切れ、600馬力の加速が終わる!
100メートル、一般車を押しのけながら、最後の加速!
50メートル、谷町JCTコーナーが迫る!
25、FDは速度250キロを記録!壁が迫る、迫るゥ!!
10、迫り来る壁のプレッシャー、耐えられるか――――ッ!
0!!

中原(ちィッ・・・、)

先にプレッシャーに負けたのは中原の方だった。最後の最後で臆してしまった。


中原 一志  ハイエース 失速――――


大川「後ろの車がいなくなっちゃった。」
俺「減速したんだ。何らかの理由で勝ち目は無いと判断したんだろうな。」

中原「俺は最後の最後で臆しちまった。臆病すぎた俺に勝ち目なんてねぇヨな・・・。」

大川「今回は私の勝ちネ。」
俺「勝ち負けつけるならナ。だけど、こういうのって勝ち負けじゃないから。」
大川「どういうこと?」
俺「あのストレートで、お前は最後まで(アクセルを)踏み切れた。で、向こうは踏み切れなかった。ただそれだけ。」


この場所は勝敗をつけるための決闘場じゃない

お互いが無言で語らい合うための

勇気と勇気をぶつけ合うための

そういう場所なんだ――――



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年11月27日 23:45:13  No.66035
I P:203.181.121.213
辰巳PA

一台のFDがパーキングエリアに入った。車を止めた後、特にすることも無いのでしばらく休憩することにした。

大川「ふぅーーっ。疲れたァ〜・・・」
俺「よくがんばったナ。まさかアレほどやるとは思っていなかったヨ。」
大川「あたしってサ、今どのくらい上手いの?」
俺「まだまだだヨ。中級者ってレベル。」
大川「ちぇ、どーせ吉田君には敵わないヨ。ま、これからもいろいろ教えてよネ。」
俺「・・・・・・」

俺は黙り込んでしまった。俺はコイツともう関わるつもりは無いからだ。俺がこれからやろうとしていることにコイツを巻き込むわけにはいかない。


ここから先は俺の問題

俺自身で解決しなければならない――――


大川「おーい、どーしたの?」
俺「あ、わりぃ。眠くなっちゃって。」
大川「あたしも眠い・・・。じゃ、このままここで寝ちゃお。」
俺「いや、家まで送ってくれヨ。そーゆー関係じゃないだろ。」
大川「はいはい。」

俺は自分のやろうとしていることを言おうかと戸惑ったが、結局言うことにした。

俺「一つ良いか。」
大川「何?」
俺「首都高では、今後一切お前とは関わらない。お前の隣に座らない。」
大川「えっ・・・」
俺「俺はこの先の夏休み中に、ケリをつけるべき相手がいる。俺一人の問題だから、あまり首を突っ込んで欲しくないんだ。それに、こんな戦いにお前を巻き込みたくない。分かるか。」
大川「じゃぁ、あたしはどうすれば良いの?誰に走りを教われば良いの?」
俺「脇坂とかからかな。とにかく、もう俺とお前は首都高では仲間じゃなくなったんだ・・・。」

その言葉を最後に、俺達の会話は途絶えた。朝日が昇るまで硬直した空気が続いていたが、やがて木場方面へと走り出した。
木場出口を降り、俺の家の前に着いた。無言の別れだった。
朝焼けに向って走るFDを俺は最後まで見送りながら、決意を固めた。


ここから先は一人で戦うことでしか分からない――――





Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年11月29日 08:53:27  No.66036
I P:203.181.121.212
第7話

7月20日。今日から学校は夏休みだ。この夏休みが終わるまでは、思う存分首都高を走りこめそうだ。

ということで首都高――――

俺は黒いFCで横羽線下りを走っていた。最終決戦へ向けて、セットアップをするためだ。

俺(久しぶりに横羽戦を走ったな。やはりここではあまり良くないか・・・。おそらくあいつとの戦いは、C1から湾岸まで、首都高全体を使ったバトルになるだろう。首都高のどこでも完璧に走れるセッティングじゃないと勝てはしなっ・・・あ、)

ガス欠だ。最後の部分が台無しだ。大黒ふ頭で降りて給油をする。FCに積まれているロータリーエンジンというエンジンは、他の車に比べて燃費が悪い。
この車が出来てから20年以上経った。その間に見事に時代に反する車になってしまった。
正直言うと、このエンジンは良いとは思わない。生活保護で得た金が、この車のチューンとガソリン代に消えてしまう。
燃費さえよければ、ゲーセンにでも行きたい。だけど・・・

俺(このエンジンは世界で一番速いエンジンなんだ。燃費は、速さを得るための代償。どんな世界でも強さを得るためにはリスクが付きまとう。)


そのリスクとどう向き合うか――――


俺(俺はリスクから目を離さな・・・)
田路「あっ、誰かと思えば!」

台無しだろーが!割り込んでくるなよ!

俺「な、何の用ですか?」
田路「いや、ここのところ、自分の走りに対して行き詰まりを感じてね。君の走りを助手席で見てみたいんだ。良いかな?」
俺「・・・。分かりました。じゃぁ、助手席に・・・」
田路「あ、出来れば僕のハチロクに乗って欲しいんだが・・・」

えっ!ハチロクゥ!!そんな車でどこを走れというんだ。大黒ふ頭からは湾岸線と横浜環状線が延びている。
湾岸線はとにかく直線ばかり。圧倒的な馬力勝負。横浜環状は、長い直線とコーナーがウザイ程難しい形で並んでいるので、直線で相手に離されない様な加速と高速域でのコーナーの性能、乗り手の腕が求められる。
そしてハチロクという車。
しょぼい馬力、コーナーの性能は良いが、それは低速域の話。高速域ではどうなのかは分からない。

田路「湾岸線を走れなんて言わない。横浜環状、横羽線を往復してくれないか。」

アホな事言うな!そんなショボイ車でまともに走れるわけあらへん。20年以上前に発売されたFCよりも古いねんぞ!
と、言いたい気分だ。だが、田路がどうしても言うので、仕方なく俺は引き受けた。

田路「馬力は400馬力まで上げた。赤坂ストレートで290キロを記録して、それが最高速度だ。」

横浜環状へ上がり、みなとみらい付近で3台の車がバトルしているところに遭遇した。

田路(バトルのようだな。このハチロクの本当のポテンシャルを見るチャンスだ!)



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年11月29日 14:23:47  No.66037
I P:203.181.121.212
前方を走る車はレガシィ、ランサーエボリューションV×2の3台。
馬力はこちらとほぼ同じだが、コーナーが恐ろしく下手糞だ。おそらく相手にもならないだろうが、

田路「頼む、ぶっちぎってくれ!コイツの本当のポテンシャルが見たいんだ!」

と言うので、仕方なくぶっちぎった。やっぱり大した事なかった。汐入付近でバックミラーから消えてしまった。

田路「すげぇ・・・俺の車ってこんなに速かったっけ・・・?」
俺「腕の差です。向こうがただ単にヘタなだけですヨ。」


レガシィの男「何だァあいつ!?ハチロク!?冗談じゃねぇよ!とにかく報告だ。」

男は携帯電話を取り出し、どこかに連絡した。

ランエボの男「町田さんッ!いま、横羽線なんですが、ものすごい速いハチロクに振り切られました!」
町田『何ィ!そんなハチロク聞いたことねぇぞ!一旦大黒ふ頭に戻れ。』

大黒ふ頭――――

町田は電話を切り、深いため息をついた。

町田「さっきいたあのハチロクじゃァねぇよな。アレはNon Powersの田路の車だ。横羽なんかじゃぁ話にならねぇ。」

そうつぶやいた時、男が一人こちらに近づいてくるのが見えた。町田の良きライバル、「スバリスターズ」のリーダー、城嶋 文弘だ。

城嶋「よう。町田ぁ。お前のチームのやつ、横羽線でハチロクに振り切られたそうだな。」

町田は舌打ちをし、どうせ隠してもばれる事だと思ったので正直に話した。

町田「ああ、そうだよ。悪ぃか?」
城嶋「実はな、俺のチームのやつもなんだよ。」
町田「ッ!?」
城嶋「いま、何人か偵察に行かせたけど、チームの下っ端たちじゃぁ相手にならないだろうな。」
町田「で、用件は何だ?」
城嶋「このままじゃぁ、寝覚めが悪い。今夜中にも、あのハチロクを撃墜しないか?」
町田「なるほど、同感だ。で、どうやって撃墜するんだ?」

二人は建物の隅に隠れ、作戦会議をした。会議が終わるなり車に乗ってどこかへ出かけてしまった。



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年11月30日 20:29:08  No.66038
I P:203.181.121.212
横羽線羽田トンネル

ハチロクは新たな敵と交戦していた。GD8インプレッサ×2、ランサーエボリューションW×2
スタートは馬力の差で前に出られてしまった。羽田トンネルを抜け、緩い右コーナーに差し掛かった。
目前に4台が固まってスローダウンしている。前方のトラックを避け切れなかったようだ。

俺「馬力はある。だが、一般車を避けるのはヘタだ。」

一気にごぼう抜きにし、次は同じくらい緩い左コーナー。アクセルは全開のままで、左足でブレーキをちょんちょんと踏む。「左足ブレーキ」だ。
速度の減少を最小限に抑え、平和島料金所まで続くストレートへ入る。

ランエボの男「そっちはハチロクだろ?コーナーでミスってもストレートで楽に前に行けるんだよ!」

4台に一気に抜き返される。少しずつ開いていく差。

田路「クッ!ハチロクじゃぁ無理もないな。」
俺「いえ、勝算はあります。かなり危なっかしいやり方ですが・・・」
田路「分かった。どんなやり方でも構わない。」

勝利のポイントは、この先の平和島料金所。4台はETCを搭載していてもある程度減速してくるはず。
こちらは相手よりもブレーキをかなり遅らせて料金所に突っ込む。それである程度相手よりも前に出れるはずだ。

インプレッサの男「この先は料金所だな。ある程度速度を落としておいたほうが良い。」

4台、ほぼ同時のブレーキ。すかさず吉田が反応!
相手より前に出たのを確認し、一気にブレーキを掛ける。だが、料金所との距離に対して、ブレーキを始める距離を詰めすぎた。止まれないッ!
そのとき、吉田はハンドルを左に切り、ドリフト走行を始める!

田路「つッ!・・・ドリフトか。これなら普通にブレーキを掛けるよりも制動距離は短くなる。それに、車体を斜めに向けることによって、相手の進路をブロックすることにもつながる。」

速度を十分に落とし、ETC専用のゲートを一番に通過。ランエボ2台、インプレッサ2台が続く。

ランエボの男「だからよぉ、ストレートでは俺の方が圧勝だろうが!」

すぐに1台のランエボに抜かれてしまう。右車線ハチロク、左車線ランエボ!
だが、次のコーナーは横羽線でトップレベルのきつさのコーナー。吉田は、以前田路とのバトルでトドメに使ったあの技を使う。




Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年11月30日 20:29:59  No.66039
I P:203.181.121.212
カツンッ!

ランエボにバンパープッシュ!だが、この技は今の相手にとってあまり有効な技ではない。
なぜなら、ランエボは4WDの車だからだ。
4WDとは、4つのタイヤをフルに使って加速することだ。これによる最大のメリットは安定性。まるで競走馬のように4つの足で路面を蹴る。
安定性が武器の車に対して何故その技を使うのか?それは、ドライバーの腕!!
バトル開始直後、4台はコーナーでトラックを避けきれずにスローダウンしてしまったのを覚えているだろうか。
吉田はそれを見てドライバーの腕を判断!結果、バンパープッシュと言う答えにたどり着いた。

ランエボの男「ウワァッ!」

ランエボの男は、操作をミスってスピン。続く3台もスピンするランエボを避け切れずにスローダウン。ハチロクの勝利!

田路「ま、また勝った・・・!ハチロクのポテンシャルはドライバー次第でここまで上がるのか・・・」

田路は改めて吉田と言うドライバーの凄さについて思い知らされたのだ。



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年12月01日 23:23:17  No.66040
I P:203.181.121.212
浜崎橋JCT

一台のZ33がゆっくりとC1を走っている。

白田「あー、今日もつまらん相手を撃墜してしまった・・・。ン?」

後ろから一台のハチロクがものすごい勢いでかっ飛ばしているのが見えた。バトルのようで、もう2台いる。

白田「あのハチロク、Non Powersの田路 悠木か?後ろは・・・GC8インプレッサとランサーエボリューションXか。」

この先は汐留S字。ここC1でかなりの難関の一つだ。一番右の車線から、一気に3台はドリフトに入る。
左コーナーでのドリフトなので、後方からは助手席が良く見える。

白田「田路 悠木!?じゃぁ、運転席に座っているのは誰だ?」

右コーナーのドリフトに入る。運転席にいた男は・・・

白田「なッ・・・!?」


俺「Z33が追って来ましたよ。」
田路「あぁ・・・あんた・・・ヤバイのを敵に回してしまった・・・勝てっこない・・・」
俺「あれは・・・」

吉田の目が変わる。田路は頭を抱える。後ろの2台はビビってスピン。あのZ33・・・


首都高7人衆 bO1 白田 京――――ッ!!


銀色の流線型のボディから強者のオーラがほとばしるッ!

俺「良い相手や。俺のプライドにかけて撃墜させてもらうッ!」

ハチロクからまるで妖気のようなオーラが、白田には見えた。

白田「お前ェェ・・・ッ!」

AE86、Z33 銀座区間突入――――ッ!

まずトンネル内のS字コーナー。先頭ハチロクは、相当派手に角度をつけてドリフト。Z33はブロックされて前に出れない。
トンネルを抜け、次のS字に向けての僅かなストレート。

白田「そっちが何馬力か知らねぇが、こっちは600馬力の車だ。25年以上前の車に出せるかァ!そんな馬力!」

一気に前に踊り出るZ33。さっきの仕返しと言わんばかりに、S字コーナーで派手などリフトを繰り出す。

ガツン!

丁度右から左に切り返そうとしたときだった。ハチロクはZ33に渾身のバンパープッシュ。Z33はバランスを崩す!

白田「クッ・・・!どおぉぉぉぉりゃァァァァァ!!!」

白田は何とか体勢を立て直した。だが、大幅に速度を落としてしまう。

白田「今のはねぇぜ・・・。相当上手いやつじゃないと立て直せない。狂気だぜ・・・。」

田路「今のはヘタしたら殺人になるぞ。」
俺「大丈夫ですよ。首都高7人衆の一人なんですよね。だったら・・・と思って。」

銀座区間後半、一つ目の橋げたへッ!



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年12月02日 22:13:35  No.66041
I P:203.181.121.211
橋げたの左をZ33、右をハチロクが通過。速度はほぼ同じで2つめへ!
2つ目の橋げたも、同じように通過。宝町ストレートの加速競争へ!

白田「お前はC1を選ぶよなァ!俺は新環状線だ!お前の不利な新環状線だ!ついて来れっかァ!?」

そのとき、前方にレガシィ、GD8インプレッサ、ランサーエボリューションX、Yの4台が。

田路「マズイ!この流れだと新環状線だ!戦線離脱してでもC1内回りへ・・・」
俺「田路さん。このハチロク、馬力いくつでしたっけ?」
田路「よ、400馬力。ブーストは1.0キロだったかな。」
俺「スクランブルブーストは?」
田路「一応つけた。450馬力のブースト1・5キロ。」
俺「なら、勝てますね。」
田路「オ、オイ!?」


江戸橋JCTより新環状線入り――――ッ!


田路「何やってるんだ!新環状線の一部は湾岸線だ!今度こそ勝てっこない!」

C1銀座区間付近、レインボーブリッジ、9号線、そして湾岸線。この4つの区間をつなげて新環状線と言う。
銀座区間付近は、これまで登場したようにタイトなコーナーが続くテクニカルコースだ。
レインボーブリッジと9号線はストレートが長くスピードが乗るので、高速域でのテクニックが鍵となる。
そして湾岸線。直線ばかりでコーナーが殆ど無い。特に新環状線で通る部分はひたすらのストレート。ここで鍵となるのは馬力!
日本で唯一、ゴムタイヤとアスファルトの路面に300キロオーバーの領域が許された公道、湾岸線。ただただ馬力がものを言う。

俺「確かに、普通に考えれば勝機はありません。ですが、宝町ストレートで一つの異変が起こりました。」
田路「異変?相手の車にトラブルでもあったのか?」
俺「いえ、4台の乱入です。恐らく、スバリスターズと首都高エボリューションズの車です。」
田路「それがどうしたんだ?」
俺「見てください。乱入した4台とZ33。」

言われるがままに見てみる。先頭からランエボY,X、GD8,レガシィ、Z33、そしてハチロク。
田路は何処かおかしいのに気が付いた。田路はあのZ33と何度かバトルした事がある。そのときに比べて、何処か動きが甘い。

田路「そうか!前にいる4台が邪魔になって、思うように前に出られない!」
俺「そうです。1台2台ならどうって事無いでしょうが、4台ともなるとライン(通り道)が相当制限されます。しかも、前を走っている4台は腕は確かですが、あのZ33よりもヘタです。」
田路「だけど、それだと俺達にも同じことが言えるぞ。どうやって前に出るつもりだ?」
俺「後で良い板金の店教えます、って言えば分かりますか?」
田路「それって・・・まさか・・・!?」



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年12月09日 20:48:41  No.66042
I P:203.181.121.212
第8話

田路「ヒィィィィ!!」

箱崎JCT手前の4車線左コーナー。まず、Z33にバンパープッシュ。Z33はバランスを崩し、一時的に道が開ける。

白田「のォォッ!またかァ!」

Z33の前に出るハチロク。箱崎JCT右コーナーまでの2車線の直線を、スクランブルブーストで一気に駆け抜ける。
先頭のランエボに並び、右コーナーに突入。吉田はハチロクのリアタイヤ(後輪)を思いっきり滑らせる。
迫り来るハチロクのリアタイヤにビビり、ランエボのドライバーはハンドル操作をミス!壁に激突しながらスピン!

白田「ギヤァァァ!!何やってんだよ下手糞ォ!!」

4台がZ33の進路を塞ぐダムのように立ちはだかる!車が通れるような隙間は無いッ!

白田「ファァァァァック!!」


白田 京 Z33 失速――――


ハチロクは、辰巳パーキングに停車し、エンジンを休めていた。恐らくこの先は、車もドライバーもベストな状態でないと切り抜けることは出来ない。
ということで、ハチロクの車内――――

田路「かんぱーい!!」
俺「イエーイ!!」

車内で二人で宴会。しかも吉田は高校生なのにビールを飲んでいる。

俺「ビールゥ!?だいじょーぶだいじょーぶ!!バレへんバレへん!!」
田路「ハチロク最高ーーー!!」
俺「イエーイ!!!!!!」

30分後・・・

俺「そいじゃぁ、・・・ヒック!・・・行きますね・・・」
田路「ヒック・・・おーけー・・・」
俺「湾岸線で大黒・・・ヒッ・・・埠頭まで行きま・・・ヒッ・・・すね。」

わずか30分で泥酔状態!辰巳PAから大黒ふ頭までは一箇所だけ料金所がある。この先のバトルよりもそっちの方が心配だ。



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年12月10日 23:18:50  No.66043
I P:203.181.121.213
首都高湾岸線 大黒ふ頭付近 路肩

城嶋「湾岸線に誘い込むまでに、だいぶやられてしまったナ。」
町田「だいぶどころか、全滅だろ。」
城嶋「ここまで来てくれるかな・・・」
町田「来てくれなきゃ困る。(ついでに城嶋ともケリをつけたいしな。)」

30分は待っただろうか。さっきから来るのは乗用車や夜行バスばかり。目標のハチロクは・・・

城嶋「来たァ!」
町田「何ィ!」

城嶋はスバルインプレッサGC8に、町田は三菱ランサーエボリューションWに乗り込み、ハチロクの後を追う。

俺「やはり来ました・・・ヒック・・・」
田路「バトルじゃぁ〜・・・ヒッ・・・」

酔い覚めやらぬままバトルに突入。料金所をどうやって抜けたのかなんて突っ込みはナシで・・・。
吉田は、直線ばかりの湾岸線を直進。いきなり相手の意表をつく。

城嶋「湾岸線・・・?横羽線と似た大黒線を選ぶかと思っていたが、意表を付こうという作戦か?」

酔ってるから、進路を間違えただけです。そんな事行ってる場合でもなく、湾岸線を選んでしまい、いきなり窮地へ落ちる吉田。
ライトアップの美しい横浜ベイブリッジで、馬力の差で余裕で追い抜かれる。
いや、追い抜かれたが、決して引き離されてはいない。スクランブルブーストだ。

町田「いきなりそれ使うかァ!」
城嶋「良いのかな?ハチロクのドライバーさん。この先は直線の多く、コーナーが少ない横浜環状と横羽線だぞ。」

先頭の城嶋は湾岸線から横浜環状線を選択。3車線プラス路肩の広い湾岸線から、2車線路肩無しの横浜環状。
上り勾配の後に、結構キツイ右ロングコーナー。湾岸線で相当速度が乗っているので、かなり手前からブレーキを掛けないと、壁にぶつかる。
3台はギリギリのレイト(遅い)ブレーキでコーナーに突っ込む。

城嶋「ほう・・・コーナーでのテクニックも悪くない。なかなかのハチロク乗りだな。」
町田「だが、車がな・・・。悪いが、そんな車じゃあ横羽線で本当に速いやつにはなれない。現に俺だって、横羽線最強じゃねーんだからな。」

町田の言うとおりだ。ハチロクは今はスクランブルブーストを解除して、400馬力。
対して、城嶋のインプレッサは500馬力強。町田のランエボに至っては600馬力オーバーだ。

田路「そんな馬力差を・・・ヒック・・・ひっくり返すことは・・・ヒッ・・・出来るのか?」
俺「フン。・・・ヒック・・・そんなネガな部分ばかり・・・ヒッ・・・にしか目が行かへんのか?馬力が何や?コースが何や?目前の事ばかりしか見えてへん。」


ずっとその先にあるものが見えてへん――――



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年12月13日 08:14:17  No.66044
I P:203.181.121.212
同時刻 辰巳PA

白田「大原、お前を呼んだのは他でもない。あの黒いFCに関する事だ。」
大原「ああ、アイツね。どーかしたのか?」
白田「あのFCとバトルした。」
大原「おっ、結果は?」
白田「お前今日は機嫌良いな。C1内回り汐留S字スタートで、9号線箱崎JCT付近でバンパープッシュで決着。」
大原「らしくねーな。お前がそんなの避けられない訳無いだろう。」
白田「首都高エボリューションの奴らとスバリスターズの奴らが乱入してきた。合計6台のバトルになったナ。」
大原「それにしても、一体なんでアイツがいるんだ?」

もちろん、白田は答えることが出来なかった。


首都高横羽線上り 汐入


あの3台のバトルは中盤戦に差し掛かろうとしていた。先頭から、城嶋インプレッサ、町田ランエボ、少し遅れて吉田ハチロク。

城嶋「なかなかやるな。横浜環状でここまで付いてくるとは・・・。」
町田「だが、横羽線の汐入付近は、横羽線の中でもかなりストレートが長く、多い。ここで一気に勝負をつける。」

田路「う〜、結構酔ったナ〜。離されんじゃね〜ゾ〜」
俺「わかってるヨ。直線多いからやばいナ。」

汐入から羽田付近までこのようなロングストレートが続く。その度に離されていく2台との距離。

城嶋「バックミラーから君の走りを見続けているが、ここまで離されているのにミスらない。」
町田「普通のやつなら追いつこうとあがいて、最終的にミスって事故るんだがな。酒でも飲んでんじゃねーのかァ!?」

大正解。まだアルコールが抜けないため酔っている。負けていると言うことは分かっていても、テンションが上がっているため全く動じない。
およそ100メートルほど差が付いた頃だろうか。大師河原付近。下りの車線には料金所がある辺りだ。
ここから横羽線は、微妙ながら表情を変える。長いストレートは少なくなり、緩いコーナーがちょくちょく出現するようになる。

城嶋「振り切れなかったナ・・・計算外だった。ここから先はキツイコーナーが多くなってくるから、なるべく差を広げたかったが・・・。」
町田「それにしてもよく付いてこれたナ!ここから先は3台の接近戦になりそうだゼ!」

多摩川を越え、東京都に入り最初のコーナー。羽田出口コーナーッ。
速度の割にコーナーがきついので、大体は思いっきりブレーキを踏む。
だが、ここで事態は急展開――――ッ
町田のランエボが城嶋のインプレッサに接近ッ!ぶつかる!

城嶋「町田・・・ミスったかァ!?寄るなァァ!!」
町田「フンッ・・・」

ギリギリのところで町田がコントロール!軽くバンパーを押すだけで済んだ。
城嶋のインプレッサは一瞬バランスを崩したが、すぐに立て直すことが出来た。だが、町田のランエボに一気に並ばれるッ!

町田「分かってるよなァ、城嶋。コイツは俺の宣戦布告だってナ―ー――ッ!」

仲間割れッ!2対1の変則マッチから1対1対1の三つ巴バトルにッ!
さらに、ハチロクはコーナーで有利の事を生かし、一気に2台の背後に着く。

城嶋「そうか・・・俺に対する宣戦布告だな・・・。良いだろう。お互い、長年直接対決はしてなかったからな!教えてやろうッ!首都高横羽線で最速なのは、ぽっと出のハチロクでもお前のランエボでもない、俺のインプレッサだってなァ――――ッ!」



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年12月16日 22:38:17  No.66045
I P:203.181.121.212
そこそこの長いストレート。そして、東京モノレールを右手に、空港西左コーナー。
3台の見事なドリフト。順位は入れ替わらずにトンネルへ。
さらにトンネルを抜け、昭和島JCT、平和島料金所、鈴ヶ森・・・

城嶋「勝負がもつれてきたな。このまま行くと、一番馬力の差が少なくなるC1銀座区間は避けられない。勝負はそこで付くか・・・?」
町田「やるな、城嶋。やはり俺のライバルは峠時代からお前しかいない。だが、それは予想されていたことだ。俺が一番警戒すべきは・・・!」

もしこのバトルが城嶋と町田の2台だけならば、バトルは朝まで続き、バトルどころではなくなるため、タイムアップで引き分けだろう。
だが、今回は珍しい客人がいる。僅か400馬力の吉田操るハチロクだ。単にそこにいるから脅威なのではない。ピタリと食いついているから脅威なのだ!
幼い頃、鬼ごっこなどで逃げる役のときに、鬼に長い間追い掛け回された事はないだろうか。
自分は全力で走っているのに、いくら逃げても鬼は離れない。そうなると、自分より鬼の方が速い様な錯覚に陥る。
それと同じ心理が、城嶋や町田の心にあるのだ。

城嶋「銀座区間は避けられない。俺とハチロクのみのバトルなら、9号線から湾岸線の進路を選ぶだろう。だが、湾岸線では400馬力のハチロクはチギれても600馬力のランエボにチギられる。ならば、江戸橋JCTでC1内回りだッ!」

城嶋と町田は、ハチロクの激しいプレッシャーに耐えつつ、一つ一つのコーナーをクリアしていく。
昭和島JCT付近で別れた東京モノレールが、右側に並んでいる。横羽線はもう僅かッ!!

田路「もうすぐC1銀座区間だな・・・ヒック・・・」
俺「かなりの腕です・・・ヒック、田路さん、ちょっと本気出しますんで、しっかり掴まっててくださ、ヒック、い。」

吉田の目が一気に変わる。とはいえ、まだ酔いは醒めていないのだが・・・。

俺「ほな行くで――――ッ!ヒック・・・!」
田路「台無しだ・・・」

日本航空本社前左コーナー(分かりづらい・・・)。天王洲アイル駅右コーナー、抜ければその先には浜崎橋JCT。

C1内回り 銀座区間――――ッ!!

俺「来た来たァーーーッ!!ここで一気に、ヒック」
田路「あぁ、また・・・」



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年12月17日 19:21:19  No.66046
I P:203.181.121.212
第9話

車線が3つに増え、周囲のビルの高さも高くなってきた。
まずは、銀座区間の入口ともいえる汐留S字コーナー。ここまで幾度と無く通ってきたコーナーなので、ほぼベストなライン(通り道)でクリアできた。

田路「ヒイィィィィィィ!!」

酔っ払っている田路には申し訳ないが、耐えてもらうしかない。
短いトンネル内の結構急なS字コーナー。さっきの汐留S字に続いてベストラインでクリア。
町田はトンネル内S字の二つ目でミス!

町田「しまった、『アンダーステア』だッ!」
城嶋「コーナーの半径に対して、進入速度が速すぎたな。それが原因でズルズルと外側の壁に車が滑っていく。それがアンダーステアだ。(たぶん)対処方法は、速度を相当落とすしかない。だがその間に、ホラ、抜かれてしまう。」

吉田のハチロクが、町田のランエボの隙を突いて、コーナーの内側から抜いた!

城嶋「馬力を上げすぎだ。町田。その溢れる様な馬力は、こういうタイトなコーナーで裏目に出る。さっきのようにナ。峠時代から言っているだろう。馬力だけが速さじゃないとナァ!!」
町田「ちょっとミスっちまった・・・だが、このままってワケには行かない。この溢れるような馬力をしっかり制御し切れてこそ、俺は真の上級者になれると考えている。峠時代から言っているだろう。リスクから目を離してはならないとナァ!!」

俺「弱いナ・・・ヒック、あんなつまらんミスするなんて。たぶん、後方からの、ヒック、プレッシャーに負けてそないなミスする、ヒック、んやろう。ヒック、こういう勝負は精神力や!性能、ドライバーの腕はあって当然。それと+αの揺るぎの無い精神力が、最後の最後で勝敗を分けるんヤ!!」

浜崎橋JCTから数えて3つ目のS字コーナー。3台ともほぼ同じラインでクリア。僅かなストレートを挟み、いよいよ一つ目の橋げたへ。



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年12月20日 20:49:22  No.66047
I P:203.181.121.212
一つ目の橋げたの前に、緩い左コーナーが存在する。城嶋インプレッサ、吉田ハチロクはアクセルを少し緩める程度で難なくクリア。
だが、町田ランエボは、またしてもアンダーステアを発生。大幅な減速を強いられる。

町田「ッ・・・!タイヤが熱ダレを起こし始めた!何としてでも前に出て、コーナーの少ない湾岸線に持ち込まねーとナ。」

一つ目の橋げたをインプレッサ、ハチロク、ランエボの順に通過し、最難関にして銀座区間最後の部分、二つ目の橋げたへ。
二つ目の橋げたの前には、山なりの勾配の付いたS字コーナーがある。最初の左は上りの左コーナーなので、ある程度スピードを乗せてクリア出来るが、次の右・下りは手前のコーナーでスピードを乗せすぎると、外側の壁にぶつかる。

俺「んな事最初の方に言うてなかったか?まぁ、ええけど・・・」

城嶋「もらったァ!このコーナーはこれほどスピードを乗せてしまったら、次の橋げたは外側を抜けるしか選択肢は無くなる。減速して無理矢理内側に飛び込んでも、馬力の差で一気に突き放せる!」

この橋げたをクリアすれば、C1内回りでかなり長いストレート、宝町ストレートが待っている。城嶋はここで一気に突き放す作戦しか頭に無かった。

俺「悪ぃナ。インプレッサのアンタ。次のストレートで突き放すのはこの俺や――――ッ!」

左・上りコーナーでインプレッサに強烈なバンパープッシュ!一気にバランスを失い、かなり減速してしまった。
その間に、ハチロクは余裕で追い抜いた。スクランブルブーストで450馬力に上がったハチロクは、最新鋭戦闘機のような2台を(最新じゃないけど)一気に突き放す・・・ハズが――――ッ!?

俺「嘘やろォ――――ッ!!」

ランエボとインプレッサが怒涛の大追撃!!その2台もスクランブルブーストを使ってきたのだ!!
ランエボは800馬力に、インプレッサは700馬力にハネ上がり、450馬力のハチロクの加速は全くの役立たずッ!!
だがそこで、『一人』の不確定要素が動き出す!!
ハチロクの車内で、風を切る音ば突然激しくなる。助手席側の窓が開いている。田路だ――――ッ!!

田路「おえぇぇぇぇ・・・」

田路は窓からゲr・・・嘔吐物を発射。すぐ後ろのインプレッサの窓にかかる!しつこいながらも、田路はまだ酔いが醒めていないことを補足しておきます。

城嶋「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??これアリィ!?」

前方が見えなくなり、パニックになった城嶋はハンドル操作をミスり、トラックと接触!!
町田はトラックと接触したインプレッサを避けきれずに、スピン(車が回転すること)で自車への被害を最小限に食い止めようとする。

俺「・・・なんか微妙な勝ち方やな・・・」



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年12月21日 19:41:15  No.66048
I P:203.181.121.211
もう後ろから追って来る事はなさそうなので、俺のFCを置いてある大黒ふ頭PAで下ろすことにした。

俺「田路さん、着きましたよ。」
田路「うぅぅぅ〜・・・」

どうしようもないので、このまま放置して家に帰ることにした。
FCに乗り、PAの出口に向う途中に、誰かがこちらを見ているような気がした。「車が走ってるナ〜」なんていう目じゃない。もっと別の・・・

大原「やはり、アイツのFCだったか。」


辰巳PA――――

城嶋「クッ・・・ダメだったか・・・」
町田「チームのメンツ丸潰れじゃねーかァ!クソッタレ!!」

町田がランエボのホイールを思いっきり蹴飛ばした。蹴飛ばしても何にもならないんだが・・・

城嶋「それにしても、あのハチロクに乗っていたドライバーは何者なんだ?」
町田「知るかよ!!クッソ、絶対ェー勝てると思ったのに!!」
?「そういう考えはいけない。」

二人の話を他所で聞いているものが居た。二人とも、その男は顔も名前も知っている。

城嶋「首都高7人衆 浅原 昌一――――ッ!!」
浅原「絶対勝てる?アマいナ。この場所はそもそも勝ち負けの世界じゃねェ。なんて言うかナ・・・」


ケンカのための場所なんだよ――――


浅原「俺の表現力や語彙が豊かじゃないからかもしれないが、とにかく、言葉じゃ言い表せない世界。勝ち負けじゃなく、言うとするなら撃墜(オト)す。そういうことに気付かないからお前らは撃墜(オト)されたんだ。」


お前らは目の前しか見えちゃいない

目の前の出来事に潜むものが見えていない

お前ら自身が見ようとしないからだ――――


言葉を失った。目の前しか見えていなかったと後悔した。
そのとき、3人は何かが近づいてくる気配がした。城嶋と町田は、どこかで感じたことのある気配だった。
辰巳PAの横の9号線を黒いFCが通っていった。

城嶋「あいつは・・・」
町田「間違いねぇ!アイツがさっきのハチロクのドライバーです!」
浅原「――――ッ!」

午前4時。城嶋と町田は帰ったが、浅原だけはまだそこに居た。

浅原(俺の幻覚か・・・?あのFC、あの男・・・)



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年12月24日 23:51:10  No.66049
I P:203.181.121.211
第10話

8月2日 午前3時30分
辰巳PA

駐車場の一角に走り屋の車がずらりと並んでいる。2つのチームの車が向き合うように並び、それぞれのチームのリーダーらしき者が話し合っている。
一人は石田 治。「白刃」というチームのリーダー。
もう一方は鈴木 正義。「ロータリーセブン」のリーダー。

鈴木「こちらの勝ちのようですネ。」
石田「クッ・・・!」
鈴木「じゃ、約束どおり、今回のバトルの打ち上げはそちらの負担で(笑)」

チーム同士のバトルの後のようだ。結果は、白刃7戦1勝、ロータリーセブン7戦6勝。ロータリーセブンの圧勝。


8月5日 辰巳PA

一人の男が駐車場の出口付近で車を止めていた。白いFC、「白刃」リーダーの石田だ。

石田(ここ最近、うちのチームの戦績が悪い。俺個人の戦績も悪いな・・・。とりあえず、俺だけでも強くならなきゃナ。そのために、俺は一台の車を待っている。最近噂の黒いFC。車が同じなら、勝敗を左右するのはチューン(改造)のレベルとドライバーの腕。俺は自分がどのくらい強いのか知りたい!さぁ、来てくれッ!黒いFCッ!)

願う石田に獲物がやってきたッ!黒いFC、吉田耕一ッ!

石田「来たァ!!待ってたぜ、黒いFCッ!俺の力量を教えてくれッ!」

辰巳PAより湾岸線西行き入り――――

石田は黒いFCの後方に付き、パッシング(ライトを点滅させて、宣戦布告をすること)をした。黒いFCはそれに応えて加速を始めた。
加速する2台。速度は一気に200キロオーバーへ!

石田「次の有明JCTで台場線に乗り換えるだろう。そのあたりは俺の縄張りだからナ。覚悟しとけヨォ!」

一般車が多いせいであまり速度が乗らない。右に左にスラローム(一般車を避けること・・・だと思う。)していく2台。
吉田の黒いFCは石田の予測どおり台場線へ・・・と思わせて、ギリギリで進路を変更し、湾岸線を直進した!

吉田「このフェイント、効くかナ?」

石田「マ、マジかァ!そんなムチャなフェイントするのはお前くらいだぜ!だけどナ、この湾岸線の一部も俺の縄張りなんだヨ!ぶっちぎれると思うなヨォ!」

一気に100キロまで減速した速度が、ほんの僅かの時間で200キロオーバーに回復。一般車がいなければ250キロは軽くオーバーしているだろう。
2台は東京港トンネルに突入。このトンネルを抜ければ、直後に湾岸最大のコーナー、大井コーナーがある。さらに、多いコーナーの左側に分岐があり、横羽線の上りとつながっている。通称大井Uターン。

吉田「ここで湾岸線を直進すれば確実に勝てるだろう。だけど、俺はそっちには行かない。後ろのFCから聞こえる・・・俺はその声に応えるだけだッ!」

吉田は有利な要素を捨てて、大井Uターンへッ!

石田「そっちを選んでくれたか・・・有難うッ!」



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2009年12月26日 17:51:38  No.66050
I P:203.181.121.211
大井Uターンより横羽線上り入り――――

湾岸線を200キロ級でスラロームしていたのが、僅か500メートルの大井Uターンで一気に100キロ台のスラロームになる。
僅か500メートルで狂う感覚。この狂いに苛立つ者はミスを犯す。耐え抜いたものが感覚を取り戻し、続くC1で事故らずにクリアできる。

石田「だがアイツは、感覚が狂っていない!いや、一瞬で横羽線の感覚に切り替えた。という方が正しいか・・・?」

右に見える東京モノレールとしばらく並走し、分かれるとまもなくC1だ。

石田「う、うまい・・・テクニックだとかそんなんじゃなく、周りに対する気配り。つまり、一般車を避けるのが上手すぎる。およそ80キロで走行する一般車が、倍以上の速さで真横を通過しようとする車をバックミラーから見たら、一瞬でビビりが入って避ける。だが、アイツは一般車にビビりを入れさせない。気付いたときには前方に・・・。なるほど、黒々とした外見の割には優しいんだナ。」

石田は、相手との格の違いを思い知らされ、アクセルを抜きドロップアウトした。



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2010年01月05日 17:54:41  No.66051
I P:203.181.121.211
辰巳PA

石田は駐車場に入り、さっきの黒いFCがいないかどうか見渡してみた。居た!!
車体だけでなく、外装系の全てのパーツまでもが真っ黒なFC。間違いなくさっきのFCだ。
石田はそのFCに近づき、ドライバーがいるかどうか確認した。ドライバーは中で寝ているようだ。
窓を軽くノックし、そのドライバーと話をしようとした。

石田「お休み中すまないんだが、ちょっと話を聞いてくれないか?」
吉田「あなたは?」
石田「あぁ、自己紹介が遅れたな。俺は石田 治。『白刃』と言うチームのリーダーだ。さっき、君のFCとバトルしたと思うんだが・・・」
吉田「あぁ、あの白いFCの・・・それで、用件は何でしょう?」
石田「早速で悪いんだが、俺のFCに乗ってくれないか?」
吉田「えっ・・・何故・・・ですか?」
石田「最近、俺のFCが乗りこなせなくなってきたんだ。俺のFCに何か問題が無いか、第三者の目で見て欲しいんだ。あと、ついでに、来週、『ロータリーセブン』と言うチームにリベンジマッチを仕掛けるつもりなんだが、良かったら、それにも出てもらいたいなと。」
吉田「構いませんが、僕はこの通り左腕がありません。」
石田「何ィ!?マジかよ・・・」
吉田「シフトレバーの操作はそちらにお任せします。」

石田のFCは、ボディーカラーは白、リアスポイラーはGTウイングとは違う形をしている。馬力は450馬力。最高速度は280キロ。
とりあえず、新環状線ルートで一周し様子を見ることにした。この性能では、新環状線あたりが一番上手く走れるだろうと思ったからである。

俺(何だ?これ?)
石田「上手いナ。弘法筆を選らばずってかァ?」
俺「いえ、これは僕の腕ではありません。石田さん・・・でしたよね。良くここまで仕上げましたネ。」
石田「君ほどではないヨ。この車は中古で50万+チューニング代500万てトコ。君は?」
俺「えっと〜、覚えてナイ・・・」

湾岸線からレインボーブリッジ。吉田は自分のFCとは違うある異変に気付いた。

俺(加速が・・・鈍い。)

原因は分からない。馬力のせいなのかもしれないが、450馬力にしては加速がトロい。
自分のFCでは、レインボーブリッジで230キロほどがベストだ。だが、このFCは200キロ・・・ギリギリ行かない。

俺「このFC、加速が・・・」
石田「加速?加速がどうかしたか?」
俺「このFC、ボディ補強などはどうしてますか?」
石田「ボディ補強?ロールケージ(車体を支えるパイプ)とか入れてるゼ。」
俺「最後に手を入れたのは?」
石田「うーん、覚えてないナ。最近は金がないからメンテもロクに行ってないと思う。」

それだ。原因は車体。恐らく数年間は手を入れていない。長い間、ロクに手を入れていなかったボディはヤレて(劣化して)、エンジンの持つ馬力をしっかりと路面に伝え切れていない。パワー(馬力)が逃げている。と、表現するようだ。
ボディと言えば、あの人しかいない。

首都高7人衆 春川 正――――

江戸橋JCT。黒いポルシェが合流してきた。春川の車だ。

俺「丁度良いタイミングで来ましたよ。このFC、見てもらいましょうか。実戦で――――」



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2010年01月10日 18:57:37  No.66052
I P:203.181.121.211
箱崎JCTの左コーナーを2台がドリフトでクリア。続いて右を、一般車を避けながら難なくクリア。
アクセルを踏んで2台が加速を始める!

俺(ここからだ。加速の鈍くなったFCと、化け物のような加速力を誇るポルシェ911。こっちの方が圧倒的に不利だ。)

春川「逃さない。」

加速力の差で一瞬にして順位が入れ替わる。差はどんどん広がっていく。
次に緩い右コーナーで、差の広がりは一瞬収まるが、再び加速力の差を見せ付けられる。離れてゆくッ!!

春川「話にならない。そんなヤレ切ったボディではマトモな加速が出来るはずがナイ。」

勝負は辰巳JCTに入る前についた。黒いポルシェは一気に前方へ消え失せた。

俺「完敗ですね。これじゃァ仕方ありません。」

辰巳PAに入り車を停めた。黒いポルシェの真横だ。

春川「君には前に会っているよネ。」
俺「ええ。凄いですね。プロのボディ屋の作る車体は。」
春川「いや、ポルシェそのものの力だ。ポルシェっていうのは、他の車よりも良いボディだからな。修理するのも大変なんだがナ。」
俺「早速質問なんですが、この白いFC、どうでしたか?」
春川「・・・はっきりいって、ダメだな。ヤレきってしまって、全く馬力を路面に伝え切れていない。約1割は馬力をロスしてしまっている。」
石田「ど、どうにかなりますか?」
春川「なりますよ。しかも、元通り、なんてケチな事は言いません。それなりの金を払ってくれれば、本来の馬力よりも馬力が多く感じられるボディに仕上げることが出来ます。」
石田「金・・・かぁ・・・金無いんだよナ、俺・・・」
春川「そうですか。ではこうしましょう。選択肢は二つ。一つは、金は取らないが、金額以上の何かを見せる。もう一つは、借金をしてでも金を払い、俺は全ての責任を背負ってボディを作る。与えられるものは同じ。さぁ、どうしますか?」
石田「う〜ん・・・金は払いたくないナ・・・前者でお願いします。」
春川「金額以上の物を見せる、と?」
石田「はい。」



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2010年07月08日 22:38:19  No.66053
I P:59.143.94.178
第11話  硬くしなやかに――

春川ボディワークス――――

春川は予想以上に傷んでいるFCの車体に苦戦していた。基本的な補強はされているのだが、ここまでヤレてしまえばそんなのは役立たずだ。

石田『これ以上ヤレない程度の補強で十分です。』

石田が春川にした注文だ。

春川「気に入らねぇナ、その考え方・・・」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

俺が10歳の頃。この世界を知ったとき、ボディ補強なんてものはちっとも注目されていなかった。
車を買ってチューニング、数年走ってボディがヤレたら新車のものと交換。元のボディはゴミ扱い。
18歳。中古で一番安かったが、憧れのポルシェを購入。バイトの金のほとんどをチューニングにつぎ込む生活が始まった。
そのとき、ボディ補強は必須チューニングの一部となっていたが、俺はボディごときで車が変わるワケは無い。
と、否定していた。金銭的にも、馬力を上げるだけで精一杯だった。
首都高を走り始めておよそ3年、転機の時が訪れた。一人の走り屋による圧倒的な敗北。
当事首都高7人衆であった男、大原 清。
チューニングも、腕も、全てにおいて負けた。
二度と負けまい。
俺はそれまでの倍仕事を増やし、倍の金をもらい、今までの倍のチューニングも施した。当然腕だって磨きなおした。
そして再び、ヤツと戦った。今回は間違いなく勝てる。そう確信していた。
得意のC1外回り汐留S字コーナー。一気に勝負に出た俺。

俺『一般車なし!コンディションも順調!一気に勝負に出れる!この勝負、もらったァ!!』

ベストなライン、速度。ヤツのGTRのランプがバックミラー越しに遠ざかるッ!
ここから一気に加速。ポルシェの真骨頂、立ち上がりの加速で一気に突き放す!・・・ハズがッ!
内側に並ばれ、いとも簡単に追い抜かれた!?

俺『何故だ!?ポルシェの加速が、ヤワな国産車ごときに負けたァ!?』

浜崎橋JCTを右へ。C1外回り――――

俺は愚かだった。一度抜かれた程度で焦っていた。ムリな速度でコーナーに侵入。当然曲がれるワケ無い。

ガッシャァァァァァン!!!




Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2010年07月08日 22:39:14  No.66054
I P:59.143.94.178
気付けば俺は、病院のベッドにいた。見舞いに来た大原の言葉が、俺をボディ補強の世界に誘った。

大原『車の気持ちを考えろ。』

敗因は、当事の俺のボディ補強に対する知識の無さだった。
必要最低限の補強していなかった車体は、走り続けていく中でヤレていき、エンジンの馬力を受け止める力を失っていた。
ヤレたボディは加速が鈍る。
そして、敗因以上に感じたことがあった。

大原『ポルシェのボディに助けられたな。』

ポルシェという車は元々剛性が良いらしい。元々の剛性+必要最低限の補強。
いくらヤレているとはいえど、ドライバーを守りきる力はあったようだ。
ポルシェに助けられて俺は生き残ったのだ。


初めて知った、ボディ補強による速さ――――

そして救われる命――――


大原『お前のポルシェは俺のガレージにある。退院したら一番に来い。』

数ヵ月後、無事退院し、大原の言う場所へ直行した。
ガレージの中には大原のGT―Rと、恐らく走り屋以外の活動で使っているのだろうが、4人乗りのベンツが1台。
その他、さまざまな整備道具。
一番奥に、カバーをかけられた車がある。中身を開けなくても分かる。俺のポルシェだ。
カバーを外した。割れたガラス、凹んだボディ、骨組みまで見えている部分もある。
事故った時のまんまだった。
体中に走る悲しみ、寒気、痛くも無いのに、何処かが痛んでいるような気がした。

大原『そいつはもうダメだ。いくら悔やんでも直らねぇよ。』
俺『・・・・・・ッ・・・・・・』
大原『ん?何て?』
俺『もう一度・・・・・・もう一度、この車で走りますッ!』
大原『直らねぇって。』
俺『直して見せますッ!』
大原『・・・・・・』

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2010年07月08日 22:41:17  No.66055
I P:59.143.94.178

午前3時 湾岸線空港北トンネル

石田は吉川のFCで走っていた。

春川『対鈴木正義用のFCを造るには、このFCはかなり参考になると思う。三日間で良い。乗ってみろ。』

自分のFCとのあまりの違いに驚きを隠せない。ボディ補強や軽量化でここまで変わるものなのか!?
湾岸線、横羽線、新環状線、C1、更に箱根の峠やいろは坂まで走ってみたが、全てのコースでしっくり来る。
どこまでも加速し、どこまでも旋回出来る。
これが同じFCかァ!?

三日後 春川ボディワークス

どうやら作業は全て終わったようだ。カバーを外し、新生・FC3Sが現る!

春川「吉田のものと同じ、オールカーボン化による軽量化、競技仕様のスペシャルパーツを装着。絶対に文句が出ないように仕上げた。」
石田「そこまでしなくても。」
春川「俺からのサービスだと思ってくれ。まずは、新生FCの挙動に慣れてもらう。新環状線を2周しよう。俺はポルシェで追走する。」
石田「了解です。」

午前1時 新環状線右回り 辰巳PAよりFC、ポルシェスタート――――

二人は同時にアクセルを全開まで踏み込んだ。80キロから一気に150キロオーバー、200キロ・・・

石田「なッ、何なんだ?この加速感ッ!速過ぎて恐怖心すら感じるほどだッ!」

石田のFCの挙動は少しばかり危うく見えたが、今までより乗れているのは確かだ。
ある事故により片目を失ってしまったため、遠近感がつかめなくなってしまい、一般車を避けることは最も苦手な分野だったが、
生まれ変わったFCでは見違えるようにきれいに避けている。
有明JCTより台場線へ
コーナーできれいなドリフトを決め、レインボーブリッジに差し掛かる。
今までではレインボーブリッジ直後のコーナーまで215キロがベストだった。それが今・・・

石田「レインボーブリッジ中間地点!215キロ・・・220・・・225・・・ッ!」

229キロを記録してコーナーへ突入。これほどの速度でも外側に流されること無くクリア。
浜崎橋JCTからC1内回り、銀座区間へ
まず汐留S字。やはりドリフトできれいに弧を描く。S字後半のコーナーを立ち上がり、一気に加速ッ!
タイヤは路面をがっちり掴み、ボディは馬力を逃がさない。

石田「ま・・・まるでワープのようだ・・・加速するとき、真っ直ぐに線を描くのではなく、点と点をワープするように一気に加速する。
まるで戦闘機のようだッ・・・!!」

トンネル内のS字、銀座出口付近のS字、二つの橋げた・・・今までの動きがゴミのように思えてくる。
2台の戦闘機は軽快な動きで次々とコーナーをクリアしていった。

春川「すげぇ・・・予想以上の腕だ。何度かFCに乗ったことがあるが、そのときは時代遅れのゴミ車のように思っていた。
馬力に負けてきしむ車体、高速域でタイヤが地面に付かなくなるような感覚、コーナーでも直線でも不安定・・・。
それが、アレは何だ?あの軽快感、ワープするような加速、馬力を一瞬も逃がさず、タイヤは路面を常に後ろに蹴り飛ばす。
手を入れた俺でもワケが分からねぇ!」



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2010年07月08日 22:44:15  No.66056
I P:59.143.94.178
銀座区間を抜け、江戸橋JCTまでの長いストレートで更に一気に加速する。

石田「チューンドカーは地上の戦闘機って何処かで聞いた事があるが、まさしくその通りだ。
これほどまでにそのことを感じたことは無いッ!」


気持ちが高ぶる。抑えきれない。ペース配分度外視。

思わず笑みがこぼれるほどの軽快感――――


春川「ブレーキを踏めェ!!壁にぶつかるぞ!石田ァ!!」

石田「ハッ!!」

ガッシャァァン・・・

気持ちが高ぶりすぎて目の前のコーナーに気付かなかった。壁をぶち破らんばかりの勢いで突入。
石田のFCは思いっきりクラッシュしてしまった。何とか走り続け、一番近い箱崎出口で降り、息絶えたようにFCは止まった。

春川「石田ッ!大丈夫か!」
石田「ふぅ・・・。大丈夫、生きてますヨ。」
春川「無茶しやがって・・・馬鹿野郎が・・・」
石田「潰してしまいましたね、FC。でも、今とても清々しい。全力を出し切った勝負の後のような。
しばらくこのままにさせてください。もう少しこの気持ちに浸っていたいんです。」
春川「いや・・・ムリ・・・」



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2010年07月08日 22:48:33  No.66057
I P:59.143.94.178
第12話 失われた光

午前1時 芝浦PA

鈴木正義の黄色いFDの隣に黒いポルシェが止まった。春川のポルシェなのだが、乗っているのは石田だ。
潰してしまったFCをまたしばらく預けてもらっているからだ。

鈴木「今日はどうしたんですか?FCは諦めて今度はポルシェで勝負ですか?」
石田「いや、FCは今ある店に預けてある。」
鈴木「チューニングですか?いまさらあんな車に何やったってムダだと思いますけど?」
石田「イラつくわァ〜お前。イラついたから来週の水曜バトルだ。チーム全員で総力戦と行こう。」
鈴木「またですか?ま、今度もこっちの勝ちでしょうけど。」
石田「それだけ伝えに来た。じゃあナ。」

石田はポルシェに乗り込み、高速へ出た。なんだか、さっきの会話からイライラする感情がこみ上げてきた。
怒りをかき消すかのようにポルシェを疾走させる。
ただ疾走するだけでなく、意味も無く派手なドリフトをしたり、意味も無く一般車を煽ったりした。


何をやってもムダ――――


石田「クソッ!嫌な過去が蘇って来やがるッ!」


「な、何故俺がレーサーを諦めなければならないんですかッ!?」


俺の目が両目とも見えていたら間違いなくレーサーになっていた。片目が見えなくなったのは運命のいたずらとしか言い様が無い。
中学の頃、誰かがふざけあっていて窓ガラスを割ってしまった。物音で振り向いたとき、そのときから俺の左目は光を失った。

石田「一生恨むぜ。名も知らぬ同級生よ・・・」


春川ボディーワークス――――

春川「それじゃ、このFCの試走、頼んだぞ。」
吉田「分かりました。」

石田の白いFCの吉田が乗り、最後の大詰めにかかる。




Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2010年07月08日 22:49:47  No.66058
I P:59.143.94.178
9号線 湾岸線方面――――


辰巳PAへかっ飛ばしている石田は、バックミラーに何かを見た。

石田「――――ッ!後ろから何か来るッ!」

恐ろしい速さでこちらに追いついてくる1台が現れた。

石田「物凄く、速い――――ッ!」

追いついてきたのは吉田が試走しているFCだ。2車線の狭い9号線を250キロ以上で走っている。
石田もポルシェに鞭打つ。加速性能の差で追いつくことは出来たが、一般車に阻まれ、追い抜くに至らず。

石田「このまま行けば湾岸線だ。性能の差でこっちが勝てるはずだ。」

辰巳JCTを右に曲がり、湾岸線を神奈川方面へッ!

吉田「いくぜ、湾岸線300キロ、GO――――ッ!」

加速して行く2台。一般車が少し多めだが、何処かで台数が減る場所(オールクリア)があるはずだ。
その瞬間を虎視眈々と狙い、大台300km/hの領域へ踏み込む。

石田「一般車の台数が減りつつある。オールクエリアは近い!」

250キロ以上の速度で一般車たちを縫う。台数が減るにつれて260,270と、巡航速度は上がっていく。
メーター達がエンジンの悲鳴を目で伝えてくれる。
有明JCTを過ぎ、海底トンネルのおよそ1キロほど手前、視界に一般車が消える。

吉田「オールクリア――――ッ!!」

後方へのGが一気に上昇する。前方の光景は襲い掛かる速度を増す。エンジンの甲高いロングトーンは、加速の終わりを告げようとしている。

石田「300キロ・・・到達ッ!――――!!馬鹿なッ!」

白いFCはこのポルシェのスピードに追いついてきた。間違いなく300キロ以上出ている。
しかし、一瞬ポルシェの前に出た直後に失速してしまった。エンジンブローを恐れて、アクセルを抜いたのだ。

吉田「ロータリーエンジンをチューニングする上での一番の問題点はこの脆さだ。俺のFCもどうにかしないとナ。」



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2010年07月08日 22:50:42  No.66059
I P:59.143.94.178
ポルシェが先に海底トンネルに入り、FCが速度を緩めながら続く。バトルが終了したことを確認した石田は、辰巳PAに戻った。
辰巳PAでは、チームの何人かが休息を取っていた。石田はそのうちの一人、副リーダーの原 桐子に話しかけた。
彼女は読唇術が使えるので、手話などを使わなくても普通に話しかけられる。

石田「原。いきなりで済まないが、来週の水曜日に『ロータリーセブン』とチームバトルを申し込んだ。メンバーに伝えてくれ。」
原「ええ、分かったわ。でも、勝算はあるの?この前負けたばかりじゃない。」
石田「あまり良く思ってくれないだろうが、助っ人を一人呼んでおいた。良いかな?」
原「んー、それしか勝つ方法が無いなら、私は構わないわ。」
石田「それも伝えてくれ。俺は、仕事もあるから、この辺で帰ることにするヨ。じゃな。」
原「じゃ、さよなら。」

石田のポルシェはそのまま去っていった。後には原が残された。

原「またチームバトルかぁ・・・、あたしも頑張らなきゃ。」

愛車の空色の80スープラで、走りに出た。



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2010年07月08日 22:51:52  No.66060
I P:59.143.94.178
第13話 恐怖の最高速

水曜日 辰巳PA――――

かなりの台数のロータリーサウンドが聞こえてきた。黄色のFD・鈴木正義を先頭に、ロータリーエンジン搭載車が何台も現れた。

白刃メンバー「き、来たぞ!」
原「うわぁ〜、自信ないよ、あたし・・・」
石田「・・・・・・」

白刃メンバーとは少し離れた位置で、吉川は様子を見ていた。すると、2番目にやってきた白いFDに目をやった。

吉田「え〜、マジかヨ〜」

白いFDから出てきたのは、吉田と同じ学校に通っている大川 櫻だ。ちょっと見ない間にこんなレベルの高いチームにいたのか。
ん、2番目にやってきたってことはチームの2番手?=副リーダー?

吉田「んなこたァね〜だろ。」

んなことあった。鈴木正義と並んで、白刃リーダーの石田に話しかけたのだった。副リーダー確定だ。
リーダー格同士で話し合い、ルールや走るコース・メンバーなどを決定する。

石田「話し合いの結果、ルールが決まった。各チーム7人が代表で走る。コースは新環状線でバトルごとに右回りと左回りを交互に走る。
先に辰巳に戻ってきた方の勝利。7戦中勝利数の多い方の勝ちだ。皆良いな!」
メンバー達「はい。」
原「では、走るメンバーを発表します。まず先鋒は・・・」

と、順に発表されていく。俺は5番目の走者だ。6番目は原 桐子。ラストは石田だ。
1〜4番目が読者に発表されていないのは、メインキャラでもないものが走るので地味な感じになりそうだし、作者も面倒だからだ。

石田「ふざけた作者の解説は気にしないで良い。相手側のメンバーも発表する。」
原「相手側先鋒は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・5番目は高島マサキ・車種はRX−8。6番目は大川 櫻・FD3S。ラストは鈴木正義・同じくFD3Sです。」
石田「午前2時から始める。気合入れていくぜ!」
メンバー達「オーーッ!!」



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2010年07月08日 22:53:36  No.66061
I P:59.143.94.178

午前二時になりバトルが始まるが、1〜5番目のバトルは省略します。5番目の吉田はC1に入るまでに相手をぶっちぎってしまった。
そして迎えた第6戦。大川VS原。女同士の恐ろしいバトルだ。両者はバトル前の挨拶をする。

大川「ここまで2勝3敗ですね。どーですか?ビクビクしてるんじゃないですか?」
原「そっちこそ、本当は逃げ出したくてたまらないんじゃないの?」

石田「怖ぇーナ。女ってマジ怖い。」

原(あんな生意気なガキに負けたくない)
大川(あんなふざけた女に負けたくない)

2台は一斉に走り出した。PAの中でも全開だ。
まずは湾岸線を西方面へ。時間的に一般車は一番少なくなっている。
250キロ以上でのクルーズが続き、有明JCTからレインボーブリッジ経由でC1へ。
原のスープラが湾岸線で圧倒的リードを奪う。しかし、有明JCTの右コーナーでFDに大きく追いつかれる。

大川「直線じゃあそっちに分があるけど、コーナーではあたしの方が得意みたいね。」
原「コーナーは向こうのほうが速い。けど、ストレートで一気に突き放せる。」

かなり緩いが長い左コーナーを抜け、すかさず右コーナー、そしてレインボーブリッジ。
原のスープラはすでに100メートルほど差を広げてしまった。
レインボーブリッジを過ぎ、少々きつめの右コーナーをクリア。長いストレートを経て下りのS字。
スープラ先行で差は150メートル。ここからC1に入るので、原としてはこのリードを保っていたい。
浜崎橋JCTを直進し、首都高最難関・C1内回り銀座区間へ。

原「あたしの苦手な銀座区間・・・でも、ここを抜ければ直線の多い9号線。最後に勝つのはあたしね!」

汐留S字、左のコーナーに入った瞬間、2台は勝負に出るッ!

大川「相手が見えない・・・とにかく、追いつくしかないッ!」

トンネル内のS字コーナーを大川は数秒遅れでクリア。車速を60キロまで一気に落とし、一番キツイS字をクリア。
相手のテールランプが見えたッ!遅れは取り戻せている!

大川「よしッ!」

緩めの左コーナー、一つ目のそして橋げた。原のスープラは丁度橋げたの部分で一般車につまってしまったようで、大きく失速している。

大川「抜けるッ!」

FDが隙を見て追い抜く。二つ目の橋げた。
見事なラインでクリアするFDだが、スープラは焦ってアンダーステア(曲がりきれずにコーナーの外側に向ってしまうこと)を出してしまう。
FDは一気に差をつける。40メートル・・・50メートル・・・ッ!

原「大丈夫、この先の9号線で一気に抜き返してやるんだから!」

原は空色の80スープラに鞭を打つ。500馬力の加速は徐々にFDを射程距離に捕らえてゆく。
宝町ストレートをアクセル全開で疾走し、江戸橋JCTから9号線へ入る。
上り勾配つきのキツイ右コーナー。白いFDはスープラの射程距離から逃れる。
箱崎JCTまで一時的に4車線になる。運良く、一般車はいない。
2台は4車線目一杯に使ってキツイ左コーナーをハイスピードで駆け抜ける。



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2010年07月08日 22:54:48  No.66062
I P:59.143.94.178
原「この右コーナーを抜ければ後はほとんどストレート。アンタとの差は大体30メートル程度。辰巳PAに戻る頃にはあたしが先にゴールしてるわね。」

一気に2車線になり右の中速コーナーを抜け、差は少々広まってしまったものの、その先に広がるストレートで差はどんどん縮まる。
20メートル・・・10メートル・・・
まさに追い抜こうとするところで左コーナーに突っかかってしまった。すぐに右。再び差は開く。

原「次のコーナーまでに抜き返してやる!」

原は直後のストレートで抜き返すことは出来たが、3連続の切り返しコーナーで再び抜かれる。

原「大丈夫!いけるッ!この程度の差、アクセル全開で抜き返せるッ!」
大川「クッ・・・逃げ切るにはスクランブルブーストしかないかナ!」

大川はスクランブルブーストを発動した。5秒間だけ、600馬力の加速で差を広げてゆく。
だが、5秒という時間で決定的な差は開くことが出来ない。600馬力はあっという間に消滅し、スープラは最後の追撃にかかる。

原「敵車の後ろについて空気抵抗を減らす『スリップストリーム』で十分抜き返せる。このバトル、もらったわッ!!」

50メートル・・・40・・・30・・・
空色の追撃機は標的を捕らえていく。

大川「真後ろについて空気抵抗を減らそうってことね。そうはいかないッ!」

25・・・20・・・10・・・
FDは追撃を逃れようとあがく。自分の真後ろに敵を置かないように逃げ回るが、スープラは速度を一気に上げる。

大川「ここまできたら、相手の進路を塞ぐしかないッ!!」
原「かぶせてこようったって無駄よ。ぶつけてでも道を開いて見せてやる!!」

8・・5・・1・・

原「いっけ――――ッ!!」
大川「させるかァー―――ッ!!」

ガツンッ・・・

スープラがFDのリアバンパーに接触!!原は瞬間的にハンドルを切り返しトドメを刺しにいく!!しかし――――ッ

原「嘘・・・」
大川「渋滞!?」

200メートルほど先に渋滞があった。2台はブレーキを踏み、失速。決着は付かなかった。
湾岸線への右コーナーで走り屋の車が事故ったようだ。つい数分前に事故ったようで、まだ情報は入ってきていなかった。
原と大川は事故ってしまった走り屋をにらみつけた。相当冷ややかな目だ。

走り屋1「うわっ・・・睨み付けてる・・・。」
走り屋2「こえ〜・・・」


辰巳PA――――

2台はゆっくりと戻ってきた。車から降りた二人はなんだか凄いかったるそうだ。

石田「浮かない顔だナ。どうした?」
原「渋滞ですヨ。最後の最後で決着がつかなくなるなんて・・・事故って無ければあたしが勝ってたのに・・・」

第6戦目は決着付かずの引き分けとなった。残るは石田と鈴木のリーダー同士の最終決戦。
勝敗や如何に?



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2010年07月08日 22:58:10  No.66063
I P:59.143.94.178
第14話 新生FCの力を見せ付けろ

遂にはじまる。石田と鈴木のリーダー同士の対決だ。鈴木は挨拶がてら石田に話しかけた。

鈴木「コース、新環状線左回りで良いですね。」
石田「ああ。」
鈴木「それじゃ、お手柔らかに。」

不敵な笑みを浮かべながら鈴木は去っていった。石田は車に乗り込む前に、原に話しかけた。

原「な、何ですか?」
石田「・・・なんて言えば良いかな・・・その、・・・俺は・・・多分これが最後のバトルになると思う。」
原「えっ・・・」
石田「何故か分からないが、このバトルを最後にこの世界を降りなきゃいけない気がするんだ。」
原「・・・・・・」
石田「とにかく、それを伝えに来た。」

その頃、吉田は鈴木と話していた。

鈴木「君、速そうだね。どこのチームからの助っ人?」
俺「チームには入っていません。一人です。」
鈴木「へぇ〜。今までチーム戦はしたことあるの?」
俺「チーム戦って言うか、チームを相手にしたことはありますけど・・・」
鈴木「ほぉ。(間違いない。最近噂の黒いFC!)面白いな。もし良ければ俺と一戦交えないか?」
俺「良いですね。俺、最近強い相手バトルしてないんで。」

どうやらこのバトル、吉田も加わり三つ巴のスーパーバトルになりそうだ。
鈴木は副リーダーの大川に話しかけた。

鈴木「気になっているのか?あのFC。」
大川「えっ・・・」
鈴木「フッ。良いことを教えてやろう。あのFCもバトルに参加する。」
大川「えっ・・・!」
鈴木「どうするかはお前次第だ。」
大川「・・・・・・」

白刃メンバー「副リーダー、2台の準備が整いましたよ。カウントお願いします。」
原「・・・・・・」
メンバー「福リーダー?」
原「カウントはあなたがやって!」
メンバー「え、えっ、えぇぇぇ〜!」

原は空色のスープラに乗り込み2台の後ろに停める。さらに後ろに吉田のFC、大川のFDが並ぶ。

ロータリー7sメンバー「何じゃこりゃ!5台一斉にバトルするのかッ!」
原「中田君、カウントお願い!」
中田「お、俺ですか!?」
原「早くッ!」
中田「分かりました。」



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2010年07月08日 22:59:25  No.66064
I P:59.143.94.178

息を呑むメンバー達。2チームでバトルするのに5台も参加するなんて思っても見なかっただろう。
表向きに見れば2対2対1の三つの勢力の戦いだが、実質的には・・・
石田VS鈴木のリーダー対決。
吉田VS大川の師弟対決。
そして原は石田の最後の走りを見守るようだ。
カウントが0になり、5台が一斉にスタートする。原のスープラは他の4台の対決に水を差さないよう、スタート直後に一番後ろに付いた。
一番最初は大きな左コーナーだ。

石田「このバトルは本当に最後になる気がする。」

直線に入り5台一斉に加速。一般車はほとんどいない。途切れない加速、そして途切れない音。
緩めの左コーナー、左・右・左の切り返しコーナー、5台はまるでランデブー走行をしているように走る。

鈴木「だが、これはバトルだ。約100キロの一般車の群れをその2〜3倍の速度で走りぬける。」

今度は右からのS字。長い直線の次は箱崎JCTの相当きつめの左コーナー。
吉田がギリギリまで遅らせたブレーキで5台の一番前に出る。石田、鈴木、大川、原と続く。

原「これが石田さんの最後のバトルになるなら、私は最後まで見守ってる。この目でしっかりと見届ける――――」

3車線の広い右コーナー。一般車のために右側2車線しか使えない。この先、左の分岐からC1外回りに入る。
上り坂のてっぺんから始まる左のヘアピンコーナー。この先は銀座区間。

大川「現在、時速150キロ、アクセル全開で加速中。一般車が60キロ暗いまで速度を落とすところを100キロ近くで駆け抜ける。」

吉田「一瞬のミスが命取りだ。」

宝町ストレートを下っていき、最初の橋げたを通る。
加速力を利用して鈴木のFDは石田のFCの前に出る。橋げた直前、石田はあまりにも遅すぎるタイミングでブレーキ!

石田「しまったッ!曲がりきれないッ!!」
原「石田さん!!」
石田「クッ・・・曲がれぇぇぇ――――!!」



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2010年07月08日 23:00:34  No.66065
I P:59.143.94.178
石田はFCを無理矢理左に向け減速。幸いハンドルを切るのが早かったので、ガードレールの0.5ミリほどで接触を回避できた。


またそれか。だらしないな。


石田(チィ・・・)

石田は大きく失速し、前から4番目を走ることとなった。コーナーがキツイ区間にもかかわらず、石田はスクランブルブーストを発動する。
450馬力から550馬力。僅か100馬力の上昇だが、ストレートで徐々に3台を捉えつつある。


な、何故俺がレーサーを諦めなければならないんですかッ――――!?


僅か数秒程度のストレートで大川を抜かし、残りの2台を追撃にかかる。

鈴木「なんと言う加速だ!?ロータリーエンジンでその加速はありえないッ!!」

最もキツイS字コーナーで吉田のFCを捉える。

吉田「RX−7 FC3S。搭載されているエンジンは『13B−T 水冷直列2ローター』無改造で約200馬力。石田さんのは大きなチューニングを施しているため、確か450馬力と聞く。」

コーナーの立ち上がりで吉田FCと鈴木FDを追い抜く。

石田「後にボディをチューニング。圧倒的な剛性と軽量化を施し、一瞬も加速を逃がさないボディにした。」

トンネル内のS字で更に差をつける。

原「その加速の仕方は、例えるとするなら『光』。感覚的には約600馬力。450馬力なんてまるで嘘のよう。」

その白い光は一般車の陰に隠れる。

大川「スクランブルブーストで700馬力の加速のように見える。」

汐留S字で白い光は減速。しかし圧倒的な速さでS字をクリア。
残る4台の1秒ほど遅れてコーナーを立ち上がる。

原「石田さん、コースが違う!」

何と石田のFCはコースを変え、C1外回りの向った。何の躊躇も無い!

鈴木「フッ・・・そう来なくっちゃナァ!!」



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2010年07月08日 23:01:54  No.66066
I P:59.143.94.178

5台全員進路変更 C1外回りへ――――


石田、鈴木、吉田、大川、原の順でC1外回りへ入る。一般車が少なく、常にアクセルを踏み続けている。
C1では考え難いほどのスピードだ。そのスピードで芝公園の連続S字コーナーに突っ込む。
5台はガードレールすれすれまで寄せるドリフトで一つ目のS字を抜ける。
特に石田は2センチまで近づくほど道幅を目いっぱい使っていた。

石田「ッ、ぁぶねー・・・」

死ぬような思いを一瞬しながらも次のS字へ。
やはり石田は誰が見ても危なっかしすぎるほど道幅を目いっぱい使う。

石田「次に左でこのS字は終わる!」

ブレーキで速度を落とし、ステアリングを左に切りながらアクセルを踏み加速。
そのとき――――

石田「うわッ・・・!」

外側の車線にトラックがいた。石田はあわててブレーキを思いっきり踏み付け、何とか回避。
トラックの方はあわてて回避しようとしたため、操作をミスり、横転しかけた。

大川「ちょッ・・・とぉ!」

原「・・・ッ!!(ぶ、ぶつかるッ!!)」

大川は何とか抜けた。しかしトラックは最後尾にいた原のスープラに襲い掛かる。

原(避けきれ・・・ナイッ!!)


あんま無茶すんナよ。お前みたいなかわいい女が死んだら俺も耐えられんからナァ――――


(どーすれば・・・アクセル?ブレーキ?それともステア?)


は〜っはっはッ!クルマ潰す事くらい誰でも一度や二度はあるさ!


(石田さん・・・ッ・・・ッ!!)


ま、お前が死ななかっただけいーさ。


(つぅ・・・ッ――――!!)


多分これが最後のバトルになると思う――――


原「あぁぁぁぁぁ!!」

思いっきりアクセルを踏みつけた。前進を始める車体。

抜けたッ!

トラックにかすっただけでどうにか抜けることが出来た。


あなたのクルマが失速したら


あたしのクルマも失速する


でも・・・

これが最後なら、なんとしてでも見届けます――――



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2010年07月19日 06:04:12  No.66067
I P:59.143.94.178
第15話 何としてでも頂点に立て

一ノ橋JCT――――

鈴木FDを先頭に、石田FC・吉田FC・大川FD・原のスープラとバトルは続く。
出口のキツイ左コーナーを抜け、トンネル内の緩いS字コーナー。

石田「次の谷町JCTの右コーナーを抜ければ約500メートルの赤坂ストレートだ。もう一度スクランブルブーストで追い抜く!」

鈴木FDが最初に右コーナーをクリア。一般車がいないことを確認する。

鈴木「一般車なし!オールクリア――――ッ!」

5台一斉に加速!最も加速が早いのは・・・石田のFCだ!

吉田「なんじゃありゃぁ!!」

軽量化による加速性能の上昇+スクランブルブースト+鈴木のFDを利用して空気抵抗を減らす技、『スリップストリーム』!
それら3つの要因で、石田FCは高速、いや、光速で鈴木FDを抜き去る!
ストレートが終わり、石田はスクランブルブーストを解除し、ギリギリのレイトブレーキングでコーナーを切り抜ける。

鈴木「流石だ。プロのレーサーを目指していただけあって、車を操る技術にかけては俺も改めて舌を巻くぜ!」

吉田「だが、一つだけ足りないものがある。」

大川「技術じゃなく・・・どこがどうと言うような具体的なものじゃない。」

吉田「そして、それは自分で気付いていくしかない――――」

鈴木「気付けますか?石田さん。あんたが気付くまで、俺はあんたを追い込んでやるよ!」




Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2010年07月19日 06:04:57  No.66068
I P:59.143.94.178
三宅坂JCT直前の左急コーナー。突然下り坂になるので、速度をつけ過ぎていると一瞬ジャンプし、操縦不能になる。
たかが一瞬だが、時速150キロ近くで一瞬と言うと結構な距離を進んでしまう。
なので、いかにジャンプしないように出来るかが、このコーナーで生きるか死ぬかを分けるのだ。
と、言ってるそばから石田のFCはジャンプしてしまった。

石田「大丈夫だ。多少ジャンプしても、強引にドリフトさせれば曲がりきれる!」

息を止め、足のペダルと手のステアリングに全神経を注ぐ。
着地――――そこからドリフト――――
全身から汗が飛び散る

大川「嘘ッ!あんなコーナリング見たことないッ!」

見てるこちらも冷や汗ダラダラだ。頭のねじがブッ飛んでるとしか思えない。
その後も、緩めの左下りコーナー、右コーナー2連続とクリアしていくが、鈴木のFDは石田のFCを徐々に射程距離から逃がしてしまう。

鈴木「クソッ!追い込むなんてとんでもねぇ!こっちが追い込まれてるじゃねぇかッ!」

千鳥が淵の右急コーナー。石田のプロ顔負けのブレーキングで更に鈴木から逃げる。

石田「っぉっとぉ!!」

2車線と言う狭いスペースを目いっぱい使って他の誰よりも早くコーナーを抜ける。
ガードレールと車体との差はおよそ2センチ!

吉田「凄い。ギリギリぶつかってないな。石田さんのFC。かなり上手い走り屋でもガードレールに2・30センチまで詰め寄るので精一杯だ。
だけど石田さんの場合は、ほとんど2・3センチ位までしか余裕がない。徹底的に鍛えられているんだナ。」

その後、竹橋JCT、神田橋を通り、江戸橋JCTから再び新環状線ルートに戻る。
その江戸橋JCTで異変は起きた。
銀座区間へ向うためには江戸橋JCTを右折する。その右折のコーナーで石田はやはりレイトブレーキングで突っ込む。
そのとき、コーナーの外側に一般車がいた。このままではぶつかってしまうと、ブレーキを踏みつけ減速する。

鈴木「もらったァーー!!!」
石田「クソッ!これで何度目だ!?」

これまでと同じパターンで再び鈴木に抜かれてしまった。吉田のFCは強引にブロックして進路を塞ぎ、2番手を守った。
石田はこれまで以上に苦しそうな表情だ。


お前速ぇけどサ、やっぱプロにはさせられないわ――――


石田(何だこれ。何年前の話だよ!)


もう諦めろ!お前は・・・・・・


石田(止めろッ!止めてくれ――――!!)



お前はただ命知らずなだけだ――――




Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2010年07月19日 06:06:17  No.66069
I P:59.143.94.178
石田のFCのマフラーから一瞬赤い炎が出た。アクセルを抜いて失速したのだ。
他の4台の邪魔にならぬよう一番右の車線に寄る。
すると、原のスープラまで失速した。
石田が失速したら自分もバトルを下りようと決めていたようだ。

石田「行けって。バトルの行方を最後まで見届けろヨ。」

原「ううん。あたしは『あなた』を最後まで見届けるって決めたから。」

石田「そうか。」


辰巳PA

石田達がつく頃には決着がつき、両チームのメンバーも熱気が冷めていた。

石田「俺の負けだ。やっぱ歳のせいかナ。こりゃぁ。」
鈴木「いつも通り、罰ゲームで打ち上げの費用はそっち持ちですね。」

十分ほどして両チームとも高速を降り、いつもの居酒屋に寄った。

いつもの居酒屋

ガヤガヤ騒いでる店内で、石田だけは静かに酒を飲んでいた。
しばらくすると、石田は原の所に寄った。

石田「チームリーダー。頼んだよ。」
原「・・・・・・」

それだけ言って石田は店を去った。


本当に降りてしまうんですね――――


あの時アクセルを戻したのはバトルから降りたんじゃない。走り屋という世界から降りたのだ。
もう彼は二度と、100キロを越す速度を感じることはないだろう。

辰巳PA

白いFDと黒いFC。紛れもなくあの二人の車だ。なにやら話をしている。

大川「白いFCのあの人、途中で失速しちゃったネ。」
吉田「ああ。」
大川「何でだろ。」
吉田「別に知る必要はないよ。石田さんだけの問題だ。」

大川は吉田に何処か違和感を感じていた。

大川「なんか吉田君、変わった?」
吉田「お前が変わったと感じるんなら、そうなんだろうな。」
大川「なんか、ピリピリしてるとゆーか・・・」

確かにそうだ。自分でも分かるくらいに気持ちがこわばっている。
もう覚悟を決めて全てに決着をつけなければならないのだ。もう余り時間はかけていられない。
そしてもう一つ、やつらに証明したい事がある。

吉田「悪いが今日はここまでだ。俺はもう一走りしてくる。」
大川「あ、ちょっ・・・」

高らかなエンジン音を奏で、黒いFCは夜の暗闇に消えていった。



Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2010年07月30日 16:48:28  No.66070
I P:59.143.94.178
第16話 伝説のFCを探し出せ

大黒ふ頭PA

わいわいと走り屋たちが集うこのパーキングエリア。
女連れ、チャラい音楽を大音響で流している奴ら、本当に走りを極めようとする奴ら・・・
車に取り付けられたきらびやかなネオンが華やかさを演出する片隅で、メッチャ重苦しい空気に包まれた4人組がいた。

大原「よし、全員集まったな。俺達4人だけの極秘会議を始める。」
北平「なぁ、大原さん、今回集まったのって・・・もしかして・・・」
白田「あの黒いFCのことだろ?」
大原「そうだ。俺達が18年前にクラッシュまで追い込んだあのFCだ。」
横山「ちょっ、クラッシュまで追い込んだのに何でそいつがまた現れるんだよ?ありゃぁ絶対死んだはずだぜ!?」
大原「何故またあいつが現れたのかは分からないが、俺達を探すかのように連日首都高を走り回ってるようだ。」
白田「この間、俺はそいつに会った。C1の汐留S字。何故か田路悠木のAE86に乗っていた。しかも情けないことに、有利な9号線で負けた。」
北平&横山「!!!」

あまりの驚きに、北平と横山は顔が青ざめていた。横山は小声で呪われているんだと呟いた。

横山「ねぇ、これ絶対呪われてるよ!どーにかなんないの!?」
北平「ムリだろ・・・」

諦めモードの二人をヨソに、白田と大原は会議を続けた。

白田「噂に寄れば、あいつはバンパープッシュを良く使ってくるそうだ。」
大原「ずいぶん荒々しいな。」
白田「もしかしたら、18年前の仕返しにでも来たのか?あいつ・・・」
大原「考えられるなァ・・・。でも、俺達あんなに供養とかアイツの墓にお供え物とかしてるのに・・・」
白田「そんなもんで消えるような過去じゃねーだろwww。」
大原「でも、俺達アレからもっと大人しい走り屋になろうって決めて、実際、前よりも大人しくなってるはずだよナ?」
白田「自分で言うのもなんだがな。そうはなってると思うよ。」
大原「じゃあ、何故・・・?」

そのとき、あまりにも異質な音が聞こえた。ずっと前から聞いた事のある音だ。
4人の背筋が凍りつく。
パーキングエリアに来たのはやはりあの黒いFCだった。
黒いFCは4人の目の前を通り過ぎた。そして、どこにも止まらずにそのままPAを出てしまった。

北平「な、何だったんだ?アイツ・・・」
横山「さぁ・・・」

ボサッとしている二人をほっといて、白田と大原はいきなり自分の車に乗り込み、さっきのFCを追走した。
恐らく方向からして横浜環状線に向ったのだろう。

北平「アッ!」
横山「ま、待ってくださーい!」

大原と白田は大黒ふ頭PAを飛び出し、黒いFCの捜索に出た。
湾岸線から横浜環状線に入り、200キロ前後のクルーズで探すが、一向に見当たらない。

大原「こりゃ、全開で追いかけないと見つからないかナ。」

大原は愛車のR32に鞭を打つ。それに反応して白田も速度を上げる。
巡航速度は約250キロ。次々と一般車を交わして行き、汐入ランプで一台の早い車を前方に捉えた。

白田「間違いない。ロータリーサウンドを奏でる黒い車体・・・」
大原「18年前に俺らが死に追いやった・・・」


元・黒影FC 吉田 耕一――――ッ!!




Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2010年07月30日 16:50:14  No.66071
I P:59.143.94.178
吉田「やはり来ると思っていた・・・」

不思議なことに、18年前、吉田が死んだ場所と同じ場所からバトルが始まった。
18年前に中断されていたバトルが再開したかのような気分だ。
緩いS字コーナー。ブレーキの必要はほとんど無い。
長い直線、少々キツイS字からの右コーナー。

大原「嗚呼、その動き、18年前と全く変わっていない。」

一般車を次々と追い抜き、FC先頭のまま昭和島JCTまで来た。
FCは左の分岐線に入り、進路を湾岸線東行きに変更した。
上り勾配のS字、長い直線、アクセル全開のまま左コーナークリア。

大原「わざわざ不利な湾岸線へ入るか・・・相変わらずワケの分からねぇ野郎だぜ!」

湾岸線突入・いきなりオールクリアからのフラットアウト――――ッ!

大原「喰らえ!800馬力の威力をッ!」

大原はスクランブルブーストを使った。抑えていた馬力を一気に爆発させる。
大原のR32は通常600馬力だが、実はそれでも抑えていた方なのだ。
800馬力の今の状態こそ、本当の姿なのである。

白田「800馬力に比べりゃ、俺のZ33の600馬力なんてかわいい方だぜ。」
大原「FCの搭載されているエンジン、13B−ターボの限界はおよそ500馬力。ついて来れるわけ・・・なッ!」





Re:幻の最高速  投稿者:ふぇにーちぇ  投稿日:2010年07月30日 16:54:32  No.66072
I P:59.143.94.178
なんと、大原のR32の真後ろに黒いFCがいたのだ。
普通なら絶対ありえないのだが、現にバックミラーに映っているし、音からしても間違いなく真後ろから聞こえてくるので間違いないだろう。
さらに、あのFCを操っているのが18年前『黒影』と呼ばれた吉田耕一だということも考えると、決してありえないことではない。

白田「その気配、機械とは思えないその気配もあの時のままだ。」

アクセルを踏み込んだまま、速度は遂に300キロに達しようとしている。
大原と白田は路面に微妙に刻まれた轍やつなぎ目に少しハンドルを取られつつも、即座に性格に進路を修正する。
だが、吉田のFCは轍やつなぎ目に全く動じていない。ハンドルを全く取られていないかようだ。

白田「すげぇナ。それも、お前の好きなボディ補強ってやつの力か?」

その通り。まさにボディ補強の力である。
ボディ補強によって硬くしなやかに生まれ変わった車体は、加速を逃がさなくなるだけではない。
少々の路面の変化に動じなくなるという効果も生み出されるのだ。

大原「湾岸線は、ただの直線じゃない。ただアクセル踏んで、ハンドル切らないで真っ直ぐ進むような、そんな楽な道ではない。路面の轍にハンドルを取られ、一般車の群れに進路を阻まれ、一般車を避けたと思ったらいきなり工事現場が現れたりする。200キロオーバーで一般車を避けようとすれば、それは車線変更ではなくてコーナリングとほぼ同じだ。そんな過酷な湾岸線を、あいつはいとも簡単に・・・」

速度は320キロ。ようやく一般車がポツリポツリと現れた。
だが、わざわざ減速してまで避けるほどではない。
3台のエンジンには多大な負担がかかり続けている。
しかし、それでも1台も加速が終わる様子を見せない。

白田「湾岸線に入り、全開状態が約5分がたった。普通の、いや、かなりのハイチューンのクルマでさえ、ここまで長い全開状態はきついだろう。ましてや熱に弱いロータリーエンジンだ。出来れば俺もアクセルを抜いて車をいたわりたい位だ。でも、踏み続けなければお前はもう2度と俺の前から消えてしまうだろう。」
大原「お前はホントにすげぇナ。熱に弱いエンジン、コーナリング重視だが安定性の無い車体、そんな車体で300キロ行くって事自体が凄いのにな。」

白田のZ33が急に加速し出した。ここまで負担をかけていきなり調子がよくなる。この兆候は・・・

白田「エンジンブロー――――!」

だが、白田は減速する兆候を見せない。ブローするまで踏み続ける気だ。
それから10秒ほどして、白田のZ33のマフラーから煙が吐き出された。
どうにかエンジンだけの損傷で済んだが、もう走る力は残されていない。
白田は一番左の第一車線に車を寄せ、大人しく失速した。

大原「・・・・・・」

湾岸線有明JCTで、大原はレーンボーブリッジ方面に進路を変更した。
これ以上走り続けると白田の二の舞になる。

大原「壊すわけにはいかない・・・」


18年以上の年月をかけて作り上げた、命よりも大切な800馬力を――――





Re:幻の最高速  投稿者:いお太(元ふぇにーちぇ)  投稿日:2011年08月02日 22:28:17  No.66073
I P:59.143.94.178
第17話 何としてでもヤツを撃墜(オト)せ!

進路を変更した大原のR32を横目に、吉田はため息をついた。

吉田「そんなものか・・・18年前なら、エンジンブローも戦線離脱もしなかったんだがな。」

吉田は、320キロから思いっきりブレーキを踏んで20キロ程度にまで減速した。
そのままだらだらと出口に向い、高速を降りていった。


大黒ふ頭PA――――

大原のR32が戻ってきた。横山と北平は大原達を探しに行ってしまったようだ。

大原「あいつら何やってんだ・・・」

ふうっ、とため息をつき、自販機で缶コーヒーを買った。
一口飲み、今度はハァ〜ッ、とため息をついた。


俺の800馬力が負けた――――


大原「俺はあの時間違いなく本気で走った。それがあのザマだ。俺のRとアイツのFC、何が違うって言うんだ!?」

苛立った大原は缶コーヒーを一気に飲み干し、思いっきり遠くのゴミ箱に向って投げつけた。
空き缶は思いっきり軌道をそれて、一台の車のフロントガラスにヒビを入れてしまった。

ガッシャァァァァン!!!

???1「何すんだ!馬鹿野郎ォォォォォォォォォォォォォォ!!!」
大原「ごめんなさーい!(逃げろー!)」

車の持ち主がスパナを持って追いかけてきた。
大原はとにかく逃げまくり、撒いたと思い後ろを振り向くと、何とスパナを投げてきた!!

大原「ぎゃぁぁぁ!!」

間一髪避けたが、そのスパナは今度は別の車のボンネットを凹ませた。

バギッ!!

???2「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁ!!何て事しやがんだ!!」
???1「すいませーん!(逃げろー!)」
大原「しめた!今のうちに・・・」
???1「あーっ、お前逃げんなぁー!」

大原は超スピードでR32に乗り込み、湾岸線へ逃げ込んだ。
250キロクルーズで空港中央出口まで来た。

大原「ここまで来れば・・・」

ブレーキを踏み減速した途端、後方から怒りのクラクションが鳴り響いた。
真後ろに窓ガラスにヒビの入ったS13が追いかけてきた。
その後ろにはS15が更に追いかけている。

大原「何これ!?食物連鎖みたいな構図なんだけど!?」

アクセルを踏み込み、思いっきり加速を再開。
しかし、一般車の多さに邪魔され思うように速度が出せない。



Re:幻の最高速  投稿者:いお太(元ふぇにーちぇ)  投稿日:2011年08月02日 22:30:24  No.66074
I P:59.143.94.178
このままでは弁償代を請求されてしまう!

大原「クソッ!いっその事、下道に下りてしまった方が楽かァ?」

そんな事をぼやいていると、前方に渋滞が見えた。
料金所によるものだ。
フルブレーキングで何とか停止。だが、ふとメーターを見ると・・・

大原「やべぇ!!水温がどんどん上がっていきやがる!!」

全開状態から一気に停止。走行時に空気を吸い込みエンジンを冷却させているが、停止してしまっては風が来ない。
水による冷却もしているが、エンジンの熱に当てられ沸騰寸前。
エンジンは静かに『死』に向っている。

大原「頼む!冷えてくれ!」

エンジンが死に向っているのは他の2台も同じだ。

S13の男「水温計のメーターがどんどん上がっていく・・・」

メーターの針はとうとうレッドゾーンに到達しようとしていた。

S15の男「くそっ!ダメか・・・」

大原「いや・・・戻った!水温が下がっていくッ!」

他の2台も遅れて水温が下がっていった。
大原とS13の男が料金所を抜けた。直後に、S13が大原のR32に思いっきり寄ってきた。

大原「あッ・・・!!ぶねーなァ・・」

避けた先には大井Uターンがあった。
S13は強引に環状線に追い込もうとしているようだ。

大原「負けるかぁ・・・って、S15まで追い込んできやがった!」

2対1になり、どうしようも出来なくなった大原は仕方なく大井Uターンで横羽線をC1方面へ向かった。
浜崎橋JCTまではストレートが多く存在するので、大原はそこまでにケリをつけようとR32を最大ブーストで加速させる。

S13の男「クッ・・・そんなハデに加速されたら敵わねーっつーの!」

3台の中で最も古いS13はその加速についていけずに遅れ始めた。
やがて浜崎橋までに100メートル近い差をつけられ、エンジンもブロー寸前になりリタイアした。

S15の男「野ノ平、リタイヤか・・・。俺もそろそろやばいな。」

狭い2車線の道路にもかかわらず、2台は250キロを超えて走行している。

S15の男「この速度のまま浜崎橋通るなら間違いなくC1内回りだ。内回りなら、分岐といってもほとんど直線だからな。外回りに行くなら左のキツイコーナーを通ることになる。」

だが、大原はあえてC1外回りに向おうとした。完全にS15の男の裏をかいた!

大原「速度もかなり乗ってるし、俺のR32はそっちのS15よりブレーキングでは不利だろう。」


だからこそ行く――――

再び俺の流れに持ち込んでやる――――


S15の男「な・・・何だよそりゃァ・・・!!そうだ!あのR32は『wing driveRs』のリーダーだ。紺色のボディにGTウイング、そして電撃のようなドライビング!間違いねーな。」




Re:幻の最高速  投稿者:いお太  投稿日:2011年08月03日 21:46:16  No.66075
I P:59.143.94.178
大原はS15に強引な幅寄せを仕掛け、C1外回りに誘導した。
かなりキツイ左コーナーを2台横並びになってクリアし、ストレートに入ると一気に加速した。

S15の男「やばっ、このまま踏み続けてたらエンジン終わる!」

S15はアクセルを緩め、リタイヤした。


――――芝公園出口付近――――


大原に敗れたS13とS15の男が話していた。
S13の男は野ノ平 銀、S15の男は佐々原 銀というらしい。

野ノ平「くそ!あのR32、一体ダレだ?」
佐々原「大方見当はつく。wing driveRsのリーダー・大原 清だ。」
野ノ平「てことは、俺達は『たかがチームリーダーごとき』に負けたのか!?」
佐々原「そういうことになるな・・・」

二人の目の前に大原のR32が現れた。
大原は車から出ると、二人に話した。

大原「あんたら、首都高7人衆の内の二人だろ?俺の話を聞いてくれないか?」
佐々原「かまわない。」
野ノ平「首都高7人衆の座を渡せ・・・なんて言うんじゃないよな?」
大原「いまさらそんなものに興味ないさ。そんな事よりも重大な話だ。」

大原は例の黒いFCについて話した。

大原「最近黒いFCの噂を耳にしないか?まるで化け物のように速い、黒いFCを。」
佐々原「聞いたことはあるな。一度も見たことはなかったが。」
大原「俺はそのFCとケリをつける。その手伝いをして欲しいんだ。」
野ノ平「手伝い?」
大原「そうだ。話すと長くなってしまうな。どこから話そう・・・そうだな、18年前の昔話でもしようか。」




Re:幻の最高速  投稿者:いお太  投稿日:2011年08月05日 08:54:45  No.66076
I P:59.143.94.178
第18話 全ての始まり

――――18年前 市川PA――――

R32とZ32が2台ずつ停まっていた。
Rは大原と横山、Zは白田と北平のものだ。

大原「集まったな・・・作戦決行は今日だ!今度こそ、俺が首都高7人衆最速だってことを教えてやるんだ!!」
北平「だが、ホントにそんな作戦で良いのか?ちっと強引過ぎる気がするぜ。」
白田「アイツをぶっ飛ばせればそれで良い。」
大原「それに、『運良く』事故ってくれりゃァ、最速の座に空白が空いて俺がそこに入り込める。」
横山「なるほど、じゃぁ、さっさと行こうぜ!アイツがクラッシュする瞬間見てーナ。」
大原「あせんな。チームの偵察部隊からの連絡を待て。」

大原は、自分のチームと白田のチームのドライバーを全員偵察部隊にして、何が何でも『アイツ』を倒そうとしている。
しかし、そう簡単に見つかるわけではなかった。
そもそも首都高に来てくれなければ見つけるもクソもない。
30分おきに中間報告もさせているが、《アイツは見つかりません》ばかりだ。

大原「クソッ!さっさと出て来いよ!!」
横山「まさか、俺らに気付いてビビッちまったかァ!?」
北平「それもそれで、アイツのイメージダウンになるな。」
白田「バーカ、アイツはそんなヤツじゃねぇ。お前ら気を抜くな!」

そのとき、一台の偵察部隊から連絡が入った。

《ガーッ・・・こちら浅原、例のFCを発見しました!バトルして湾岸線に追い込みます!》
大原「湾岸線のどっちだ?」
《辰巳から湾岸線西行きに追い込みます》
大原「わかった!お前ら行くぞ!!」

4台が一斉に湾岸線に向った。



Re:幻の最高速  投稿者:いお太  投稿日:2011年08月05日 22:56:25  No.66077
I P:59.143.94.178


――――9号線――――


考えられないほどのスピードでバトルを行う2台がいた。
1台は首都高7人衆になる前の浅原のR32、もう1台は大原の標的としているFCだ。
時速は250キロを超えている。

浅原「このストレートの先の辰巳JCTを右に曲がれば湾岸だ。こいつに勝てば俺は相当有名になれるぜ!」

意気込む浅原。相手の車の真後ろに回りこみ、空気抵抗を減らす技『スリップストリーム』で一気に加速し、FCの左側に並んだ。

FCの男「なるほど。湾岸線に誘い込もうと言うわけか。下らん小細工を・・・」

FCの男は逃げようと思えば逃げられる小細工をあえて受けてたった。
この先に待つ敵が彼にはわかっていたようだ。

FCの男「そこにいるのは分かっているんだ。いい加減小細工なしでさっさとかかって来い!大原清!」

湾岸線に入り、一気に4台が合流した。
特に、紺色のGT―Rからは殺意のようなオーラがこみ上げている。

大原「やっと会えたぜ・・・生きながらにしてすでに伝説と言われる男・・・」


首都高7人衆bV 黒影FCの吉田耕一――――


6台は一気に300キロ近い速度まで加速した。
前から順に、浅原、白田、横山、吉田、大原、北平だ。
大原と北平があえて吉田の後ろについたのは、1対複数ならば前後に挟み撃ちで走った方が有利だからだ。

吉田「1対5か・・・手段を選ばない卑劣な野郎だ・・・1台ずつぶっ飛ばしてやる!」

あっという間に有明JCTを過ぎ、一般車の荒波を掻き分け、海底トンネルに入った。
この先には湾岸線で数少ないコーナー、大井コーナーがある。
吉田はそこでまず1台をクラッシュさせようと思った。

吉田「この状況だと、狙えるのは前の3台・・・一番下手糞なのは・・・」

最も先頭を走っている浅原に目をつけた。
海底トンネルの出口が見え、徐々に浅原に近づく・・・ッ!

大原「浅原!お前もう降りろ!バンパープッシュを狙われている!」

しかし、浅原は言うことを聞こうとしない。
完全にFCを倒すことしか考えていないようだ。
そして海底トンネル出口・・・ッ!

白田「浅原ッ!避けろォォォッ!」
吉田「おせぇぇぇ!!」

吉田のFCはまるで刀で斬りかかるかのような鋭いバンパープッシュを決めた!
220キロの速度で、浅原R32はバランスを崩す!
この速度域でバランスを崩せば大事故は免れない。
浅原のR32は前方のトラックに突っ込んでいく。もう立て直せないッ!!

浅原「うわァァァァァァァァッ・・・!!」

ガッシャァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!!!!


浅原 昌一  スピンからの事故により走行不能――――




Re:幻の最高速  投稿者:いお太  投稿日:2011年08月06日 21:20:16  No.66078
I P:59.143.94.178
浅原の事故に動じることなく、FCは走り続ける。
一方、浅原の事故を最も近くで見た横山が怯える。

横山「あ・・・ぁぁ・・・」

彼の声は震え、視界は焦点が定まらなかった。
このままでは自分もああなるのではないか・・・
横山は首都高最速の男を恐れた。

大原《ガーッ・・・安心しろ!俺がさっさと終わらせる!お前は恐れずブロックし続けろ!》

あんな事故を目の前にして安心など出来なかった。
ましてや相手の目の前で進路妨害のブロックなど、とても出来るものではなかった。
ビビっているうちに東海JCTを通り過ぎた。その先には大井コーナーに次ぐ左コーナーがある。

横山「俺は死にたくない・・・死にたくないッ!」

横山が泣き叫ぶ。今にもアクセルを戻しそうだったが、大原や白田や北平はその恐れに立ち向かっているのだと思うと、走り続けるしかなかった。
だが、恐れに屈しそうなものはもう一人いた。Z32の北平だ。

北平「潰さなきゃ・・・潰さなきゃ潰される!!」

横山とは違った形で恐れていた。彼はこの先の左コーナーでFCを潰すつもりのようだ。
頭に血が上り、目は赤く血走っていた。
ブースト全開でFCの真後ろにつく。もういつでもぶつけられるくらいの距離だ。
オールクリアの状態で左コーナーに差し掛かった。

北平「いっっっけぇぇぇぇぇ!」

ノーブレーキでFCに斬りかかる!大原達はこれで終わったと思った。

吉田「甘い。お前のやろうとしていることは分かっていたぞ!」

FCは上手く避けることが出来た。
バンパープッシュはかすりもしなかった・・・

北平「馬鹿なッ・・・!しまったァァァ!!」

北平が突っ込んだ先には横山のR32がいた。
気付いたときにはもうどうしようもなかった。
2台は激しい音を立てぶつかり、ガードレールに突っ込んだ。
衝撃で2台ともリアスポイラーは吹き飛び、車が宙に舞った。

大原「くそッ!あの馬鹿!」
白田「マズイ・・・俺も恐怖に飲まれそうだ・・・」

やがてクラッシュした2台はバックミラーから消えた。
幸い、ガソリンなどに引火してはいないようだった。


横山弥彦 北平修  クラッシュ――――



Re:幻の最高速  投稿者:いお太  投稿日:2011年08月10日 15:39:46  No.66079
I P:59.143.94.178
湾岸線が半分くらいのところまでに残りが3台になってしまった。
速度は常に250キロ、いや、280キロをオーバーしている。
大原と白田は黒いFCの予想以上のペースに驚いている。

大原「クソッ!何もかも予想外だ!一体この速さは何だ!?」
白田「・・・エンジンが苦しくなってきた・・・マズイな・・・」

羽田空港への海底トンネルを過ぎ、そしてすぐに神奈川方面へのトンネル。

白田「この先は料金所だ。そこまで持ってくれ・・・ッ!」

一般車がだんだん多くなってきた。アクセルを踏み続ける時間が少なくなり、エンジンも少しずつ回復しつつある。
そして料金所――――

大原「あぶねぇ・・・もう少し踏み続けてたら俺もエンジン終わってるとこだったぜ。」

しばらく停止し、料金所を抜けた瞬間に3台は加速した。
大原は無線機で予定の変更を伝える。

大原「聞こえるか白田」
白田《聞こえるぞ・・・》
大原「予定変更だ。鶴見つばさ橋を渡ったら大黒線にルートを変更する。」
白田《わかった・・・》

鶴見つばさ橋までの最後のトンネルを抜け、FCを討つためのスパートをかける。
大原はどこでFCをクラッシュさせようかを大体考えていた。
そのためには、何としてでも前に出て進路変更の権利を勝ち取る必要がある。

吉田「てめぇらに前は譲らんで・・・」

吉田は大原の目論見を予想していた。湾岸線で勝敗はつかないから大黒線経由で横羽線に逃げようとしていることが分かっていた。
進路を選ぶ権利は先頭の者にあるので、譲るわけには行かない。
鶴見つばさ橋まであと少し。この上り坂を渡りきればその橋だ。
3台はエンジンブロー覚悟で運命の橋へ向う。

大原「白田、FCを牽制しろ!」
白田《ガーッ・・・了解!》

白田はZ32をスクランブルブーストで限界まで追い込む。
一気にFCの真横に並び、幅寄せを仕掛けていった。
少しずつFCとZ32近づく。しかしFCはそれをものともせず全く退こうとしない。

白田「退きやがれ!死にてぇのか!!」

もう数センチまで寄った。普通の神経をしている奴ならとっくに退いている。
だが、FCは全く動かない。
ここまで来ると幅寄せを仕掛けた白田のほうが精神的に追い詰められてくる。

白田「これ以上は寄せられない・・・俺がやられちまう・・・」

その時、後方から大原が援護にやってきた。
スクランブルブーストで無理矢理リアバンパーを小突いたりしている。
それを見た白田はFCを横から押してみた。
軽い衝撃と共にバランスが崩れそうになる。まるで綱渡りだ。

吉田「クソッ!絶対に譲らんぞ!」

つばさ橋突入!Z32の代わりにR32が吉田FCの右側につけてきた。
大原は臆することなくFCを大黒線の分岐のほうにプッシュし続ける。
これには流石にFCも耐え切れなくなり、進路変更をせざるを得なくなった。

吉田「仕方ねぇ・・・受けて立ってやらぁ!!」



Re:幻の最高速  投稿者:いお太  投稿日:2011年08月10日 15:40:55  No.66080
I P:59.143.94.178


大黒線突入――――


まずはきつめの右コーナー
一気にスピードが300キロオーバーから200キロ前後に切り替わる。
次は緩い左右の切り替えし。その後、しばらく減速の必要がない緩いコーナーが続いた。

大原「もうすぐ決着だ・・・何としてでもそこで潰さないと、もうチャンスはないッ!」

大黒線のコーナーは残り数個となった。このS字コーナーを抜ければ横羽線に乗り入れるためのキツイ右コーナーがある。
大原はそこでFCを潰そうと目論んでいた。無論、吉田もそこで大原が勝負に出ることを予測していた。
短いストレートを挟んで、決着のコーナーに差し掛かるッ!

大原「白田ッ!FCの前に出てブロックしろッ!」
白田《分かったッ!》

白田のZ32が強引にFCの前に出た。しかし、コーナーにオーバースピードで侵入してしまい、アンダーステアを出してしまう。
吉田は軽々とZ32を抜き返した。その瞬間、彼に大きな衝撃が襲った。
大原が捨て身のサイドプレス(コーナーで相手のクルマを横から押す技)を仕掛けてきたのだ。

吉田「クッ・・・捨て身でかかってくるとは分かってたが、もう少し余裕を持った捨て身タックルやと思っとった・・・そっちもクラッシュ覚悟かいッ!!」

250キロオーバーでバランスを崩したFC。
大原のR32に押し出され、外側の壁をぶち破って下道に転落!

ドガァァァァァァアァアァン!!

落下したときの火花がガソリンに引火し、一気に爆発を引き起こした。
丈夫なはずの4点シートベルトも炎で一気に焼かれ引き千切れてしまった。
吉田は左腕をフロントガラスで深く切ってしまい、クルマから投げ出され、転げまわった。
転げまわった衝撃で左腕が千切れてしまい、大量の血が噴出した。



18年前・・・
首都高横羽線・・・

一台の黒い車が火を噴いていた。
ドライバーは投げ出され、そのまま動かない・・・
一番近くに居た車の男がその光景を見て笑っている。

大原「ははははははっ!!黒影FC!無様だなぁ!!くははははっ!!」

投げ出された男は左腕を失っていた。血はこれでもかと言うほど流れ、意識は朦朧としていた。

吉田「あのGT−R・・・殺す・・・」

それが男の最期の言葉だった。



Re:幻の最高速  投稿者:いお太  投稿日:2011年08月17日 05:39:27  No.66081
I P:59.143.94.178
第19話 決戦へ向け、布陣を整えろ。

野ノ平「そんなことが・・・」
佐々原「で、18年前の話と黒いFCはどう関係しているんだ?」

大原は一呼吸置いて言った。

大原「同一人物だ・・・」
野ノ平「・・・?」
佐々原「18年前に倒したFCと今噂のFCが同一人物だということか!?」
大原「そうだ・・・俺も信じられんが、間違いないだろう。」

3人に沈黙が流れる・・・
しばらくして大原が最後に言った。

大原「俺は首都高で実力のあるものを何人か選んで協力を求める。強制はしないから、協力してくれる気があるのなら、声をかけてくれ。」

そう言い残すと、大原はもう一度首都高に乗り、協力者を探しに言った。

大原「アイツが本性を現す前に準備を整えないと――――ッ!」

ここ数日でかなりの人数に声をかけた。
「Non Powers」の田路悠木、「ふざけてねーよ」の中原一志、


命がけの戦いかもしれない・・・だからこそ!あんたらの力が欲しいんだ――――ッ


「スバリスターズ」の城嶋文弘、「首都高エボリューション」の町田昇平、


俺達で結束すれば、きっと勝てるはずだ――――


「白刃」の石田治と原桐子、「ロータリーセブン」の鈴木正義と大川櫻、


みんなで、アイツを負の感情から解き放ってやろう――――ッ!!


首都高7人衆の春川正、野ノ平銀、佐々原銀、浅原昌一


首都高最大の危機かもしれない・・・一緒に乗り切ろう――――!!


そして、いつも共に首都高を走ってきた仲間である、白田京、横山弥彦、北平修・・・


コイツは俺達の問題だ。俺達を筆頭に18年前のオトシマエをつけよう――――ッ


――――数日後 大黒ふ頭――――

結果、大原が声をかけた者はみな協力してくれると言ってくれた。
首都高を降りたはずの石田治も、処分寸前だった自分のFCを強引に引っ張り出してくれた。
そして、大原はあと一人、協力者を探した。


首都高7人衆bU 山田 安彦――――





Re:幻の最高速  投稿者:いお太  投稿日:2011年08月17日 05:40:51  No.66082
I P:59.143.94.178
大原「黒影FCに次ぐ速さを持つといわれている山田・・・今一体どこに居るんだ?」

今でも現役で走っているといわれていたり、もうすでに降りたのでは?と、ウワサされていたりする、わけの分からないやつだ。
目撃証言も、信用できるのか出来ないのか・・・・
一つだけ確実に分かっていることは、山田は過去に大原のチームに所属していたことだ。
年齢的にもキャリア的にも大原の後輩だ。
非常に腕の立つヤツだった。実力もすぐに大原に追いつき、首都高7人衆になった途端にチームから消えてしまった。
一体今はどこに居るのか・・・今となっては手がかりが全く無い。

大原「・・・」

大原は山田の言動を一つ一つ思い出していた。
初めてチームに入ったとき、初めてバトルに勝ったとき、初めて車を潰したとき・・・
だんだん打ち溶け合って、お互いのことを話し始めたときを思い出したときだった・・・

大原(そういや、あいつ、歌が好きなんだったっけ・・・)


車も良いですけど、歌も同じくらい良いと思ってます。
自分が楽器だから、何も無くてもいろんな事が出来ますし――――


山田は高校時代から合唱を続けていたのだ。
彼の声が、大原の記憶に響いている。


唇に〜歌を持て〜♪ 心に〜たいよ〜うを持て〜♪


大黒ふ頭の騒音でも、彼の歌ははっきりと聞こえた。

大原(そういえば、あいつの一番好きな歌ってなんだっけ?)

大原はR32のボンネットに寝転がり、タバコをふかしながら星空を見上げた。
しばらく見つめていると、なんだか聞こえもしない歌が聞こえてくるような気がする。


 探してた明日が 今ここに あるよ


ふと、山田の歌がまた思い起こされてきた。


 追いかけてた昨日を 塗り替えながら


大原(この歌・・・確かあいつが良く歌ってたナ・・・)


 二度とは帰らない 今日だっていいよ


大原(何だっけ・・・この歌・・・)


 描いてた未来の地図も 生まれ変わるさ

 大丈夫 ずっとこの歌を 歌いながら

 大丈夫 ずっとこの歌と ここまで来たよ


大原(ああ、そうだ・・・この歌は・・・)

大原は目を閉じ、そこから一筋の涙が流れた。
アイツはこの歌が好きだったんだ。


 あの日 見上げた星空より高く

 夢で思うより 遥か遠く

 今夜 連れてゆくよ ごらん


大原「『星屑の街』へ」

アイツはこの歌が好きだった。
自分の人生を振り返っているみたいだって言ってた。
そして、大原にとってもこの歌は思い出深い歌だと思い出した。

大原「アイツが首都高7人衆決定戦の前夜に、この歌を歌ったナ・・・」

大原は山田にこの歌を歌い、戦いに送り出した。
それが山田と最後に交わした言葉だった。



Re:幻の最高速  投稿者:いお太  投稿日:2011年08月17日 22:26:46  No.66083
I P:59.143.94.178


――――次の日 辰巳PA――――

大原は山田との多くの思い出を元に、山田の手がかりを更に掴もうとしていた。
そして、一つ思いついたことがあったので、『ロータリーセブン』の大川櫻に声をかけた。

大原「君だよね。歌好きの小さな走り屋さんは。」
大川「もーっ、小さくありません!」
大原「ハハ、冗談だよ。」
大川「それで、一体なんですか?」
大原「一つ聞きたいことがあるんだ。」

大原は山田について尋ねた。
山田も大川も合唱と言う世界に入っているので、もしかしたら何か繋がりがあるのではないかと考えたからだ。

大川「『山田安彦』・・・あー、『合唱団 すたーだすと』の団長さんだ。」
大原「マジか!他に何か知っているか?」
大川「ううん、今年辞めちゃって、今はどうしてるか分かんない。」
大原「そっか。でもありがとう。あいつの居場所にかなり近づけたよ。」

大原はすぐに家に帰り、インターネットで山田が所属していた合唱団を調べた。
どうやら山田が辞めたのはごく最近らしく、僅かに彼の情報が書き込まれていた。

『引退演奏会最後の星屑の街でマジ泣きしました!』
『いつも帰りに蒲田のラーメン屋で語り合ったのがもう無いと思うとさびしいです・・・』

大原「蒲田か・・・その近辺のラーメン屋に聞き込んだりしてみるか。」





Re:幻の最高速  投稿者:いお太  投稿日:2011年08月17日 22:27:52  No.66085
I P:59.143.94.178
――――その日の正午 羽田空港第一ターミナル 展望ラウンジ――――

展望ラウンジにあるカフェで、大川はある人物を待っていた。
これから敵対する人物であるため、複雑な気持ちではあったが山田の情報を聞き出すために合って話を聞こうと思った。

吉田「おう、待たせて悪かったな。」
大川「あ、う、うん・・・」
吉田「どーした?元気無ぇぞ。」
大川「ううん。大丈夫。それで、山田安彦って言う人のこと、何か分かった?」
吉田「『合唱団 すたーだすと』か・・・俺が一番印象的だったのは、去年この展望ラウンジで小さな演奏会を行ったときの『星屑の街』だナ。」

明かりを最小限に抑え、夜空の星が見えるようになった中での演奏だった。
アレはまさしく、『心のこもった演奏』だった。

大川「引退演奏会は?あたしはそっちの方が感動的だったけど・・・」
吉田「聞きたかったんだけど、都合が合わなくてナ。」
大川「それで、その演奏会がどうしたの?」
吉田「演奏会の帰りの話だ。駐車場でその人を見つけた。白のR33に乗っていたな。少し話をしてみたんだ。全部は覚えていないけど、これだけは覚えている。」


真っ直ぐで澄んだ音を出す機械が子どもの頃から好きだったんだ――――

だから、飛行場で演奏会をしたり、RB26のGT−Rに乗っているんだ――――


大川「そうなんだ・・・でも、それがどうしたの?」
吉田「あの人がGT−Rに乗っている理由が分かったんだ。今までGT−Rなんて、過去の車の良いとこ取りでセコイだけかと思っていたけど、エンジンの音だけは認めるようになった。」
大川「ふう・・ん。」
吉田「そうだ、これを渡しとくよ。そのときのパンフレットだよ。」
大川「あっ・・・ありがとう!!」

そのパンフレットを見ていくと、『合唱団 すたーだすと』の連絡先が書いてあった。
どうやら当事の団長である山田の連絡先のようだった。
その後、二人は少し話をした後に帰っていった。

大川(こんな有力な情報をくれるなんて・・・吉田君ってホントに『黒影FC』だったの?)

吉田(大原め・・・まさかあいつにまで手を回していたとはな・・・)

吉田は、夏休み最後の戦いがかなり大きくなることを予感した。



Re:幻の最高速  投稿者:いお太  投稿日:2011年08月21日 17:00:56  No.66086
I P:59.143.94.178


――――その日の夜 辰巳PA――――

大川は大原に連絡し、山田の最も重要な情報である演奏会のパンフレットを渡した。
山田の連絡先と、彼の住所が載っている。

大原「すげえ・・・この手があったかァ!」
大川「これ、大原さんにお貸しします。」
大原「良いのか?ありがとう!それじゃぁ、明日行ってみるよ!」

やっと山田に会える、と、大原は高揚した気分で去っていった。


――――次の日 大田区蒲田の西糀谷――――

大原はパンフレットを頼りに山田が住んでいると思われる家を探した。
しばらく歩いてそれと思わしき家が見えてきた。表札にはしっかりと『山田』と書いてある。

ピンポーン・・・

インターホンを鳴らしてみた。しばらくして、鍵が開く音の後に扉が開いた。
が、扉から出てきたのはなんと白髪の生えたおじいさんだった。

大原「・・・(!?)あの・・・山田安彦さん・・・ですか?」
おじいさん「・・・・・・・・・・・・ん?」

聞こえないようだ。今度はもっと大きな声で言った

大原「山田安彦さんですかァ!!?」
おじいさん「ああ、ンgだksv間mhhfdsじゃんgふぁ」

おじいさんの入れ歯が外れた!おじいさんは入れ歯が外れたことに気付いていません。

大原「(こいつダメだな)すいません、人違いでした。」
おじいさん「んしdmfhdfjvんhfjn・・・」

おじいさんは入れ歯が外れたことに気付いていません。
大原はもしかしたら一見隣かもしれないと思った。試しに隣を見てみると、隣も表札には『山田』と書いてあった。



Re:幻の最高速  投稿者:いお太  投稿日:2011年08月21日 17:02:59  No.66087
I P:59.143.94.178

2件目トライ――――

ピンポーン

出てきたのは40代の臭そうなおっさんだった。また人違いなのか?

大原「あの・・・山田安彦さん・・・ですか?」
臭そうなおっさん「ああ、それならうちの3つ右隣だよ。五軒連続で『山田』だから、良く間違えるんだよね。」

それはあり得ないだろと思いながら、良くみると本当に『山田』が5つそろっている。ビンゴゲームか!

大原「そうですか、失礼しました」

大原はそういうとさっさとおっさんから離れた。予想通りの臭さだった。
臭いおっさんの家から3間隣を見てみると、そこの家のガレージには一台のワゴンが止まっていた。

大原「日産のステージアか。GT−Rと同じRB26エンジンを積んでいるワゴンだ。やっぱ、RB26好きなんだな。」
だが、彼が乗っていたR33が見当たらない。

ピンポーン

大原はインターホンを鳴らし、山田が出るのを待った。
しばらくして扉が空き、正真正銘、山田安彦が現れた。

大原「・・・」
山田「・・・大原さん・・・!?」
大原「山田・・・お前・・・」
山田「一体何の用ですか?」
大原「お前の力が欲しい。力を貸してくれ!」
山田「それって・・・まさか・・・」
大原「俺達と一緒に走ってくれ!どうしてもカタをつけなきゃいけない奴がいるんだ!」
山田「・・・・・・」

山田は何処か苦しそうな表情だ。まるで過去を思い返すように目を瞑っている。

大原「一体どうしたんだ?そういえば、あの時乗っていたR33はどうした?」
山田「あなたには何も話すことなどありません!!」
大原「どういうことだよ!なぁ、話してくれよ!」

がたぁぁぁん!!



Re:幻の最高速  投稿者:いお太  投稿日:2011年08月21日 17:04:27  No.66088
I P:59.143.94.178

山田は思いっきりドアを閉め、怒り狂ったように鍵を乱暴に閉めた。
一体どうしたと言うのだ・・・
彼の家の前で途方にくれていると、後ろから女性に声をかけられた。

女性「あの・・・私の家に何か用でしょうか?」
大原「あ・・・すいませ・・・えっ!」

同棲!!マジか!!ん?『私の家』=山田の家・・・

大原「けけけけけけけけけけ結婚なさってるんですかぁぁ!!」
大原の妻「・・・はぁ・・・(何このキチガイ・・・)」

まさかあいつが結婚しているなんて思いもしなかった。俺ですらしていないのに・・・

大原「取り乱してしまってすいません・・・山田さん・・・ですか?」
山田の妻「はい・・・山田優子と申します。」
大原「大原清といいます。山田安彦さんとは昔の知り合いなんですが・・・」

大原は優子に山田に関して質問を投げかけまくった。
多少迷惑そうな顔をしてはいたが、彼女は素直に応えてくれた。
良い妻を持ったものだな・・・

大原「安彦さんのことなんですが、彼、昔走り屋でしたよね・・・?」
優子「・・・はい・・・白いスポーツカーで首都高を走っていました。」
大原「では・・・彼は何故走り屋をやめてしまったのですか?」
優子「それは・・・私のせいです・・・」
大原「えっ・・・」



Re:幻の最高速  投稿者:いお太  投稿日:2011年08月21日 17:05:14  No.66089
I P:59.143.94.178

詳しい話を聞いてみれば、付き合い始めた頃は安彦は走り屋だったが、優子が走り屋の事故などを聞いているうちに安彦もそうなるのではないかと恐れてしまい、彼に走り屋をやめるように迫ったのだ。
その後、R33は何処かに売ってしまい、現在は普通の生活を送っている。

優子「でも、彼が走り屋を辞めて以降、なんだか彼が少しだけ変わってしまったように感じるんです。」
大原「どういうことですか?」
優子「以前より元気が無いような気がするんです。普段の生活では気を使って今までどおりに振舞ってくれたんですが、彼の歌から輝きが失われてしまったような・・・」

だとしたら彼は走りたくて走りたくてたまらないはずなのに、どうしてさっきの話を断ったのだろう・・・
大原は思い切って言ってみた。

大原「あの、彼が走り屋をもう一度すれば・・・」
優子「彼も明るくなってくれる・・・私もそう思っています。」
大原「だったら・・・」
優子「でも・・・私は彼に走り屋をやってほしくありません。彼が事故を起こしてしまうのが、心の底から恐ろしいんです。」

走り屋で彼女がいる場合の典型的な悩みだ。
彼女が事故を怖がって走り屋を引退する例は少なくない。
黒影FCに変わって首都高最速と言われた男もこれには敵わなかったようだ。

大原「アイツなら、絶対事故りませんよ。」
優子「でも、保障はありません。」
大原「上手い走り屋は速いだけでなく、事故らないから上手いんですよ!」
優子「それでも私は・・・彼に走ってほしくありません。」

大原は少し間を置いてこう言った。


事故るかも知れない・・・命を失うかもしれない・・・

それでも、男ならやらなきゃいけないことがあるんです――――


優子「・・・・・・うらやましいですね。男の人って・・・」
大原「・・・?」
優子「余計なことなんか考えずに、勇気を持って戦いにいける心がうらやましいです。私にはとても真似できません。」

どうやら彼女を説得できたようだ。
大原は彼女に頭を下げて頼んだ。

大原「どうか、彼にもう一度走り屋になるよう、言ってくれませんか?」
優子「わかりました。でも、全ては彼次第ですよ。」

とりあえず、お互い連絡を取れるようにメールアドレスを交換した。
そういって彼女は家に入っていった。
大原は山田の返事を期待して帰っていった。



Re:幻の最高速  投稿者:いお太  投稿日:2011年09月11日 02:51:52  No.66090
I P:59.143.94.178


――――山田家――――

優子「ただいま。」
山田「ああ、おかえり。」

優子が帰ったとき、山田は何かアルバムのようなものを持っていた。
優子が帰ってきた途端に、隠すように彼はアルバムを閉じ、棚にしまった。

優子「何を見てたの?」
山田「ん、ちょっとね。」

優子は彼がしまったアルバムを探し出し、棚から取り出した。

優子「もしかして、さっきの本ってこのアルバム?」
山田「お前にはまだ早い!」

ソフト○ンクのCMのお父さんみたいに言い放つと、彼はアルバムを取り上げた。
だが、優子はお色気全開パワーで挑発してきた。

優子「ねぇ、ちょっと位良いじゃない〜」
山田「・・・ハァ〜、しゃーねーな・・・」

山田は優子の言葉に押し負け、しぶしぶアルバムを見せる事になった。
そのアルバムには、R33を手放す前の山田の走り屋人生が詰まっていた。

優子「うわぁ〜、こんなクルマ乗ってたんだ〜」
山田「最初は180SX(ワンエイティ)に乗ってたよ。初めてパーツを換えたのはホイールとマフラーだったかな。」
優子「へぇ〜。」
山田「ある程度貯金がたまったら、雑誌片手にエンジンをいじったよ。ところが、なんだか調子が出なくてサ、もう一回いじったら更にヒドくなっちまって・・・。」
優子「それからどうしたの?」
山田「何度もいじって、何度もトライ&エラーを繰り返して、結構速くなったんだけど、いざ、強敵を求めてGT−Rに挑んでみたら見事にボロ負け。そっからGT−R一筋だ。」
優子「なんだかクルマの話になると元気になるね。」
山田「・・・・・・」
優子「そういえば、あの白いGT−Rはどうしたの?」
山田「・・・・・・」

山田は少し震えた。怒りのような、悲しみのような、ワケの分からない震えだ。
山田は立ち上がり、少し強い語気で言った。

山田「君が走り屋をやめろというから手放したんじゃないかッ・・・いまさらどういう・・・」
優子「お願い、またあのGT−Rで走って欲しいの!」
山田「俺は君を悲しませたくない!それとも、俺が死んでも良いってのか!」
優子「・・・さっき、大原って言う走り屋の先輩の人が来たでしょ。」
山田「・・・それがどうした。」
優子「その人、あなたにもう一度走って欲しいって言っているの!」
山田「いまさら走り屋に戻らなければならない理由が分からない!どういうわけでそんな馬鹿なことを言っているんだ!」

優子は黙り込んでしまった。
そういえば、優子は、山田が走り屋に戻る理由を聞いていなかった。
しばらく沈黙が続いたが、最後に優子が言い放った。

優子「男なら、余計なことを考えずに戦わなきゃいけないことがある!だからお願い!もう一度戦って!」
山田「そんなに俺に死んで欲しいのか!」

山田は激怒し、2階の彼の部屋に閉じこもってしまった。



Re:幻の最高速  投稿者:いお太  投稿日:2011年09月11日 03:06:26  No.66091
I P:59.143.94.178


――――山田の部屋――――

ドアを怒りに任せて閉めて、彼はベッドに寝転がった。
あんなことを言ってしまったが、山田はやはり走りたかった。
あの真っ直ぐな音を出すR33で、時速330キロでも真っ直ぐに突き進むR33で・・・
だが、走りを辞めさせた彼女が何故今になってもう一度走れというのだ。
大原がどうとか言っていたが、一体何故大原さんが俺に走れと言うのか・・・
だけど、吹っ切れていない走りへの思いをぶつけたい・・・

コンコン

優子が扉を叩いた。

優子「あなた、大原さんからのメール、私の携帯に来たの。読んでみて。」

仕方なくドアを開け、彼女の携帯だけ取った。
本当に大原からメールが来ていた。


大原だ。
何の挨拶も無しにいきなり走り屋に戻れなどと言ってしまって済まない。
だが、今回はどうしてもお前の助けが必要なんだ。
相手は『黒影FC』。お前抜きでは本当に敵わないと思う。
だから絶対俺達と走って欲しい。
と、ここまでは俺達の都合なんだが、こっからはお前の妻の優子さんのことだ。
俺はもうすでに彼女に話をつけた。
きっと、お前が走り屋に戻ることも快く受け入れてくれると思う。
だから、いつまでも妻の心配ばかりしなくても良いんだ。
そして最後におまえ自身の話だ。
お前、やっぱり走り屋をやめた事が吹っ切れていないんだな。
ガレージに停めてあるステージアを見て確信した。
RB26が捨てきれないんだろう?
表では走り屋なんてイヤだ、と言っているようだが
心の中では走りたいと思っているんじゃないか?
ああいう世界に入り込んだなら、中途半端なところでやめちまう事は出来ない。
最後にはキッチリとケリをつけなければいつまでも気がすまない世界なんだ。
自分に嘘ばかりついてないで、自分の気持ちを押し殺さないで
もう一度走りに来い



Re:幻の最高速  投稿者:いお太  投稿日:2011年09月11日 03:07:11  No.66092
I P:59.143.94.178


それが大原からのメールの内容だった。
山田の目からは涙がこぼれていた。
妻を心配させたくないから走り屋を止めた。
自分の気持ちに蓋をして・・・
だが、いざ走り出しても良いよと言われたら俺は一体なんて言ったんだ?
結局自分の気持ちを押し付けていただけだ。
俺はただの自己中野郎かよ!

山田「もう一度走るよ・・・俺・・・」
優子「がんばってね・・・」

山田は涙を拭いて、明るい声で言った。

山田「よし、あのR33を探しに行くぞ!ついて来やがれ!」



Re:幻の最高速  投稿者:いお太  投稿日:2011年09月11日 03:45:41  No.66093
I P:59.143.94.178


――――そんなこんなでR33を売った店――――


山田「確かこの店でR33を売っ払ったんだよナ。」
優子「それっぽいのはなさそうだね・・・」

山田は店員に話しかけた。

山田「ここに物凄いチューンド(改造)のR33ってありませんでしたか?」
店員「んー、もしかしてボディーカラーは白でしたか?」
山田「そうです!!ここには無さそうですけど・・・もしかしたら、誰かが買ってしまったとか・・・」
店員「そうですね・・・すでに他のお客様がお買いになってしまったのですが・・・」
山田「そうですか・・・」

山田はがっくりと肩を落した。
その様子を見て、店員が一つ付け加えて言った。

店員「申し訳ありません・・・しかし、そのお客様・・・なんだか妙なんですよ。」
山田「どういうことですか?」
店員「物凄い形相で、『物凄いハイチューンのクルマは無いか!?』と聞いてきたんですよ。いまどき改造車なんて買う人は滅多にいないのに、更にそんなに必死になって何をしていたんでしょうね?」
山田「その人の手がかりは何かありますか?」
店員「なんだか、レースだの赤城最速だの・・・あとは『AI』とか言ってましたね。」

なんだか良く分からないが、赤城という所にいる様だ。
店から出ると、辺りはすでに暗くなっていたので、今日は諦めて家に帰った。

優子「なんだか良く分からないけど、車が見つかりそうで良かったね。」
山田「・・・」
優子「どーしたの?」
山田「ちょっと俺赤城行ってくるわ!」
優子「えっ、ちょっと〜急過ぎじゃないの〜?」

二人はステージアに乗り込み、群馬県の赤城峠を目指した。



Re:幻の最高速  投稿者:いお太  投稿日:2011年10月02日 02:56:51  No.66094
I P:59.143.94.178
――――午後11時 群馬県赤城峠――――


首都高のみならず、峠にも走り屋はいる。
首都高の走り屋は時速200キロや300キロで速さを競う。
対して峠の走り屋は時速100キロほどでドリフトを交えつつ速さを競う。
そんなドリフトを交えながらの競い合いに、山田はいた。

山田「うおぉぉぉぉ・・・ッ!っと〜!だんだん勘が戻ってきたぞ!」
優子「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ(泣)」

何の改造もしていないドノーマルのステージアで、物凄いフルチューンのインテRを追い掛け回していた。
2台はほぼ互角のまま頂上にたどり着いた。

山田「速いですね!そのインテR。」
インテRの男「それを言うならこっちの台詞だ。ドノーマルのステージアに追い回されるとは思ってもいなかったヨ。」
山田「あ、俺は山田安彦って言います。」
インテRの男「俺の名は天王寺。天王寺 明良(テンノウジ アキラ)だ。」

二人は世間話でもするかのように走り屋の情報を交換し合っていた。
そして、山田はあの33Rの話題を切り出した。

山田「そういえば、この赤城峠に白いR33の噂なんてありませんか?」
天王寺「あ゛〜・・・アイツはマジでクソ野郎だ。あんまり関わらない方が良いぜ。」
山田「どういうことですか?」
天王寺「なんでも、そのR33を使って『レーシングAI』なんてのを作るらしい。ばかばかしくて周りはあきれてる。」
山田「そのR33は、もしかして元々首都高を走っていた人の物では?」
天王寺「ずいぶん知っているんだな。800馬力の首都高チューン。そいつを800馬力のまま峠で走らせようって言ってるらしいから、更にあきれるぜ。」
山田「情報提供有難うございます。」
天王寺「あんなR33とどんな関わりが在るのかは知らねぇがマジで気をつけろよ。」



Re:幻の最高速  投稿者:いお太  投稿日:2011年10月02日 02:58:22  No.66095
I P:59.143.94.178

天王寺と別れ、頂上から少し下ったところにある大きな駐車場へ向かった。
そこが赤城で一番走り屋がたむろっている所だからだ。
さまざまなクルマや何人かの走り屋が固まっているが、その隅っこにあの白いR33があった。
一台の車を何人かで取り囲んでいる。たまに大黒ふ頭なんかでも見かける光景だが、このR33の周りの集団は何か異様な雰囲気をかもし出している。

優子「もしかしてあの白い車・・・」
山田「ああ、間違いない。俺が乗っていたR33だ。俺が話をつけてくるから、お前は絶対ここを離れるな。」
優子「・・・?・・・わ、分かった。」

山田は恐る恐るR33の集団に近づいた。
これといっておかしな言動はみられないが、最初に感じた異様な感じは近づくごとに大きくなる。

山田「あ、あの〜・・・」
謎の男1「何ですか?」
謎の男2「あまりじろじろ見ないで下さい。下手に情報を流したくありませんので。」
山田「そのR33、あなた方のですよネ。」
謎の男3「そうです。これは我々の物です。」
謎の男2「それ以上近づかないで下さい。車内が見えてしまいます。」

車内ィ?やはりコイツら、異様だ。

山田「そのR33、何か思い入れでもあるんですか?そうでなきゃ、下手に他人を近づけさせないですよね。」
謎の男4「そんなものは無いって。峠制覇のための道具だよ。」

イラッときた。元々は俺の、俺のR33なんだ!
それを『道具』と言いやがった!

謎の男4「怖っ・・・あ、そんなにこのR33にこだわるってことは、もしかしてこのR33が欲しい・・・とか?アハハ」

アハハじゃねぇよ!
クソッ・・・抑えろ・・・抑えろ・・・

山田「そうですネ。そのR33、元々は僕のものなんです。今度のバトルで、命を乗せて走るのにそのR33が必要になったんです。」
謎の男1「いいんじゃないですか?別に変わりはいくらでもありますし。」
謎の男4「さんせーい。」
謎の男3「まぁ、構わないですよ。」
謎の男2「仕方ない。譲りましょう。」



Re:幻の最高速  投稿者:いお太  投稿日:2011年10月02日 03:01:00  No.66096
I P:59.143.94.178
なんだかいとも簡単にR33を手に入れることが出来た。
それにしてもあの集団の異様さは一体なんだ?出来れば二度と関わりあいたくない。
それから山田はR33をステージアの横に停めた。

優子「懐かしいね。そのクルマ。」
山田「ああ、そうだな。用事も済んだし、もう帰ろう。」
優子「そうだね。あっ・・・でも、こっちのステージアはどうするの?」
山田「あ゛・・・忘れてた!まぁいいや、お前運転してけ。」
優子「えっ・・・あたし車なんて一度も運転したこと無いよ〜!」

その後、山田による約2時間に渡るマニュアル車の講習の後、やっとの思いで帰りましたとさ。



Re:幻の最高速  投稿者:いお太  投稿日:2011年10月30日 03:11:30  No.66097
I P:59.143.94.178
第20話 決着に向けて

――――湾岸線 西行き 空港中央付近――――

2台のGT−Rがとてつもない速度で走り抜ける。
山田の白いR33と、大原の紺色のR32だ。
走り屋の世界から一度離れた山田のブランクを埋め合わせるために二人は連日走りこんでいた。
今は山田R33が前を走っている。

大原「うおお・・・ここまできたらリハビリに付き合っている俺が完全に喰われちまうじゃねぇかよ!」
山田「記憶が・・・感覚が・・・戻ってくる・・・俺はあの頃の走りに着実に近づいている!!」

2台の距離はだんだんと離れていく。
20m・・・30m・・・50m・・・
100mほど離れたところで大原がアクセルを抜いた。
これは完全に追いつけないと大原は思った。


――――大黒ふ頭PA――――

大原が大黒ふ頭PAに入る頃には、山田はすでにブレイクタイムだった。
ナマイキにブラックの缶コーヒーを飲みながら車のドアに寄りかかっていた。
大原は車を横に停め、降りてから言った。

大原「ナマイキだけど、ずいぶん速いよナ。もう昔より速かったりしてナ。」
山田「そんな事無いですよ。実戦だとどうなるか分かりませんし。」
大原「うーん、もう十分あのFCと張り合えるくらいにはなってると思うけどな。」
山田「・・・一度そのFCと走ってみないことには何とも言えませんヨ。」
大原「そうだな。FC捜索も兼ねて、しばらくしたらもう一っ走りするか!」

二人は数十分ほど休憩して、再び湾岸に出た。今度は東行き。
2台の凄まじいエキゾースト(排気音)は凄まじい速度で東に向かう。
それはつばさ橋を過ぎたあたりだ。

大原「後ろから一台来てるな。この音は・・・ロータリーエンジンの音か!?」

大原の読みは当たっていた。後方から来るのはやはりあのクルマだ――――ッ!


首都高7人衆 bV 黒影FCの吉田耕一――――



Re:幻の最高速  投稿者:いお太  投稿日:2011年10月30日 03:12:28  No.66098
I P:59.143.94.178


一気に大原と山田を追い抜き、FCが前に踊り出た。
大原と山田は一気に本気モードになった。

大原「出やがったな黒影・・・山田、その目にしっかり刻んどけよ・・・そのFCの恐ろしいほども走りを――――!!」
山田「これがあの黒影FC・・・何という速さ・・・何という威圧感・・・」

一般車が多いにも関わらず、3台は常に280キロをオーバーしている。
かなりのペースで湾岸線を疾走していく・・・。
東扇島・・・空港中央・・・大井・・・
そしていつの間にか有明JCTまで来てしまった。
FCはそこで左折し、レインボーブリッジ経由でC1へ向かった。
台場線へ入る左コーナーでFCはド派手にドリフトをかました。

山田「ッ!・・・この速度でドリフト・・・」

2車線の台場線に入り、3台の速度こそ下がっているものの、FCの動きには山田は驚いていることに変わりなかった。
スリップストリームなどを使って何とか追いついてはいるものの、あと5m離されればもう追いつけないだろう。

山田(しっかりとあのFCを見ろ・・・そして一瞬たりともヤツの真後ろから離れるな。一瞬でもスリップストリームが途切れたらおしまいだ!)

山田はFCを凝視した。FCと全く同じように走るために。
しかし、それが仇となった。レインボーブリッジの真上のことだった。
一番右側の車線にいたセダンが、突然、ウインカーも無しに車線変更したのだ。
セダンはFCの目の前で車線変更を行った。

山田&吉田「うおおおぉぉ!!!てめぇ何しやがんだァ!!」

あわててブレーキを踏み速度を落とし、セダンを避けて再びアクセルを踏む。
その時、FCが一気に山田の視界から離れていった。
ブレーキを踏んでからアクセルを踏み込むまでが、山田のほうが僅かに速かった。
山田はFCだけしか見ていなかったために、一般車に注意が向かなくなってしまい、結果、セダンの車線変更への対応が遅れてしまったのだ。

山田「クソッ!追いついてくれ・・・頼む・・・ッ!」

山田の願いも虚しく、FCは瞬く間に離れていく。
あっという間にテールランプは彼方へと消えていった。




Re:幻の最高速  投稿者:いお太  投稿日:2011年10月30日 03:13:43  No.66099
I P:59.143.94.178
――――辰巳PA――――


山田はすっかり気を落していた。
ドライビングテクニック自体は悪くないが、一般車や天候の急激な変化、工事渋滞に落下物などの刻一刻と変化する公道の顔を忘れていた。


公道は生きている――――


現役時代に大原から教わった言葉を思い出した。

大原「そんなに気にするな。公道ならではの勘はお前ならすぐに取り戻せる。クルマのコンディションが整ったら、もう一度走ろう。」
山田「・・・何か、自信なくなっちゃって・・・取り戻せますかね。そう簡単に・・・」
大原「取り戻せるさ。お前次第でな。おまえ自身が公道を分かろうとすれば、すぐにでも速くなる。」


才能や経験よりも

大事なのは解ろうとする努力と心なんだぜ――――


朝も近くなり、朝の一般車が多くなるまであと僅かとなった。
最後に湾岸線を走り、大黒ふ頭まで行って今日の走りを終えることにした。

山田(・・・公道は生きている・・・目を凝らせッ・・・!・・・一般車は同じ配置には二度とならない。天気だって、突然変わることもある。事故や工事で渋滞がおきたり、目の前に突然落下物が飛び込んでくるなんてこともある。)


解ろうとするんだ――――

公道は生きている――――ッ!


――――大黒ふ頭――――

一番先に大黒ふ頭の駐車場に入った山田の目に思いもよらぬものが飛び込んできた。

山田「クルマが一台もいない・・・いつもなら1000倍騒がしいのに・・・」

大原「駐車場のど真ん中に一台、黒いチューンドカーがある。何でアイツが・・・」

朝焼けで街は群青色に染まりかけている・・・
影は長く、まだ弱弱しく伸びている。

吉田「来ると思っていたぜ・・・大原清・・・」
大原「来たくて来た訳じゃねぇ。」
吉田「知ってるぜ・・・お前いろんなチームから援軍頼みまくってるんだってナ。相変わらず頼るの好きだな。お前・・・」
大原「その様子だと、お前はやっぱり一人で俺達と戦うんだな。相変わらず一人ぼっちがお好きだな。」

山田(大原さん・・・こんな目をしたこと見たこと無い・・・身に纏うオーラが二人ともヤバすぎる・・・)

吉田「来週の水曜だ。夏の帰省ラッシュも収まって、一般車も少ないから良いだろう?」
大原「『仲間』に確認を取る。それまで待て。」
吉田「待てない。理由は聞くなよ。」
大原「何だァ恥ずかしがってんのか?いつからそんな陰キャラになったんだよ。」

そう言って、大原は携帯で『仲間』達にメールを送った。

吉田「とにかく水曜だ。どうにかして間に合わせろ。そして証明してやる・・・」


仲間に頼るばかりでなく、自分ひとりで戦うことも大事だってな――――ッ!!!


大原「落ち着け。どうやら皆都合が合うようだ。そしていい加減解れ・・・」


一人ひとりの足り無いところを埋め合わせ、『仲間』と戦うことの強さを――――ッ!!!


決戦の日も決まり、黒影FCの吉田は何処かへ去っていった。
冷たい風が通り抜けた・・・広い駐車場に2台と二人だけだ。

山田「大原さん・・・」
大原「お前、走り方ずいぶん変わったよ。良くなった。一般車の避け方がさっきまでとはまるで違う。だがアイツは・・・」
山田「・・・?」
大原「何も変わっていない・・・18年前から何も・・・」



Re:幻の最高速  投稿者:いお太  投稿日:2011年11月27日 04:52:38  No.66100
I P:59.143.94.178
第21話 決戦前夜

――――某日火曜日 大黒ふ頭PA AM2:00――――

横山はメンテナンスを十分に行ったR32の中で大原を待っていた。
横山は周りの雰囲気がいつもと違っているのに気がついた。
明日水曜日に首都高最大のバトルが行われる噂は一瞬で広がった。
まるで戦争でも起こるかのような、臨戦態勢の緊張感がこの一週間首都高中に広がっていた。

横山(なんか・・・物凄く怖いな・・・いつもは浮かれているこの場所もこんなに緊張していると、なんだか不吉な予感がしてくるぜ・・・・)

後方から一台のエキゾースト(排気音)が聞こえた。その車はこちらの隣に止まった。
BNR34だ。そして中に居るのは・・・

大原「よう!待たせたな。」
横山「えっ・・・大原さん、R32はどうしたんですか?」
大原「俺のR32は俺のガレージに置いてきた。」
横山「そうか!あのFCと戦うためにR32よりも高性能なR34で走るんですね。」
大原「ん、そうだな。だが、こいつに乗るのは俺じゃねぇぜ。」
横山「えっ・・・それじゃァ誰が・・・?」
大原「お前だよ。」
横山「!!・・・そんな・・・俺、いきなりそんな事言われても・・・時間的にクルマを乗りこなせませんよ!」
大原「やれ。お前なら出来るはずだ。R32ではお前はあのFCと互角には渡り合えない。武器に頼るような戦い方はあまり好きじゃねぇが、短期間でレベルアップさせるためにはこれしかなかった。」
横山「・・・わかりました。大原さんが言うなら、俺はやって見せます!」

横山はR34に乗り込み、湾岸線東行きに踊り出た。
湾岸に入ると、助手席の大原がこのR34の説明を始めた。

大原「馬力は最大800馬力だ。最高速度は330キロってトコか。レース並みの派手なエアロパーツで武装してるから300キロでもしっかり地面を捉えてくるハズだ。特に、リア(車体後方)のGTウイングは角度を調節できる!しかも運転しながらナ!」
横山「えーっと・・・もしかしてこのツマミで調節するんですか?」
大原「そうだ。状況にあわせて変えると良い。そして、こっちのボタンで馬力を調節できる。」
横山「マジっすか?」
大原「一番左のボタンが400馬力、真ん中が600馬力、右が今使ってる800馬力モードだ。」
横山「すげー!こういうのがあるのは知ってたけど、実際使うのは初めてだァ!!おもしれー!」
大原「操作性はお前のR32になるべく近づけておいた。だが、何処か気に入らないところがあれば、適当なPAでセッティングしな。トランクに工具一式とパーツが少し入ってるから。」
横山「有難うございます!!何か勝てる気がしてきた!!」
大原「ナラシ運転はもう済ませてある。とっとと全開にしてみな。」

横山のR34は、一際甲高いエキゾーストで湾岸線の彼方へ突き進んでいった。



Re:幻の最高速  投稿者:いお太  投稿日:2011年11月27日 04:54:53  No.66101
I P:59.143.94.178


――――辰巳PA AM2:15――――


こちらでは大川と鈴木のFDそして石田のFCの3台が並んでいた。
大川のFDは鈴木のショップでチューニングされ、今日、最終チェックを行う予定だ。

大川「なんだか、最初に買ったときより凄い派手になったなぁ。」
鈴木「エアロパーツ、派手なのに付け替えたからですよ。」
石田「馬力もかなり上がって、マジで戦闘力急増したな。」
鈴木「極めつけは、皆大好きGTウイング!」
石田「みんな好きとは限らねぇよ。でもまぁ、コイツのおかげでだいぶ動きが変わったからナ。」
大川「うわ〜、このFDの動きにあたし、ついて行けるかなぁ?上手く乗りこなせない気がする・・・」
鈴木「大丈夫!小さくたって頭脳は大人な名探偵がいるくらいだから、小さくたって走りは大人な女の子がいても不思議じゃないよ。」
大川「意味わかんな〜い。小さくないです〜!」
石田「・・・あー、まぁ取り合えず乗ってみるまで解らねぇから、軽く一回りしていこうぜ。」

3人はそれぞれ車に乗り込み、新環状線左回りルートに入った。
その時、後方から物凄い速いR34が追い上げてきた。お察しの通り、横山のR34だ!

大原「おっ、こいつは良いところに!コイツらとバトルして、実戦形式でこのクルマを乗りこなそう!」
横山「よっしゃぁ!負ける気がしねぇぜ!」

大川「うわっ、パッシングでバトル申し込んできた。大丈夫かな。」
鈴木「あっ、大黒ふ頭のR野郎じゃん!こりゃぁバトル決定だな!」
石田「うわー、こうしてみるとFCってホント時代遅れのクルマだな。ま、勝てるから良いけどな!」

4台は一気にバトルモードに入り、漆黒の首都高を駆けて行った。



Re:幻の最高速  投稿者:いお太  投稿日:2011年12月04日 04:17:26  No.66102
I P:59.143.94.178


――――芝公園付近 Non Powers本拠地の公園――――


本来ならこの公園ではNon Powersが明日に向けての作戦を立てる予定だった。が・・・
何故か他のチームが多数・・・スバリスターズや首都高エボリューション、そして「ふざけてねーよ」だ。
合計4チームが合同で作戦会議をした。で、FCと走るメンバーを決めた。
まァ、予想できると思うけど、各チームのリーダーがバトルすることになった。

田路「それじゃァ、会議は終了だ。あまり大勢でいると怪しまれるから、今日はこれにて解散にしよう。」

メンバーはぱらぱらと散っていき、残ったのは田路、城嶋、町田、中原の4人となった。

城嶋「黒いFCか・・・ドライバーは会ったことがあるが、思い出してみると車のほうは見たことが無いな。」

城嶋がポツリとつぶやいた。

町田「俺達がバトルした時はアンタのハチロクだったな。」
田路「ああ、あの時か・・・」
城嶋「ハチロクで・・・しかも自分の手に馴染んでいない他人のハチロクであれほどの実力だ。」
中原「ええーーー!!そんな化け物にどうやって勝つんだよ!!」
町田「・・・こりゃァ勝ち目無ぇナ」
中原「うそー・・・」
城嶋「だが、例え勝ち目が無くとも、俺達は挑まなきゃならない気がする。」
田路「そうですね。」


勝つか負けるかじゃない――――

挑まなきゃいけないなら挑む――――

ただそれだけだ――――


――――大黒ふ頭 AM3:00――――

山田は首都高を一周走り、車を休めるために一旦休憩を取った。
駐車場の一角に車を停めたとき、後ろから誰かがやってくるのがバックミラーから見えた。

山田「えっ・・・優子か?」
優子「そ。見間違いとかじゃなく、あたしだよ。」
山田「な、何で来たんだ?危ないからお家に帰ってなさい。」
優子「アンタは親かい・・・あたしが来たのは、明日の『バトル』にあたしも一緒に乗せて欲しいから。」
山田「ハァァァァ!お前言ってる意味分かってるのか?危ないからお家に帰りなさい!」
優子「子ども扱いしないでよ!あたし23だよ!それにね・・・」


この先のために、見ておきたいの――――


山田(この先のため・・・?どういうことだ?)
優子「分かった?だから、明日のバトルにあたしを隣に乗せて!」
山田「・・・ああ・・・」

山田は何か深いものを感じ取り、仕方なく乗せることにした。
その時、優子の来た方向に黒いFCが止まっていたことには気付かなかった。



Re:幻の最高速  投稿者:いお太  投稿日:2011年12月18日 22:10:30  No.66103
I P:59.143.94.178


――――C1外回り AM3:30――――


黄色のハイエースが、一般車を縫いながら颯爽と走っていた。
速度はおよそ150キロ。本気で走っているわけでもなく、人間で言うマラソンくらいのペースで走っている。
ギアは5速に入っており、エンジンはそれほど大きな音を出していない。
中原はハイエースを運転しながら、オーディオでラジオを聴いていた。

《それでは、ラジオネーム『ぶらっくばあど』さんのリクエストで、『ギャロップ(by pe`zmoku)』です。》

ジャズっぽいピアノの伴奏から入ったこの曲。中原は聞いたこと無かった。


繋がる音が鼓膜を叩く 伝う言葉が胸を震わす――――

飛び交う光 ねじくれる影 暴れ回る原色のリズム――――


中原「何か夜っぽくてイイネ!だ。」

中原がつぶやく。ハイエースはレインボーブリッジ方面に向かっていった。


立ちくらむ真夜中に 何もかもを手放して――――

涙も流し尽くしたなら――――

俯くことはもうないから――――


プラス思考に聞こえる歌詞と、静かだが明るい曲調が中原の心を更に明るくしていった。
レインボーブリッジに差し掛かったとき、橋の向こう側の地平線がオレンジ色に染まっているのを見た。


朝焼ける空 目覚める君が 刻み始める確かな日々――――

その時の中 この声は響いてくれるだろうか――――

聞こえてるなら 届いてるなら 腕を翳して見せてくれ――――

まだ小さくて こぼれそうな光でも――――

駆け出して――――


中原「なんか、明日のバトルは明るく迎えられそうだな!」

前方に鮮やかな朝焼けが広がる。だが、正反対の方角にはどんよりと曇った空が広がっていた。



Re:幻の最高速  投稿者:いお太  投稿日:2011年12月18日 22:12:28  No.66104
I P:59.143.94.178


――――芝浦PA AM4:00――――


《昨日夜から今朝にかけてのニュースです。》

一通りクルマのセットアップを終えた田路は一旦PAで休憩してから高速を降りることにした。
缶コーヒーを買うために休憩所の中に入った田路は、何となくそこに置いてあったテレビを見た。

《菅(すが)総理はTTP参加に向けての会議で・・・》

あまり自分には関心の無いニュースばかりだ。
たまにはこう、野球やサッカー、フィギアスケートみたいにクルマのこともニュースになれば良いのに・・・

《アメリカラスベガスで行われたインディーカーレースで・・・》

おっと、噂をすればナンとやらだ。
だが、それほど良いニュースではなかった。

《・・・レース13周目にミハエル・ケール選手の車がリバー・ラント選手の車に接触し、結果13台を巻き込む大事故に・・・》

かわいそうに・・・何と田路よりも若い選手が亡くなっていた。
だが、もっとかわいそうなのはこのニュース自体だと田路は感じた。
何故レースの世界が報道されるのは事故のシーンばかりなんだ。
だから『モータースポーツは危険だ』と言う認識が先行し、クルマに対する楽しさなんかが埋もれてしまうんだ。

田路「もっとこう・・・日本人選手のサクセスストーリーとか無いのかなァ〜・・・」

《それでは、今日一日のお天気です。》

朝っぱらからのニュースとはいえ、選手が死んでも30秒程度の報道で終わるとは・・・
他のスポーツならもっとでかいニュースになっていたのだろうか・・・?
リポーターの女性の声がさっきより少し明るくなった。

《現在西日本を通過している台風17号が・・・》

田路はいすに座ったまま、缶コーヒーをゴミ箱に向けて投げ捨てた。

田路「さてと、もう帰るか。」

缶コーヒーの行方を確認することなく田路は愛車AE86に向かった。
テレビの音は遠ざかっていった。

《東・進路・変え・・・大荒・・・》

缶コーヒーは見事にゴミ箱に入り、誰もいない休憩所にカランと金属の音が空しく響いた。



Re:幻の最高速  投稿者:いお太  投稿日:2011年12月18日 22:13:47  No.66105
I P:59.143.94.178


――――大黒ふ頭PA AM5:00――――


すっかり朝になり、もう走りこむことは出来なくなっていた。
大黒ふ頭に戻った大原は、自分のR32で走る気にはなれなかった。
大原の頭には明日のバトルの事以外に、吉田耕一の事がよぎっていた。
吉田は幽霊(?)になってまで何故このような事をしたのか・・・
何故彼は、現在の走り屋のチームにたった一人で挑み続けるのか・・・

大原「分かんねー事だらけだ。」

やはり原因は俺がお前を殺したからか・・・?
お前から『走る』と言う行為を奪ってしまったからか・・・?
天からこの世界に下りてまで復讐するほどの痛みなのか・・・?

大原「このバトルが終われば、答えは見えてくるのか・・・?」

解らない・・・
だけど、このモヤモヤした気分を晴らすためには、このバトルに参加するほかに無いようだ。

大原「決めた。俺はこのバトルを最後に、首都高を降りる。世代交代はいつかあると思っているが、今ここで次の世代に首都高を引き継ぐ。」


――――これは俺とアイツの戦いだけじゃない――――

――――次の世代へ受け継ぐための大きな節目の戦いなんだ――――


皆それぞれの決意を胸に、戦いの準備を整えていった。



Re:幻の最高速  投稿者:いお太  投稿日:2012年01月06日 21:01:53  No.66106
I P:59.143.94.178
第26話 決戦

――――8月31日 雨 大黒ふ頭PA AM1:30 ――――

大黒ふ頭の駐車場にはこの大雨にもかかわらず、相当な台数の車が集まった。
なにしろ、首都高中のチームや走り屋がこの決戦を見届けに来ているのだ。
大原はあまりに走り屋の車が多すぎて、警察に警戒されていたりしないかと辺りを何度も見回した。
不思議なことに、警察どころか一般人や、雰囲気組、音響族なども、まるでこの世から消え失せてしまったかのように居なくなっている。

大原「どういうわけか、周りに人が居ないのは好都合だ。こんなところで目立って、警察が来たんじゃどっちらけだからな。」


――――それに、元々アンダーグラウンドな走り屋の世界だ――――

――――熱くなるのは俺達だけで、それ以外はひっそりと8月最後の夜を過ごせば良いさ――――


雨が激しくなった。同時に風も強くなった。
傘なんか無意味なくらい激しい暴風でも、大原達は真っ直ぐに立っていた。
やがて、その男は来た。
真っ黒な車体、甲高い戦闘的なエキゾースト、そして、機械と思えぬその存在感・・・


――――RX−7 FC3S――――

――――そしてそれを駆る吉田耕一――――


孤独なそのドライバーは車を降り、大原達と、その後ろの大勢の走り屋達を睨んだ。

大原「待ってたぜ。18年前につかなかった決着を今つけよう。」
吉田「望むところだ。やっと、『孤高』の走りの強さを証明できる。」
大原「ずいぶんこだわるんだな。一人で走ることに・・・」
吉田「ああ。独りでも、出来ることは十分にある。」
大原「仲間が・・・守るものがいるから強くなれる!」


――――繋がる心が、俺達の力だ――――


大原が言い放つと、後ろの走り屋たちが歓声を上げる。
吉田はその大人数にも動じない。

吉田「繋がる心が、あんたらの力なら・・・俺は・・・」


――――孤高の強さが、俺の力だ――――


吉田は強く言い放った。
互いの意地が、誇りが、強さが、この大嵐の中で時速300キロでぶつかり合う。



Re:幻の最高速  投稿者:いお太  投稿日:2012年01月06日 21:03:55  No.66107
I P:59.143.94.178


――――AM2:00 バトル開始――――


大黒ふ頭から、20台以上の車が一斉にスタートした。
まずは湾岸線を東に進んだ。帰省ラッシュも過ぎたこともあって、一般車は少なめで走りやすくなっていた。
今回のバトルではあえて明確な勝敗は設定しない。
死ぬか、降りるか、走り切るか・・・
互いの決意や信念、走りの哲学をぶつけ合う。

吉田「さあ、見せてみろ。お前らの言う『繋がる心』とやらを・・・ッ!」

FCが一気に先頭に踊り出る。大原のR32がスリップストリームを使い喰らいつく。
速度は一気に250キロオーバーの領域に入り込み、先頭の車両は数えるほどとなった。

大原「よし、プランWだ!グループ1、2の車はグループ3とは別ルートで待機!」

田路《了解だ》
中原《承知の助!!》
原《分かったわ》
春川《OK!》

大原が考案した作戦により、陣形が大きく3つに分かれた。
大原勢のクルマは速い順にグループ3,2,1と大まかに分けられている。
プランWとは湾岸線専用の作戦であり、最も速いグループ3が前線に立ち、FCとバトルを行う作戦だ。

吉田「成る程な。だが、そういう風にパターン化された作戦や行動は予想外の自体に弱いのが普通だ。たとえば・・・」

吉田はアクセルを少し緩め、クルマのコンディションを維持する走りに換えた。
速度は280キロ台から230〜240キロほどに落ちた。

大原「どういうことだ?この雨が降っているという中ではエンジンがいきなりオーバーヒートするとは考えにくい。」

山田「・・・そういうことか・・・。」

やがて空港中央を過ぎ、海底トンネルを抜け、京浜大橋の大きな右コーナーに差し掛かったとき、後方からグループ2のクルマが追いついてしまった。

石田「何ッ!何でそんなチンタラ走ってんだ?」

大原「あぁ・・・やっぱりな。だが、気をつけろよ黒影・・・この先の大井Uターンからはそんなくだらない小細工は通用しなくなる。」

大井料金所を通り過ぎてから、大原はすぐに全車に連絡を入れた。



Re:幻の最高速  投稿者:いお太  投稿日:2012年01月06日 21:06:58  No.66108
I P:59.143.94.178

大原「いくぞ!フォーメーションBに移る!全員散らばれ!」

大原からの連絡により、各車自分のペースで持ち場に向かっていく。
吉田は大井JCTから横羽線に入った。左コーナーで大きく減速し、速度は100キロ台に落ち込む。
横羽線に移ったクルマは、主にグループ1,2のクルマだった。
モノレールと並走しながら、長めのストレートで一気に加速する。

町田「そろそろだな。《おい、準備は出来ているな。》」
町田のチームメイト《大丈夫です。間に合いましたよ!》

町田はフッと笑みを浮かべ、ランサーエボリューションWを更に加速させる。
吉田のFCと並ぶ・・・緩い左コーナーを2台並んでクリアする!

町田「次の右コーナーは俺が内側に入れるッ!今夜の勝負はここであっけなく終わるかもナ!」

さっきの左よりも少しキツイ、上りの右コーナー。
町田は内側に、吉田は外側からアプローチする!

町田「さらばだッ!黒影FC――――ッ!」

吉田「甘すぎる!今日の天気は何だか分かってんのか?」

2台がコーナーから抜けた先には、何と落下物による車線規制があった!
内側の車線が通れなくなっているため、コーナーの内側からアプローチした町田はすぐに加速することが出来ない!
町田は舌打ちを打ち、20キロほど減速させ、仕方なくFCを前に出してから再び加速した。

吉田「今日は台風による強風で、いつもより事故が多い。一般車が少ないとはいえ、お前はコーナーの先に事故がある可能性を考えていなかった。トリアエズ、最初の勝負は制したかナ。」

FCが先頭に立ち、後方の町田達を少しずつ引き離す。

町田「ウソだろ・・・流石にあんなに速いわけ・・・無ぇ・・・」

城嶋「どいてろ、町田」

後方から城嶋のインプレッサが吉田のFCに挑みに行く。
更に田路のハチロク、中原のハイエースと続いていく。

城嶋「用事があるならさっさと済ませたほうが良いぜ。」

町田「うっせー。言われなくてもすぐ行くつもりだったんだよ。」

田路「あなたの腕は確かですけど、車がイマイチ良くないですよ。早く乗り換えて戻ってきてくださいね。」

町田はクルマをスローダウンさせた。
先頭のFCはC1を内回り方面に進んだ。城嶋は少し速度を下げ、田路のハチロクと中原のハイエースに進路を譲った。



Re:幻の最高速  投稿者:いお太  投稿日:2012年01月06日 21:08:21  No.66109
I P:59.143.94.178

城嶋「C1と言えばあんたらだろう。ここは任せたぜ!」

中原「ここなら絶対負けないモンね〜」

田路「見てろよ・・・C1での速さなら誰にも負けないッ!」

FC、ハチロク、ハイエースが同時に汐留のS字に差し掛かる。
3台同時にブレーキング!FCとハチロクが軽さを生かしたコーナリングでS字の一つ目をクリアする。
S字二つ目!ハチロクは一瞬雨でスリップしてしまう。しかしFCはスリップせずに加速した。
FCは少しだけ前に出たことを利用し、かなり早めにステアリングをコーナーの内側に切り込む!
ハチロクの進路に無理矢理飛び出し、ブロックすることに成功した。

田路「クソッ!進路を妨害された!」

失速したハチロクを中原のハイエースが追い抜いた。
マフラーからニトロを噴射し、加速。強引にFCと並んだ。

中原「こっちもC1の走りなら負けないよ!」

下りのストレートから、目前にトンネル内のS字コーナーが迫る。
ハイエースとFCは同時にブレーキングした。
内側に陣取ったハイエースはワザとアンダーステアでアウト側に膨らみ、FCを壁側に追い込んだ。

吉田「チッ・・・このデカブツが・・・」

FCよりも遥かに大きなハイエースを押し返そうとするが、下手に接触すれば濡れた路面でスリップして事故になりかねない。
2台が失速している間に田路のハチロクは一気に前に出た。

田路「有難う、中原。」

中原「見たかFC。これがチームワークってヤツだ。」

吉田「ざけんな!人数に任せて強引に押してるだけだろ!」

怒りに任せてアクセルを踏み込む吉田。中原は遅れてアクセルを踏み込んだ。
ハチロクとFCの間には50メートルほどの差ができた。
しかし、銀座区間名物、二つの橋げたを抜け、宝町の上りストレートに差し掛かる頃には、ハチロクの真後ろにFCが詰めて来ていた。

田路「何ッ!・・・あれほどあった差がもう・・・」

吉田「遅い。雨でフラつき過ぎだ。」

上り勾配では馬力の大きいFCが一気にハチロクの前に出た。
FCは江戸橋JCTで左に曲がり、そのままC1を走った。

吉田「まだC1は半分も走っちゃいない。お前らの自慢の走りを見せてみろよ!」

吉田はコーナーと言うコーナーで、挑発的なドリフト走行を見せた。
だが、田路と中原はその隙だらけの走りにさえ追いつくことは出来なかった。
高速で移動する水しぶきはとうとう彼方へ消えていった。

中原「やっぱ速いね〜。でもなんだか、淋しそうに走ってた気がするな〜」

田路「ショックはあるけど、それ以上になんだか物悲しい気分だ・・・」


田路悠木(AE86)&中原一志(ハイエース)
                
                    失速――――




Re:幻の最高速  投稿者:いお太  投稿日:2012年01月06日 21:10:28  No.66110
I P:59.143.94.178
その時、後方から異様なエンジンの音がした。
爆音と水しぶきの嵐から現れたのは、城嶋のインプレッサではなく、春川のポルシェだった。

春川「チームリーダーなんぞに任せておけん。ここは俺が行く!」

闇を切り裂き、ポルシェはFCに近づいていった。
やがて大きな水しぶきが春川の目の前に現れた。FCだ!
竹橋JCTで2台は遭遇した。

春川「ポルシェの絶大な加速力、その目に焼き付けるが良い!」

ポルシェがFCの前に出た。
吉田はアクセルを踏み込み、バトルに応じる。
緩い左コーナーを抜け、下り坂からトンネルに入り、右の上りコーナーを抜けてトンネルを出た。

吉田「良い加速だポルシェ。この雨でもスリップさせること無くコーナーをクリアして行きやがる。」

春川「離れない、くっついて来る!手強いと覚悟はしていたが、想像以上だ。」

左の下りコーナーを2台は少しドリフトさせてクリアした。
再びトンネルに入り、ここで少し長いストレートになった。
春川はアクセル全開で、このストレートで少し離れてくれると思っていた。

春川「ここまでついて来るか!?とんでもねぇヤツだ!どーなっても知らねぇぞォ!」

春川は今更ながら、背後のクルマからのとてつもないオーラを感じ取った。
緩い左コーナーを二つ抜け、右コーナーを一つクリア。

吉田「前のポルシェ、乗れているようで乗れてねぇな。どっかで一瞬揺さぶりをかければ、脆く崩れてしまうだろう。」

吉田の観察は当たっていた。
春川は異常なほどの緊張状態だ。首都高7人衆としてのプライドや、予想以上の相手の実力がそうさせている。
吉田の脳内でオーバーテイクへの筋道が描かれる・・・

吉田「この先の赤坂ストレートで勝負だッ!」

霞ヶ関出口の右コーナーを見事などリフトでクリアし、次の緩いS字を抜ければ赤坂ストレートだ!

吉田「S字の一つ目・・・」

コーナーのイン側に陣取り、ポルシェの真横に並ぶ。

吉田「二つ目――――ッ!」

トンネルを出て、雨が視界をさえぎる。ワイパーはほとんど意味が無い。
にもかかわらず、2台はアクセル全開でコーナーを抜けていく。

春川「雨足が強くなった!何も見えねぇ!」

2台同時にストレートに突入!時速は220キロ!
少しずつ、しかし確実に、ポルシェが前に出つつある!
あらゆる恐怖の雨をワイパーと共に振り払い、右足をアクセルに押さえつける!

吉田「なにぃ!!そこまで踏むかァ!」

春川「お前・・・そこまで加速するとはナァ。」

谷町JCTのコーナーが迫る!時速は両者ともメーター読みで280キロを記録!
晴れているときでさえ300キロはおろか、280も行けばかなり良いほうだ。
これだけの雨が降っている中でこの速度を出せることは奇跡だろう。(っていうか、物理的にムリかも・・・)
ギリギリのレイトブレーキングで2台は減速。前後が入れ替わるかと思われたが、ポルシェが前のまま疾走していく。




Re:幻の最高速  投稿者:いお太  投稿日:2012年01月06日 21:11:26  No.66111
I P:59.143.94.178
吉田「思ったよりもやるな。だけど、どこまで持つかなァ!その蛮勇がァ!!」

緩く右に曲がり、下りの左コーナー、一の橋JCTの少しきつめの左コーナー。
2台はほとんど奇跡的な速度で次々とコーナーをクリアしていく。

春川「くうゥ・・・この雨の中、これだけのプッシュを続けるのは初めてだ・・・かなり・・・疲れがきてるな・・・」

芝公園出入り口の連続S字でポルシェはS字のラストでアクセルを踏みすぎてスリップした!
隙を見てすかさずFCが前に出る。しかし、ポルシェの驚異的な加速で、僅か数メートルほどしか前に出れなかった。

吉田「とうとうバテやがったか、春川。」

数メートルの差は浜崎橋JCTのコーナーのブレーキング勝負までに縮まっていた。
次にコーナーに向けて2台同時にブレーキ!急な下り勾配のため、少しクルマがジャンプする!
4輪全てが地から離れ、心臓が凍りつくかのような恐ろしい浮遊感が二人を襲う!

ドシャァァァァァァ!!

春川「しまったッ!」

吉川「終わったな・・・」

着地の瞬間、春川はアクセルを踏み込みすぎて後輪をスリップさせてしまった!
そのままどうすることも出来ずにスピン!!

春川「ちきしょう・・・」

春川はもう敵わないと判断し、深くため息をついてポルシェを動かした。



Re:幻の最高速  投稿者:いお太  投稿日:2012年01月06日 21:12:53  No.66112
I P:59.143.94.178


――――湾岸線東行き――――


《ザーッ・・・こちら春川・・・得意のC1でやられた・・・9号線から湾岸線西行きに向かうと思う。健闘を祈る・・・ザーッ・・・》

無線機による会話で、このことは全員に知れ渡った。

大原「もう3人やられたのか・・・」

白田「首都高7人衆の一角をこんなに早く倒すなんてナ。」

北平「強すぎでしょ・・・速すぎでしょ・・・」

横山「どうするんですか?大原さん・・・」

大原「俺が直接迎え撃つ。」


やっぱ、オレじゃねぇと止められそうに無いな――――


――――9号線 箱崎JCT付近――――


緊急退避のために作られたスペースに城嶋のインプレッサが止まっていた。
この場所で吉田のFCを待ち伏せする作戦だ。
さっきの無線でこちらに来る可能性が高くなったため、サイドミラーに目を凝らし、それらしい車が追ってくるのを見ていた。

城嶋「ちかいな。もう100%こっちに来る気がする。」

そう思った瞬間、サイドミラーに高速でこちらに向ってくる車を確認した。

城嶋「来たか――――ッ!」

ゆっくりと車を加速させた城嶋。一台のクルマが真横から追い抜いてきた。
FCだ!

城嶋《こちら城嶋。9号線にてFCと遭遇!バトルを開始する!》

町田《ザーッ・・・上手く芝浦PA方面に追い込んでくれよ!》

城嶋《わかってる!》

2台とも一気に200キロに突入し、福住出入り口前の高速S字コーナーをクリアしていった。
その先のストレートで、城嶋は少しずつ離されていった。

城嶋「成る程・・・同じ馬力とはいえ、加速では車重の軽いお前の方が速いわけだ。」

その後、少しきつめの右コーナー、直後の緩いS字コーナーで城嶋は少しだけ差を詰めることに成功した。

城嶋「このインプレッサは、悪路を走るラリーで活躍する車だ。今日みたいな天気だよ逆に本領発揮なんだよな!」

城嶋は精神的な部分は勿論、理屈の面から見ても自信を持っていた。
加速競争では劣るが、コーナーのスピードなら負けていない。
自信だけが先行している訳ではなく、それに釣り合った実力も城嶋は持ち合わせていた。



[87] 我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年01月01日 17:25:01  No.87001 [返信]
[本文を見る]
I P:61.116.96.199
あけましておめでとうございます(
そんなわけで、この僕がついにノークラ小説に手を伸ばしてしまいましたw(
大して面白くもない内容ですが、暇がある方はこの小説で暇つぶしをしてみてはいかがでございましょうかw(

一応この小説について説明しますと、1〜3話完結のコメディ短編集のような内容となっております。そのためある程度話が進んだらその都度ネタを思いつき次第更新という形をとるので頻度はかなりばらつきが出ると思いますw(

・・・と、今回もグダグダとまえがきを書いておりますが、そろそろあらすじに参りましょう(

あらすじ

それぞれある事情を抱えた少年たちは、ひょんな出来事から出会いをはたし、1つ屋根の下で共同生活を営むことに。彼らはそこで苦くも愉快なハチャメチャ生活を送っていく・・・!?

尚、登場人物については初登場回の最後に随時紹介していく形を取りたいと思いますw(
管理人様が小説を更新する際は、その話の下にそのまま載せていただいて結構です。



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年01月03日 15:57:48  No.87002
I P:219.66.4.54
第1日 家族記念日(前編)

山名晴喜(やまな はるき)は町中をどこへとなく歩いていた。特別何か目的があったわけではなかったが、理由があるとすればそういう気分になったからだ。それなりに人通りの多い通りで、多くの人が自分を追い越したり、抜かされたり、すれ違ったりしている。
すると、前から歩いてきた男が自分の肩がぶつかってしまった。
「あっ、すいません」
「・・・オイ、てめぇどこ見て歩いてんだ」
「え・・・(このパターンって・・・)」
かなり柄の悪そうな男だった。晴喜は思わず1歩後ずさりしてたじたじしてしまう。すると、その男はいきなり晴喜の胸ぐらを掴んで言った。
「ちょっとこっち来い」
静かだが迫力のある声だった。力も相当に強く、晴喜は答える間もなくズルズルと引きずられていた。
(え・・・ええええええ!?)
晴喜が連れられた場所は案の定人通りの少ない裏路地だった。最早嫌な予感しかしない。そして、その男は掴んでいた腕の力をより一層強くして一気に彼に顔を近づけ例によって迫力ある声を発した。
「金を出せ」
「・・・え?」
「金を出せっつってんだよ。それともここでボコられてぇのか」
相変わらず揺るがぬ迫力を持ったその声に晴喜は困惑していたが、ついに意を決したのか急に真顔になってその男を見つめた。その顔つきに少年の力も一瞬緩んだ。
(こいつ・・・)
「あ、あの・・・これくらいで足りますかね?」
晴喜はそう言って財布から5千円札を取り出した。男は拍子抜けしたような気分になってしまったが、その5千円札を乱暴にぶんどった。
「・・・分かりゃいいんだよ(こいつ、歯向かってくるのかと思ったら・・・普通の奴でも千円かそこらなのに・・・)」
そう言うと、その男は足早に裏路地を出ていった。

少年から金を奪い取った青波一(あおなみ はじめ)は別の裏路地へと入っていった。彼の家はその先にあるのだ。すると、背後から少女の声がしてきた。
「お兄ちゃん」
そこにいたのは青波果菜(あおなみ かな)だった。彼女は一の歳が1つ離れた妹である。
「カナか。今日はな、なかなかの収入だったぞ」
「ちょっと・・・まさかまた誰かから盗ってきたの!?」
「仕方ねぇだろ・・・生きてく為には」
青波家は現在、経済的に大きな危機に瀕していた。10年前、父親が偶然宝くじで大金を当てたまでは良かった。しかし、親はその金を頭金に中古車店を開いたが繁盛せず、挙句再び運にすがろうとギャンブルを続けるが勝利の女神が2度微笑んでくれる事はなかった。
やがて借金は増え続け、度々借金の取り立て屋に追われる日々がここ何年も続いているのである。しかし、今日そんな生活が激変する事になろうとはこの時の2人はまだ思っていなかった。
そして、2人は古ぼけた自宅に辿り着いた。が、その扉に張られた紙を見て2人は驚愕した。
「な・・・何だよ、これ・・・?」



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年01月03日 15:19:44  No.87003
I P:219.66.4.54
そこに書かれていたのは"差し押さえ"の文字だった。一は扉を乱暴に開けて中に入る。テーブル、タンスなど家の中にあった家具も全て"差し押さえ"と書かれた札が張り付けられていた。
「・・・どういう事だよこりゃ!」
こんなことは親からは何も聞かされていなかった。確かにいつこんな事態が起きてもおかしくはない状況ではあったが、それにしても急すぎる。
「あらぁ〜、ついにこうなっちまったかぁ〜・・・」
突如後ろから知らない男の声が聞こえてきた。借金の取り立て屋だ。
「あ、お前はここの家の子供か?どうやらお前の両親はもう逃げちまったみたいだぜ?」
「ハァ・・・!?何言ってんだよ・・・ワケわかんねぇよ!」
「だから、お前の親はこうなるのを分かって先に夜逃げしたって事さ。行方は俺達も探している所なんだが・・・」
聞いてない。そんな事は全く聞いていないし、そんな予兆も全くなかった。ただ、この時間帯にはいつも家のどこかにいるはずだった母親がここにいない事は確かな事実だった。
「どうして・・・」
状況をなかなか飲み込めずうつむき加減の果菜に追い打ちをかけるように男は口を開く。
「要するにだ。お前達もこの家みたいに売られちまったってわけだ」
「・・・どういう意味だよ?」
「お前達の身はウチの組織が預かることにしたのさ」
「・・・ハァ!?」
つまりは、親が溜め込んだ借金を働いて返せ、ということだろうか。いや、それだけで済めばまだいいのだが、何せ闇金融業者のやる事は予想がつかない。どちらにせよ、このまま彼の言う事に従うのはあまりに危険だ。
「そんなのお断りに決まってんだろ!それだったら宿なしの方がまだマシだ!」
一が強い口調でそう言うと、男の表情が急変した。冷静さを保っていながらも一以上に迫力のある表情だ。
「あ?何勘違いしてんだ。お前らがそうだろうと俺達はよくねぇんだよ。借金抱えてる分際でどっちか選べると思うな」
すると、男の背後から更に数人の男がやってきた。
「・・・何だよ、やんのかコノヤロー!!」
一は叫びながら男に思い切り殴りかかった。
「お兄ちゃんやめて・・・!」
果菜の言葉も耳に入らず、一は再び男を殴ろうとする。しかし、今度は男の右手でしっかりと拳を受け止められてしまった。
「ってぇな。最初に手を出したのはお前だからな・・・!」
男は一に殴り返し、さらに立て続けに腹に蹴りを入れてきた。
「ぐほっ・・・!!」
一は激痛で地面にうずくまってしまう。
「お兄ちゃん!」
果菜がそう叫んだ瞬間、後ろからかなり強い力で腕を掴まれる感覚がした。果菜はそのまま後ろへ引っ張られていく。
「・・・カナ!」
一は立ち上がり果菜を助けようとするが、先程の男から再び脇腹に拳が飛んできた。しかし、その痛みに何とか耐えると、男を思い切り殴り飛ばした。
「何ッ!?」
「この野郎、調子に乗るな!」
周りを囲んでいた男達が一を阻むが、一はその男達を次々と殴り飛ばしていく。この様子にさすがの取り立て屋達も焦り始めた。
「チッ、退くぞ。こいつだけでも連れてけ!」
「させっかあああ!!」
そう叫ぶ一だったが、背後から男が数人で彼に掴みかかった。その間にも果菜を連れた男達はどんどん遠ざかっていく。一が男達を振り払った頃には、彼らの姿はもうすっかり見えなくなってしまっていた。



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年01月03日 15:22:12  No.87004
I P:219.66.4.54

「うへぇ〜、もうちょっとあるかと思ってたのに・・・帰り徒歩だよクソ〜・・・」
晴喜は思わぬ出費を強いられ、タクシーに乗って帰るはずが歩いて家を目指す羽目になっていた。何の目的もなく町中へ繰り出すのはもうやめようと誓った瞬間だった。前の方で何やら叫び声のような音が聞こえてきた。
よく見てみると、スーツを着た男達が少女を連れて走っていた。明らかに周囲の雰囲気とは違った様子だ。
「何だ?何かあったのか・・・?」
訝しがりながら後を追おうとすると、横の路地裏から勢いよく青年が飛び出してきた。不意にその青年の顔を見ると、それは数十分前に晴喜が見た顔だった。
「・・・あ」
その青年は晴喜から5千円を奪った男だったのだ。しかし、彼の恰好は出会った数十分前とは若干違っており、かなりボロボロで汚れている。さらにその青年は、晴喜がカツアゲされた時よりもさらに恐ろしい表情で遠くを見つめていた。
その方向が先程晴喜が見かけた男達の方であったため、晴喜にはあの男達とこの青年には何らかの関係があるように思えた。
「ちょいとそこの君」
晴喜は思い切ってその青年に声をかけてみた。青年がこちらに鋭い視線を向けると、相変わらず迫力満点の低い声を出してきた。
「あ?さっき俺に金をよこした奴が何だよ」
「い、いや〜、ちょっとさっき君がお探しの人を見かけたかな〜なんて・・・思いまして・・・;」
「てめぇ俺をおちょくってんのかよ!?」
「ちょっ、怒らないで;ちゃんとあてがあるから!マジですって!」
「うるせぇ!だいたいいきなり話しかけてきてあてがあるとか信じられるか!」
「いやホントッ・・・!あのヤクザ見た事があるんだ。確かこの街の外れに事務所を構えてる闇金融会社だろ?!あの女の子はきっとあそこに連れてかれたんだ」
「何・・・!?」
どうやら晴喜には本当に闇金融業者の事を知っているようだったが、何故そんな事を彼が知っているのだろうか。一はまだ晴喜に不信感を抱いていたが、そうも言っていられる状況ではない。一は思い切って晴喜に言った。
「お前、その場所教えろ」

事務所に向かう途中、晴喜は更にその組織について詳しく説明してくれた。
「あそこは闇金と暴力団を兼ねた集団なんだ。他にも色々と黒いうわさが絶えない。身寄りのない子供を拉致ってそいつの臓器を売りさばいたりもしてるらしい」
それを聞いた瞬間、サーっと背筋が凍っていく感覚がした。まさに今、家庭を失った果菜が彼らに連れていかれているではないか。
「・・・・・・アレ、ひょっとして今のビンゴ?」
一の表情に出てしまっていたのか、晴喜がそんな事を言ってきた。
「・・・うるせぇよ!黙って案内しろ!」
それから数分後、ついに晴喜達はその組織の事務所の前まで辿り着いた。
「さぁ、ここだ・・・で、どうすんの」
「お前には関係ねぇだろ」
静かにそう言って一は事務所の入口へ近づく。すると、晴喜がそれを引きとめた。
「待った!俺も行くよ」
「ハァ?お前が?」
「ああ、俺こう見えても運動神経には自信あるんだ」
そう言って晴喜は軽くファイティングポーズをとってみせた。それを見た一は呆れながら言い返した。
「あのな、これは別にスポーツとかじゃねぇんだぞ?」
「知ってる。喧嘩だろ?」
「まぁいい。勝手にしろ」
一はため息交じりにそう言いながら振り返って事務所の方へと歩き出した。

後編へ続く



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年01月03日 15:54:05  No.87005
I P:219.66.4.54
登場人物紹介

山名家メンバー@
山名晴喜(やまな はるき)/16
町はずれの小山の家に住む陽気な少年。一達と出会い、自らの家に住み込むように提案する。基本的にお調子者だが、意外と器用な一面もある。

山名家メンバーA
青波一(あおなみ はじめ)/16
町でカツアゲを繰り返す不良少年。短気で無愛想だが、一方で常に家計を案じておりしっかり者でもある。メンバー中では随一のツッコミ役。若干シスコン気味。

山名家メンバーB
青波果菜(あおなみ かな)/15
一の妹であり、家事全般をこなすしっかり者。メンバーの中では一番の常識人であり、他人を気遣う優しい心の持ち主。



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年01月10日 07:40:57  No.87006
I P:211.121.31.97
第2日 家族記念日(後編)

一は事務所の扉の前に立つと、それを思い切り蹴り飛ばした。中には2階の部屋へ続く狭い階段があったが、その前に見張りの男が1人立っていた。
「何だお前ら!」
男は言いきった直後に問答無用で一に顔面パンチを食らった。倒れる男を踏みつけつつ通過して階段を上っていく。その先には思っていたよりやや広めの部屋が広がっていた。デスクにソファー、本棚と見た目は普通の事務所らしい物が置かれている。
一や晴喜が見た男達はその部屋にいたらしく、彼らは一を見るや否や驚きの反応を見せた。
「あ!お前は・・・!」
「カナはどこだ!!」
激しい剣幕で叫ぶ一にたじろぐ男たちだったが、1人の男が冷静に口を開いた。
「なに、わざわざ向こうから捕まりに来てくれたんだ。手間が省けたじゃねぇか」
「・・・アイツ、ここのボスっぽいな」
晴喜が小声で一に言ったが、どうやら向こうにも聞こえていたらしく、その男が答えた。
「その通り。俺はここの頭をやってる五十嵐だ。上司の名前はしっかり憶えといた方がいいぜ?」
「誰が上司だ!お前らの手下になんかならねぇよ!」
「お前が大人しくしてくれれば妹の居場所を教えてやってもいいんだが」
「ふざけんなァ!!」
一は五十嵐に殴りかかろうとするが、先程の男達がそれを阻んだ。すると、その1人が突如横から鋭いパンチを食らった。晴喜が殴ったのだ。
「こいつらは任せろ!」
「お前・・・!」
その後も晴喜は軽快な動きで男達を倒していく。
(アイツ本当に闘えたのかよ・・・!)
そう思いながらも一は五十嵐に向かってパンチを繰り出す。しかし五十嵐はそれを瞬時に避けてしまい、逆に一を殴り返そうとした。が、一もまたその攻撃をガードした。
すると、五十嵐は懐から拳銃を取り出して一につきつけた。
「あまり俺達をなめない方がいいぜ」
しかし、その直後に晴喜が五十嵐の手を思い切り蹴りあげ拳銃を弾き飛ばした。
「何ッ!?」
「今の言葉、そのまま返すぜ!」
一はそう言って五十嵐の顔面に拳を突き出し思い切り殴り飛ばした。すると晴喜が自信ありげな表情で一に話しかけてきた。
「分かったぞ。君の妹の居場所が・・・!」
「何!?」
「そこの本棚の裏に隠し部屋があるみたいだ。さっきから皆そこをチラチラ見てたからね」
(コイツ・・・!)
まさに図星だった。倒れ込んでいた五十嵐は床に落ちていた拳銃を手にする。同じ瞬間、一は晴喜の言った本棚に手をかけていた。本棚は思っていたよりも少ない力で横に動き出した。
本棚が完全にスライドしきると、目の前には壁と同じ色をした扉が現れた。
「・・・ほらね」
晴喜はどうだと言わんばかりの表情で言ったが、直後に表情を急変させて叫んだ。
「危ないッ!!」
その声とほぼ同時に背後から銃声が聞こえてきた。晴喜は一を押し倒す形で五十嵐が撃った銃弾をどうにか避けた。
「・・・ってえな!何で倒すんだよ!」
「しょーがないじゃんか。文句言うならあっちに言えよ」
「てめぇら、調子乗ってんじゃねぇぞ!!」
五十嵐はかなり怒りの表情を浮かべていた。一に殴られたせいで鼻血が出ており、そのことが屈辱的である様子だった。五十嵐はもう一発銃弾を放つ。晴喜達はデスクの後ろに身を隠した。
「そこか!」
さっきまでの冷静さはどこへやら、五十嵐は怒りにまかせて拳銃を乱射し始めた。晴喜達はデスクやソファーの後ろへ次々と移動してそれを避けていった。



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年01月05日 13:48:50  No.87007
I P:211.121.31.30
「よし、俺が隙を作るからここは任せて行ってくれ」
不意に晴喜がそんな事を言ってきた。その表情は妙にたくましいものであり、カツアゲされていた時とは全くの別人のようだった。
「・・・分かった」
すると晴喜は1人別のデスクの裏へ走り込んで五十嵐のいる所へ近づいた。そして、自分が着ていたシャツを脱いで五十嵐を目隠しするように投げつけた。
「何ッ!?」
「今だッ!」
晴喜の掛け声と同時に一は隠し部屋の扉を開ける。その先は地下へ降りる階段になっていた。一はそこを急いで降りていき、そこにあった扉を力強く開けた。すると、そこには床に力なく座り込む果菜の姿があった。
「・・・カナ!」
「お兄ちゃん・・・!」
「大丈夫か・・・?今すぐここから出るぞ・・・!」
「うん」
一は果菜の手を取り彼女を立たせると、来た道を戻ろうと歩き出した。するとその時、扉の奥から荒々しい声が聞こえてきた。
「させるかよォ!!」
目の前に現れたのは五十嵐だった。傷が少し増えているようだったが、彼はどうやら晴喜を振り切ってきたらしい。
「チッ、あいつ・・・」
五十嵐は2人に拳銃を向けて叫んだ。
「終わったなァ!もう脅しはしねぇ。お前らにはここで死んでもらう!!」
そして五十嵐は拳銃の引き金を勢いよく引いた。2人は目をつむる。銃声が鳴った。しかし、その音は明らかに通常とは異なる音だった。そこから出てきたのはおもちゃの弾丸だったのだ。
「残念。それは俺のモデルガンだよ」
背後からの声に五十嵐は振り返る。そこにいたのは晴喜だ。彼は五十嵐と取っ組みあっている間にポケットにしまっていたモデルガンと本物の拳銃を取り替えていたのだった。
(つーか、何でそんなもんを今持ってるんだよ・・・)
一は敢えて心の中だけで突っ込むことにした。
「形勢逆転だね」
晴喜は静かにそう言って拳銃を五十嵐に向けた。
「くっ、これくらいで俺がやられるとでも・・・」
「嘘だよ。もう人殺しなんてごめんだからね」
(?!今何て・・・)
「さ、こんなとこもう出よう。後のことは警察の人に任せてさ」
そう言って晴喜は振り返り部屋を出ていこうとした。一達もそれについていく。
「・・・待てやコラァァアアアア!!」
五十嵐は叫びながらこちらへ向かって走ってくるが、晴喜達と入れ替わるように警官達がドタドタと階段を下りてきた。
「!!?」
「だから言ったじゃん。警察に任せるって」
晴喜は後ろを向いて微笑みながらそう言った。



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年01月05日 13:51:18  No.87008
I P:211.121.31.30

3人は警察から事情聴取を受けた後、その場ですぐに解放してもらった。気がつけば、外ではもう太陽が沈みかけていた。
「あの、ありがとうございました。私やお兄ちゃんを助けてくれて」
果菜がそう言うと、一は何か腑に落ちない表情で晴喜から目をそらした。それに対して晴喜は笑顔で答える。
「いいってこと。それよりアンタ達はこれからどうすんの?家がなくなっちゃったんでしょ?」
事情聴取で2人の事情を知った晴喜はその事が気になって仕方なかった。
「フン、そんな事はお前に関係ねぇだろ。色々と首突っ込みすぎだぞお前」
「・・・あ、そうだ」
晴喜は名案を思い付いたと言いたげな表情をしていたが、一にはそれがとてもいい案を出すような顔には見えなかった。
「家に来たらいいじゃん!ちゃんとした暮らしのめどがたつまでさぁ」
思った通り、しょうもない案だった。
「何だよそれ!?」
「いいじゃんいいじゃん!奮発しておもてなしするから!」
「そこまで言われたら逆に怪しいんだよ!お前なんか企んでるんじゃねぇのか!?」
「そんなことないって!タクシー代さえおごってくれれば何でもしますって!」
(・・・そういや俺こいつにカツアゲしたんだっけ)
「まぁまぁ、あそこまで言ってもらえたんだから意地張らなくてもいいじゃない」
果菜がなだめるようにそう言うと、それに便乗して晴喜も力強く頷いた。考えてみると、確かに自分達がこれからどうやって暮らしていくのか全く見当がついていないのは事実だった。
「・・・チッ、仕方ねぇな・・・」
「よし決まりッ!・・・そういえば自己紹介がまだだったな。俺は山名晴喜って言うんだ。これからはよろしく!」
晴喜が元気よくそう言うと、2人は一瞬顔を見合わせてから果菜が先に口を開いた。
「私は青波果菜。こちらこそお世話になります」
「・・・俺は一だ。カナに何か変なことしたら許さねぇからな」
「ああ、約束するよ。さぁ、もう暗くなるし早速帰ろうか」
帰ろう。ついさっき家を失くした2人には、確かにその言葉が胸にすうっと染み込んでくるように感じられた。晴喜も何故か嬉しそうな表情をしていた。やがて3人は晴喜の家を目指して歩き出す。
その時、晴喜は不意に小さな声でつぶやいた。聞こえるか聞こえないかの境目を彷徨うような音量で気のせいかと思う程だったが、確かにその言葉は2人の耳にも入ってきた。
「俺達は、今日から家族だ」

続く



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年01月08日 08:26:24  No.87009
I P:211.121.31.88
第3日 始まりの日

辺りはもうすっかり暗くなっていた。街の外れから車で少し山の坂道を登ると、その途中に木造の一軒家が建っていた。山名晴喜の家である。
「さぁ、ここが俺の家だ」
「へぇ〜、広いお家ですね」
果菜の言った通り、確かに晴喜の家はこの辺りでは広い方だった。家は1階建てだがそれなりに大きく、その半分くらいの敷地は庭になっていた。庭には芝生が生えているが、あまり手入れがされていないのか若干伸びきっていた。
晴喜達はそんな芝生を踏んでいきながら玄関へ向かって行った。晴喜は扉の前に立つとすぐにドアノブに手をかけた。
「さ、入って入って〜」
晴喜に促されて一達も家の中へ入っていく。中は電気がついておらず、中の様子はほとんど分からなかったが、晴喜が電気をつけると一気にその全貌が見えてきた。玄関の先には家の中心を真っすぐに貫く廊下があり、その右側には和室のリビングがあった。
その部屋の中心には背の低いテーブルが置かれており、そこから程良い距離にテレビとそれを置く台があった。
「どうよ?なかなか落ち着く部屋だろ?」
「んなことより本当に何も企んでねぇんだろうな?」
「そんなことって・・・本当に何も考えてないよ。ただハジメ達を助けたい一心でだな・・・」
「つーかいきなり呼び捨てかよッ!」
「いいじゃん。俺達これから同じ屋根の下で暮らしていくんだからさ」
晴喜はそう言って満面の笑みを浮かべた。その笑顔からは確かに何かを企むような怪しいものは感じられなかった。
「さて、とりあえずは家の間取りを紹介しなくっちゃな。この奥にあるドアを開ければキッチンがある部屋だ」
そう言って晴喜はリビング奥のドアを開いた。ここからは流し台が見え、キッチンに入ると食器棚や冷蔵庫もある事が分かった。キッチンにしてはなかなか広い場所だと思われる。
こちらはそれなりに整頓されているようだ。
「そうだ。もう時間も時間だし何か作ろうか?腹減っただろ?」
「いや、別に・・・」
一の反応もかまわずに晴喜は部屋の広さの割にはやや小さい冷蔵庫を開けるが、その中を見て晴喜は驚きの表情を見せた。中はほとんど何も入っておらず少しの野菜などが入ってるくらいだった。
「・・・食材ほとんどねぇ〜〜〜〜〜!!」
ここにきて初めて晴喜は昨日の時点で食料をほとんど消費していた事を思い出した。そういえば、散歩ついでに町で食料を買いに行こうとしていた事もすっかり忘れていた。晴喜は深刻な表情で一達に話した。
「・・・緊急事態発生だ。これじゃ3人分どころか1人分も作れそうにない。皆、どうか知恵を捻りだしてくれ!」
「いや捻りだしてくれじゃねぇよ!お前ここ来る前おもてなしするとかなんとか言ってたじゃねぇか!?」
「いやぁ〜、なんか・・・ありませんでした;」
「ありませんでしたじゃねぇぇぇ!」

とりあえず3人は残っているわずかな材料をキッチンの台の上に並べてみることにした。中にあったのは半分に切られた人参や既に千切りにされたキャベツ、ネギに春菊といった野菜だけだった。
「この野菜と調味料だけで何とかやり過ごさなきゃならないわけか・・・」
一の一言に晴喜はハッとしたような顔をして言った。
「そうか・・・!冷蔵庫の中にある物だけが材料じゃない!調味料を置いてある所に何かもう一品あるかもしれないぞ!」
晴喜は調味料をしまってあるキッチンの引き出しを勢いよく開けた。しかし、中を見て晴喜はまたも驚愕した。その表情を見て2人も不安になる。



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年01月08日 08:29:30  No.87010
I P:211.121.31.88
「・・・どうした?」
「・・・小麦粉も切らしてました〜・・・;」
「もう一品どころか調理する物もねぇのかよッ!?」
念のため他の引き出しも探してみたが、特に調理できそうな食材は見つからなかった。いよいよ晴喜も困り果てた表情になった。
「う〜ん・・・正直野菜はてんぷらにしようかとも思ってたんだけど小麦粉がないとなるとそれも無理だな・・・」
「本当にどうしましょうね・・・;」
「つーかこの辺になんか売ってる店とかねぇのかよ?」
一が冷静にそう言うが、晴喜が相変わらず無駄に深刻な表情で反論する。
「いやダメだ。町に降りなきゃこの辺には店はない」
「じゃ町に降りて買ってこいよ」
「何ッ、お前よく考えてみろ。この暗い中山道を歩いて行ったら、怖いだろ」
「いや何言ってんだお前!?」
「お前この道の夜の怖さを知らないな?電灯の1つもなくてすっげぇ怖いんだぞあそこ」
晴喜の予想以上にくだらない言い分に一はだんだんと苛立ちを覚え始めていた。一は拳を作ってパキポキと音を鳴らしながらどすの利いた声で晴喜に迫った。
「そうか分かった・・・それなら俺の拳と山の夜道どっちの方が怖いんだ?」
「行って参りますッ!;」
あまりの一の気迫に晴喜は即答しながら背筋を伸ばして敬礼のポーズをとった。
「ふざけてんのか!早く行けッ!」
「はい〜ッ・・・;」
晴喜は逃げ出すように素早い動きで家を出ていった。
「ちょっと、かわいそうでしょ!私も一緒に行くわ」
様子を見ていた果菜がそう言って晴喜の後を追い、家の玄関に歩いていった。まさかの行動に一は動揺を見せる。
「おい・・・待てカナ!」
結局、一も果菜の後を追って家を出ていった。

「うぅ、真っ暗だ・・・」
晴喜は暗い夜道を懐中電灯のわずかな光で照らしながら坂道を下りていた。すると、後ろから果菜の声が聞こえてきた。
「晴喜さーん!」
「・・・カナちゃん?!」
晴喜は振り返って懐中電灯を向けると、その先にはやはり果菜が立っていた。必死に走って来たらしく少し息が上がっている。
「・・・私もついていきますよ。2人で行った方が怖くないでしょ?」
「カナちゃん・・・ありがとう!」
「待てーーーーーッ!!」
「!!?」
同じ方向から今度は一の叫び声が聞こえてきた。あっという間にここまで走ってきたかと思うと、晴喜を睨みつけた。
「お兄ちゃん・・・結局来たの?」
「うるせぇ!カナとこいつだけで行かせられるわけねぇだろ!」
こちらも必死な一の様子に晴喜は思わず笑い出してしまった。
「ハッハハハハ!・・・じゃあ3人で行こうか」
そう言うと晴喜は笑顔で再び歩き出した。不思議とさっきよりも周りが明るく見えるような気がする。



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年01月08日 08:31:50  No.87011
I P:211.121.31.88

結局、町で買い物をして家まで戻ってくるのに1時間以上もかかってしまった。家に入ると晴喜達はようやく遅めの夕食をとった。晴喜の作った料理は意外に美味く、3人はすぐにそれをたいらげてしまった。
「ふぃ〜、食った食った」
「ごちそうさま。晴喜さんって料理上手なんですね」
果菜が心底尊敬しているような眼差しで晴喜に言った。
「まぁね」
晴喜も満更でもない反応をした。すると、晴喜は何かを思い出したような顔をして口を開いた。
「あ、そうだ・・・町に行ったついでにこんなのを買ってきたんだ」
そう言って買い物袋の中から何かを取り出した。見たところ片手でつかめる程度の木材のようだ。
「何だよそれ」
「表札だよ表札」
晴喜が買ってきたのは木材に自分で名字を書き込むタイプの表札だった。
「何でそんなもんを・・・」
「いやぁ、今日からハジメ達もここに住むわけだから表札が要るかなと思って・・・ちなみに墨汁もちゃんと買ってきたぞ」
晴喜は言いながら買い物袋から更に墨汁も取り出してきた。
「なんかやけに手の込んだことするな・・・」
「へヘッ、俺が書いていいかな?『あおなみ』ってどういう字?」
「もうお前のそのテンションが気持ち悪ぃんだけど;」
一の言葉をよそに晴喜は果菜から青波の文字を教えてもらうと、さらさらとその字を筆で表札に書き込んでいった。その字はなかなかに達筆だったが、何故か波という字を間違えてしまった。
「あ、やべ・・・ミスった;」
「そんな字間違えるか普通!?」
「ええい、まだやり直せるッ!」
晴喜は必死にその字をどうにか修正しようと奮闘するが、その度に形がごちゃごちゃしていき最終的に適当にごまかした形になってしまった。
「ふぅ、まぁこんなもんか・・・」
「いやふざけんな!やるならちゃんとやれよ!」
「そんなこと言ったって表札はこれ1つしか買ってきてな・・・あ、そうだ!いい事思いついた!」
「何だよ・・・」
正直に言って一は晴喜の思いつきにはあまり期待が持てなかった。すると、晴喜は突然表札全体を墨で黒く塗りつぶし始めた。
「何してんだお前!?」
「ほら、表札って黒い奴もあるだろ?アレみたいにすればいいんだ。これを黒くして白い文字を書けばやり直せる!」
「ハァ?!アレは石で出来た奴だろ。つーか白い文字ってどうやって書くんだよ!?」
「う〜ん・・・確か俺の部屋に絵具があったはず」
「マジかお前・・・」
こうして、晴喜の失敗と発想によって一風変わった表札が完成した。
「お〜、終わってみればなかなかの出来じゃん」
「そうか・・・?」
「早速掛けてみようか」
そう言うと晴喜は表札をもって玄関の外に出た。2人も一応彼の後についていってみる。晴喜は玄関の扉の横にかかっている『山名』の表札の隣に『青波』の表札を付けた。こうして見てみると、確かに表札としての違和感はあまりなかった。
俺達は、今日から家族だ。数時間前の晴喜の言葉が2人の頭の中で再生された。この表札を見ていると、そのことが実感できるような気がしてきた。3人は表札を掛けた後もしばらくそれを見つめていた。

続く



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年01月10日 07:45:31  No.87012
I P:211.121.31.97
第4日 翌日

目が覚めた。起き上って周りを見てみると、そこには見慣れない光景が広がっており、ようやく一は晴喜の家で眠った事を思いだした。するとその直後、寝室のふすまが開いた。開いたのは晴喜だ。
「おはよー。昨夜はよく寝れた?」
「・・・っていうか、カナはどこだ?」
果菜は一と同じこの寝室で寝ていたはずだが、彼女どころか布団もそこにはなかった。
「・・・アレ、本当だ。いないな・・・とりあえず家の中を探してみよう」
こうして寝室を出た2人だったが、彼女はすぐに見つかった。果菜はキッチンで1人朝食を作っていたのだ。
「あ、2人ともおはよー」
「もしかして、朝ごはん作ってくれたの?」
「ええ、居候させてもらってるからこれくらいは・・・」
「おお!ありがとう」
晴喜がそう言うと、果菜は振り返って彼女が作った朝食を持ってきた。
「さ、出来たわよ。食べて食べて」
果菜が料理をリビングテーブルに並べると、2人は置かれた場所の前座った。3人が朝食を食べ始めると、しばらくして一が晴喜に話しかけた。
「つーかよォ、お前本当に俺達をここに居候させる気なのか?」
「え?今更何言ってんだよ。俺がいいって言ってるんだからいいんだよ」
「お前がよくてもなァ、お前の親とかはどうなんだよ?つーかお前の親は何処いってんだ?」
思いもよらぬ一言に晴喜は心底驚いたような表情をした。まさに、鳩が豆鉄砲をくらったといった表情だ。それを見て一や果菜は少し不安になる。どうにも『・・・そうだった!』などと言いだす気がしてならなかった。
「・・・ま、大丈夫だって」
さっきの驚きの表情は何だったのか、晴喜は軽い口調でそう言った。

朝食を食べ終えると、晴喜は立ちあがって軽く背伸びをした。ふと窓の外を見てみると、そこから心地よい陽の光がさしてきていた。
「う〜ん、今日は天気もいいし散歩でもしてみるか」
そうつぶやくと、早速玄関の扉を開けて外へ出た。すると、扉を開けたすぐ横に何故か人影が見えた。
「ん・・・?」
晴喜は首を横に向けてその正体を確かめようとした。それでもやはり、それは人だった。晴喜に近い年代の青年が壁に寄り掛かるようにして爆睡していたのだ。
「な〜んだやっぱり人か・・・って、ええええええ!?」
晴喜は大声を出しながらその青年を二度見した。その青年の身なりをよく見ると、頭はボサボサで服装も若干ボロボロだった。だいぶ春が近づいてきているとはいえ、こんな恰好でよくここまで眠れるものだ。
すると、晴喜の大声を聞きつけて一達も玄関からこちらに出てきた。
「なんだよ朝からうるせぇな〜」
「見てこの人!」
晴喜はそう言って謎の青年を指差す。それを見た一達はいぶかしげな表情を見せた。
「なんだそいつ・・・何でこんなとこで寝てんだよ?」
「俺も分かんない」
すると、今まで全く起きる気配のなかった青年が突然唸り声を出しながら目を開けた。
「う〜ん・・・」
「うぉっ、起きた・・・」
目を覚ました青年は、いぶかしげに彼を見つめる晴喜達をしばらく見つめて口を開いた。
「・・・親父?」
「・・・は?」
「お〜親父、何だこんな所にいたのか。つーかここは何処だ?」
「ちょっ、待って・・・俺は君の親父さんじゃ・・・」
「・・・なんだただの猫か」
「どういうこと!?」



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年01月10日 07:49:29  No.87013
I P:211.121.31.97
目を覚ましたことでさらに謎が深まる青年に戸惑う晴喜に、果菜もまた戸惑い気味に言った。
「この人もしかして寝ぼけてるんじゃ・・・;」
それを聞いて晴喜はその青年の肩をしっかりと掴んで前後に思い切り揺らし始めた。
「お〜い!しっかりするんだ〜!」
「・・・うるせぇッ!」
青年はそう言いながら振られた勢いで晴喜の頭に思い切り頭突きを繰り出した。
「ぐへっ!何でッ・・・?!」
「で、何でこんな所で寝てたんだよお前は?」
晴喜が地面に伏して痛みに耐えている間に一が青年に話しかけた。先程の晴喜のおかげなのかどうかは分からないが、青年もようやく完全に意識を取り戻したようだった。ただし、それでも何となく気だるそうな目をしていた。
「分からん。眠たかったから寝ただけだ」
あまりに堂々とそんなことを言ってきたので、一は思わず呆れてしまった。一方、果菜はさらに青年に訊いてみることにした。
「じゃあ、どうしてこの家に入ってきたんですか?」
「う〜ん・・・ここの芝生が寝るのに調度よさそうだと思ったんじゃね?」
青年のいい加減な言葉に一は呆れながら言い返した。
「お前酒でも飲んでたんじゃねーのか・・・?」
「バカ言え。酒なんてもん最近じゃそうそうありつけるもんじゃねーぞ・・・まぁ、昨日はたまたま酒瓶見つけたんだけどな」
「飲んだんじゃねーかよ!しかも拾った奴!?」
一がそう突っ込んだ直後、不意に後ろから晴喜の声が聞こえてきた。
「う〜ん成程、これがその酒か〜。結構辛口」
振り返ると、晴喜は近くの芝生の上に落ちていたのか酒瓶を持っていた。
「そこにあったのかよ!?つーか何お前も飲んでんだ!?」
「これ店の裏に捨てられてる奴の余り?」
「勿論」
青年は何故か誇らしげな表情でそう返してきた。なんでも町中の路地裏に捨てられていた物を1つの瓶に集めて飲んでいたらしい。
「えらくみみっちい飲み方してんな・・・ってか、いつまでここにいるつもりだ。もう家にでも帰れよ」
「家なんてあるわけねぇだろ」
「え・・・?」
晴喜達が小さくそう言った後、しばらくの間沈黙が流れた。

青年の名前は桂木來斗(かつらぎ らいと)。彼の話では、小さい頃からずっと路地裏や河原などを転々として生活してきたらしい。確かに彼のみすぼらしい身なりを見れば、そんな話もあながち嘘とは思えなかった。
「どこで寝るかはいつも決まってないからな。眠たくなった時に寝れそうなとこで寝る。んで昨夜はたまたまここの芝生が目に着いたってことだな、うん」
「そうだったんですか・・・」
果菜の言葉を最後に再び沈黙が流れた。しかし今度は一がすぐにそれを破った。
「お前は何で家が無くなったんだ?」
「無くなったっつーか、気がついたら知らん場所にいた」
「・・・は?」



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年01月10日 07:52:01  No.87014
I P:211.121.31.97
「俺もその時の事はよく覚えてないが、朝起きたら森の中にいたんだ。さすがにあの時森の中で寝てた覚えなんてないんだけどな。そっからどうにかここの街に出て」
「その前はどんな暮らしをしてたか覚えてないんですか?」
果菜が來斗にそう訊いたが、彼は一切表情を変えずに言った。
「もうだいぶ前の事だからな・・・何も覚えてないな」
しかし、彼は哀しげな表情を浮かべたり自身に何があったのか気にしている様子は全くなかった。そんな事を考えているほどの余裕がなかったのかもしれない。すると晴喜が急に笑顔になって口を開いた。
「・・・それならさ、今日から家に住む?」
「ハァ!?」
晴喜のまさかの発言に一達は心底驚かされた。自分達も同じ事を言われたとはいえ、あまりにも唐突だったので不意を突かれた気分だ。
「ちょっと待てよ!お前それ本気か?!」
「勿論」
晴喜が笑顔で答えると、來斗は特に迷った様子もなくすぐに答えを出した。
「マジで?じゃよろしく頼むわ」
「そんでお前もあっさりと受け入れんなよ!」
「まぁいいじゃん。人数は多い方が楽しいって」
晴喜は能天気にそう言ったが、一はそれに全く納得できなかった。
「それじゃお前はこれから身寄りのねぇ奴をいちいちこの家に住ませんのかよ?」
「お兄ちゃん、私達も助けてもらった身なんだからそういうこと言わないの」
「何だよカナまで・・・」
こうなると、もう一が何を言おうと來斗はここに居候することになりそうだ。すると、來斗が一に微笑みながら話しかけてきた。
「ま、そういうことだ。仲良くしようぜ」
「お前は何で早くも溶け込んだ感じになってんだ!?」
「何言ってんだ。ライトも今日から家族の一員なんだぞ」
晴喜が2人の間に割り込みながらそう言うと、來斗に向かって手を伸ばした。
「ってことで、これからよろしくな」
「ああ」
來斗も手を伸ばして2人は握手をしようとした。しかしその瞬間、晴喜の身体に突如として激しい衝撃が走った。
「ぎゃあ〜〜〜ッ!?」
「・・・どうした!?」
あまりの痛みに晴喜はその場に膝から倒れ込んでしまった。その様子を見た一達は驚きを隠せない。そんな中來斗は、あ、と思いだしたような表情をしながら晴喜に言った。
「・・・そう言えば俺ってすっげえ静電気溜めやすい体質だったんだ」
「え・・・ってことは、今のって静電気なんですか?!」
晴喜をよく見てみると、彼の体がかすかに痙攣しているのが分かった。一体彼にどれだけの電圧がかかったのだろうか。その様子を見た限りでは静電気のレベルを明らかに越えていた。
「あの・・・そんな大事なこと忘れないでくれる・・・?死ぬかと思った・・・;」
晴喜は倒れたまま半泣きの表情で小さくそう言った。
(こんなんで本当に大丈夫なのか・・・?)
これからの生活にますます不安を覚える一なのであった。

続く



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年01月10日 08:00:02  No.87015
I P:211.121.31.97
登場人物紹介

山名家メンバーC
桂木來斗(かつらぎ らいと)/17
昔から路上生活を続けてきたホームレスの青年。非常に能天気で楽観的。人の意表を突く言動をすることが多い。何故か静電気が異常に発生しやすい。



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年01月23日 09:18:50  No.87016
I P:61.116.138.157
第5日 面接の日

「じゃ、いってきまーす」
「いってらっしゃーい」
晴喜達が返事をすると果菜は扉を開けて玄関を出ていった。果菜は4人の中で唯一学校に通っているのだ。晴喜の家に来てから通学路が変わってしまったが、幸い歩いていける距離だったので登校に支障はないようだった。
「さて、じゃ俺も行こうかな。ハジメ達も来る?」
不意に晴喜がそんな事を言い出した。
「どこにだよ?」
「アルバイト。人数も増えた事だし生活費稼がなきゃだろ」
成程、晴喜は今までそうして1人で暮らしてきたのかもしれない。晴喜の家に居候してから数日間が建つが、彼の親が帰ってくる気配は全くなかった。
数人分の布団が家にあることから元々はこの家にいたようだが、彼の両親は今一体何をしているのだろうか。一はそんな事をぼんやりと考えたが、すぐに別の問題が浮かんできた。
「今時俺らみたいな奴を雇ってくれるとこなんかあんのか?」
数年間不景気が続いているこの時代に高校も卒業していない一達が仕事を得るのは、それがアルバイトでもなかなか厳しいものがあった。しかし、晴喜は笑顔でそれに答えた。
「大丈夫だって。気前のいい人だから」
こうして一達は晴喜に言われるがまま、そのバイト先へ向かうことにした。

晴喜達がやって来たのは、古めかしい小さな小屋のような建物だった。看板には筆で『日蔭(ひかげ)』と書かれてある。一見何の店かは分からないが、景気がよろしい店でない事だけは伝わってくる。
「・・・ホントに大丈夫なのかよ此処」
「大丈夫、ホラ、入った入った」
晴喜がそう言いながら店のドアを開けた。中に入ってみると、そこにはいくつかのテーブルとカウンター席があった。飾り気のない木造の床や壁が落ち着いた雰囲気を醸し出している。
「・・・喫茶店?」
「まぁほとんど酒屋みたいなもんだけど。昼間もやってるからそれでも間違いじゃないかな」
確かにカウンターの奥をよく見てみると、そこには様々な酒瓶が所狭しと置かれていた。すると、そのさらに奥の大きな扉が悲鳴のような音をたてながらゆっくりと開いた。
「何だ客か?・・・まだ店は開けてねぇぞ」
「・・・!!」
そこから出てきた人物を見て一は驚愕の表情を見せた。扉の奥からは非常に大きな男が現れたのだ。身長は優に2mは越しているであろう。体格も喫茶店の店主にしては異常によく、かなりたくましい顔つきをしていた。
どう見ても過去に何も無かった人物だとは思えない。
(でけぇッ・・・!!こいつホントに人間なのか・・・!?)
「・・・言っとくけどこの人はちゃんと人間だから。店長の長田さん」
見透かしたように晴喜がそう言ってきた。長田は晴喜達の目の前に立ち、見下ろしながら口を開いた。
「・・・晴喜か。で、そいつらは何だ?」
「いやぁ、この人達もアルバイトさせてもらえないかなぁ〜と」
すると、長田は改めて一と來斗を眺めてから答えた。
「・・・成程、そんじゃ開店まで時間あるし早速面接と行くか。来い」
長田はそう言うと、再びカウンター奥の扉の向こうへと戻っていった。すると、晴喜が笑いながら一に言ってきた。
「な、言ったろ?」



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年01月21日 19:22:29  No.87017
I P:211.121.31.140

晴喜、一、來斗の3人は並べんたパイプ椅子に座らされ、目の前には長田がだらしなく椅子に腰かけていた。
「は〜い、んではこれより面接を始める」
(・・・え?面接ってこんな感じ!?なんかすっげぇ空気ユルいんだけど・・・!)
「あの〜・・・店長、何で僕までここに座っているのでしょうか・・・?;」
確かに、既にアルバイトをしている晴喜も彼らと並んでいるのは不自然な感じがしていた。
「お前、合格してるからって気ィ抜くなよ?なんか気に入らないことしたら落とすからな」
「マジッすかァアア!?」
「ま、それはさておきまずは端から自己紹介しろ。ハイ、お前から」
そう言って來斗の方をあごで指した。それに対し、來斗は姿勢をよくして笑顔で答えた。
「好きな物はいかさきっすかね」
(いきなり好物言いだしたーーー!!)
「成程、つまみが好きでウチに来たのか」
(どこに納得してんだよ!?つーか名前を訊けぇええ!)
「・・・って、それ以前に名前を言えええええ!!」
長田はそう叫びながら來斗を凄まじいスピードで殴り飛ばしてしまった。來斗は勢いがとどまることなく部屋の壁まで吹き飛ばされ、ドン、という大きな音を出しながら壁に叩きつけられた。
晴喜達はすぐ横で起きた事件の経緯を理解できず、ただあんぐりと口を開けて床に倒れ込んだ來斗を見つめるだけだった。
(の・・・ノリツッコミだとぉぉぉおおお!?って、んなことよりこいつヤバいぞ・・・!!)
一はすぐに首を横に振って晴喜に囁いた。
「おいぃ!何だ今のは!?今アイツ思いっきり來斗殴ったぞ!気前のいい奴なんじゃなかったのかよ?!」
「あるぇ〜、これは・・・もしかして店長今日は機嫌が悪いのかも〜;」
「機嫌って・・・つーかあの馬鹿力やっぱり絶対人間じゃ・・・」
「ん?今馬鹿力って言った?」
(やべぇ聞こえてたーーー!)
一の失言を晴喜が何とかフォローしようと長田の方を向いて言った。
「やだな〜言ってないですよそんなこと〜;それよりほらッ、面接の続きやりましょう!」
「・・・それもそうだな」
長田はそう言いながら元の椅子に腰かけた。とりあえず何とかこの場を乗り切った晴喜達は、先ほどよりもさらに姿勢を正して面接を再開した。その際、晴喜は一に小声で忠告をした。
「いいか。こうなった以上絶対に店長の機嫌を損ねちゃダメだ。ちょっとしたことで鉄拳が飛んでくるぞ」

「じゃあ次、真ん中の奴、名前とウチを志望した理由を言え」
別の意味で極度の緊張感に包まれた部屋の中に長田が声が響き渡った。今度は一が自己紹介を始める。
「青波一。理由は生活費のために・・・」
一は当たり障りのない言葉を選んで長田の質問に答えていく。そして、ついに何事もなく一に対する質問が終わった。
「ハイ、じゃあ最後に晴喜に訊く」
「え・・・俺にも訊くんですか?というか何を訊く事が・・・」
「いいから答えろ」
「ハイ・・・;」



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年01月21日 19:24:56  No.87018
I P:211.121.31.140
「結局さっき殴った奴の名前を聞きそびれちまった。アイツの名前は?」
「(え〜〜〜〜〜;)え、えっと・・・あの人の名前は桂木來斗と言います」
「そうか。じゃあ今度はお前に訊こう。最近この店は客の出入りが極端に悪い。何が原因だと思う?」
(バイトの面接で何を訊いてんだよ。完全にお悩み相談じゃねぇか!)
「まぁ最近は不景気ですもんねぇ〜・・・それがすべてだと思います!長田さんは何も悪くないですよ!;」
「しかしな、そうだとしてもだ。それでも生きてく為には稼がなきゃならねぇんだよ。なのに売り上げは落ちていく一方・・・どうするよ?」
徐々に切実になっていく彼の発言に晴喜も困惑の表情を隠しきれなかった。そもそも学校を卒業して1年もたっていない晴喜にはにわかに答え難い質問だ。しばらくは晴喜も口ごもったまま何も答えられずにいた。
しかし早く何か答えを出さなければ、いつ長田の鉄拳が飛んでくるか分からない。晴喜は長田の気迫に圧迫されながらも必死に答えを考えた。
「・・・じゃあ、何かイベント的なものを開いてお客さんを集めるなんてのは・・・」
「・・・成程」
長田はそう言いながらゆっくりと椅子から立ちあがった。
「却下」
言いながら長田は晴喜を目にもとまらぬ速さで殴り飛ばしてしまった。
(ええええええええええ!!?)
(晴喜ィィィイイイ!!)
晴喜は來斗と同じように部屋の壁に叩きつけられ、そのまま力なく床に倒れ込んでしまった。しかし、辛うじて意識は残っているようで、晴喜は小さなかすれ声で一を呼んだ。一は仕方なく晴喜が倒れている所まで近づく。
「・・・わ、悪い。しくじっちまった・・・こいつは・・・お前に託す・・・後は、頼んだ・・・ぞ・・・ガクッ」
晴喜はそう言って一にある物を持った手を伸ばしたまま顔を床に伏した。
「・・・何戦争映画みたいなことやってんだお前?」
「乗ってくれないのかよそこは・・・?!」
一に冷ややかな目で見られたので、たまらず晴喜もすぐに観念して顔を上げた。
「うるせぇガキか!で、どうすんだよこれを?」
「こんな事もあろうかと持ってきといた最終兵器さ。土産を持ってきたと言ってこれを店長に渡してくれ・・・ガクッ」
「もういいわそれは!」
しかし今度は一がそう言っても全く反応せずに本格的に狸寝入りを決め込んできた。
「・・・ったくしゃーねーな・・・」
一はそう言って晴喜の手の上にあるものを奪うように手にとって長田の方へ歩いていった。見ると、長田の機嫌は相変わらず悪いようだった。
「・・・何だよ?」
「あの、実はアンタに土産を持ってきてて、それを渡したいんだ・・・」
「それは・・・!」
一が持っていたのは、少し小さめの酒瓶だった。ラベルには"怒髪天衝"と書かれている。一は黙ってそれを長田に渡す。
「こんなものを持ってくるとは、お前らなかなか物好きだな。いいだろう、そこまでするんなら全員合格にしてやるよ」
「・・・マジッすか!?(じゃあ今までのは何だったんだよ?!)」
「ああ、マジだ。調度もうすぐ店を開ける時間だが、早速やってみるか?」
どうやら彼の機嫌は元に戻ったようだ。その様子を悟った晴喜は殴られた箇所を抑えながら一に寄りかかってきた。
「どう?最終兵器の効き目は」
「・・・つーかコレ、わいろじゃね?」
「それは言わんといて;」

続く



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年01月21日 19:44:02  No.87019
I P:211.121.31.140
登場人物紹介

周囲の人々@
長田剛(おさだ ごう)/36
晴喜たちのアルバイト先である場末の酒屋『日蔭』を経営している男性。かなりの大男で力も超強力。気さくで気前の良い性格だが、見かけによらず繊細でちょっとしたことで暴走してしまう一面も。



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年01月30日 18:55:12  No.87020
I P:211.121.31.249
第6日 アルバイト初日

「そういうわけで、改めて言うが店長の長田剛(おさだ ごう)だ。これから店を開けるから晴喜と一緒に働いてくれ」
長田の一言によって面接の直後にいきなりアルバイトをすることになった一達。かなり急ではあるが、考えてみればこの店の雰囲気からして昼間はあまり客は来なさそうだ。
3人は従業服に着替えると、客がいない間に簡単な店内の掃除を始めた。ここで一はふと気になる事が浮かんできた。
「そういえばよ、ここ給料ってどれくらいなんだ?」
そんな質問に対して晴喜は微笑みながら意外な返事をした。
「さぁ?」
「さぁ!?何でお前が分かんねぇんだよ!?」
「だって給料はあの人の気分で決まるからねぇ」
「気分ッ!?」
「そう、だから店長の気分を害さないようにしっかり働かないとな」
「滅茶苦茶だな・・・」
「そこ、なんか言った?」
長田のその声には何故か殺気が込められているような気がしてならなかった。たまらず晴喜が言い訳をする。
「いやッ、店長の心の広さについて語り合ってましたッ・・・!;」
「そうか。ならいい」
「・・・危ねぇ〜;」
すると、不意に來斗が晴喜に呼び掛けてきた。
「お〜い、床にこんなもんがあったんだが、これって食えんのか?」
そう言って來斗が見せてきたのは見た事がない明らかに毒々しい色をしたキノコだった。
「何それキノコッ!?生えてたの?床に!?」
「つーか絶対食えないだろソレ!明らかに毒持ちの色してんじゃねーか!」
驚く2人に対して來斗はあくまで食べられるかどうかを確認しようとしていた。
「そうか?前に似たようなの食ったような気がすんだけどなぁ・・・」
「マジかお前そんな色したような奴よく食ったな!」
すると、長田がしかめ面をしながら3人に寄ってきた。
「おい!」
(まずいッ・・・!)
「そのキノコ育つの密かに楽しみにしてたんだぞ!何勝手に取ってんだよ!」
「そっちーーーーー!?っていうかこういうのは取ってくださいよ。不衛生な店だと思われるじゃないですか;」
晴喜の言葉に長田はハッとしたような表情を見せた。
「そうか、だから最近客来なかったのか」
「う〜ん、それは・・・どうでしょう;・・・とりあえず、このキノコはもう捨てよう」
そう言って晴喜は來斗の手からキノコを取ろうとした。するとその時、來斗の手から凄まじい衝撃が伝わってきた。静電気だ。
「んぎゃああああああああッ!!」
「あ、ダメだってあんま俺の手に触ったら」
「何だどうした!?」
突然の出来事に驚く長田に來斗が説明する。
「俺って異常に静電気溜めやすい体質なんすよ」
「わ・・・忘れてた・・・」
身体や口を震わせながらそう言う晴喜は床に倒れたまま立ちあがる事ができそうにない。見かねた長田は一と來斗に言った。
「しょうがないな。一旦晴喜を裏まで運ぶぞ」
「うっす」
そう言って2人が同時に晴喜の腕を掴んだ。
「ッいっっってぇぇぇえええええ!!」
すると今度は晴喜の身体を伝って一にも來斗の電流が流れ込んできた。たまらず一も手を振り回して必死に痛みをこらえる。晴喜に至っては2度目の電撃を喰らって気絶寸前だ。
そんな状況の中で、店の扉がベルを鳴らしながら勢いよく開いた。客が来店してきたのだ。
「・・・あ;」



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年01月30日 18:57:06  No.87021
I P:211.121.31.249

現在午前10時前。こんな時間帯に此処に客が入ってくる事は珍しい。しかしその客が店に入って目にした光景はさらに奇妙なものだった。気絶した店員が床に倒れており、それを他の店員が引きずろうとしていたのだ。
長田も客が不審がっているのを感じ取ったらしく小声で一達に指令を出した。
「まずい、こいつは俺が運んどくからとりあえずお前らが接客しろ」
そう言って長田は素早く晴喜をカウンターの奥へと引きずっていった。仕方なく2人は客の接客を始める。
「いらっしゃいませー」
「あの・・・入って大丈夫だったんですかね?」
客の男性は少々困惑した表情をしながらそう言ってきた。これに対し來斗は何事もなかったかのようなすまし顔で答えた。
「大丈夫ですよ。どうぞこちらの席へ」
男をカウンター席に座らせると、昼のメニュー表を渡して2人は長田の元へと戻っていった。中の様子を見てみると、そこには全く生気のない晴喜がパイプ椅子にぐったりと座りこんでいた。
「あら〜、燃え尽きちゃってるな〜こりゃ」
「お前が燃やした張本人だろうが」
全く悪気なく棒読みで言い放った來斗に一が突っ込んだ。
「こいつはもう駄目だ。後は俺達でやっていくしかねぇな。ま、本来この時間帯はあんまり客も来ないしこれで充分なんだがな」
長田も淡々とそう言った。すると、店のお方からさっきの客の声が聞こえてきた。
「あの、すいませ〜ん」
「俺が行く。お前らは晴喜の面倒でも見てろ」
そう言い残して長田は部屋を出ていった。力強く扉が閉められると、一は軽くため息をついた。
「・・・面倒って言われてもな」
一がそう言うと2人は晴喜の顔を見た。さっきから微塵も表情が変化していない。もしかしたらこのまま死んでしまうのではないかと思ってしまう程切ない表情だ。するとここで來斗が動いた。
「おーい、起きろ」
彼はそう言って晴喜の頬を軽く叩いた。
「うああああああああッ!!?」
案の定、來斗の手からまたしても電流が流れだし、この叫び声を最後に晴喜は完全に気絶してしまった。
「あ、またやっちまった」
「バカだろお前!事態悪化してんじゃねぇか!」
一方、晴喜の叫び声は当然店内にも響いており、そこにいた客はますます不安になってしまった。
「あ、あの・・・あそこで一体何をしてるんですか?;」
「アッハハ、すいません。新人がドジっちまったみたいだ。ちょっと叱ってきますわ」
長田はそう言いながら奥の扉を思い切り開けた。
「お前らこっちに聞こえてんだよォオオ!いい加減にしろ!」
そう言いながら長田は2人を思い切り殴り飛ばしてしまった。そのうえ、吹き飛ばされた2人にぶつかって晴喜もパイプ椅子から転げ落ちてしまった。
「ぐはッ・・・!!」
部屋の奥の壁にぶつかる激しい音がしてきたが、長田はその音を閉じ込めるように部屋の扉を素早く閉めた。しかし、当然その音も全て客に聞こえている。
「・・・大丈夫ですかね店員さんは;」
「大丈夫ですって」
長田がそう言ってからしばらくすると、客の男が頼んだ料理が出来上がり、長田はそれをカウンターに置いた。
「ハイ、カツサンド」
「ど、どうも・・・」
男は奇妙な緊張感の中素早くカツサンドをたいらげそそくさと店を出ていった。



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年01月30日 18:58:37  No.87022
I P:211.121.31.249

午前11時半。この時間帯になってくるとこの店にもそこそこの客が入ってくる。そろそろ1人くらいは手伝う店員が欲しい頃だ。そこで長田は頃合いを見計らって奥の部屋に入って晴喜達を呼びに行こうとした。
「お〜い、そろそろ出番・・・」
しかし、3人は不自然な体勢で床に倒れていて全く起きる気配がなかった。完全にやりすぎた。長田は今になってようやく深く反省した。
「こりゃ参ったなぁ・・・ま、しゃーないか」
長田はそう呟くと静かに扉を閉めた。結局この日は、長田は1人で昼の時間帯を切り盛りすることになった。

気がつくと、目の前には自分と同じく気絶して倒れている一と來斗がいた。起き上ろうとするが、体中に痛みが走る。しかたなく晴喜は横たわったまま自分の記憶をたどっていくことにした。
確か、自分が來斗から静電気を受けたのが事の発端だったはずだ。それから動けなくなった自分を運ぼうとした來斗から更なる追撃を喰らって・・・そこから記憶があやふやだ。
そういえば、あれからどれくらいの時間が経っているのだろう。ふとそんな疑問を持った晴喜は部屋にある古ぼけた時計に目をやった。時間は、午後3時。これを見た晴喜は驚きのあまり痛みを忘れて飛び上がった。
「さ、3時・・・!?まずいッ!こんなに寝てたのか!!(それにハジメ達まで気絶って・・・絶対何かあった!;)」
まだ若干手足が痺れるが、何とか立ちあがって部屋の扉を開けた。そこには1人カウンターでグラスを拭いている長田がいた。今は客は来ていないようだ。すると、長田が晴喜に気付いて声をかけた。
「お、やっと気がついたか晴喜」
「あ、あの・・・今日は大丈夫だったんですか?」
「ん、まぁな。つーか、この時間帯に3人もパートはいらねぇな。今度は昼と夜のシフト表作っとかねぇとな」
「・・・そうですか」
「にしても、なかなか面白い奴を見つけたもんだなお前」
「そうでしょ」
「今度からは気をつけとけよ?」
「はい・・・」
その時、晴喜の背後から扉の開く音がした。一と來斗も目を覚まして部屋を出てきたのだ。
「おお、お前らも起きたか。悪かったな殴ったりして」
(やっぱりアンタの仕業だったか・・・!)
晴喜が密かにそんな事を思っていると、今度は店の入り口の扉が開いた。客がやって来たのだ。
「あ、いらっしゃいませ」
こうして3人はアルバイトを再開し、外が暗くなるまで働いた。今日は久しぶりに客足が多い一日だった。

「・・・やっぱあのキノコが原因だったか」←長田
「えぇ〜・・・まさか;」←晴喜

続く



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年02月11日 19:20:35  No.87023
I P:211.3.169.219
第7日 INDEPENDENCE DAY(前編)

街で買い物をした帰り道でのことだった。晴喜は1人買い物袋を抱えながら町外れの道を歩いていると、前方に5人ほどで固まっている小学生達がいた。しかし、皆仲良く楽しげに歩いている様子ではなかった。
1人アスファルトの地面にうつ伏せで倒れ込んでいる少年がおり、それを取り囲むように他の少年たちが立っている。彼らから嫌な笑い声も聞こえてきた。少年が、虐められている。
晴喜にはすぐに分かった。気がつくと、彼の足は目の前の少年たちの方へと動いていた。徐々にそのスピードが上がっていく。次に彼の口が開き、喉の奥からとっさに頭に浮かんできた言葉が飛び出してきた。
「こらー!何やってるんだ!」
思っていたよりも大きな声だった。すると、少年たちが一斉にこちらを向いたかと思うと、鬼ごっこ中に鬼に出くわした時のような表情をしながら一目散にどこかへ走りだしていった。
「・・・ふぅ、まったく。キミ、大丈夫?」
そう言って倒れていた少年を見つめた。見たところ小学校高学年くらいの小学生のようだった。少年は両手でゆっくりと身体を起こした。地面に倒れた時のものなのか右の頬には擦り傷があった。
服もランドセルもボロボロだ。大丈夫?と聞いたのを申し訳なく思ってしまう程痛ましい姿だった。
「・・・・・・」
少年は哀しげな表情を浮かべたまま何もしゃべらない。それどころか晴喜の方を見向きもしなかった。
「・・・立てる?」
晴喜は少年に向かって手を伸ばす。少年はそれをしばらく見ると、黙って手を握ってきた。晴喜は微笑みながらぐいっと手を引っ張る。すると、少年の体は一気に浮き上がった。
少し勢いが強すぎたのか彼は地面に着地すると、少し足元がよろけてしまったが、すぐに体勢を立て直した。
「頑張れよ。少年」
晴喜はそう言って軽く彼の肩をたたいた。相変わらず少年は無表情のままだ。すると少年はそのままゆっくりと歩き出した。晴喜はそんな彼の後ろ姿をしばらく見つめていた。

晴喜と別れた小河優(おがわ ゆう)は、しばらく住宅街の中を歩いていくと自宅の前まで辿り着いた。家の玄関を開けて、中に入る。親はまだ仕事から帰ってきていないようだ。
数年前に両親が離婚してからというもの、母親は夜遅くまで働いて生活を営んでいるのだ。優はリビングにある家具の引き出しを開けた。そこから絆創膏を取り出し、頬の傷の上に貼る。
ゆっくりと倒れ込むようにリビングのソファーに腰掛けた。家の中は驚くほど静かだった。聞こえてくるのはカチカチと1秒ごとに進んでいく時計の針の音だけだ。優はこのまま何もせずにただ時間が過ぎてゆくのを待つだけだった。
ふと時計を見ると、いつの間にか午後6時になっていた。優はようやく起き上ってキッチンの方へと歩いていった。そこには母が作り置きしていった夕食がラップに包まれた状態で置かれていた。
優はそれをリビングのテーブルまで持ってきて、静寂の中で夕食をとった。それが終わったら風呂に入り、歯磨きをしたら明日の準備をし、布団を敷いて眠りにつく。そんな毎日の繰り返しだ。
優は非常に手際よく布団を自分の部屋に敷き始める。最後に自分の部屋の電気を消して、彼は一日を終えていく。



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年02月11日 19:25:23  No.87024
I P:211.3.169.219

次の日、優は学校を目指していつものように家を出た。しばらく通学路を歩いていると、突如後ろから強い力で肩をたたかれた。慌てて後ろを振り返ると、そこには同じクラスの柳橋将太(やなはし しょうた)がいた。
「よっ、優、今日は一緒に遊ぼうぜ〜。ちょっとした遊びを思い付いたんだ」
柳橋は笑いながら言った。これが大人には小学生らしい無邪気な笑顔のように見えるのだろうが、優にはそうは見えなかった。むしろ、悪意を含んだ笑顔に見える。
「・・・ま、とにかく今日の大休憩に倉庫の前な」
倉庫とは、校舎から最も離れた校庭の隅にある小さなコンクリートの小屋の事だ。その辺りは割と多くの木々が生えており、雑木林のような場所になっている。そのため、最も教師たちの目の届かない場所になっていた。
柳橋はその言葉を残すと、1人前へと走っていった。その先に彼の属するグループの集団を見つけたのだろう。優は通学路で再び彼と出くわさないために、奥に見える小学生の集団と一定の距離を保って調子を合せながら歩いた。

「優、時間だぞ。来いよ」
2時間目の授業の終了、すなわち大休憩の始まりを告げるチャイムが鳴ると、柳橋が優の席までやってきてそう言った。他の男子生徒も何人かついてきていた。どうやら逃げる道はないようだ。
仕方なく優も席を立って、柳橋の後についていくことにした。そして、校舎を出て雑木林に入り、古い倉庫の前までやってきた。
「さ、それじゃあルールを説明するか」
柳橋が優を見てにやけながらそう言った。よく見ると、他の男子も柳橋と同じような表情をしている。すると柳橋は小走りで倉庫の裏まで行き、少しすると掃除用のバケツを持って戻ってきた。
「昨日のうちに置いておいたんだ。昨夜はかなり寒かったから、こいつは相当に冷えてるはずだ。こいつにどれだけ顔をつけていられるか競争しようぜ」
確かに、昨日は真冬の気温に逆戻りしたような寒さだった。このことは先週末の時点で天気予報で予測されていたから、恐らく柳橋はそれを聞いてこのことを思いついたのだろう。
すると、中を見た他の男子が笑いながら声を上げた。
「冷えてるっていうかコレ、うっすら氷張ってんじゃん」
これに対して柳橋は、ますます口元を緩ませてから答えた。
「じゃあ、これを頭突きで割って顔を入れるってことで」
「何だそれ」
柳橋達はゲラゲラと笑い声をあげ、倉庫の扉を開けた。鍵は掛かっていないらしい。
「来いよ、優」



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年02月11日 19:27:10  No.87025
I P:211.3.169.219
柳橋が不気味な笑みを浮かべながら誘ってくる。しばらくためらっていると、強引に腕を引っ張って倉庫の中に引きずり込まれた。室内には窓は一切なく扉を半分閉めただけでもほとんど周りが見えないほど暗くなってしまった。
強烈なカビの臭いが鼻をつく。うへぇ、くせえな、という声が四方から聞こえてきた。その声に交じって柳橋がバケツを床に置く音もした。
「さぁ優、まずはお前からだ」
柳橋が冷たい口調でそう言ってきた。まさに優が予想していた通りの言葉だった。優を掴んでいる柳橋の手からは、その冷たさが直に伝わってくるような感覚がした。柳橋の腕に引っ張られ優は暗闇の中で体勢を崩す。
「おい、ライトをつけろ」
用意周到なことに柳橋は他の男子に手持ちのライトを用意させていた。その光が優の顔と床に置かれたバケツを照らす。慌てて優は懸命に身体を動かすが、柳橋達はあっという間に優の身体を抑えつけてしまった。
そして柳橋は優の頭を鷲掴みし、それをバケツのすぐ上まで持ってきた。柳橋達はかすれた笑い声を出しながら、これから行われるショーに心底期待を膨らませているといった様子だった。
「よし、いくぞ!」
「いけいけ!」
次の瞬間、優は右の頬を勢いよくバケツの氷にぶつけ、瞬く間に顔中が冷たい水に覆われた。しばらく何が起きたか理解できなかった。冷たさや痛みは感じているのに、目の前には何も見えない。
もしかしたら、自分は水などではなく絶望そのものに叩きつけられたのかもしれない、と思ってしまう。ようやく自分の置かれた状況を把握した優は必死に顔を上げようとするが、柳橋の手がそれを許さない。
柳橋達は自分をライトの光で照らして見ているのだろうが、その光はこちらにはまったく入ってこない。今更ながら右の頬に鋭い痛みを感じた。氷水が絆創膏を押しのけて傷口に入り込んできているようにも感じる。
耳鳴りが始まる。呼吸も苦しくなってきた。優が水から這い上がろうともがく度に、割れた氷が刃のように顔面を突き刺してくる。耳鳴りが左右から直接脳を貫いていく。優のまわりにある全てのものが、痛みに変わっていた。
(あぁ・・・もう、ダメだな。こりゃ・・・)
もがきながらも漠然とそんな言葉が浮かんできた。一向にこの暗闇から抜け出せるような気がしてこない。優は抵抗する力を徐々に弱めていってしまった。息はもう限界近くにまで達し、気を抜けば簡単に意識を失ってしまいそうな気がした。
優があきらめかけたその時、突如状況が一変した。らしい。目と耳は水の中にあったので外の状況はよく分からなかったが、優の頭を押さえていた柳橋の手が突然離れていったのは分かった。
恐る恐る優は顔を上げてみた。すると、今までの困難が嘘のようにいとも簡単に氷水から上がることが出来た。ゆっくりと目を開けて周りを見てみるが、相変わらず暗い景色で何が起こったのかは分からない。
ただ、彼らが持っていたはずのライトの光がなくなっているのは確かだ。茫然と暗闇の中で座り込んでいると、突如背後から声が聞こえてきた。
「キミ、大丈夫?」
なじみがあるわけではなかったが、聞いた事のある声だった。山名晴喜だ。

中編へ続く



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年02月11日 19:44:02  No.87026
I P:211.3.169.219
登場人物紹介

山名家メンバーD
小河優(おがわ ゆう)/11
内気で口数の少ない少年。普段自分の意見を押し通す事はないが、意外と大人びた思考をしている。手先も非常に器用。

周囲の人々A
柳橋将太(やなはし しょうた)/11
優を虐めている張本人であり、日々人を虐める方法を考えている残酷な性格。しかしながら、狡猾さもあって処世術には長けている。



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年02月18日 18:36:56  No.87027
I P:61.116.170.203
第8日 INDEPENDENCE DAY(中編)

バイト先の『日蔭』に向かう道でのことだった。晴喜達3人は山の坂道を降り、住宅街を抜けた大通りを歩いていた。そこには近所の学校を目指して歩く小学生の姿が多々見受けられた。
晴喜はふとそんな穏やかな光景を眺めていると、目の前に見覚えのある少年が歩いている事に気がついた。昨日、同級生たちに虐められていた少年だ。
「あ」
晴喜はそんな間の抜けた声を小さく漏らした。少年に声でもかけようかと思ったその時、何の前触れもなく晴喜の横を少年が駆け抜けていった。その少年はまっすぐ目の前の少年に駆け寄り、勢いよく彼の肩を叩いた。
(・・・こりゃ俺の出る幕じゃないな)
安心したような気持ちで少年を見ていたが、その後少年の方から聞こえてきた言葉には何か引っかかるものがあった。
「大休憩に倉庫の前な」
何故わざわざそんなところで遊ぶのだろう。そこが彼らがいつも遊んでいる場所であると言ってしまえばそれまでだが、その時に見えた少年の横顔は笑っていた、というよりも口元が歪んでいたように晴喜には思えた。
根拠などどこにもなかったが、晴喜はその笑顔に一抹の不安を覚えたのだった。そんな表情を見ていたのか不意に來斗が話しかけてきた。
「・・・どうかしたかハルキ?」
「・・・急用を思い出した。俺今日バイト後で行くわ」
「ハァ!?ふざけんなよサボりてぇだけだろ!」
一がそう言ってきたが、晴喜は神妙な顔つきで答える。
「いや、マジで急用ができたんだ」
「このタイミングでできる急用って一体何なんだよ・・・」
一の呆れた声は晴喜の耳をわずかな時間で通り抜けていった。

一を何とか言いくるめると、晴喜は小学生達について行って『平盆(へいぼん)第一小学校』に辿り着いた。ちなみに平盆というのは晴喜達が住むこの町の地名である。そんな町のやや郊外にあるこの学校だが、住宅街が近いためか規模は比較的大きかった。
晴喜は校門から校庭を見渡してみた。校門から見て左側に校舎があり、校庭を挟んでそれと向かい合うように雑木林が敷地内にあった。こちらから見て手前側の校庭にはいくつかの遊具が設置してあるが、奥の方には雑木林の隙間に小さな建物らしきものを見つけた。
こちらから敷地内で最も離れた場所にあったので、それが彼の言っていた倉庫であるかどうかは断定できないが、可能性は高い。残念ながら晴喜はもうこの校門を堂々と入っていける立場ではないので、外から回り込んであの建物の様子を見ることにした。
学校の雑木林と細めの道路は高いフェンスによって仕切られていた。しかしそのフェンスは有刺鉄線というわけではないので、何とかここから登って入ることが出来そうだ。しかしこれでは不審者も侵入し放題だな、と少し呆れる。
まずは外から先程の建物が見える場所を探す。すると、雑木林の木々の隙間から、全体ではないがその建物の大部分が見えた。コンクリートで出来た小屋のような設計で、かなり古いらしく壁には亀裂やツル系の植物が蔓延っている。
今はもう使われていないのかもしれない。成程、確かに倉庫と呼ばれるにふさわしい建物だ。しばらくその建物を観察していると、いつの間にかかなりの時間が経っていたようで、校庭から子供たちの笑い声が聞こえてきた。



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年02月18日 18:39:13  No.87028
I P:61.116.170.203
どうやら授業が終わり休憩の時間に入ったらしい。何人かの小学生はこの雑木林に入ってきた。その中には、昨日の少年の姿もあった。すると、その中の1人が倉庫の裏まで走ってきた。今朝に怪しい笑みを見せた少年だ。
その少年はそこの地面に置いてあったバケツを持つとまた小走りで戻っていった。彼らは一体何をしようとしているのだろうか。バケツを持った少年が何か話しているようだが、内容は聞きとれなかった。
しばらくすると、少年達は倉庫の扉を開けて中へ入っていった。昨日の少年はそこに入ろうとはしなかったが、他の男子に腕を力ずくで引っ張られ中に入っていった。その様子を見て晴喜はますます不安になる。
たまらず晴喜は目の前のフェンスに手をかけ、それを登り始めた。ただのフェンスだと思って甘く見ていたが、いざ登ってみると網目が小さく足をかけづらくて意外と登りにくい。
なんだ、ちょっとはやるじゃないか、などと見直している場合ではないように思えた。不安と焦りで足を滑らせてしまう。やっとの思いでフェンスを登り切ると、地面に勢いよく飛び下り、着地するやいなや一直線に倉庫まで走っていった。
扉を見ると、半分だけ開いたままでありそこから中の様子を覗いた。彼らは半分だけ閉まった扉の裏の隅の方でライトをつけていた。その光の先には、何とバケツの水の中に顔を入れこまれ、抑えつけられている少年の姿があった。
「・・・!!」
晴喜は急いで倉庫の中に入った。
「お前達、何してるんだ!」
予想外の人物の登場に少年達は心底驚愕した様子だった。
「くそっ、逃げろ!」
1人の少年が悔しそうな表情を浮かべてそう言った。すると、少年達は瞬く間に晴喜と扉の隙間をすり抜けて逃げていった。晴喜はバケツに顔を突っ込んでいた少年に顔を向ける。
少年はゆっくりバケツから顔を出した。苦しそうに呼吸する姿は何とも哀れだ。晴喜は彼に小さく声をかけた。
「キミ、大丈夫?」
少年はこちらに気付き、びしょ濡れになった顔をこちらに向けた。とりあえず、晴喜は自分の穿いていたジーンズのポケットを探る。
「うーんと・・・とりあえずこれ使って」
そう言ってポケットからハンカチを出した。少年はしばらく晴喜を見つめ戸惑っていたようだが、最終的にはそのハンカチを手に取った。彼が顔を拭いている間、晴喜はしゃがみ込んでさらに彼に質問する。
「キミ、確か昨日も俺と会ったよね?」
少し遅れて、少年は頷いた。晴喜は更に訊ねる。
「・・・名前は?」
「・・・優」
小さかったが、確かに彼の声を聞きとれた。もしかしたら名字も言っていたのかもしれない。とりあえず、彼の名前がユウであることは分かった。
「そうか、ユウ。あんな奴らに負けるんじゃないぞ」
晴喜は笑顔で優の肩を軽く叩きながら言った。するとその直後、外から先程逃げていった少年達の声が聞こえてきた。教師を連れてこちらにやって来たのだ。そして、その少年は予想外の言葉を口にする。
「この人です!この人が優を虐めていたんです!」
(え・・・・・・え、ええええええええええ!?)



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年02月18日 18:40:33  No.87029
I P:61.116.170.203

晴喜には甘く見ていた物が2つあった。フェンスの登りにくさと小学生の狡猾さだ。ただでさえフェンスを越えて学校内に入るという不法侵入まがいの事をしてしまっているのだ。怪しまれるのは間違いなくあの少年達よりも晴喜の方だ。
晴喜は教師に連れられて職員室に入っていった。他の教師達も何人か晴喜のもとに集まってくる。その全員がこちらに冷ややかな目を向けていた。
(・・・これは非常にまずいことになったぞ・・・;)
「それで、まずお訊きしますがここへ何の用でいらっしゃったのですか?」
女性教師がそう訊いてきた。敬語こそ使っているものの、その口調はどこか刺々しいものを感じた。晴喜は懸命に弁解を試みる。
「いや、誤解なんですよ!実は僕、ユウの従兄なんです」
勿論、嘘だ。だが、この場を乗り切るには多少の嘘は必要不可欠だ。
「それで、この近くの道を通っていたら、ユウが彼らと倉庫に入っていくのを見て何をしているのか気になって・・・」
この部分はあながち嘘ではない。できれば嘘をつくのは必要最低限にとどめたかったのだ。すると、女教師は更に質問をしてきた。
「あなたは学生ですか?それから名前は?」
晴喜は一瞬戸惑った。優の従兄を名乗ったからには彼と名字を合わせた方がよかったのだが、晴喜には彼の名字が分からない。仕方なく晴喜は自分の名前を正直に言うことにした。
「・・・山名晴喜です。学校には行ってません」
晴喜が中卒である事が明らかになり、教師達の視線はますます冷たくなった。焦る晴喜は更に弁解を続けた。
「とにかく、ユウが無理やり倉庫の中に引っ張られていた感じだったのでちょっとおかしいと思ったんですよ」
「・・・どういう意味ですか?」
「ユウを虐めていたのは僕じゃないんです」
それは同時にあの少年達が優を虐めていたという事も意味していた。教師達はいぶかしげな表情を浮かべながら顔を見合わせる。確かに、教師側としては信じたくない事だ。
「・・・とにかく後はあの子に訊きましょう。あなたはしばらくここで待っていてください」
女教師はそう言うと、職員室を出ていった。晴喜は職員室の中で途方に暮れる。
(・・・参ったなぁ〜;)

優は小さな第2会議室に並べられた椅子に1人、座らされていた。未だに乾かない優の頭を冷たい空気が包み込んでいる。すると、会議室の扉が開き、そこから優のクラスの担任である新井が入ってきた。
「優くん、大丈夫だった?」
新井が心底心配そうにそう話しかけてきた。彼女は優と長テーブルを挟んで向かい合うように椅子に座った。
「あの時の状況を詳しく教えてほしいんだけど・・・どうして優くんは倉庫の中に入っていったの?」
一瞬言葉に詰まったが、何とか声を出すことが出来た。
「・・・柳橋君達にあそこで遊ぼうと言われて」
「それはどんな遊び?」
そう訊かれると優は更に言葉を詰まらせた。それが確信をついた質問である事は新井も薄々感づいているらしく、かなり神妙な表情をしていた。口を開いてもしばらく声が出てこなかった。
この様子を見た新井は別の質問をすることにした。
「・・・じゃあ、あの男の人の事は分かる?あの人は優くんの従兄だって言い張ってるんだけど・・・」
多分、嘘だ。恐らく追い込まれた彼が苦し紛れについた嘘だろう。優は何と答えるかしばらく考えた末にゆっくりと口を開いた。
「・・・はい。そうです」

後編へ続く



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年02月20日 10:56:41  No.87030
I P:211.3.169.60
第9日 INDEPENDENCE DAY(後編)

晴喜が職員室に取り残されてから10分程が経っていた。すると、扉から優を連れた新井が戻って来た。
「おぉ〜ユウ・・・!」
晴喜はようやくホッとした表情を見せた。すると、新井が晴喜に向かって頭を下げた。
「先程は失礼いたしました。あなたが従兄だという事はこの子から確認が取れました」
「・・・!ユウ・・・」
これには晴喜も驚いた。正直、優が自分のついた安い嘘に乗ってくれるとは思ってもみなかった。新井は更に晴喜に説明を続けた。
「優くんはあの男子達から倉庫で遊ぶように誘われたそうなんです。そして、バケツに汲んでおいた水に優くんの顔を押し付けたそうです」
「一歩間違っていたら、本当に大変なことになってたかもしれないですね」
「はい。彼らには二度とそういうことのないように注意しておきます」
「そうそう、ユウ」
不意に晴喜がそう言って優に顔を向けた。
「もし次に同じような事があったら、立ち向かうんだぞ」
そう言ってから晴喜は優に紙切れのようなものを渡した。するとその直後、突然晴喜の携帯に電話がかかってきた。晴喜は携帯を取り出してみると、相手は一からだった。
「・・・あ、しまった;」
そういえば、アルバイトに向かう途中だったのをすっかり忘れていた。電話に出てみると、案の定怒りを露わにした一の声が聞こえてきた。
「おい、てめぇ・・・いつまでバイトさぼってんだよ!ぜってー俺達が受けた分だけボコすからな!覚悟し・・・」
「・・・」
連絡が途絶えた。彼の台詞から察するに、思った以上に店長がご立腹のようだ。
「・・・ごめん、バイトすっぽかしてたの忘れてた;もう行かなきゃ・・・じゃ、また会おう」
晴喜がそう言うと、優はゆっくりと頷いた。晴喜はそれを見た後、すぐに振り返って慌ただしく学校を後にした。

学校の時間が終わり、優は1人でいつもの帰り道を歩いていた。徐々に沈んでいく夕日が妙に眩しく感じられた。すると、突如優の目の前に人影が現れた。柳橋だ。
「・・・!」
「ちょっと、話があんだけど」
そう言った柳橋の表情はかなり険しいものだった。
「お前がそんな奴とは思わなかったよ。おかげでこっちは先生にこっぴどく叱られた」
どうやら優が事実を話したことに腹を立てているらしい。何とも身勝手な立腹だな、と優は思った。
「こうなった以上俺はお前には手を出せない。けどまぁ、せいぜい身の回りには気をつけた方がいいかもな」
「・・・?!」
柳橋はそんな不吉な言葉を残して優を通り過ぎていった。優は思わず振り返って柳橋を見つめた。一瞬だが、柳橋がにやけていたのが分かった。あの言葉は一体どういう意味なのだろう。
少なくとも、いい事が起こるという事はなさそうだ。



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年02月20日 10:57:59  No.87031
I P:211.3.169.60

家に帰ると、優はいつものようにリビングのソファーで茫然と時間を過ごしていた。静寂の中で優はずっと柳橋の残した言葉の事を考えていた。彼は一体何をするつもりなのか、しばらく考えたが優には到底想像できなかった。
すると、突如部屋の電話が沈黙を突き破ってきた。部屋中に響き渡る電話のベル音は、彼の平和さえも破ろうとしているかのように聞こえた。優は急いでその音を取り払おうと、電話の置いてある所まで歩いていく。
そして電話を手に取り耳まで持ってくると、そこから聞こえてきたのは知らない男の声だった。
「もしもし、小河優さんですか?」
「・・・はい」
優が小さく返事をすると、その男は子供の優にもよそよそしい口調で話してきた。
「突然で申し訳ないのですが、あなたに伝えなければならない事があります」
男の言葉は優をさらに不安にさせた。本当に突然の事なので、その内容の予想が全くつかない。そして、男が次に言った言葉はあまりにも衝撃的な内容だった。
「実は、先程あなたのお母さんが交通事故に遭い意識不明の重体になってしまったんです」
「ぇ・・・」
その言葉は優の頭を真っ白に塗りつぶしてしまった。男は冷静に詳しい状況を説明しているが、その声は優の耳には全く入っていない。説明が終わり、男に呼びかけられるまで優の意識は何処とも知れない場所へ消え去ってしまっていた。
「・・・さん、もしもし?大丈夫ですか?」
「・・・あ、ハイ」
「・・・では、改めて状況を説明しますので平盆総合病院まで来てください」
成程、どうやら電話をかけてきたのはそこの医師らしい。

優の家から平盆総合病院まではさほど離れていなかったので、10分程歩いたところでそこに辿り着いた。優の母は病室のベッドの上で力なく横たわっていた。そういえば、最近はお母さんが眠っている姿を見ていないな、などと呑気な事を考えてしまった。
優が起きる頃には母は既に彼の夕食を作り置きしていて、それから30分もしないうちに仕事へ出かけてしまうのだ。
「お母さんは、横断歩道を渡ろうとした時に乗用車にはねられたんだ。かなりのスピードでぶつかって、右の腕と足を粉砕骨折。つまり・・・治るまで約3ヶ月かかるんだ」
なだめるような口調でそばにいた医師がそう言ってきた。思った以上に状況は思わしくないらしい。
「・・・お母さん」
「・・・大丈夫、命に別状はないし意識もすぐに取り戻すよ」
取ってつけたようにそんなことも言ってきた。しかし、全治3ヶ月となるとこれから優はどうやって生活していけばよいのだろう。これまでも決して生活に余裕があるわけではなかった。そこへさらに3ヶ月分の収入源が途絶えてしまうのは死活問題だった。
そんなもう一つの不安が次第に優の頭を支配し始める。優はしばらく病室で茫然と立ち尽くしていた。もうすぐ普段彼が眠りに就く時間が迫ってきていることに、優はまだ気が付いていない。



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年02月20日 10:59:08  No.87032
I P:211.3.169.60

それからしばらく時間が経った後、母が意識を取り戻した。長い間閉じていた瞼をとても重そうにゆっくりと開いていった。
「・・・お母さん!」
「ユウ・・・ごめんね。今日は仕事が早く終わったから、ユウと一緒に居ようと思ったんだけど・・・こんなことになっちゃって」
母がそんな事を言ってきた。優は口を開いたが、何と返していいか分からず声を出すことに失敗する。
「これから・・・どうしようか?」
母は敢えて今から遊びの計画を考えるような軽い口調で言った。優は依然として答える言葉を見つけられていない。母もいい案が思い浮かばないのかそれから黙りこんでしまった。
しかし、しばらくして優が口を開いた。今度はそこからしっかりと声が放たれた。
「大丈夫。自分で何とかするよ・・・だから心配しないで」
「・・・本当に大丈夫?」
「うん」
「ユウは・・・本当にしっかり者ね」
母は微笑みながらそう言った。優はその時ポケットの中にあった紙切れを軽く握りしめた。今日の学校で晴喜からもらった紙切れだ。

翌日、優は休日を利用して晴喜から渡された紙に書き記された場所に向かって歩いていた。手書きの割にはかなり細かい地図が描かれていたため、その場所に辿り着くのにはさほど苦労しなかった。
彼が辿り着いたのは、それなりの広さがある一軒家だった。晴喜の家だ。優はしばらくその家を眺めたまま立ち止っていたが、ついに彼の家の庭へと足を踏み入れた。玄関の前まで来て、また立ち止まる。
ふと表札が目に入った。しっかりとした『山名』という文字が刻まれたものと、炭のようなものに白い文字で『青波』という文字が刻まれたもの、更にはその下に紙切れに鉛筆書きで『桂木』と書かれただけの表札までもが張られていた。
そして、勇気を振り絞ってついに玄関のインターホンを押した。しばらくして目の前に現れたのは、優が夢にも思っていないような人物だった。一だ。
「あぁん?誰だお前」
柄の悪そうな男に睨まれた優は驚きのあまり身体をビクつかせてしまった。緊張と恐怖心で声が出せない。
「・・・何なんだよ。何か言えよ」
優には一の言葉は威圧的な尋問のように感じられた。懸命に声を出そうとするがなかなか声が出せずうろたえていると、突然奥から少女の声が聞こえてきた。
「ちょっと、小さい子になんて態度してんの?!怯えてるでしょ!」
「何だよ・・・俺が何したってんだ」
「ごめんね。誰か会いたい人がいるの?」
果菜の一言に助けられ、優は小さく頷いた。すると、騒ぎを聞きつけた晴喜が玄関までやってきた。
「何何〜、お客さんかい?・・・あ、キミは!」
「晴喜さんこの子知ってるの?」
「ああ、会う約束をしてたんだけど、もう来てくれたんだね」
晴喜がそう言うと、優は深刻そうな表情をして小さく言った。
「ちょっと、話があって・・・」
「そうか。じゃ、ゆっくりしてってよ」
優は晴喜にリビングまで連れられてテーブルのそばに座り込んだ。そして彼は昨日起こった出来事を話し始める。柳橋が不吉な言葉を残したこと。母が交通事故に遭い、全治3ヶ月の重傷を負ったこと。そして、それによって優の暮らしが困難になってしまったこと。すべて話した。
勿論、その時優は晴喜が「じゃあウチに住めばいいじゃん」と当り前のように言いだすとは夢にも思っていない。

続く



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年03月05日 16:27:24  No.87033
I P:211.121.31.152
第10日 日曜大工の日

日曜の朝、起き上った自分の隣に人が寝ていることに違和感を覚える。優は何が何だか分からないまま山名家で1日を過ごしてしまった。昨日一昨日と時間が激流のようにあっという間に流れていった気がする。
昨日のことまでが夢だったのか、それとも今のこの光景が夢なのか、とにかくどちらにも現実味が感じられなかった。優が身体を起こしたまま茫然としていると、隣で寝ていた來斗が唸りながらもぞもぞと動き出した。
驚いた優は來斗を避け、來斗はそのまま晴喜の方へ転がっていった。そして、來斗の手が晴喜の頬に触れる。
「・・・んぎゃああああああッ!!?」
晴喜が悲痛な叫び声を上げながら飛び上がった。さらに部屋を仕切っていたふすまが乱暴に開かれた。そこからは寝転がったままの一が非常に不機嫌な様子で現れた。
「んだようるせぇなぁ。寝れねぇだろうが!」
「違うんだよ。俺は被害者なんだ。ライトが・・・」
「だからうっせぇ!」
一はそれまでとっていた体勢が嘘のように素早い動きで晴喜の頭を小突いた。
「あいたッ!殴ったな・・・ライトの電撃喰らった直後の俺をよくも殴ったなぁ〜・・・!」
「いちいちうっせぇんだよお前は!」
すると、不意に奥から果菜がやって来て揉め合う2人の仲裁に入った。
「ハイハイそこまで。朝ごはん作ったからもう起きて」
こうして山名家の朝は慌ただしく始まった。どれもこれも優には現実味のない光景ばかりだ。

「あのさ、人数も増えた事だし1回改めて部屋割を考えようぜ」
果菜の作った朝食を食べながら晴喜が言った。すると、この発言の根拠とも言える來斗が呑気な口調で言った。
「でも部屋割つってもこの家広い割に部屋は少ないんだよな」
「うわ〜結構グサッとくる・・・俺結構この家気に入ってんだからな」
來斗の発言はふてぶてしくも見えるが、確かに事実ではあった。晴喜の家では寝室は1つしかなく、ふすまで仕切っても2部屋が限界だ。すると、気だるそうに一が口を開いた。
「要するに來斗の寝床を隔離すりゃいいんだろ?押し入れでいいんじゃねぇのか?」
「俺はドラえもんかよ」
「ライトはそこでいいとしてもユウやカナちゃんの居場所も必要だと思うんだよ」
「あぁ、そうか」
真顔でそんな事を言う晴喜達に來斗もさすがに顔を渋めた。
「お〜い、俺はこん中で最年長だぞ」
「ほとんど変わんねぇだろうが」
「ま、とにかくこの家にも新しい部屋が必要ってわけだ。そこで、今日はこの日曜を利用して家を増設するぞ!」
晴喜の声は威勢よく響き渡ったが、他の4人の反応はすぐには返ってこなかった。
「・・・は?」
辛うじてそんな言葉が出てきたくらいだ。



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年03月05日 16:29:17  No.87034
I P:211.121.31.152

朝食を食べ終えると、晴喜は庭の隅にある物置小屋をあさり始めた。先程の晴喜の発言からも不審なものを感じ取った一が訊いた。
「おい、今度は何するつもりなんだよ」
「ほら、ログハウスってあるだろ?アレを家と繋がるように作れば新しい部屋の完成ってわけだ」
「んなこと言ったって材料はあんのか?木材とかはどうすんだよ」
確かに今の山名家の家計は決して木材を買う余裕があるわけではなかった。一の指摘に対し晴喜は何故かしたり顔で答えた。
「勿論、現地調達さ!」
「それって・・・;」
「この辺の木を切んのか!?」
青波兄妹がそう言うと晴喜は笑顔でうなずく。
「その通り」
「勝手にそんなことしていいんですかね・・・;」
不安そうな果菜をよそに晴喜はあくまで楽観的に意外な事を言い放った。
「大丈夫大丈夫。この奥の森はだいたいウチの土地だから」
「えぇ!?」
思わぬところで新事実が発覚した。一達がその事に驚いている頃には、晴喜は既に物置からチェーンソーを発掘し森の中へ入ろうとしていた。

「よーし、じゃあいくぞ〜!」
晴喜はそう言うとチェーンソーを作動させて手際良く木の幹に刃を当てた。すると、その木はミシミシと仰々しい音をたてて勢いよく倒れていった。この辺りに生えている木は意外としっかりとした大きなものが多かったので、晴喜は森へ入ってすぐに木を切ることにしたのだ。
「よし、これを運ぶぞ」
晴喜、一、來斗の3人で倒した木を運ぼうとするが、その木の重さは3人の予想を遥かに超えていた。まったく持ち上がる気配がない。
「・・・オイ、重すぎだコレ!どうすんだよ」
「う〜ん・・・こうなったらあの人の力を借りよう」
晴喜の言うあの人が誰なのかは一と來斗にはすぐに分かった。同時に不安もよぎる。その間にも晴喜は携帯でその人物に連絡を取ろうとしている。
「おい、待てッ・・・!考え直・・・」
一の抑制も空しく晴喜は携帯を離して一達に話しかけた。
「来てくれるみたいだよ店長」
「余計なことすんじゃねぇええ!だいたい日曜に店空けてやる気あんのかあの人!?」
「よし、あの人が来れば運べない心配はなくなる。それまでどんどん切っちゃおうぜ!」
「・・・別の心配が出てくるけどな」
一は決して嫌味を言っているわけではない。



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年03月05日 16:30:48  No.87035
I P:211.121.31.152

「・・・で、これを俺に運べと?」
長田が森のあちこちに置かれた倒木を眺めながら言った。その数なんと50本以上。しかし長田はそれを見ても嫌な顔はしなかった。
「はい、皆のためにもここはひとつ・・・」
「よし、いいだろう」
長田はそう言いながら1本の木を軽々と持ち上げ、自分の肩の上まで持ってきた。それを見た5人は思わず驚嘆の声を上げる。
「これを家の前に置けばいいんだな?」
そう言って長田が何気なく振り返ると、彼が持っていた木の幹がちょうど晴喜の顔面に衝突した。
「ぶふぉっ・・・!」
「あ、わりぃ」
「ちょっ、店長・・・方向転換する時は気を付けてください・・・;」
「分かった」
長田はそう言って比較的慎重に丸太を運んでいった。そして、晴喜の鼻血が止まった頃には長田は全ての丸太を家の前まで運び終えていた。
「・・・で、これをどうすんだ?」
來斗が晴喜に訊いた。
「まずは皮を削ってから丸太に欠き込みっていうくぼみを作るんだ。そのくぼみを下の丸太にはめて交差させるように積み上げてけばだいたい形はできてくる」
「・・・成程。どうするんだ?」
「・・・うん、まぁ実際に見た方が分かりやすいね;」
そう言って晴喜は丸太の皮を剥いだ後、チェーンソーを器用に動かして丸太の端側の方に丸いくぼみを作った。反対の端側にも同じくぼみを作る。
「っと、こんな感じかな。このくぼみの方を下にして他の丸太の上に乗せれば・・・」
成程、くぼみが下の丸太の形とぴったりはまって固定されるというわけだ。
「・・・こんな感じ?」
唐突にそう言ってきたのは優だった。見ると、優は晴喜がやっていた通りに丸太に見事なくぼみを刻み込んでいた。
「おお!そうそうそんな感じ・・・ってチェーンソーは俺が持ってんだけどどうやってそんな風にしたんだ・・・?」
「こんなのが落ちてて・・・」
そう言って優が見せたのは平たく尖った小石だった。
「い、石で!?すごっ!」
これにはさすがの晴喜も驚きを隠せない。石を使ってチェーンソー並にきれいなくぼみを、しかもこの短時間で作ってしまうのは晴喜以上の器用さと言えた。
「原始人かお前は・・・;」
一もかなり驚いているようだ。皆に注目されて感心され、優はとても照れくさかったらしく顔を赤らめていた。



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年03月05日 16:31:50  No.87036
I P:211.121.31.152

優の思わぬ活躍もあって作業は驚くほど早く進み、昼食時に入る頃には丸太を土台の上に積み重ねていく過程にまで到達していた。
「いや〜すごかったな〜ユウ!めちゃくちゃ器用だな」
晴喜が笑いながらそう言ってリビングの床に座り込んだ。テーブルには果菜が作った昼食がいっぱいに置かれている。
「そうだな。お前らよかこいつをアルバイトとして雇いたいくらいだ」
長田が冗談とも本気ともつかないことを言ってきた。
「店長、ユウはまだ小学生ですよ」
本当にどちらか分からなかったので晴喜は一応そう言っておいた。言いながら晴喜はテーブルの上の料理に手を伸ばす。そうすると、皆がそれを見計らっていたかのように次々と料理を食べ始めた。
30分程で昼食を食べ終えると、晴喜達は作業を再開した。巨大な丸太を積み重ねる作業で活躍したのは、やはり長田だった。彼は次々と丸太を組み立てていく。
「お〜、だいぶそれっぽくなってきたな」
來斗が感心した様子で間延びした声を出しながら言った。
「お前はほとんど何もしてねぇじゃねぇかよ」
一が呆れながらそう言ってきた。現に今も來斗は丸太の上に腰かけて未完の小屋を眺めている。
「つーかそれ次使うぞ。さっさとどけよこのサボり魔」
「ひでぇ言いようだな・・・うぉっ?」
來斗が驚いたのは彼が座っていた丸太が勢いよく上に持ち上がったからだ。持ち上げたのは、勿論長田だ。
「アレ、何だこの丸太。変なキノコが生えてんぞ?」
長田が真顔で言ったので、晴喜が突っ込んだ。
「いや・・・それキノコじゃなくてライトです店長・・・;」
「・・・フン!!」
長田は突然その丸太を勢いよく振りまして上に乗っていた來斗を投げ飛ばした。
「・・・んがっ?!」
すると、不運にも來斗が飛んだ先には一が立っており、一も巻き添えをくらってしまった。
「何で俺まで・・・」
「店長こっちにも当たってます・・・!直接攻撃がッ・・・!;」
見ると、そこには頭を押さえてうずくまる晴喜の姿があった。長田が振り回した丸太が晴喜の頭を直撃したらしい。脳震盪を起こさなかったのは奇跡的だ。
「・・・あ、わりぃ;」

午後3時頃、ひと波乱はあったものの何とか小屋の形を作ることには成功した。晴喜達はしばらくそれを眺めて立ち尽くしていた。
「よ〜し、あとは窓とか入口とかを考えて作ってけば部屋の完成だな」
そう言った晴喜は、前に自分で書いた表札を眺めた時のような表情をしていた。
「そんでこの部屋は誰の部屋になるんだ?」
來斗が誰にともなくそう訊いてきたので、晴喜がそれに答えた。
「まぁ、カナちゃんかユウのどっちかかな。俺はもともと部屋あるしライトは押し入れだし」
「押し入れ案採用すんのかよ!?」
「あたしはいいですよ。ユウ君に譲ってあげてください」
果菜は遠慮がちにそう言った。
「・・・そうか。今回ユウはかなり頑張ったもんな。じゃあこの部屋はユウの部屋にしよう!」
「え、いいの?」
「ああ。部屋の間取りとかもどうするかはユウに任せるよ」
晴喜にそう言われた瞬間、優には何故か自分の部屋の光景がぼんやりと浮かんできた。やってみたい事が次々と浮かんでくる。
「・・・うん、やってみる」
そう言った優は、自分が自然と笑顔になっていることにしばらくしてから気がついた。

続く



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年03月16日 19:07:04  No.87037
I P:211.3.169.227
第11日 卒業式の日

夕食が終わって皆がくつろぎ始めた頃、果菜が何気なく漏らした一言が始まりだった。
「あたしも明日で卒業か〜・・・」
そう、この地域ではほとんどの中学校が卒業式を明日に控えていたのだ。
「あ〜そっか。明日なんだ卒業式」
晴喜がしみじみとした様子でそう言ってきた。去年の自分の卒業式の日でも思い出しているのだろう。果菜にはなんとなくそんな表情に見えた。
「卒業式か〜、せっかくだし見届けてやりたいなぁ」
晴喜の一言にやはり一は眉間にしわを寄せながら言った。
「またお前は余計なことしようとすんなよ。俺一人で充分だろ」
「・・・ってかお兄ちゃん来んの?!」
「悪いかよ・・・」
「いや、だって・・・問題とか起こさない?」
「起こさねぇよ」
その時、晴喜がこの会話に割って入ることのできる言葉を発見したというような表情で口を挟んできた。
「大丈夫だって。その辺は俺がちゃんと見張ってるから」
「余計に危ねぇよ!つーか結局お前も行きてぇだけじゃねぇか!」
こうしていつものように2人は口論を始めてしまった。こうなっては一が晴喜にげんこつを見舞うのは時間の問題だ。果菜はその様子を見て明日の卒業式が一気に不安になってしまった。
(あぁ・・・心配;)

翌日、ついに卒業の日を迎えることとなった果菜。勿論彼女もこの学校を卒業する切なさをクラスメイトと共有していたのだが、頭の隅ではやはり昨日の事が気にかかっていた。
一や晴喜は本当に卒業式に来るのだろうか。そして本当に彼らが他の保護者達に溶け込むことができるのか。そもそも彼らの普段着な恰好だけでもだいぶ浮いてしまうんじゃないか、とも考えた。
しかし、いくら自分が悩んだところで状況が変わるわけでもない。果菜は一抹の不安を頭の隅に追いやり、卒業式に臨むことにした。体育館の入り口前でしばらく待機していると、中から吹奏楽部の演奏が聞こえてきた。
重量感のある優雅な音楽と大きな拍手の音を合図に卒業生が次々と体育館の中へ入っていく。果菜もそれに合わせて歩き出す。いよいよ卒業式が始まるのだ。

「お、来たぞ」
晴喜が一に耳元で囁いた。2人は続々と出てくる卒業生たちの中に果菜の姿を見つけようと必死に目を凝らす。すると、晴喜が先ほどよりも少し興奮した様子でつぶやいた。
「あっ、いたッ!」
「何ィッ?!」
一は未だ果菜の姿を見つけられず苛立ち始めていた。正確には自分よりも晴喜の方が先に彼女を見つけた事が悔しかった。一の中にじんわりと敗北感が湧き上がってきた。
「クソッ、どこだ・・・!?」
「ほら、あそこだよあそこ」
そう言って指を指示してくる晴喜に一はますます置いてけぼりをくらったような気分だった。晴喜にヒントをもらうことが屈辱的な事のように感じられた。苛立ちを抑えながらも一は晴喜の指した方を文字通り血眼で捜索する。
一方、体育館の中心を歩く果菜も2人の姿を確認しようと瞳を右に左に動かしていた。そして、見つけてしまった。もしかしたら、あんなに必死に眼を動かさなくても自然とそこへ視線がいっていたかもしれない。
なぜなら2人は保護者席の中で唯一中学校の時の制服を着ていたからだ。
(何で制服ううううう・・・!?)



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年03月16日 19:09:46  No.87038
I P:211.3.169.227
彼らの持っている正装らしい正装といえば学校の制服くらいしかなかったのだろうが、それはあくまで学生の正装であって保護者たちに交じって馴染むものでは決してなかった。
卒業式で保護者席に学生服を着た少年が座っている姿は不自然極まりない。果菜はすぐに目を逸らそうとしたが、何故かその前に一と目が合ってしまった。果菜は慌てて前を向く。
(まずい・・・目が合っちゃった・・・;)
「おっ、いた!しかも目ェ合ったぞ今」
「え、マジで?」
目が合った、という晴喜がまだ為しえていないことをしたことで、一は彼を追い抜いたような気分になった。

しばらくすると卒業生たち全員が席に座り、いつの間にか吹奏楽部の演奏と拍手も止んでいた。教頭らしき人物が開会の言葉を淡々と述べ、その後体育館にいる全員が細々とした声で国歌を斉唱した。
そして、お次はいよいよ卒業証書授与だ。進行役の教師がそれを告げると、晴喜はおもむろにビデオカメラを取り出した。少し古めのタイプなのか、何か操作をする度にいちいち機械じみた音が漏れてくる。
「お前、そんなもん持ってたのか」
気付いた一が小さく言った。それを聞いた晴喜はかなり得意げな表情だ。
「まぁね」
最初の生徒の名前が呼ばれる。その生徒は威勢よく返事をして、あらゆる方向へ向けて礼をしながらステージの上に登壇した。そういえば、果菜はどれくらいの順番で呼ばれるのだろう。
「なぁ、カナちゃんって何組?」
「確か2組だったはずだな」
その頃、1組の生徒は流れるように淡々と名前が呼ばれていき、もうほとんどの生徒の名前が読み上げられていた。果菜は2組の出席番号1番だったので、もうすぐ自分が呼ばれる番だ。
そして、1組の生徒が全員呼ばれ、2組の担任の教師がマイクの前にやって来る。
「2組、青波果菜」
体育会系の教師独特のはきはきとした声が体育館に響き渡った。果菜はそれにつられるようにはっきりと返事をした。
「お、来たッ・・・!」
言いながら晴喜がビデオカメラを構える。そのレンズはしっかりと果菜の姿を捉え、小さなスクリーンにもその映像が映し出された。
「ちゃんと撮ってんだろうな?」
一が念を押してくる。
「大丈夫だって」
晴喜がそう答えた頃、果菜はステージの上に登壇して校長の前に立ったところだった。しかしその時、晴喜はある重大なミスに気がついた。
「ん・・・?」
カメラのスクリーンが突如として黒く塗りつぶされ、その画面から『電池を交換してください』というメッセージが浮かび上がってきた。
(しまったぁぁぁあああ!電池取り替えんの忘れてたぁぁぁあああああ!!)
「どうした?」
晴喜の様子に気付いた一がそう訊いてきた。
「い、いや、何でもない・・・;」
ほんの10秒ほど前のやり取りが晴喜の頭の中で再生される。
[ちゃんと撮ってんだろうな?]
[大丈夫だって・・・]
この事が一に知れたらまずい事になるのは確実だ。しかし、一は晴喜の嘘をあっさりと看破してしまった。
「いや、お前嘘つくのヘタクソだな。絶対何かあっただろ?」
「いえ、ホントに何もないです。勘弁してください;」
「いいからとりあえずそれ見せろ」
そう言って一は強引に晴喜の持っていたビデオカメラをぶんどった。そして、一も画面上のメッセージを目撃する。



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年03月16日 19:11:15  No.87039
I P:211.3.169.227
一方、卒業証書を受け取り自分の席に戻ろうとしていた果菜は、一が晴喜を殴ったまさにその瞬間を目撃していた。
(うわ〜・・・やっぱり何かトラブってる・・・;あの2人ホントに大丈夫なの・・・?)
果菜は出来る限り2人が視界から外れないように瞳を動かしながら歩いていた。最早2人のことを監視していないと不安で仕方がない。しかし、自分の席を目の前にするとさすがに視界を外さざるを得ない。
果菜は後ろの保護者席に座る2人を不安に思いながらゆっくりと席に座り前を見据えるのであった。

卒業証書授与の後は、果菜の予想に反して特に大きな問題は起こらなかった。が、卒業式が終わった後もビデオカメラの件は立ち消えにはならなかったらしい。体育館を出た一が晴喜に険しい表情で言いだした。
「ったく、あんな自信満々な表情しといて撮れませんでしたーとは調子に乗ったことしてくれたじゃねぇか」
「もういいじゃんかそれは・・・思い出は自分の目に焼き付けるもんだよ」
ビデオカメラを持ってきた張本人とは思えない発言に一の苛立ちは急上昇した。
「お前がカメラ撮りだしたんだろーがッ!!」
溜めこんでいた苛立ちを余すことなく拳に乗せて晴喜の頭に振り下ろす。鈍器で殴られたのではないかと錯覚してしまうような鈍い音が鳴った。たまらず晴喜は地面に倒れ込んだ。
「いってぇ・・・すいませんでしたッ・・・!;」
「うるせぇよ!謝り方がもう腹立つわ!」
一がとどめの一撃をかまそうとしたその時、ふいに彼の視界に見覚えのある人影が見えた。
「・・・ん?」
一はとっさにそのほうを見た。そこに見えたのは、一の母だった。彼女は人ごみの間を器用に縫って学校を出ていく。
(お袋・・・!?)
「ん、どうした?」
晴喜が訊いてくるのにも応えずに一は母の後を追って人ごみをかき分ける。しかし、なかなか母のようにうまく前には進めない。やっとの思いで校門を出た頃には、既に母の姿は見当たらなかった。一はそのまま立ちつくしてしまう。
(お袋・・・何で・・・)
どうして、行ってしまうのだろう。

続く



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年03月29日 16:18:53  No.87040
I P:211.121.31.83
第12日 家族会議の日

「今日は皆に考えてもらいたい事がある」
いつになく神妙な顔で一が言いだした。夕食が終わった後での事だ。4人は一斉に一の方を向く。
「これを見てみろ」
そう言って一が見せたのは山名家の(正確には晴喜の)貯金通帳だった。そこには現在銀行に貯金されている残高が書かれているのだが、その数字は23万と数千円ほどだった。
「うわ〜、だいぶ少なくなってきたな」
晴喜が他人事のように抑揚なく言った。一はそれを嘆くように言い返す。
「人数も増えてここ最近出費が増えてんだよ。ロクに給料ももらってねーのにどっから金を出してんのかと思えばこの様だ」
「っていうか家族とはいえ人の通帳を勝手に覗くのはいかがなものだろうか・・・」
気がついたように晴喜が言ったが、一は悪びれる様子もなければ反論するわけでもなかった。
「でも、確かにこのままいったらまずいかも・・・」
果菜が貯金の減り具合を見てそんな言葉を漏らした。
「それに、これからは果菜の高校の学費だって払わないといけない」
「あ」
実は青波兄妹が晴喜と出会う前、果菜は平盆町内の高校を受験しており、先日見事合格したが分かったばかりだった。当然、入学費や学費なども晴喜達が負担することになる。
「でも、今月からは3人分の給料がもらえるはずだ。店長の機嫌を損ねなければ今よりはマシになるはず・・・」
晴喜が誰を励ますでもないが、そんな口調で言った。
「まぁその日がカギを握ってる事は確かだが・・・こっちでも節約するに越したことはねぇ」
「成程。ということは・・・」
一の発言に同調した晴喜は何かを言いたげな表情になった。
「今日は俺達で節約の意見を出し合うぞ」
一がそう言うと、晴喜がにやけ面になりながら、ついに言いたかった台詞が言える、といった様子で口を開いた。
「第1回家族会議だ」

「え〜、というわけで、何か意見のある人は挙手でお願いします」
会議を開いた途端妙に張りきりだした晴喜は、自ら進行役を買って出た。そして、まず最初に手を上げたのは來斗だった。
「それなら、その辺の草をむしってこようか?野菜を買わなくて済むぜ?」
「却下」
全員が即答した。
「次はもっとまともなの頼む」
一がそう続けた。すると、果菜が控えめに手を上げながら何かを思い出したかのように口を開いた。
「そういえば・・・」
「お、何カナちゃん?」
晴喜が期待を膨らませながらそう言った。先を促したのか果菜の発言を妨げたのかは判然としない。
「冷蔵庫の中にカーテンみたいなのをつけとくと電気代が節約できるって聞いたことあるわ」
「おお、成程!冷気が逃げるのを防ぐわけか」
晴喜をはじめとして4人の反応は上々だった。
「よし、じゃそれは採用だ。カーテンは後で適当に作るとして、他に何か意見あるか?」
「あー待てよ。俺が進行役だって」
一が仕切りだした事に何故か納得がいかない様子の晴喜が口を挟んできた。一はいつものように不愉快そうな表情をして晴喜を威嚇する。
「んなことはどうだっていいんだよ!それより何か案を出せよッ!」
そしていつものように晴喜目がけて一の拳が飛ぶ。
「いでっ・・・!何も殴らんでも・・・;」
「うるせぇっ!変なとこばっかこだわんじゃねぇよ!」
「お兄ちゃんもうやめなよ。ユウ君も見てるんだから」
果菜の言葉で一はどうにか怒りを鎮める。今ではもう随分と見慣れた光景だ。結局、晴喜が仕切り直して進行を始めた。



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年03月29日 16:21:16  No.87041
I P:211.121.31.83
「じゃあ改めて他に意見ある人〜」
すると、優が少しだけ手を上げようと動きを見せたのを晴喜は見逃さなかった。晴喜はすぐさま優を指名してやった。
「お、ユウ。何かあるのか?」
優は小さく頷いてから口を開いた。
「冷蔵庫で思い出したんだけど、アレの上に物を置いてると電気代がかかるんだって」
「え、マジで?」
山名家ではキッチンでもテレビが見れるように冷蔵庫の上に小型のテレビを置いていたのだ。
「うん、なんか熱がうまく逃げなくなるとかテレビで言ってた。特にテレビとかを置くのはダメなんだって」
「それ、ウチ最悪じゃねぇかよ」
晴喜を責めるかのような口調で來斗が言った。そのことを読みとったのか晴喜は自然と謝罪した。
「ご、ごめん;」
「あ、そういやテレビって・・・」
ここで一がテレビの節電法を思い出したようで、突然口を出してきた。優の意見で勢いづいたのか、その後は5人で様々な意見を一通り出していった。

「・・・さて、これでだいたいの意見は出たかな」
晴喜が満足げな表情でそんな事を言った。するとそこへ一が口を挟んできた。
「まぁ、節約術の話はこれでいいとしてだ。今度は逆から考えてみようか」
「逆から考える・・・?」
來斗が間の抜けた表情で一の言葉を復唱した。他の3人もいまいちその真意を読みとれていないようだったので、一はその言葉の意味を説明する。
「要するに、俺達がしてることで無駄な事はねぇのかってことだよ」
「あ〜成程、事業仕分けってわけか!」
晴喜が納得した様子でそう言った。
「まぁ、そういうことだ」

「あなたには本当に毛布が必要なんでしょうか?」
晴喜がマイクを持って來斗に言った。すると台所からは、優がそれぞれの名前が書かれた紙とお茶のペットボトルを本人の横に置いていった。
「・・・何でこうなる」
呆れる一をよそに來斗がもう一つのマイクを持って晴喜の問いに答えた。
「必要に決まってんだろ。つーかただでさえ押し入れで寝てんのに俺の扱いひどすぎるだろ。新しい毛布くらい支給してくれたっていいはずだ」
「あなたは以前毛布どころか布団も何も無いところでも平気で寝ていたはずです。そんなあなたに今更新品の毛布は必要ないんじゃないでしょうか」
晴喜の強い口調に声を荒げたのは、來斗ではなく一だった。
「うるせぇよお前らァッ!ホンットうるせぇッ!こんな近い距離でマイク使う必要ねぇだろうがッ!!」
しかし、この一の声を2つのマイクが拾ってしまったことで、結果的には一の声が最も部屋中に響く結果になった。
「・・・お兄ちゃんの声もマイクに入ってきてるんですけど;」
果菜が苦い表情でそう突っ込んだ。それを聞いた一は若干恥じらいの表情を滲ませながら声を抑えて晴喜達に言った。
「・・・とにかくそのマイク電源切れ」
そう言われて晴喜はしぶしぶマイクの電源を切った。
「なんだよ〜、せっかく盛り上げようとしたのに・・・」
「そういう変な発想自体が無駄なんだよ!」
一が激しく突っ込む中、來斗が小声で言葉を漏らした。
「んで、俺の毛布は買ってくんねぇの・・・?」
「それは見送りだ」
さっきまで揉めていたのが嘘のように晴喜と一が息を合わせてそう返した。
「・・・マジかお前ら」



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年03月29日 16:22:51  No.87042
I P:211.121.31.83
「で、あと何か金を使ってる奴はいねぇのか?」
一が訊くと、優は心底おびえた表情で必死に声を絞り出した。
「あ、あの・・・」
「ん、何だ優」
「じ、実は・・・僕の部屋を作る時に色々ハルキに頼んじゃったんだ・・・」
そう証言する優はまるで自分の罪を懺悔しながら被告席に立つ被告人のようだった。
「そうなのか晴喜?」
「ああ、優もなかなか凝った仕事してるんだぜ?」
「つーか一体何を買ったんだよ?」
「う〜ん、まぁ基本的には金具とかダイオードとか、そんなん」
「ダイオード?」
一は自身にとって聞き慣れない言葉に訝った。
「まぁアレだ。電気関連の部品。とにかくユウの部屋はすごいぞ。自動ドアとか作っちゃったからな」
「自動ドアぁ?!」
その言葉を聞いた一達は驚きを隠すことができなかった。知らない間に家に自動ドアができているなどにわかには信じ難い事だ。
「いやぁ〜ユウの器用さにはホントびっくりだぜ」
感心したように晴喜は言ったが、一達は純粋に驚いているだけだった。
「つーか一体どんな部屋にしようとしてんだよ・・・」
確かに優の自由にしていいとは言っていたが。電気機器にまで手を伸ばすとは予想もしていなかった。
「それで、やっぱりちょっとやり過ぎたかなって・・・」
力なくそう言う優は心底反省しているようだった。
「なぁに、気にすんなって」
晴喜は笑いながらそう言った。
「しゃーねぇなぁ・・・その辺はちゃんと予算を決めとこうぜ」
一の言葉に晴喜は何故か嬉しそうな表情を見せた。
「おお、予算か。いよいよ事業仕分けらしくなってきたな」
「とりあえず、優はあとは何をしてぇんだ?」
「う〜んと・・・あとは回線を整理するカバーみたいのを作れるものがあればいいよ」
「お前の部屋は今一体どうなってんだよ・・・まぁいい、じゃあとりあえず今月の予算は千円くらいでいいな?」
一がそう言うと、優はこくりと頷いた。しかし晴喜は半ばからかうように口を挟んできた。
「うわっ、ハジメケチだな〜」
「うっせぇ!もともと節約しろっつってんだろーがよ!」
「まぁまぁ、今日はこれくらいでいいんじゃないの?だいぶやること出てきたし・・・」
果菜が一をなだめると、晴喜は一気に発言力を高める。
「そうそう、まずはさっき出た意見を実行するのが先だ」
「・・・ったく、調子に乗りやがって」
呆れて身体の力を抜く一をよそに、晴喜は勢いよく立ちあがった。
「よし、んじゃ今度は作業タイムといくか」
こうして、晴喜の合図により山名家節約作戦は実行に移されたのであった。

「なぁ、俺の毛布買ってくんねぇの・・・?」←來斗
「・・・しつけぇなお前は!」←一

続く



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年04月07日 20:05:43  No.87043
I P:61.116.138.88
第13日 BAD DAY

木魚のリズムに合わせて、僧侶のお経が聞こえてくる。その僧侶の目の前には、何と晴喜の写真が飾られていた。一達もこの葬式に参列しており、皆一様に哀しげな表情を浮かべている。
チーン、という鈴の音を合図にするかのように、僧侶のお経に重ねて女性のアナウンスが聞こえてきた。
「故山名晴喜様。心よりご冥福をお祈りいたしま・・・」
「なぁぁぁぁぁああああああああああ!!」
その瞬間晴喜の目の前に広がった世界は、いつも通りの彼の寝室だった。ただ、目の前には來斗が正座で座っていて、仏壇から持ってきたのか彼の手元には鈴が置かれ、そこからチーン、という独特の金属音が響いていた。
成程、さっきの不吉極まりない夢はそれが原因らしい。
「よぉ、やっと起きたか」
來斗は何の嫌味もない表情でそう言ってきた。未だに鈴の高音がうっすらと伸びるように響いている。
「いやっ、ってか・・・何やってんの!?どっから持ってきたんだよそれ!?」
「お前が珍しく起きんの遅ぇからさ、目覚ましにいいかと思ってよ」
「どんな目の覚まし方!?っつーか逆に永久に眠らすつもりじゃなかった・・・?!」
「んなことねぇさ。実際これで起きたじゃねぇか。それよりもうすぐバイトの時間だぞ」
「うわっ、マジか!」
來斗の起こし方は一旦頭の隅に置き、晴喜は布団から勢いよく飛び出した。

リビングに入ると、そこには一がテーブル脇に座ってテレビを眺めていた。見ると、そこにはニュース番組の星座占いコーナーが流れている。
「残念!最下位はおひつじ座の方です。何をやってもうまくいかない一日。今日は外出は控えた方がいいかも」
それを聞いた晴喜はげんなりした気分になった。彼がまさにおひつじ座だったからだ。
「・・・え〜、俺おひつじ座なんだけど;嫌なタイミングで来ちゃったな」
「たかが占いだろ?んなもん気にしてどうする」
初めて一の言葉に救われたような気がする。確かに、朝のニュース番組での占いを気にかけても仕方がない。だが、後に晴喜に様々な不幸が待ち構えている事を彼はまだ知らなかった。

「じゃ、いってくるわ」
朝食を素早く食べて身支度を整えると、晴喜は早速バイトに向かうため家を出た。急げば間に合うが、決して余裕とは言えない時間だ。來斗が起こしてくれなかったら本当に遅刻していたかもしれない。
町へ降りると、目の前には近所のごみ置き場が目に入った。カラスを阻むための網がごみ袋の上にかけられていたのだが、その役目は全く果たせておらず、網目の隙間からつつかれて結局ごみ袋の中身が辺りに散乱していた。
晴喜はそんな道路を若干忌々しく思いながらも、勢いよく駆け抜けようと走っていた。すると、晴喜は突然何かを踏みつけたのを感じた。恐らくはごみ袋の中から飛び出した、バナナの皮だ。
(何〜〜〜〜〜ッ?!)
なかなかのスピードで走っていた晴喜はバナナの皮で思い切り体勢を崩し、頭部をコンクリートの地面にしたたかに打ちつけてしまった。しかも、打ち所が悪かったのか晴喜の意識はその瞬間になくなってしまった。
当然のことながら、その時転んでいる晴喜に1人の男が近寄ってきていることには気付かなかった。しかし、その男が晴喜のポケットから財布を抜き取った瞬間には何とか意識を取り戻した。
ゆっくり顔を上げてみると、晴喜の財布の中身を確認している男と目が合った。
「あ」
「・・・・・・」



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年04月07日 20:10:01  No.87044
I P:61.116.138.88
状況を察したのは男の方が先だった。男はしゃがみ込んだ体勢から一気に後ろへ振り替えると同時に駆けだした。2秒ほど遅れて晴喜が声を張り上げる。
「・・・お、おい!何やってんだよ!!」
晴喜も急いで立ち上がり、財布を持った男を追いかける。足の速さには自信があったが、男の素早さもなかなかのものだった。男は白いコンクリート製のビルの中に逃げ込んだ。
(ハッ、焦って建物の中に逃げ込んだが最後だ。逃げ場はないぜ!)
そう思ってビルの扉を開けると、そこには強面の男達がサングラス越しにこちらを睨んでいた。晴喜が入りこんだのは暴力団事務所だったのだ。
(・・・え、ぇぇぇえええええ!!?;)
「ウチに何か用か?」
どっしりと黒い革のチェアに座りこむこの集団のボスらしき男が低い声でそう言ってきた。すると、先程の財布を奪った男がボスの男に話しかけた。
「こいつが俺の金を奪おうと襲ってきたんですぜアニキ」
「何だと?」
「(い、いやいやいやいやいやいやいや・・・嫌ぁぁぁあああ!!)いや違っ・・・それは俺の金・・・;」
「何か文句あんのか?」
貫禄充分のボスの睨みは一以上の威圧感だ。
「・・・い、いえ、滅相もございません・・・大変失礼いたしました〜;」
「待てや」
速やかに退室しようとしたところをその一言でものの見事に止められた。
「ウチの舎弟に手ェ出して、何もないと思うか?」
「そ、そこをなんとか〜;」
「ならんな」
「・・・やっぱり;」
「やれ」
ボスがそう言った瞬間、周りにいた舎弟達が一気に晴喜に近寄ってきた。晴喜は慌ててドアを開け舎弟達から逃げ出した。一気に形勢逆転された晴喜はさっきよりも必死に走る。
「ひぇぇぇぇぇええええええええええ!!;」

3分後、晴喜は町中の一角で膝に手をついて息を切らしていた。
「ハァ・・・ハァ・・・何とか・・・逃げ切った・・・!」
暴力団の男達の執念は予想以上のものだった。何度振り切ったように見えても油断しているとすぐに再び姿を現したのだ。もしかしたら、今もまだ晴喜を探し町中を彷徨っているかもしれない。
それに、問題はもう一つある。このままではもうバイトには時間通りに間に合わない。晴喜は下手に急ぐより遅刻する事を正直に長田に連絡した方が得策だと考えた。おもむろにポケットから携帯電話を取り出す。
そして長田に電話をかけようとした時、何やら背後の建物から仰々しい悲鳴が聞こえてきた。何事かと思い振り返った先にあったのは、銀行だった。銀行での悲鳴と言えば、銀行強盗だ。
すると、銀行の扉からマスクに帽子といったいかにも犯人らしき人物が勢いよくこちらに走ってきた。不慣れな手つきで紙幣が入った袋を抱え、かなり焦っている様子だった。その素振りから察するに、あまり計画的な強盗ではなかったはずだ。
よほど冷静さを失っているのか、犯人はそこに晴喜が立っていることにすら気付かずに正面から晴喜と衝突してしまった。
「いでっ・・・!!」
2人は地面に倒れこみ、そのはずみで犯人の帽子や袋が晴喜の足元へと落ちた。それを見た犯人は、ハッとした表情を見せたかと思うと、何故か自分の頬につけていた何かを晴喜の頬に張り付けて一目散に逃げていった。
「あっ、ちょっと待て・・・」



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年04月07日 20:11:40  No.87045
I P:61.116.138.88
晴喜の言葉はパトカーのけたたましいサイレン音でかき消された。まるで晴喜を取り囲むかのようにパトカーが次々と銀行前に止まっていく。休む間もなくパトカーのドアが開き、警官が勢いよく飛び出してくる。
結論から言うと、どうやら「まるで」ではなく本当に晴喜を取り囲んでいたらしい。警官は何の躊躇もなく晴喜の身体を力強く抑えつけた。
「えっ、ちょっ・・・えっ・・・?!;」
困惑する晴喜をよそに警官は手錠を慣れた手つきで晴喜の腕に素早く掛ける。どこかのテレビ番組で見たことがある光景だ。
「午前7時53分現在、窃盗罪により現行犯逮捕」
(ハァァァァアアアアアア?!)
「ほら、来い」
警官の力はなかなかのもので、ぐいと引っ張ると晴喜はそのままパトカーの中へ吸い込まれるように入れられてしまった。抵抗も弁解もできないまま、パトカーは恐ろしいほど手際よく走りだす。
(え、えぇぇぇええええええ・・・?!)

晴喜は警官に連れられて警察署の取調室に入っていった。中はスタンド電気が置かれた机とパイプ椅子しかなく、かなり殺風景だ。小さな窓が壁に1つあったが、そこから陽の光はあまり入ってきていなかった。
(・・・・・・やばい!これはやばい!もう遅刻とかそういうレベルじゃなくなってる・・・!;)
ふいに朝見た星座占いのことを思い出した。こんなことなら占い通りにじっとしていればよかった、と心の底から後悔した。少なくとも、家から出なければ警察に逮捕されるということはなかったはずだ。
しかし、後悔というのはした時には既に遅いものである。警官はパイプ椅子に座って晴喜に命令するように言った。
「そこに座って。話を聞かせてもらおう」
晴喜は警官と向かい合った椅子に腰かけながら、気付かれないように軽く深呼吸をした。これは晴喜に与えられた誤解を解く最初で最後のチャンスだ。間違っても失敗するわけにはいかない。
晴喜は口を大きく開いて訴えかけるように警官に話し始めた。
「俺は銀行強盗なんてやってません。たまたま出てきた犯人に金を押しつけられたんです・・・!」
「銀行員の話では、その犯人は顔にビニールテープを張り付けていたそうだが・・・たまたまお前も付けてたのか?」
「・・・え?」
そう言われて晴喜は、自分の頬にそのビニールテープが張り付けられていた事に気がついた。犯人とぶつかったあの時に付けられたのだ。
「そんなの、剥がして俺に付ければ簡単じゃないですか・・・!」
「確かにな。まぁ、真犯人がいたとしても、そいつが捕まるまでは釈放するわけにはいかないな。念のためだ」
「そんな・・・」
「じゃあ、その真犯人の恰好を覚えているか?真犯人が捕まればお前はめでたく釈放だ」
成程、希望の光が見えてきた。真犯人の身なりならしっかり覚えている。ここぞとばかりに晴喜は口を開く。

続く



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年04月22日 18:05:17  No.87046
I P:211.121.31.137
第14日 犯人捜索の日

犯人の服装は深緑のダウンジャケットに紺色のジーパンを着ていたはずだ。さらに晴喜は犯人とぶつかった時に帽子が取れた状態の犯人の顔を見いている。混乱していた銀行員よりは遥かに有力な情報である事は間違いない。
これなら、うまくいけば今日中に真犯人が捕まるだろうと晴喜は高をくくっていた。ところが、この日は何をやってもうまくいかない日である事をすっかり忘れていた。結局、真犯人が捕まらないまま一日が終わってしまったのだ。
そんなわけで、事件から一夜明けた今になっても晴喜は取調室で警官と向かい合っていた。
「も〜、何やってんですか。ちゃんと捜索してくださいよ」
「してるさ。だが情報がイマイチ決め手に欠けるんだよな。ぶっちゃけ銀行員の方はビニールテープに気をとられていてあてにならない」
銀行員は取り調べの際、自信満々に「犯人は頬に黒いビニールテープを付けていた」と言ったらしい。そんなものは出た時に剥がしてしまえば分からないのだが、目立つ物を見るとそればかり覚えているそうだ。
犯人はこのために頬にビニールテープを付けていたのかもしれない。こうなると晴喜の情報が頼みの綱になるのだが、一日経ってしまえば服装が変わっていてもおかしくない。事態は思っていたよりも深刻だ。
すると、取調室に一人の警官が入ってきて、晴喜の取り調べをしていた警官に話しかけた。
「失礼します。山名晴喜に面会の希望がきています」
「そうか。じゃあ行くぞ」
そう言って警官の男は晴喜を面会室へと連れ出す。

面会室へ着くと、警官は抑揚のない声で説明を始めた。
「あの扉を開ければ面会者がいる。面会の時間は30分間。それ以上の面会は規則で禁じられている」
何かを読み上げるかのような感情のこもっていない口調から、こういう時のマニュアルでもあるのかもしれない。
「さぁ、行ってこい」
そう言われると、晴喜は目の前の扉を開けた。面会室は三畳ほどの小部屋で、仕切りである透明なアクリル板の向こうにいたのは、なんと一だった。
「ハジメッ!?」
「・・・お前、全然帰ってこないと思ったらこんなとこで何やってんだよ」
「昨日はめちゃくちゃツイてなかったんだよ。まさか銀行強盗に巻き込まれるとは思わなかった・・・」
晴喜はそう言ってから椅子に座り、昨日の出来事を簡単に説明した。
「・・・それで、真犯人が捕まらないと俺の疑いが晴れないんだよ」
晴喜の話を聞いた一は驚き呆れた表情をしながら言った。
「マジかよお前。ふざけんなよ」
「いや俺はふざけてないんだけど・・・;」
すると晴喜はあることを思い出した。そういえば、他の皆はこのことに気付いていないんだろうか。
「・・・あ、そういえば、皆は?」
「あいつらは外にいる。1人しか面会できないらしいからな。俺が代表で来たんだよ」
「そうなのか」
「で、これからどうするつもりなんだよ?」
「どうするもこうするも警察に真犯人を捕まえてもらうしか・・・」
実際、暫定的とはいえ捕まっている身の晴喜に出来る事はあまりなかった。が、一に言われて少し考えてみると、ひとつ自分にできる事が浮かんできた。
「・・・あ、そうだ、犯人の似顔絵でも描かせてもらおうかな。俺は絵心にも自信があんだよ。まぁ、出来るだけ情報を伝えるさ」
「・・・とにかく、犯人が捕まりゃいいんだな?」



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年04月22日 18:06:39  No.87047
I P:211.121.31.137

それから約10分後、面会は終了した。警官からは30分間と聞いていたが、実際には15分程度だったと思う。面会を終えた一は施設から出て外で待っていた果菜達のもとに向かった。
「あ、お兄ちゃん、どうだった・・・?」
果菜が不安そうな表情でそう言ってきた。
「とりあえず、晴喜は事件に巻き込まれただけみたいだ。その辺は心配すんな」
「そう・・・」
それを聞いて果菜も少しは安心したようだ。一はさらに続ける。
「で、晴喜をあそこから出すのに手っ取り早い方法がある」
「お、何だ?」
來斗が訊くと一は意を決したような表情で口を開いた。
「真犯人を捕まえる」
「・・・えぇっ?!」
一にしてはかなりの思い切った発言に3人は意表を突かれた。
「お兄ちゃん・・・それ、本気で言ってるの?」
「大丈夫だ。ちゃんとあてはある」

それは晴喜と面会をしている時のことだった。一の真犯人を捕らえる発言には晴喜も驚いたが、その時に晴喜は一にある事を伝えていた。
「これは警察に言おうかと思ってたけど、ハジメがその気ならハジメにも言っておくよ。真犯人を探すんなら、この町の競馬場にでも行ってみたらいいかもな」
「競馬場?」
晴喜達の住む平盆町の郊外には、競馬場が1つ存在している。場内にはちょっとした売店がいくつか並んでいるそれなりに大きな競馬場だ。
「ああ、犯人は恐らく、競馬で金を使い込み過ぎて強盗する羽目になったんだろうなぁ・・・」
「何でそんなこと言えんだよ・・・?」
「犯人がしてた帽子。アレ、この町の競馬場で限定発売されてた奴だよ。サラブレットだか何だか知らないけど、馬のシルエットが入ってる奴だ。それ見た時センス的にどうなんだろうな〜とか思ったから間違いないと思う」
晴喜の言葉を聞いてその帽子のデザインを想像してみようとしたが、一は失敗する。それにしても、何故晴喜がその帽子を知っているのだろうか。地味に気になる。
「とにかくあの帽子は相当な競馬ファンでないとなかなか買わない代物だ。かなりの頻度で競馬場に来てそうな気がする」
気がする、と言った割には晴喜の表情には自信が満ち溢れている。彼の体中にある自信という自信が顔に集まってきているようにも思えた。
「で、その競馬場に犯人がいたとしてどうやって判断すりゃいいんだよ?」
「う〜んと・・・お巡りさん、ちょっとそれ貸してくれないかな?」
晴喜は隣で2人の会話をメモしていた警官にそう言いだした。言われた警官はあからさまに顔を渋めた。
「いや、そんなことをしていいなんて言ってな・・・」
「いーじゃんいーじゃん。堅いこと言わずに」
晴喜はそう言って無理やり警官のペンを手に取り、メモ帳に素早く絵を描き始めた。ペンを取り返そうとする警官を避けながら器用にメモ帳に絵を描いていく。アクリル板越しに見えるその様子はまるでコントのワンシーンのようだ。
そして、1分もしないうちに晴喜は犯人の似顔絵を描き終えてしまった。彼はそれを一に向かって見せる。アクリル板に紙を貼り付けようとしているようにも見える。
「こんな感じだ」
見てみると、とてもあの短時間で荒々しく描いていたとは思えない絵が一の目に飛び込んできた。髪型や輪郭は勿論、ひとつひとつの顔のパーツも細かく描かれており、右の頬にはほくろらしきものがあることまで再現されていた。
(こいつ絵ぇうまッ・・・!;)



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年04月22日 18:10:03  No.87048
I P:211.121.31.137

そんなわけで、一達は町の競馬場に足を運んだ。この日は平日であるはずだが、競馬場には多くの人で賑わっていた。世の中には、時間を持て余した人間が意外と多くいるということだ。
「うわ・・・結構人多いな。こんなんで犯人なんか見つかんのかよ?」
來斗が緊張感のない声で言った。すると一は無視とも返事ともつかない言葉でこの場を仕切り始めた。
「とにかく、まずは二手に分かれて探すか。俺と來斗は右回りを探すからカナと優は反対側を探ってくれ。それっぽい奴を見つけたら俺に連絡しろ」
「分かった」
3人が頷くと一達は早速犯人の捜索を始めた。一はまず、東側の観客席を見渡す。ちょうどこの時から競馬のレースが開始されたので、観客席にはかなり多くの客が集まっていた。
5分程度客席を探しまわってみたが、やはりそう簡単に犯人が見つかるわけではなかった。それどころか、一緒に探していたはずの來斗までも見失ってしまった。
「くそ・・・何でアイツまで探す羽目になんだよ・・・」
すると、客席の中に一の目に留まるものがあった。なんと來斗が客に交じって競馬を観戦していたのだ。一は背後から來斗の頭を小突く。
「何してんだお前は!ちゃんと探せ!」
「それよりも朗報だ。今のレースで2万円の儲けが出たぞ」
「つーか何勝手に馬券買ってんだよ!?いい加減にしろッ!」
するとその時、一の携帯電話が鳴り響いた。果菜からの電話だ。
「カナか。見つかったのか?」
「うん、お兄ちゃんが言ってた特徴は一通り合ってるよ。とりあえず急いでこっちに来て」
「あぁ、分かった」
一はそう言って電話を切ると、來斗を連れて果菜達のもとへ向かった。そこにいたのは、まさに晴喜が描いた似顔絵通りの顔をした男だった。先程のレースの予想が外れたのか、どこかやりきれない表情をしている。
「どう?お兄ちゃん」
「間違いねぇな。アイツだ・・・!」
一はそう言うとその男に歩み寄り、思い切って話しかけた。
「おい・・・!」
一の声に振り返った男は、彼を見て驚きの表情を見せた。が、一はそのことを気にも留めず一方的に詰め寄った。
「お前、昨日銀行襲った奴だろ?」
それを聞いた男は、浮かない顔をさらに真っ青にして叫び声を上げそうな気配まで見せた。そうかと思うと、男は急に席を飛び出して無心で一から逃げ出してしまった。



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年04月22日 18:11:27  No.87049
I P:211.121.31.137
「バカだなアイツ・・・しらを切った方がまだ逃げられたろうに」
一はそう呟きながら男を追う。男との距離は面白いようにあっという間に縮まり、ついには男の腕をがっしり掴んでしまった。
「うわっ・・・!」
男は捕まってもなお逃げようと力を緩めない。
「ったく面倒くせぇな・・・來斗」
「はいよ」
來斗はそう答えると、男の手先を素早く触った。次の瞬間、男の身体に激しい静電気が走りまわる。最早立派な電撃と呼べる衝撃に男は力なく倒れ込み、痙攣を起こしてしまった。
「・・・これはちょっとやりすぎなんじゃないの?;」
「いんだよ。さぁ、さっさと警察に突き出すぞ」

「お〜〜〜〜!会いたかったよみんな〜〜〜っ!」
結局、一達が捕まえた男が真犯人であると確定したのは昼を過ぎた頃で、晴喜が釈放されたのはそのさらに数十分後だった。
「ったく、面倒くせぇ事に巻き込まれてんじゃねぇよ」
一が素っ気なくそう言ったが、晴喜は気にしない。
「本当に良かった。一時はどうなるかと思いましたよ」
果菜は心底晴喜の復帰を喜んでいるようだった。優も口には出さないがほっとした表情を見せた。
「もう待ちくたびれたよ。さっさと帰ろうぜ」
不意に來斗がそんなことを言い出した。こちらは素っ気ないというよりはだだをこねる子供のようだった。
「そうだな。帰ろう」
事実、最も家に帰りたいと思っていたのは晴喜に違いなかった。5人は自宅に向かって歩き始める。1日家を空けただけで、もう随分家に帰るのが久しぶりのような気がする。5人揃っての帰り道は、楽しくて仕方がなかった。

続く



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年08月13日 14:43:02  No.87050
I P:211.121.31.162
第15日 給料日(前編)

ついにこの日がやってきた。山名家の命運を分ける日と言っても過言ではない。すなわち彼らの唯一の収入であるバイト先の給料日である。今日は一達の共同生活が始まってから初めての給料日とあって、バイトをしている3人はやけに神妙な表情をしていた。
「おい、分かってるか?」
一が晴喜や來斗を睨むように見つめながら言いだした。晴喜もいつになくシリアスな表情をしながら返事をした。
「ああ、勿論さ。今日こそが本当の勝負どころだ」
晴喜の話では、彼らの勤める『日蔭』では店長の一存によって報酬の値が如何様にも変化するというから驚きだ。今回初めて給料をもらうことになる一は、そんなことが本当にあり得るのだろうか、と未だに疑っていた。
「まずは、出勤がてら打ち合わせだ。俺が給料をかさ増しできる極意を叩きこんでやる」
玄関で晴喜が靴をはきながらそんなことを言ってきた。來斗が興味津々といった様子で聞き返す。
「ほぅ、何だ?」
「まずは扉を開けてからの爽やかな挨拶!これでロケットスタートを決めるんだ。できるだけ笑顔でな。それ以降も爽やかな笑顔は絶やしちゃダメだ。これは基本な」
それを聞いた來斗は感心したような表情でつぶやく。
「成程、ロケットスタートねぇ・・・」
「一番どうでもいいワードにひっかかってるぞこいつ;」
「そして仕事中一切のミスは許されない。仮にミスしたとしても焦らず誠意をもって全力で謝れ。とにかく仕事には全神経を集中させるんだ。でも笑顔は忘れんなよ。特にハジメ」
「うるせぇよッ!余計なお世話だ!」
「まぁ今のは給料を上げるってよりむしろ給料を下げられないための基本中の基本だ。こっからが技術的な部分が要求されてくるところだ」
晴喜はそう言うと、素早く片膝を地面について右手をメガホン代わりに口元に当てながら大声で叫んだ。
「いよっ、さすが店長ッ!日本一〜〜〜!」
突然の行動に呆気にとられる一達をよそに、晴喜は真顔に戻って彼らに振り向いた。
「今のを店長がメニューを出した時にするんだ」
「・・・・・・」
「ちょっ、本気かお前・・・!」
一は予想以下の晴喜の作戦に呆れ果てると同時に、今のを自分がやる破目になるということに妙な恐怖を感じていた。
「あったりまえだろ。事実俺はこれで何度も窮地を乗り越えてきたんだ」
「んなことで本当に給料なんて上がんのかよ?わざとらしすぎるだろ」
「大丈夫だ。この俺が言うんだから間違いない。さぁ、早速声だし練習いくぞ!」

そうしていつもより少しだけ時間をかけて、3人はバイト先である店まで辿り着いた。
「さぁ、こっからは一切気を抜くなよ?じゃ、いくぞ・・・」
そう言って晴喜は店の扉を丁寧に開ける。
「おっはよーございまーっす!」
晴喜が高らかに声を上げる。そして、その声に反応してカウンターの奥から店長である長田がやってきた。その表情は決して穏やかではない。
「おい、店長なんか機嫌悪そうだぞ・・・大丈夫か?」
そう一が晴喜に耳打ちをしてきた。
「落ち着け、挨拶だ。まずは挨拶で店長の機嫌を取り戻すんだッ!」
「おいお前ら・・・今日は開店の準備をする前に一つ聞いてほしい事がある・・・」
長田が威圧的な声でそう言ってきた。あまりの迫力ある表情に、晴喜達は自分達が何か失態を犯したのではないかと急激に不安に襲われた。辛うじて晴喜が口を開く。
「あの・・・何かあったんでしょうか・・・?」



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年08月13日 14:45:43  No.87051
I P:211.121.31.162
「・・・来い」
呪文のような長田の言葉に操られるかのように、晴喜達は長田のもとに近づく。長田はカウンターの方へと歩いていき、その床を見下ろして口を開いた。
「見ろ」
長田の言葉にぐいと引っ張られるかのように3人が床を覗くと、そこには割れたガラス瓶が散らばっており、その間を埋めるように液体が床に染みた跡が残っていた。どうみてもカウンターに置いてあった酒瓶が落ちて割れたようにしか見えない。
「・・・あの、これは」
「見りゃわかんだろ。ただしこいつはただの酒じゃねぇ。俺が店じまいの後に飲もうと思っていた一級品だ」
長田の言葉を聞いた瞬間、晴喜は悟った。
(・・・さ、最悪だぁぁぁあああ!!最悪のスタートを切ってしまったぁぁぁあああ!!)
「俺が店を閉めた時にはちゃんと棚に置いてあったんだ。そして奥の部屋で片付けをして戻ったらこの様だ」
長田はつまり、昨日の閉店時間にいたこの中の誰かの仕業である、ということを言わんとしている。それを瞬時に読みとった晴喜は小声で2人に問う。
「・・・オイ、誰だよこれやったの・・・俺昨日は昼番だったぞ・・・!」
そう、昨日の割り当てでは昼間では晴喜、夕方以降は一と來斗が仕事に当たっていた。
「俺はしらねぇぞ・・・落としたのはこいつだからな」
一はそう言って來斗を見つめた。
「ってもろに知ってんじゃねぇかよっ!一体どういうことだ!?」
晴喜の問いに來斗は動じる様子も見せずに答えた。
「いやぁ、俺だってさすがにあんなもんには手は出せねぇよ?ただ別のを頂こうとした時に肘がぶつかってだな・・・」
「つーか酒飲もうとしてたのかよ!?それがバレるだけでもヤバいというのに・・・;」
「ほぅ、どうりで酒の減りが早いと思ったらそうか・・・全てはお前の仕業だったか」
一連のやり取りは長田にも聞こえていたらしい。3人の背後から心臓を突き刺すかのような鋭い声が響いてきた。
(まずいっ・・・!もうこれどうやって収拾つければいいんだよ?!)
さすがの晴喜でもこの状況から彼の機嫌を取り持つのは至難の業だ。晴喜は必死に頭を回転させようとするが、ますます混乱していくばかりである。
「と、とりあえずもうすぐ開店時間ですから・・・この事は一旦忘れて準備しましょうよ・・・!」
苦し紛れに晴喜がそう言った。すると長田は少し黙ってから静かに口を開いた。
「・・・チッ、しゃーねぇ。それもそうだな」
こうして3人は極度に緊迫した状況下で準備を進めた。



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年08月13日 14:47:37  No.87052
I P:211.121.31.162

準備も終わり、いよいよ開店の時間だ。晴喜の機転によってどうにか状況は沈静化したが、それは長田の暴走を先延ばしにしたにすぎず、根本的な解決とは言えなかった。このままでは給料を上げるどころか、予想もつかない制裁を喰らってしまいかねない。
晴喜は意を決して長田に話を切りだした。
「あの、店長。客もいないんでちょっと買い出しにでも行ってきましょうか?」
「・・・あぁ、そうだな。調度材料が少なくなってきているのがあることだし・・・行ってこい」
長田は晴喜達に買いにいく物を伝えると、必要なお金を渡してきた。晴喜がそれを受け取ると、3人は逃げ出すように素早く店を飛び出した。
「・・・ふぅ、とりあえずあの場からは脱したか」
來斗が呑気にそう言うと、2人は深いため息ついた。その後で、晴喜が気を引きしめながら口を開く。
「別にその場しのぎであの店を出てきたわけじゃないさ。あのままじゃ酒を自腹で買わされる上に給料までもらえない可能性がある。ならばこっちから先手を打つ」
「先手を打つ、ねぇ・・・で、どうするつもりなんだよ?」
一は相変わらず晴喜の言葉に半信半疑といった様子だ。
「俺達の金をありったけ出し合って、アレ以上の酒を買うんだ。そうすれば店長の機嫌を直せるかもしれない」
「本気で言ってんのかよ・・・?もしそれで機嫌が直らなかったら・・・」
「分かってる。でも、ここで何もしなければ俺達の生活費が手に入らない。それなら自腹を切ってでも給料を底上げしなきゃだめなんだ・・・」
一はしばらく考えてから口を開いた。
「・・・ったく、しゃーねぇな。これで失敗したらただじゃ済まさねぇからな」
「俺もその作戦乗ったぜ」
來斗も一に続いてそう言ったが、それに対して一が噛みつくように言い返した。
「つーか、お前が全ての元凶だろうが!お前の有り金だけでもいいくらいだ」
「まぁ落ち着けよ。どうせそれだけじゃ足りやしないんだから。それより、早いとこ酒屋に行こうぜ。それから店長に頼まれたもんもちゃんと買わないと」
晴喜がそう言うと、2人は頷いて歩みを速めた。

晴喜達が辿り着いたのは、日蔭に負けず劣らずの場末感漂う酒屋だった。
「・・・ここで買うのか?お前の知ってる店はこういうとこばっかだな」
一が皮肉交じりに晴喜にそう言った。
「ここには店長の好きな酒がたくさん売ってるんだよ。さぁ、とりあえず今の俺達の所持金合わせようぜ」
晴喜がそう言うと、3人は各々の財布を出して所持金を確認する。その結果、全員分を合わせて7,285円あることが判明した。
「・・・うわ、結構ギリギリかも」
晴喜が少々不安げにそう漏らすと、2人は晴喜を励ますように言った。
「けどこれで何とかするしかねぇだろ」
「そこはお前の交渉術に期待してるぜ」
「・・・むぅ、しゃーない。このハルキ様の高等交渉術をよく見とけッ!」
晴喜はそう言うと、怪しげな雰囲気を放つ酒屋の中へと勇ましく入っていくのであった。

「高等交渉術・・・何か早口言葉みたいだな。ハジメ言えるか?」←來斗
「高等交渉術、高等交渉術、高等交渉術(ドヤッ)」←一

後編へ続く



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年08月16日 21:24:01  No.87053
I P:219.66.4.54
第16日 給料日(後編)

一達がしばらく酒屋の晴喜の帰りを待っていると、晴喜がこれ以上なく誇らしげな表情で酒瓶を持ちながら店を出てきた。
「おお、そのドヤ顔、かなりの値引きに成功したと見えるな」
來斗がそう言いながら晴喜に近づいた。
「フフフ、おうよ!この怒髪天衝、お値段7,800円のところをなんと4,000円まで値切ってやったぜ!」
「マジかよ、ほとんど半額じゃねぇか・・・!一体どうやってそんなに値切ったんだ?」
一の言葉を聞くと、晴喜はよくぞ聞いてくれましたとばかりに緩みきった表情を更に緩ませた。
「おお、聞きたいか?聞きたいかハジメよ」
「・・・いや、やっぱやめとくわ。さっさと行くぞ」
「いや、あの・・・聞いてくださいお願いします;」
「・・・何だよ?」
「まず、もう最初にこっちから無理な金額を言っちゃうのさ。んでまぁそれは当然無理って言われるんだけど、そこから少しずつ値段を上げていって少しでも考えるそぶりを見せたらゴリ押しって感じだな」
「へぇ・・・」
思った以上にまともなことを言ってきたので、2人は思わずそんな声が出た。
「なんだ割とまともだな。俺はてっきり床に寝転がってジタバタしてんのかとばっかり・・・」
來斗がそう言うと、晴喜はあっさり笑いながら答えた。
「あぁ、それもやったね。そして泣きながら俺達の哀しい物語を語ってようやくこの値段で説得したのさ・・・!」
(あ・・・やっぱ想像以上だったコイツ;)
その後も、買い物の道中では酒屋内での晴喜の武勇伝を長々と聞かされた。

さて、長田に頼まれた食材と、"怒髪天衝"なる酒瓶を携えて再び日蔭の前に戻ってきた3人は、そこでいったん立ち止まり、深呼吸をしてから晴喜が静かに言い出した。
「よし、いくぞ・・・!」
そして、扉を勢いよく開けると同時に晴喜は高らかなトーンで声を出した。
「店長ー!店で偶然良いものが手に入りましたよーッ!」
「何だよいきなり」
「これを見てください・・・!」
晴喜はそう言っていぶかしげな表情の長田に向かって怒髪天衝の酒を掲げるようにして見せた。すると、それを見た瞬間長田は目の色を変えて声を出した。
「・・・おおっ!それは・・・俺が最も愛する超貴重酒・・・!こんなもんを一月で2つも見つけてくるとは、でかしたなぁお前!」
つい先程までの堅い表情はどこへやら、長田は瞬く間に機嫌を直し、それどころか晴喜の肩に手を掛けて高らかに笑う程にまでなった。
「おぶっ・・・ちょっ、店長力強す・・・;いや、それより、これを見つけたのは僕ではないんですよ・・・!」
「・・・どういうことだ?」
「これを見つけ出したのはライトですッ・・・!」
晴喜は來斗に向けて微笑みながらそう言った。
(ハ、ハルキーーーーーー!!)
來斗は、この時初めて心の底から晴喜に感謝していた。
「そうか、ライトが見つけたのか・・・!やるじゃねぇかオイ」
「ハハッ、ありがたき幸せにございますぅ〜」
(何故そこで普通に応えないの・・・?!)
晴喜は内心そんなことを思ったが、すっかり上機嫌になった長田は気にしていなかった。



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年08月16日 21:27:36  No.87054
I P:219.66.4.54

まだ昼前のせいか、これまで1人も客は来ていたかったが、それでも長田の機嫌は非常によい。これまで数々の修羅場をくぐり抜けてきた晴喜から見ても上々の手ごたえだ。
「予想以上に機嫌がよくなったな。これなら給料は何とか頂けそうだ」
休憩室で一がそう言うと、晴喜が明るい表情で答えた。
「あぁ、だがここで満足しちゃあいけない。ここから更に手柄を立てて店長の機嫌をフルマックスにするんだ。くれぐれもぬかるんじゃないぞ?」
その時、扉の奥から店の入り口が開くことを知らせるベルが清らかに響いてきた。恐らく客がやってきたのだろう。
「おっ、ちょうど客が来たみたいだ。いっちょ稼ぎに行こうぜ」
そう言った晴喜は、素早く休憩室の扉を開けていらっしゃいませー、と高らかに挨拶をした。客はこの時間帯には珍しい大学生くらいの青年が4人だった。青年達は勇敢にも長田の目の前のカウンター席に腰かけた。
4人の客はしばらく雑談らしき話し合いをしながらメニューを選び、長田に注文を頼んでいった。
「店長、俺も作りましょうか?」
「あぁ、頼む」
晴喜は長年この店のアルバイトをしているので、メニューの料理もだいたい作ることが出来る。なかには、晴喜が考案したメニューもあるくらいだ。晴喜は長田の背後で手分けして注文されたメニューを作り出す。
傍から見ていれば、どちらかといえばむしろ晴喜の方が手際がいいように見えた。しばらくすると案の定、晴喜の作っていた料理が先に完成した。晴喜はそれを頼んだ客の前に丁寧に置いた。
少し遅れて長田が残りのメニューを客の前に堂々と置いた。その時、晴喜はすかさず声を上げた。例の作戦である。
「いよっ、さすが店長ッ!日本一〜〜〜!」
突然の出来事に4人の男はしばらく呆気にとられ、数秒後に1人からクスッと笑いが漏れ出してからは4人とも大きな声を上げて笑い出した。この店ではそれほど珍しい光景ではない。
「やめろよハルキ、照れるじゃねぇか〜」
そう言いながらも長田の表情はかなり和らいでいる。効果は抜群だ。4人の男達は笑うのをやめ、ようやく出されたメニューを食べ始める。しばらくそんな様子を眺めていると、入り口から扉が開く事を知らせるベルの音が再び響いた。
新たな客の来店だ。一瞬時計に目をやると、いつの間にか昼時の時間帯になっていた。
(もうこんな時間なのか・・・こっからが勝負所だな)
改めて客を確認してみると、今度は2人組の若いサラリーマン風の男だった。片方の男の立ち振る舞いから、どうやら先輩後輩といった関係らしい。2人は4人の大学生組の奥側のテーブル席に腰かけた。
すかさず晴喜はいらっしゃいませ、と高らかに声を上げ、2人が座ったテーブルに水の入ったグラスを置いた。
「ご注文が決まりましたら、声をおかけください」
そう言い残して店内の定位置に戻ると、案外早く注文が決まったらしく、すぐにすいません、と声をかけてきた。2人が注文したものの中には、晴喜が考案したメニューが含まれており、少しだけ心が弾む。
カウンターに戻って長田とともにそのメニューを作り始めると、どうやら一と來斗がようやく休憩室から出てきたようだった。



Re:我が家が一番  投稿者:回転撃  投稿日:2011年08月16日 21:29:23  No.87055
I P:219.66.4.54
「よぅ、そろそろ俺らの出番か」
「つーか、お前マジであれやったのか;」
晴喜の威勢のいい声は当然一達にも聞こえており、一にはそれが驚愕の事態に思われたらしい。一方、來斗の言葉に対しては、長田が答えた。
「あぁ、そうだな。お前達にはレジとオーダー係でもやってもらおうか」
そう言いながら長田がちらりと目をやった方向を見ると、大学生の4人組の客はもうそろそろ全員が料理を食べ終わりそうな様子だった。そして彼らがおもむろに立ち上がると、すかさず來斗がレジに向かった。
「3,380円になりま〜す」
來斗がそう言うと、4人組の男は何やら財布を出し合い相談をし始めた。恐らく輪割り勘しようとしているのだろう。その間、晴喜はメニューを作りながら一に耳打ちで囁いた。
「おい、ハジメもちゃんとアレ、やるんだぞ」
「マジかよ・・・;」
「あの店長の顔を見ろ。給料を上げるためには、これは有効な手段なんだ」
「・・・くっ、仕方ねぇな」
とうとう一が腹をくくると同時に、來斗が会計を済ませてくると、ついにその時がやってきた。長田がメニューを完成させたのだ。3人は一斉に声を出す。
「いよっ、さすが店長ッ!日本一〜〜〜!」
やはり、その声を聞いた2人組の客は目を丸くして素早くこちら側を見つめてきた。その後、微笑を浮かべながら2人で会話を始めた。一方の長田の表情もこれまた緩み始める。
「バッカやろう〜、んなこと言ってねぇでさっさとこいつを運んで来い」
「は〜い」
來斗はそう返事をして長田の作ったメニューを客席の方へ持っていった。と、同時に晴喜の作っていた料理も完成する。
「あ、ライト、ついでにこれも持ってってくれ〜」
長田の料理をたった今渡し終えた來斗に晴喜はそう言った。
「マジか。もうちょっと早く作って欲しかったわ・・・」
「そう言うな。頼んだぞ」
結局來斗は2つの料理を1つずつ往復して運ぶことになったが、今のところ新しい客は入っていないのですぐに暇になった。ここで、晴喜が一達に小さな声で言葉を発した。
「・・・よし、いいペースだ。このままこれを保っていけば、給料は取り戻せる。頑張っていこうぜ」
晴喜の言葉を合図にしていたかのように、入り口の扉が開き新たな客が入ってきた。3人はすかさずいらっしゃいませ、と声を上げる。

さて、数時間にわたるアルバイトもようやく終わりを迎え、とうとう給料を渡される瞬間がやってきた。この店では給料の制度が非常に曖昧なため、店長から直接店員に給料が渡されるのである。
「ふぅ、お前らお疲れさん。そういや今日は給料日だったなぁ」
「よっしゃ、この時を待っていぜ」
一のそんな言葉に長田は笑って答える。
「はっはっは、正直じゃねぇか」
「それで・・・本日の給料はいくらでございましょうか・・・?」
晴喜が神妙な顔つきでそう訊いた。すると、長田は顔を斜め上に向けながら考え込むような表情をした。
「う〜ん・・・どうするかな・・・」
(ホントに今考えてんのかよ・・・!?)
一がそう思う中、案外早く金額が決まったのか長田は給料袋をカウンターから取り出しそこにお金を入れる作業をし始めた。そして、それらを3人にそれぞれ渡した。
「ほらよ」
果たしてそこにはいくらの給料が入っているのか。バイトを終え、店を出た3人はそこですぐさま給料袋を開け中身を確認した。そして、3人は中を見てからお互いにハイタッチをして喜んだ。

続く



[108] デストロイオールヒューマンズ 人類滅亡計画1  投稿者:宇宙人?火星人?  投稿日:2011年06月24日 22:09:07  No.108001 [返信]
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I P:221.89.174.141
1976年6月19日5時48分
ハワイの真上に青白く光る物体が!警察が近づくと、キュイーーーンと言う音・・・。
するといきなり警察が消えた。市民はパニックに!
すると、青白い物体から宇宙人が!
宇宙人・・・その名もクリプト・スポリジュウム137!
クリプトはサイコキネシスで市民を持ち上げ、関西弁でこう言った、「ワイはクリプト137やお前らの中で一番偉いヤツを連れて来てやー」
だが、市民はパニックで話を聞いてない。クリプトは怒ってサイコキネシスで市民を「ボーン」。警察の車で市民を「グチャ」。
「ワイは怒ったでー・・・。」
「一人残らず潰したるでー」。どうなる事やら・・・
2に続く・・・



[49] D・R・A・G・O・NU 〜Three Companys Three Evils〜  投稿者:リボルバンディクー  投稿日:2009年05月08日 22:08:46  No.49001 [返信]
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I P:58.188.174.213
あの島での事件から一年後、村田はラゴンを倒す証拠を入手するため3つの会社に侵入する。
しかし3つの会社には恐ろしい龍が存在していた・・・



Re:D・R・G・O・NU 〜three Companys three evils〜  投稿者:リボルバンディクー  投稿日:2009年04月22日 20:11:13  No.49002
I P:58.188.182.56
登場人物など紹介
※この物語はフィクションです。
村田 清貴(むらた きよたか) コードネーム 清
出身地 日本  性別 男  1982年生

この物語の主人公。軍隊「WPK」に所属。非常に高い戦闘能力を持っている。過去に剣道をやっていたとか。ラゴン日本社事件の帰還後ラゴン社を訴えるが敗訴。その後ST総隊長になる。

JACK・ROSE(ジャック・ローズ) コードネーム ジャック
出身地 アメリカ  性別 男  年齢 1982年生

「WPK」に所属。村田と同じ時期に入隊。そのため2人は親友である。戦闘能力も高い。ラゴン日本社事件の生還者。その後ST副隊長になる。

TOM・KING(トム・キング)コードネーム トム
出身地 アメリカ  性別 男  年齢 不明

ラゴン日本社事件で死亡した元ST総隊長。
遺体は発見されていない。

イ・ヨンサク コードネーム ヨン
出身地 韓国  性別 男  1989年生

「WPK」に所属。この年齢で所属することはめずらしい。特に戦闘機などの乗り物をものすごくうまく扱う。だけどまだ若いので実戦経験は少ない。ラゴン日本社事件の生還者の一人。その後STパイロット及びWPKパイロット指導教官になる。

見山卓士 コードネーム タケシ (たクラッシュ氏考案)
出身国 日本 性別 男 1980年生

清の先輩・・・に当たるわけだが、ST内では下剋上。
戦闘能力が低いがSTに所属を許されている。
すばやい動きが苦手だがスタミナはあり、そして武器や機械の製造、修理はゴッドハンド。そこを大佐に認められ、なんとかSTにしがみついている。普段はテンション低いが友情には熱い。
薬品の扱いも得意なので、10分で救急箱を作れる。

大佐(名前不明)

出身地 不明  性別 男  1925年生

「WPK」をまとめている。第二次世界大戦にも参加していた。とてつもない強運の持ち主らしい・・・

ラゴン・D・ニクス

出身地 アメリカ 性別 男 年齢不詳

巨大企業ラゴンの社長。世界各国のラゴン社を転々としている。
ラゴン日本社事件でAD-2を村田と戦わせた男である。

「WPK」(ダブリューピーケー)

「ワールド・ピース・キープ」(世界平和維持)の略。アメリカが作ったと言われているが実は大佐が作った私兵部隊。年齢、人種、性別関係なく所属できるが、入隊試験は非常に難しい。主に重大な事件や紛争などが発生したときに派遣される。海沿いに基地が立てられている。

「ST」(エスティー)

「スペシャル・チーム」の略。「WPK」の中でも特に戦闘能力が高い人々が所属する。主に表立った任務をする「WPK」に対し「ST」は極秘任務を遂行する。

「RAGON」(ラゴン)

超巨大企業。さまざまなことをしている。その中でも薬品やクローン技術はずば抜けている。どの国にもひとつ会社がある(フランス、ロシアを除く)。イギリスに本社がある。最近発電会社も作った。



Re:D・R・G・O・NU 〜three Companys three evils〜  投稿者:リボルバンィクー  投稿日:2009年04月17日 21:16:46  No.49003
I P:58.190.24.58
WPK使用武器紹介

アサルトライフル

WPKはAN-94を採用。
旧ソビエト連邦で開発されたAK-47をベースに作られた突撃銃。
頑丈で整備が簡単なAKは多数の製品が作られており現在も世界各地で使用されている。
アサルトライフルとは
小口径・中威力弾を使用していること。
単射(セミオート)と連射(フルオート、または3連射)が選択できること。
小型かつ軽量であること。
である。
AN-94は
2点バスート(2連射)が可能でありその結果敵に玉が命中しやすくなる。(フルオートをすると反動で敵に玉が当たりにくくなるため)

ハンドガン
「WPK」ではコルト・ガバメントの改造版を採用。
コルト・ガバメントとは大型のハンドガンのことである。
サプレッサー(銃声を消すために銃の発射口につけるもの)やスコープ、ライトにレーザーサイトをつけることができる。
また、各隊員によってさらに改造がされている。
村田は通常よりも高い威力の玉が発射できるように改造しており、ジャックは連射ができるように改造してある。

ミニジェット
「WPK」で一時期使用していたもの。
背中につけることで空が飛べるようになる。しかし安全性がないため現在は使用していない。


「WPK」は大型のモーターボートを使用している。
船首には大型の機関砲(大きなマシンガン)を装備している。

ヘリコプター
「WPK」では軍用ヘリを使用している。
機関砲やミサイルを装備している。

戦闘機
「WPK」ではオリジナルのものを使用している。
機関銃を装備、またミサイルを20発装備することができる



Re:D・R・G・O・NU 〜three Companys three evils〜  投稿者:リボルバンディクー  投稿日:2009年07月02日 21:37:17  No.49004
I P:121.82.158.175
第一部

第一章 証拠
負けた・・・
2011年俺はアメリカのとある裁判所の控え室にいる。
一年前に起きたラゴン日本社事件。俺は帰還後ラゴン社を訴えた。
しかしこちらの証拠不足によって敗訴した。
このままではラゴン社は龍の生産をし続けるだろう。そして龍を使って・・・大体やることはわかる。あの社長のことだ。
それだけは絶対に止めなければいけない。
ガチャ。控え室のドアが開いた。大佐だ。
「大佐!」
「清、残念だったな。証拠不足だったんだ。仕方がない」
「人をあれだけ殺したラゴンだけは絶対に許せない!」
「その気持ちも分かるが今じゃ無理だ。そこで、少し話があるんだが」
「え?」
「ラゴン社に侵入しないか?」
「はあ?」
な、何言ってんだこのじじじい!?
「実はな、WPKにあるものが届いたんだ。とりあえずWPKに帰ろう」
「はい」
俺たちは裁判所を後にした。



Re:D・R・G・O・NU 〜three Companys three evils〜  投稿者:リボルバンディクー  投稿日:2009年04月20日 20:51:32  No.49005
I P:121.82.152.96
数時間後俺達はWPK基地についた。
「こっちに来てくれ」
俺は情報管理室に連れて行かれた。
「これを見てくれ」
「はい」
俺は渡されたものを見た。ラゴン社の場所が書かれている。
「これが何か?」
「その中で中国とアメリカの会社の場所を見てくれ」
俺は中国の会社の場所を見た。なぜか場所が山の中になっている。
「何でこんなところに会社があるんだ・・・」
次にアメリカの会社の場所を見た。次は建物が全く無い平野がラゴン社の場所だった。
しかし他の国の会社は首都付近に会社がある。
「他の会社の場所と見ても分かるように中国とアメリカだけ都会以外の場所に会社があるんだ。ここで日本社のことを思い出してみてくれ」
「日本社は離れ島に・・・なるほど!」
「分かったか。これは恐らく人目に見られてはいけないからこんな場所に会社があるんだろう。人目に見られてはいけないもの・・・それは」
「龍・・・ですね」
「しかし君が日本社で見たのは本当に龍なのか?」
「本当ですよ!それより、この資料はどこから送られてきたのですか?」
「さあ」
「・・・」



Re:D・R・G・O・NU 〜three Companys three evils〜  投稿者:リボルバンディクー  投稿日:2009年04月22日 20:35:21  No.49006
I P:58.188.142.115
「で、どうするんだ?」
「・・・まずは中国社に侵入します」
「何故中国社からなんだ?」
「さあ」
「・・・」
「武器などの準備をしてきます」
「分かった。わしは中国政府に入国許可等を貰うために連絡を取る。出発日時などはその後だ」
「了解」
俺は敬礼をして情報管理室を出た。
俺は武器庫にいってアサルトライフルをハンドガンとナイフなどを準備した。
ん?このハンドガンも大分痛んできたな。そうだ、あの男に修理を頼もう。
俺はWPK宿舎内の一つの部屋に行った。
「失礼します」
「・・・おお、清か」
「ハンドガンの修理をしてほしいんですけど」
「分かった。貸せ」
「いつもすまないですね、タケシさん」
「ふん・・・」
俺はタケシにハンドガンを渡した。
「明日になったら修理が終わる」
「はい。失礼しました」
俺はタケシの部屋を去った。
タケシ・・・なんでSTの隊員なんかが分からん。
俺は他の武器と荷物を一つにまとめて飛行場に行った。そこの荷物置き場に荷物を置いた。
俺はふと時計を見た。あ・・・もう20時回ってる・・・<